第1010堀:なかったもの
なかったもの
Side:ユキ
「なに、見つかったか!」
俺はたった今入ってきた連絡につい大声を上げてしまった。
それが、職場ならよかったんだが。
でも、ここは……。
「ヒウッ!?」
「ふえっ!?」
「「「びえぇぇぇぇぇ!!」」」
そう、一家団欒の最中で子供たちもいるところでやってしまった。
俺が突然の大声をあげてしまったことで、まだ寝るのが仕事の子供たちがビックリして泣き始めただけじゃなく、ちょっと気の弱いシャンスあたりも目に涙を浮かべてしまったし、本に夢中だったエリアもびっくりして目をまんまるにさせている。
「こら、あなた」
「すみません。ちょっと外で話してきます」
セラリアには小声で叱られ、ほかの嫁さんたちにも悪いと頭を下げつつ、俺は部屋を離脱。
普段なら仕事なんかをほっぱらかしてそのまま子供の面倒を見ているだろうが、今回のは緊急連絡というのはみんなわかってくれていたので、特に文句は出なかった。
後で埋め合わせが必要だなー。
「で、ユキどうしたの?」
「お兄様がいきなり大声をあげるのは珍しいです」
「お兄お仕事?」
俺の慌てぶりに声をかけてくれた、本日の護衛メンバーであるドレッサ、ヴィリア、ヒイロ。
事態は判ってないけどとにかく俺と一緒に部屋を出て、護衛についてくれている。
とはいっても、傍から見れば3人とも俺よりも小さいので護衛というより妹たちにでも見えるのだろうが。
と、そんなことはいいとして、俺がいきなり大声を上げた理由だな。
「ズラブルの大陸の方でダンジョンが確認された」
「なんですって!」
「一体どこなのですか?」
「さっそくダンジョンアタックするの?」
3人ともあそこにダンジョンが見つかったことの意外性と、その重要性、緊急性を理解して、驚いたり、場所を確認したり、攻撃するのかと聞いてくる。
「俺もまだあったと報告を受けただけだ。これからその詳細を聞きに行く。なにせダンジョンだからな。3人ともその重大性はわかってるだろう?」
「ええ、もちろん。でも、それだけ重要な話ならセラリアたちも一緒に聞くべきじゃないかしら?」
「緊急度が高かったらな。今は発見の報告を受けただけだ。稼働しているのかすらまだ聞いていない。案外、イフ大陸みたいに既に遺跡みたいになっている可能性もある」
「なるほど。でも、今更のような気もします。ズラブル大帝国がある一帯はハイレンお姉さまの加護は届いていない場所なのでしょう? それなのになぜ今まで見つからなかったのでしょうか? 冒険者ギルドにも行って確認したのに」
「そういえば、そういう本みなかった」
そう、ヴィリア、ヒイロの言う通りこれまでズラブル大帝国で調べてきた中には、ダンジョンの存在を示唆することを何一つ発見できてなかった。
というか、ズラブルには存在していなかったはずなのだ。
その事実に気が付いたのは、ズラブル大帝国の帝都の冒険者ギルドで魔物の調査をしていた時だ。
その調査自体は魔物の種類のみに絞って調べてはいたんだが、そういう魔物が湧き出る洞窟という文献は一切なかったのだ。
他所ではダンジョンと魔物は基本的にワンセットのようなものなのに、なぜかそういう記述が一切ないというのは逆に、俺としてもかなりの違和感があった。
とはいえ、全地域の精査したわけではなかったので、こちらからわざわざズラブル大帝国の混乱を助長するようなことを聞けるわけもなかった。
魔物が自然発生することまでは言ったが、ダンジョンからは無限に湧き出るというのは、国にとっては死活問題だからな。
先にそんな知識を与えた上で、ウィードがそのダンジョン国家だと知ったら悪印象を与えかねない。
そういう意味でも無暗にダンジョンのことを話すわけにいかなかったわけだ。
まぁ、ウィード訪問が終わった今となれば、ダンジョンのことを話しても問題はないだろうが、それでも先に情報を集めた方がいいというのが俺の考えだ。
「で、その情報は誰が?」
「もちろん私でございます」
ドレッサの質問に、どこからともなく姿を現し即座に答えた霧華。
「あ、霧華さん」
「おー、霧華お姉だー」
「はい。こんばんは。皆様。では、主様、話はどちらで?」
「ちゃんとした場所の方がいいだろう。スティーブたちに連絡は?」
「はい。すでに会議室の方に集まってもらっています」
流石霧華、準備がいい。
「奥方様たちはどういたしますか?」
「今は一家団欒中だ。よほどのことが無ければ、明日にでも報告すればいい。まずは情報の確認だ」
「かしこまりました。では、こちらへ」
ということで、霧華に連れられて軍敷地内の会議室へとやってくる。
「あ、大将」
「おう。大将」
「よ。旦那」
「あんちゃん。来ただべな」
霧華の言った通り、すでに我が魔物軍四天王がそろっていた。
いまさらだが、これって負けるのがお約束っぽい名前だから、今度ネーミングを変えてみるか?
でも俗称だしな。
ゴブリン隊、オーク隊、スライム隊、その他率いる隊。
みたいな感じなんだよな。
それに、軍なんて言っちゃいるが、実際そこまで数は多くない。
魔物軍だけだと精々1万ほど。
人の正規軍人は5000人ほどしかいない。
ま、ウィードが下手に大きな軍を持つと色々面倒だからこうなっているんだが。
ズラブル大帝国のことや今後のことを考えると増強も必要か?
「で、大将。なんでおいらたちの顔をじろじろ見るっすか?」
「いやぁ、最近人手不足が深刻だろう? いい加減魔物軍の増強も考えるべきかねーと」
「あー。まぁ、いい加減人手が足りなくて、大事な畑もウィードのおっちゃん、おばちゃんたちに任せてしまっていることもおおいからなー」
「いや、ジョンたちはいい加減畑耕すのはやめろ。屯田兵は最小限でいいだろう。俺たちは軍人だ」
「ま、畑のことや軍備の増強はいいとして。あんちゃん、今日は見つかったダンジョンの話が大事じゃねえべか?」
「そうだな。ま、そこらへんは追々考えるとして、霧華。待たせた」
「はっ」
霧華は即座に返事をして、資料を俺たちに配り始める。
「お配りした資料は詳細となっておりますので、あとでご覧ください。まずは私の方から概要を説明いたします。経緯ですが、ズラブル大帝国のトップであるユーピア皇帝とちゃんとした話し合いの席を持ち、ウィードの存在を公式に認められ友好関係が結ばれたことでズラブル大帝国内での行動が容易になったことに加え、ハイーン皇国の方も、船団が戻り報告をする段階まで来たということで、私たち諜報部から数人でハイーン皇国側の調査に単独で動いたことが始まりです」
そう、まだズラブル大帝国を大陸間同盟に正式に引き込めたってわけじゃないが、まぁ、どう見てもこちら側だということで、人員の配置が減ったわけだ。
オーレリア港の方もズラブル大帝国からの増員が期待できるしな。
それに、正式にゲートを利用して簡単に人材、物資が移動できるようになったのもありがたい。
そしてハイーン皇国艦隊も祖国に戻ったことが確認できたことから、霧華たち諜報部はこれまで優先度が下げられていた、拠点、通り道以外のダンジョン捜索へと手を広げたわけだ。
「当然、今日にいたるまで主様はダンジョンの存在に警戒しておりましたが、幸いと言うべきか今まで主様たちが活動する範囲にダンジョンの存在は確認されていませんでした。とはいえ、余裕が出てきた今、かの大陸におけるダンジョンの有無は我がウィードが外に出て活動するうえで絶対調べなければいけないことです。それで、少数ではありますが、諜報部隊で調べた結果……」
「ダンジョンを発見したってことっすよね?」
「はい。発見いたしました。まあ、正直に言いますと発見したのはダンジョン捜索班ではなく、ハイーン皇国調査班の方なのですが」
霧華が苦笑いしながら言ったことに、俺を含めた全員が首をかしげる?
「霧華どういうこと? ハイーン皇国の調査してた部隊の方がなんでダンジョンを見つけられたの?」
「探していないものを見つけられるものなのですか?」
「ふしぎー。詳しく教えてー」
「はい。経緯を簡単に言いますと、ハイーン皇国の同盟国に潜入した際にダンジョンが遺跡として存在しているという情報を得たのです。まあ、現地では魔物が住み着いている洞窟があるという程度の認識ですね」
「じゃ、稼働はしていないのですね?」
「はい。調査隊が発見したダンジョンは確かに稼働していませんでした」
調査隊が発見したダンジョンは、ね。
このわざとらしい言い回しには流石に全員気が付いたようで、霧華の話の続きを待つ。
「……ですが、更に調査を進めたところ、ハイーン皇国に近い国々では実際に稼働しているダンジョンを示唆する話を冒険者たちから伺いました」
「で、その話の信憑性はどんなもんなんだ?」
ジョンが冒険者の話って聞いて尋ねたのはその信頼度だ。
冒険者のうわさっていうのはけっこう当てにならないものも多い。
所詮仲間内のだけの情報網だったりするからな。
「それについては裏も取ってあります。ハイーン皇国近くの国々ではダンジョンは当たり前のように存在するようで、冒険者だけではなく一般の住民にも魔物の出る洞窟の話は広く知られていました」
「ふーん。って、その話ちょっとおかしくないっすか? なんでハイーン皇国近くだけ? それに、一般人が知っているっていうなら、なんでこっちにはその話がなかったっすか?」
スティーブの言う通り、それがホントなら今まで調べた中に一切ダンジョンの情報がなかったのはおかしい。
特にプロである冒険者ギルドでさえその言及がなかったのは……。
「それについても、調べております。あちらでは冒険者ギルドもズラブル大帝国側とハイーン皇国の東西2つに分かれている状態です」
ちなみに、地理関係を大雑把ではあるが簡単にいうと、最西端にカグラたちがいるいわゆる新大陸、で、海から海まで南北に延びる大山脈を挟んでその向こうにズラブル大帝国、そしてさらに東側にハイーン皇国と並んでいる。
まあ、この状態になったのはズラブル大帝国が勢力を伸ばしてきたここ10年ぐらいのことだが……あ、そういうことか。
「つまり、ズラブル大帝国とハイーン皇国の戦いで冒険者ギルドも2つに割れているから、ズラブル側の冒険者ギルドにはダンジョンの情報がなかったってことか?」
「はい。それも要因の一つではありますが、それだけだとダンジョンそのものがズラブル大帝国側にだけないということが疑問として残ります」
「あ、そうか。別に東西で争いをしていても、ダンジョンの配置が東西で偏ることなんてない。ダンジョンは持っていけないからな。というかそもそも偏らせる意味がわからん」
「その通りです。ダンジョンは普通ならダンジョンマスターがDPを得るために各地に配置して、人や魔物を引き込むもの。それを国が戦争をしていようが偏らせる意味はありません。ですが、この情報を得て再びズラブル帝都の冒険者ギルドに行きダンジョンの話を確認したのですが、やはりハイーン皇国が存在する東側にしかないということでした」
そこまで言われると、俺もある程度ネタが見えてきた。
それはミノちゃんも同じだったようで、ポンと手を打つ。
「つまりだべ。西側にダンジョンがないのは、作れなかったから。……だべか?」
「はい、まだ確証はありませんが、可能性は高いかと。通常であれば不可解なこのダンジョンが作れないという事象。私たちならその答えを知っています。さて、彼女も到着したようですね」
霧華が会議室の扉に視線を向けたのに合わせるようにドアが開き……。
「やっほー! 美味しいデザートが食べられるって聞いてやってきたわよ!」
と、それは元気よく笑顔を振りまく、能天気女神見習いハイレンがそこにはいた。
ついにダンジョン発見!
ズラブル大帝国側で出てこなかった理由は想像できるかな?
あと、感想で質問があったのですが、ズラブル大帝国が存在する大陸とカグラたちの国が存在する大陸は陸続きです。
大山脈という壁があるので海路の方が早いっていう話です。
まあ、規模的にはズラブル大帝国は単独とするべきでしょうけど、大陸間交流同盟が初めてなので、カグラたちの国と連携している感じですね。




