落とし穴154堀:空へ
すいません、ちょっと忙しくて本編が書けておりません。
なので、以前話していた、掲載する暇がなかった落とし穴で我慢してね!
空へ
空。
それは青と白から構成される世界。
どこまでもどこまでも果てしなく続く障害物のない広大な場所。
人には決して届かぬ世界。
だが、人はその空へのあこがれを捨てなかった。
いや、あきらめられなかった。なぜなら……。
『私たちは飛ぶために生まれてきた!! 眼前に広がる大空を見て、飛ばずにはいられない!!』
そう、その空が目の前に広がっているから。
『私たちには翼がないから飛べない? なら作ればいいじゃないか!』
そうだ、無ければ作ればいい。
『機械が空を飛ぶことは不可能だ? そんなことはない、気球だって飛ぶんだ。機械が飛んでもおかしくない!』
かの大発明家も言っていたではないか。
「今正しい事も、数年後間違っていることもある。逆に、今間違っていることも、数年後正しいこともある」
この世の中に絶対はない。
常に常識といわれるものに疑問を持ち続けてこの世界に対してチャレンジを続ける。
あきらめなければ、人はどこへだって行ける。
そんなことを示したのが……。
『ライト兄弟が目指した世界を私たちも追いかけよう! 第34回バードマンコンテスト開催です!!』
ワァァァァア!!
歓声が響き渡る。
そう、ここは空を夢見た人たちが集う場所。
自らの翼で飛ぶために。
Side:ユキ
『さあ、今度はAOZORA航空チームだ! 今回初めての参加です! このAOZORAチームの結成は……』
そんな感じで、次の飛ぶチームの紹介映像に切り替わる。
「初参加ですかー。厳しそうですね。どう思います?」
「うーん、まあ、初参加だしな。50メートル飛べばいい方じゃないか?」
「……」
俺とタイキ君、そしてタイゾウさんの3人は残り少なくなった夏の一時、バードマンコンテストを見て過ごしていた。
いや、厳密には、ゲームをするために集まったつかの間の休憩中にテレビをつけたら放映されていたわけだ。
俺が居住するこの旅館だけはテレビが映るようにとルナと交渉して権利を手に入れた。
今まで散々無理をしてきたんだこれぐらい、いいだろう。
まあ、嫁さんたちがドラマにはまるとかいうことがたまにあるが、それもまた経験だ。
「アレですね。毎年恒例ですよねー」
「ああ、毎年恒例だよなー。でも、つい見てしまうな」
「そうそう。飛べるかどうか見てみたいですからね」
「ロマンだよなー」
「……」
俺たちがそんなことを話しているうちに、AOZORAの紹介は終わりいよいよフライトが始まる。
『さあ、AOZORA航空チーム、離陸許可が下りました!』
『いくぞ! 3、2、1……0!』
『いったーー!! AOZORA航空チーム離陸!! おっーっと!! 真下に……いや、落下をこらえた! そして一気に舞い上がった!!』
AOZORAのグライダータイプは離陸直後に一度下降し、そのまま落ちるかと思ったが、立て直して機首を上げ、見事に宙に舞う。
『飛んだ! 飛んだ!! 見事なフライトです! さあ、後は記録をどこまで伸ばすか!』
初参加にしては頑張って離陸直後に分解することもなく、無事に飛び立った。
「おー、飛んだな」
「飛びましたね。でも、あっ、落ちた」
とはいえ、そこは所詮初参加チーム。
そこまで飛距離を伸ばすこともなく墜落。
しかし、俺の予想は上回っているようで……。
『記録は82メートル! 見事なフライトでした!』
おぉ、意外と飛んだな。
まあ、ちゃんと設計していたんだろうな。
見た目はぼろかったけど、予算がなくてきついのはどこでも一緒か。
世知辛いね。
「で、最後まで見るか?」
「あー、どうしましょうか?」
「……」
この番組、意外と長く3時間も続く。
これに付き合っていると、気が付けばあっという間に寝る時間だ。
いや、大人の俺たちからすれば宵の口の時間ではあるが、時間を浪費するのは間違いない。
「……今さらですけど、なんかタイゾウさん、固まってないですか?」
「……ああ、そう言えばさっきから無反応だな」
「……」
タイキ君の言う通り、なぜかタイゾウさんはずっとテレビを見据えたままピクとも動かない。
俺たちよりもテレビの近くに陣取っているので、顔は見えないのだが、まさか、退屈すぎて寝ているとは思えない。
というか、タイゾウさんがテレビを見ながら居眠りをすることはまずあり得ない。
なにしろ生活態度はしっかりしていて、キッチリ電気は消して布団を敷いてちゃんと寝るタイプからな。
「えーと、タイゾウさん?」
とりあえず、声を掛けてみる。
「……ん? 何かいったかい?」
お、普通に反応してくれた。
「いえ、そろそろ見るのやめようかって話をしていまして…、しかし、意外と集中してみていたんですね」
「あ、ああ。なるほど。確かに集中してみていたな」
「やっぱり、タイゾウさんはこういうのに興味がありますか?」
「それはそうだな。人が、若者が知恵を出し合って挑戦をするというのはいいことだ。しかもそれが航空力学などの計算をキチンとして設計して、空を飛ぼうというのだから、興味を惹かれないはずがない」
そう答えるタイゾウさんの顔は嬉しさで満ちあふれていた。
わくわくが止まらないって感じだ。
「未来の日本は素晴らしいな。こんな素敵な競い合いがあるのか。戦争の為でなく、ただただ空を飛ぶそのためだけに設計をする。きっと、楽しいのだろうな」
「「……」」
そうか、タイゾウさんが日本で技術者として力を発揮してたのは丁度第二次世界大戦。
人を効率よく殺すための兵器を開発することが主だったろう。
だからこそ、俺たちよりも、ただ純粋に空を飛ぶためだけに自由に設計をしている彼らがまぶしく見えるんだろうな。
そんなタイゾウさんを見ていたら、とあることを思いついてしまった。
「なら、やってみますか?」
「ああ、いいですね。作るんですか!」
「おおっ!! 素晴らしい! 作ろう! そうだ、ただうらやましがるだけなんて、技術者としてあるまじき行為だ! そうだ、自ら作ればいいんだ!」
見ているだけじゃつまらない。
なら、実際にやってみればいいじゃないか。
ただそんな単純な話だ。
「とはいえ、俺たちだけじゃつまらないし、知り合いにも声を掛けてみましょう。湖は用意できますし、テレビと同じように、チームで競ってみましょうか」
「いいですね。技術者は多いですからね」
「いいな。最近は専ら魔力枯渇現象の研究で皆忙しいからな。いい気分転換になりそうだ。しかし、ルールは厳密に決めた方がいいだろう」
「それはそうですね。そうしないと、魔力を使って永遠に飛ぶグライダーとか作られそうですし」
「ありそうですねー」
「そうだな。そこは厳密に。まず、魔力を使わず、純粋に航空力学で飛ぶものと規定をしよう。大きさも全長15メートル以内で、バードマンコンテストと同じようにグライダーで、自転車など人力駆動の機関はありで」
そんな感じで、その日はもうゲームを再開することはなく、さっそく細かいルール作りを始めて、夕方に差し掛かるころには……。
「あとは、参加者を募るだけだな」
そう、ルール作りは終わり、後は参加者を集めるだけになっていた。
とはいえ、ここからが問題だ。
「ですね。でも、今回のウィードバードマンコンテストは、あくまで試験も兼ねますから、一般参加は無しの方向でいきます」
「それがいいですね。俺とユキさん、そしてタイゾウさんの知り合いなら、墜落しても死にはしないでしょうし」
タイキ君の言う通り、事故を考えると、先ずは身内だけの方が安全だ。
一般参加はこの試験を終えてからということになる。
ぶっつけ本番で一般参加者から死傷者なんてだしたら、今後の開催に差しさわりがでる。
「それは当然だな。だが、そもそも私たち以外からバードマンコンテストに参加してくれるかという問題もある」
「参加者が集まるかは皆に話してみないと分かりませんからね」
「そこの心配については俺はないと思うけどな。あの連中なら特に悩むことなく参加すると思う。ま、まずはタイキ君の言うように、直接会って話するのが大事だな」
「あの連中? ああ、彼らか。なら可能性は高いな」
「え? タイゾウさん。それで誰だか分かったんですか?」
タイキ君は思い当たらないようだが、タイゾウさんにはすぐ分かったようで、俺も別段説明することなく、とある場所へと向い……。
「あー。ここなら確かに人力飛行機を作れる人はいますね」
「だろ? というか、ここ以外にまともに人力飛行機の設計ができるやつはいないだろう」
「ああ、飛行機というのは本当に繊細だからな。数センチはおろか数ミリでもズレがあれば、まともに飛べない。そういったことをちゃんと理解しているのは確かに彼らだけだな」
そんなことを話しながら、向かった先は、魔力研究所。
ウィードの最新技術及び、魔力枯渇現象の情報収集や解決策を模索している場所だ。
で、ここを管理している者が……。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、出てきたのは……。
「……で、何をわざわざチャイム鳴らしているんですか。カードキーなら持っているでしょうに」
ここの所長、研究バカたちのまとめ役を担っているザーギスだ。
「いや、新しい話を持って来たからな。チャイムを鳴らしたんだ」
「おかえりください」
そう言ったかと思うと、ザーギスは即座にドアを閉めようとしたが、俺はすかさず足をドアの隙間に差し挟んで、閉まるのを阻止する。
「おい、何閉めようとしているんだよ」
「どう考えても、全く別の案件でしょう? しかも、ユキだけでなく、タイゾウ殿に、タイキまで。魔力研究とは関係のないことでやって来たにきまっています」
おう、見事な推測だ。
流石長い付き合いなだけある。
「お前だって楽しんでやってるだろう?」
「否定はしませんが、昨今の情勢でこっちの仕事もすごく忙しいんですよ。集中させてくれませんかね?」
ぬぎぎぎ……と扉を閉めようとするザーギスと開けようとする俺のバトルが繰り広げられていると……。
「ザーギス殿、確かにその通りだが、君は自力で空を飛んでみたくはないか?」
「空ですか? 航空技術なら既に魔力でも科学技術でも確立させていますが?」
どうやらタイゾウさんの話なら聞く耳を持つみたいだな。
俺は一旦ドアから離れて、2人の会話を見守る。
「そういう意味ではない。一から自分たちで、飛行機の設計をして空を飛んでみたくないか? という話だ」
「……興味深いですね。私自身の設計でですか」
「ああ。確かに、既に飛行技術は確立されている。しかし、それだけではザーギス殿にとっては退屈ではないか? 他の技術者の後に乗っかる。悪い話ではない。だが、一から手掛けてみたくはなかったか?」
「それはその通りです。新技術を自ら開発する。それこそ、私たち技術、研究者の夢ですから」
「ああ、だから、新たなる飛行の模索をしてみないか? というのはあれだが、息抜きという奴だ。簡単に設計して、それが空を飛ぶか。動力は人だけ。魔力などは一切使用しない」
「純粋に航空力学だけで飛ぶということですか。……ふむ」
お、タイゾウさんの説得にずいぶん心が揺れ動いているようだ。
あと、一押しかなと思っていると……。
「何か面白そうな話をしているね。私も混ぜてくれ! 飛行機の設計! いいじゃないか」
「ですね。人力飛行機であれば、ほとんど滑空を想定した設計になるとは思いますが、楽しみです」
「うわっ!?」
ザーギスの後ろから、コメットにナールジアさんが首を出てくる。
どうやら話を聞いていたようで、参加する気満々のようだ。
「ま、とりあえず、参加要項と機体の制限とかの資料は渡しておくから。参加を検討してみてくれ」
「わかりました。検討させていただき……」
「バカじゃないか、ザーギス。こんな面白そうなことを今更検討するとか」
「絶対参加ですよ! 絶対参加! って、チームを作る必要があるんですね。むむむ……」
さて、あのメンバーで組むのか、それとも敵対して別のチームを作り上げるのか。
色々楽しみだな。
ということで、夏の大イベント鳥人間コンテストだー!
だれだって一度は参加してみたいと思ったでしょう。
それをやるぞ!
誰が一番遠くまで飛ぶのか!




