第939堀:実力の証明
実力の証明
Side:ユキ
「はぁ」
いやぁ、世の中予想外のことばかり起こる。
てっきり、偽皇帝の人がそ知らぬふりで謁見するとばかり思っていたら、最初から大本命の幼女皇帝が現れて俺たちと対面をした。
あまりにいきなりだったので、俺の予想が大外れだったかと思ったぐらい驚いた。
だが、やはり直接再鑑定しても間違いなくズラブル大帝国の皇帝(本物)と出ているし、謁見の間で出てきた自分の容姿で色々苦労しているという話や臣下たちの態度からも、どうやら本物のように見えた。
「ま、意外ではあったが、思ったよりも友好的で助かった」
「はい。随分と理解ある方でよかったです」
俺の言葉に同意したのは、俺の傍らに付き添っているルルアだ。
回復要員としてルルア以上の者はウィードにいないからな。
魔術による回復に加え、医療という物理的な治療。そのどちらの技術も高い水準で持ち合わせている。
だから、いざというときのために付いて来てもらったのだが、どうやらその必要はなかったようだ。
ルルアの言う通り、あのユーピアという皇帝は、きちんと俺たちが本当にそれだけの実力を持っているのかを確認しようとしてくれているくらいだからな。
「最悪、城の中で大暴れも想定していたからな」
「そうなると大変でしたね。と、そろそろ終わりそうですよ」
ルルアに言われて、視線をユーピア皇帝から練兵場へと戻すと、そこではクアルが単身、大剣を構えたいかつい大男と対峙している。
パッと見る限り、とうていクアルが勝てそうにない相手なのだが……。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「ふむ。もう終わりでしょうか?」
実際に息が上がっているのは相手の大男の方だ。
対してクアルは息の一つも乱していない。
まあ、レベル差が圧倒的だからこの結果は当然といえば当然なのだが。
魔力無効化能力でも持ってなければ、あの大男がクアルに勝つのは、不意打ちをしようが絶対に無理という悲しい現実。
「ま、まだだ!! 私は、私を認めてくれた陛下のためにも絶対引くわけにはいかんのだ!」
しかし、その実力差を大男の方は受け入れるわけにはいかない。
ユーピア皇帝に直々に指名されるくらいだから、それだけ腕に自信がある上に、指名したユーピア皇帝の面子にもかかわる。
そして何より、その言葉からは皇帝に忠誠を誓っていることが分かる。
強い弱いではない。勝てる勝てないではない。
ただ臣下として、一戦士として、信頼してくれている人の為に戦う。それだけだ。
しかし、それはクアルも同じ。
「その忠誠心、お見事です。貴方にとって彼の皇帝が良き主君であること、よくわかります。ですが、負けられないのは私も同じです」
クアルはそう言い切ると、スッと左手を添え、剣を両手で構える。
いままでクアルは片手で剣を振るい、全ての攻撃を去なしていた。
それが両手になるということは、今から攻撃を仕掛けるという意思表示なのだろう。
それは、相手の大男こそが最もわかっているだろう。
そして、これが最後の一太刀となると。
「う、うぉぉぉぉぉ!!」
だが、それでも大男は微塵も引かない。
改めて大剣を両手で握り直し、叩き潰す勢いでクアルに向かって振り下ろすが。
キィィン……。
そんな音と共に、大剣が折れ飛ぶ。
いや、実際にはクアルが剣で斬り飛ばした音なのだが、剣が剣に斬られるという事象はそうそう見られるものではないので、『折れた』といった方が分かりやすいだろう。
クアルの剣と剣技の前に、大男の剣は折れ。
「よい一撃でした」
クアルがそう言った瞬間、大男はドゥと地面に倒れ伏し……。
ズガァァァ!!
一拍遅れ、大男の背後の地面までもが一気に切り裂かれた。
クアルのやつ、わざと演出重視でやりやがったな。
ま、それもありか。単なる一撃で叩きのめしたでは、相手も納得できないだろうしな。
そして、その効果は十分あったようで、これまでの落ち着いた態度から一転、ユーピア皇帝が慌てて指示を飛ばす。
「そこまで! 直ちにドーダンの介抱を行え!」
「「「はっ!!」」」
即座に治療の指示を出す当たり、部下を大事にする人物でもあるみたいだな。
で、大男の名前はドーダンっていうのか。
ああいう忠誠心の高い男って欲しいよね。
仕事を真面目に取り組んでくれそう。
おっと、そんなことはいいとして、もちろんドーダンは単に気絶しただけで致命傷など与えてはいないので、駆け寄った人たちはそれを知ってすぐにユーピア皇帝にドーダンの無事を伝えたことで、安心感が広がる。
「そうか。なんと無事か。……うむ。見事じゃ! クアルといったな?」
「はっ。ウィードが女王、そして使者として貴国に訪れている、王配であるユキ様の近衛隊長を任されているクアルと申します」
「近衛隊長。女でか」
「我がウィードでは、実力があれば男女は問わず優秀なものはその力に見合った役職を得ることが出来ますので」
「そうか。そなたにとってウィードは良き国か?」
「はっ。この一命、国に捧げるのは惜しくありません」
「ふっ。そうか。ユキ殿、良き部下をお持ちじゃな」
そこでようやくユーピア皇帝は俺に話しかける。
「ええ。自慢の部下ですよ」
まぁ、俺の部下じゃないけどな。
で、その主であり、女王様の方はというと……。
「……」
すっかり拗ねて、ぶすっとした表情でクアルを見つめていた。
未だデリーユとラッツに取り押さえられたままということは、途中何度も飛び出そうとしたんだろうな。
まったく、女王になってから随分成長して大人しくなったとばかりおもっていたけど、単に檻に入れられていただけか。
あとでご機嫌とるのが大変そうだな。
と、そんなことを考えていると、ユーピア皇帝が再び話しかけてくる。
「本来なら、よし、このまま連戦……と行きたいところが、さすがに一瞬で練兵場を切り裂くような相手に戦いを挑むというのは愚の骨頂じゃな。当初の目的であるウィードの力の一端は見せてもらった。先ほど相手となった者はドーダンといって、将としての器よりも、一兵士としての技量が高くてのう。巷では一騎当千といわれておるほどの者じゃ。それをああも簡単にあしらうとなると、ウィードの実力、多少なりと信じられよう」
「それは何よりです」
これで、一歩ズラブル大帝国と話し合いのステージに近づいたといえるだろう。
「とはいえ。クアルの事は、一兵士の実力にすぎぬ。力押しで負けたというなら判るが、ヴォルがいう、瞬く間に本陣まで落とされたというのは、また別の話じゃな。それを如何に成した?」
これはまた直球で聞いてくるな。
とはいえ、そこまで素直に教えるつもりもない。
この辺りでは実力を見せつけて、相手を威圧するのが常套手段のようだが、そういうアホなことをするつもりはない。
「それについて詳しくは申せません。我が軍の機密であり、知られれば弱点となりうるものでもありますから」
「ふむ。それも当然か。しかし、それでは、お主たちをウィードの者の力を信じることは難しくなるぞ?」
そう攻めてくるか。
回答にあっさり納得したのは驚いたが、まあそれも当然か、砲艦外交みたいなかんじだが、それでも素直に手札を全部さらすやつなんかいない。
奥の手というのはどこも隠し持っているものだからな。
だから、それを晒させるための脅しだが……。
「まあ、それに代わるほかの物を用意しましたので、そちらを見ていただければある程度納得していただけるかと」
「ほう。それは、そなたが連れてきた妙な乗り物を持つ兵士たちのことか?」
「はい。今は王都の外で待機させています。その者たちが我が軍の精鋭であり、ユーピア皇帝やほかの皆様にも納得していただける力を示せると思い連れてきました。まあ、万言を費やすより、実際に見た方が早いかと思いますので」
俺は素直にそう言う。
そう、あえて隠したというはそれで間違いではないが、実際見ても理解できないだろうからというのも事実だ。
剣と槍、そして魔法でやりあっている国に銃器や戦闘車両、戦闘機による機械化された兵器群での戦いなど想像もつかないだろう。
「納得できる説明ではあるが、それはワシの身を危険にさらすことになりかねんな。他国の軍勢の前に出向けということじゃからな。その点、どうにかならぬか? かといって、その相手として我が軍を出すのも忍びないからのう。そしてそれはそちらも同じじゃろう?」
ユーピア皇帝の言うことももっともだ。
皇帝自ら、得体のしれない軍の前に行って、その実力を見ろというのはそもそも無理があるよな。
それに、隊伍を組んで戦うような軍の実力を見せるには、当然相手がいる。
つまり、この場合の相手を務めるのはズラブル大帝国になるわけだが、さすがに敵でもない相手の実力を見るためだけに軍を動かし危険に曝すというわけにもいかないだろう。
俺だったら、喜んで受けいれて敵の実力を測るが、こっちはいまだあちこちで戦争中だからな。
迂闊に兵を失うようなことはしたくないだろう。
だが、それはあくまでも隊伍を組んで突撃ーという場合だ。
我がウィードの軍隊は、そんなことをしなくても軍の力を目に見える形で示す方法がある。
「ユーピア皇帝。我が軍の力を見て頂く方法は別にございます。どこか破壊して良い目標を指定していただき、それを遠方から眺めるだけでいいのですが、どこかいい場所はございませんか?」
「相手はいらぬのか? そして代わりの破壊目標か。ならば現在開拓をしている森がよかろう。そこならばどうじゃ?」
まさに僥倖。
森が相手ならより確実に、こちらの実力を見せられるだろう。
そう。俺がやろうとしていることは、火力演習。
撃って撃って撃ちまくる。
軍事訓練では欠かせないことだ。
そして、これをやるたびにエリスに怒られてきたんだが、今回は大義名分も立つ!
「……」
あちらで既にエリスがジトっとした目で睨んで来ているが、これは仕方のないことなんだ。
この火力演習でズラブル大帝国にウィードと事を構えるのはよろしくないと認識させれば、今後無用な争いは控えられて、結局経済的でもある。
つまり、これはそのための必要経費ということだ。
戦争回避の大事な一手というわけだ。
つまり世界平和のための火力演習。
これに文句を言うことはできない。
まあ、誘導ミサイルを撃つわけじゃないから、予算的にもかなり楽なんだけどな。
……それでも、家一軒どころか数軒分の砲弾を使うことになるんですが。
軍は金食い虫とはよく言ったものだな。あっはっは。
さて、エリスの眉が吊り上がる前にさっさと演習を済ませてしまおう。
ということで、早速俺たちは、開拓中の森の位置を確認して、ここを耕していいという最終的な許可と当該地区に人がいないことを確認してもらい、1時間後には準備が整ったので、ユーピア皇帝と共に彼方にその森を望む帝都の城壁上へと移動した。
「……ユキ殿。本当にここでよいのか? 確かに開拓予定の森は見えはするが、かなり遠方じゃぞ?」
「はい。問題ありません」
近くで見るとかそれこそ自殺行為だしな。
砲撃に巻き込まれかねない。
いや、そこまで練度は低いわけじゃないけど、何が起こるか判らないから安全措置は取って当然ということだ。
しかし、砲撃という概念がそもそも存在しないユーピア皇帝を始めとするズラブル帝国の面々は皆を首をかしげている。
まぁ、それも当然のことで……。
「……ユキ殿。何度もすまぬが、そのウィードの軍も辺りには見えんが……」
「ああ、それならあちらです。この筒を覗き込んでみてください」
俺はそういって望遠鏡を側近の人に手渡して、問題が無いことを確認してもらったうえで、ユーピア皇帝が受け取り、覗くと……。
「おおっ!? なんじゃこれは!? 遠くがはっきりと見えるぞ! これは、偵察に持ってこいではないか! で、あれがウィードの軍じゃな。あのゴブリンたちはよく調練されているようじゃが……あんな遠くから突撃するのかのう? それでは流石に時間がかからんか? それともあれは後方部隊で、先鋒は既に移動中か?」
そんな驚きと疑問が出てくる。
もちろん、そんなことは想定済みで……。
「いえ、あれが定位置です。これからあちらの森を攻撃しますので、刮目してご覧ください」
俺はそう言ってから、わざとらしくトランシーバーを手にこう告げる。
「第一中隊……砲撃、開始」
『了解。第一中隊砲撃を開始します』
こうして、ズラブル大帝国王都近くの森を目標にウィードの火力演習が始まるのであった。
地球だと他国の領土で火力演習とか、物凄い苦労だろうな……。
まずは、単体での実力証明が終了。
クアルはちゃんと強かった!
伊達にセラリアの副官を務めていないのです!
そして、エリスというお財布を握る相手を前に正々堂々と散財できるすばらしさ!
いや、必要経費だけどね!




