第913堀:子供たちのお店
子供たちのお店
Side:ヴィリア
「さっ! 今日も頑張りますよー! ウィードにお人形まんじゅうありと世界に示すのです!」
「「「おー!」」」
私の掛け声にクラスのみんなも声を上げます。
よし、今日もみんな元気一杯ですね。
「さあ、シフト通りに、店舗販売員と、売り歩き、そして裏でお人形まんじゅうを作る人、そしてゴミ拾いのメンバーで分かれてさっそくお仕事開始です!」
「「「はい!」」」
こうして、私の一日が始まりました。
只今時刻は朝の6時。
いつもの学校へ行く時間なんかより圧倒的に早く、普段だったらまだ起きていない時間です。
でも、この二週間は違います。
これが当然のことなんです。
なぜなら、ウィーモールのお店を任されているからです。
始まりは、お兄様のこの提案でした。
『ウィーモールの出店さ、子供たちがやってもいいんじゃないか?』
その鶴の一声で、私たちウィードの学校のみんなで、このウィーモールという各国が大金を積んででもぜひ出店したいという場所にお店を出すことになったのです。
もちろんそれはお兄様が考えたことで、何の考えもないたんなる思いつきなどではありません。
『子供たちだけでウィーモールでの販売や掃除をしていればそれだけで和むし、そんな子供たちに手を上げるような大人がいれば排除するのにちょうどいい。そして何より、子供たちでもちゃんと学べばこんなことが立派に出来るんだと示すにはいいところだ』
そう、ここは私たちがウィードの学校で学んできたその価値を発揮する場所でもあるのです。
お兄様が必要だと皆に学ぶ機会を与えてくれたその成果を、世界に示すために!
お陰で、すらすらと計算はできますし、お菓子作りも調理実習でやってきたので何も問題はありません。
ごみ掃除のお仕事も、冒険者ギルドでよくやっているので、みんな何の戸惑いもありません。
それに、たとえミスをしても、みんなで助け合えばいいんです。
そして、今日もお兄様のために頑張っていると……。
「いらっしゃいませー。焼きたてのお人形まんじゅうはいかがですかー」
「ん、これは美味しい!」
まーた、ヒイロがお馬鹿なことをやり始めました。
これはお店の裏でお説教ですね。
と思っていたら……。
「ヒイロ。売り物をつまみ食いするのはやめなさい」
「あい」
私がお説教する前に、ドレッサが注意をして、ヒイロを止めてくれました。
ドレッサはこの前の休みが随分といい気分転換になったようで、今日はいつもよりも頑張ってお店を手伝っています。
ヒイロを叱ることもいつもより積極的にしてくれるなど、私の手助けをしてくれます。
おそらく、お兄様のお嫁さんになるという自覚が出てきたのだと思います。
と、そんなことより、道行く人たちに知ってもらうために、お試しを配らないと。
私たちがお店の前でやっているのは、お人形まんじゅうの試食品を配ること。
食べてみないとどうかは実際わかりませんから。
「試食品がありますから、宜しければおひとつどうぞー」
そう言って、私は試食品が乗っているトレーをその歩いてくる人たちの方に差し出します。
その中には、兵士や一般人さん、動物、そして魔物の姿など、いろいろな形をしたお人形まんじゅうがあります。
最初はセラリアお姉さまのおまんじゅうをという意見もあったんですが、みんなに食べられてしまうものなのにそれはどうかという意見が強く、結局取りやめになりました。
お兄様のおまんじゅうも同じです。
確かにお兄様の姿をしたおまんじゅうがあったら、とても食べられませんからね。
と、そんなことを考えていたら、不意に2つの人影が目の前にヌッと現れ、
「おう、面白いもの配っているな。一つ貰うぞ」
「あ、はい。どう……ぞ」
私がそう言ってトレーを差し出した先には……。
「ほほう。色々あるな、これは槍兵、こっちは魔術師か、そしてこっちは魔物か! 見ているだけでも楽しいな」
「ああ、これはよくできてるな。いや、流石だなヴィリア、ヒイロ、ドレッサ」
なぜか、ローデイ王様とローエル姫様が差し出したトレーの試食品を手にしていました。
「……え、えーと、ローデイ王さ……」
とりあえずなぜこんなところにいるのかと、問いただそうとしたら、ローデイ王は口元に人差し指をやってシーっというポーズをとる。
「ここにいるのは、ヴィリアたちの親戚のただのおじさんだ。なあ?」
「ああ、そうだな。ここにいるのは私やヴィリアたちの知り合いのブレードというただのおじさんだ」
「……」
「……ヴィリア、我慢なさい。ここはツッコんじゃだめよ。この2人にとって、これがデフォルトだから」
確かに、ドレッサの言う通りです。
なぜこんな組み合わせでいるのかと問いただしたいのはやまやまですけど、今の私たちはこのお店を繁盛させるためにいる売り子なんです。
とりあえず、確たる所への通報はあとでするとして、まずはお仕事をと思っていたら、ヒイロがスーッと前に出てきて。
「ブレおっちゃん、ローお姉、まずは食べる」
「「!?」」
物凄い発言をする。
ローエル姫様は前々から、しばしばセラリアお姉さまに絡んでいて、私たちも仲良くしてもらっていますのでまだしもですが、ブレード王とは私たちは日頃あまり交流がないのに、そんな無礼な呼び方なんかしたら、ウィードの評判、強いてはお兄様の評判にも関わります!?
そんな恐れから思わず卒倒しかけますが、とにかく何とか意識を保って先ずは弁明しないと……。
「あぁ、それもそうだな」
「そうか、そういえばこれ食べ物だったな」
しかし、私のそんな気持ちなんか知らずに、別段怒ることもなく、そのままパクっとお人形まんじゅうを口に入れる2人。
ちょっとー!? 護衛の方々! 王様とお姫様が不用心にも、そこらで手に入れたものを勝手に食べてますよ!
毒殺とか気にしないんですか!?
と、思わず叫びそうになった気持ちを押し殺している間にも。
「おっ、案外いけるな。というかけっこう美味い」
「だろ? 私のおすすめだ。ま、我が国のシュークリームも美味いがな」
「あー、アレはあれで美味いな。だが、こっちは見た目でも楽しめるってのいいな」
「確かにな。シュークリームにもこういうモノを求めるべきか? あとでシャールに相談してみよう。と、そのためにも見本がいるな」
「あ、そうだな。俺にも土産に、セットを10個たのむ」
「まいどありー」
って、なんかどんどん話が進んでいます。
どうしたら、この怒涛のマイペース空間を止められるんですか!?
お兄様、私はどうしたらいいんですか!?
そんな風に大混乱をしていると……。
「へ、い、か」
「お? サマンサか」
「おお、サマンサ。と、ユキたちもいるのか」
サマンサお姉様が駆け寄ってきました、ということは……。
私がサマンサお姉さまがやってきた方へ振り返ると、そこにはやっぱりお兄様がいました!
私を助けにお兄様がやってきてくれました!
「よ。意外な組み合わせだな」
「そうか? ローエル姫とはよく顔を合わせるけどな。特にラーメン屋とかで」
「ああ、美味いからな、キユのラーメン屋。まあ、他店が出すみそ味も捨てがたいが」
「わかるわかる。塩、しょうゆ、辛麺も捨てがたい」
「そうそう。そしてチャーハンやチャーシューもそれぞれ味が違うからな」
なぜか、王様とお姫様がラーメン屋巡りの話で盛り上がってます。
しかも意外と深いです。
お味噌味とか、辛麺は最近出たばかりのラーメンのはずですから、よほど足繁くラーメン屋に通っていないと知らないはずです。
私もキユさんとコヴィルさんから最近聞いて、ようやく知ったぐらいです。
お兄様はとんこつ派なので。
「なるほど、勝手にふらふら出歩て食べまわっているってことか。いつものことだが、サマンサや、お前の部下をちゃんと労ってやれよ」
「そうですわ。いい加減に勝手に出歩くのはやめてくださいませ」
「おーい。何やら私はすっかり無視されてないか?」
「いや、ローエルの相手は後ろな」
「後ろ?」
そう言われて、ローエル姫様が後ろに視線を向けると、そこには鋭い眼光を放つシェーラお姉さまと、シャール姫様が立っていました。
「まったく。この忙しい時にいつもいつも……」
「いい加減、お父様は……ダメとして、お兄様や弟たちと相談して、首輪と鎖をつけてもらうようにしないといけませんわね」
「何をそんな冗談を言っているんだ。わはは……」
ローエル姫様は2人が言ってることが冗談だと思ってるらしく笑っているのですが、私の目には2人が鋼鉄の鍵付き首輪と、鉄の鎖を後ろ手に取り出しているのが入ります。
ガチャン。
その音を聞いた瞬間、ローエル姫様は一目散に逃げようとしますが。
ガシャン! ジャララ……!
「さ、お姉さま。今日はこれからお仕事を頑張りましょうね」
「今までサボっていた分、全てをやってもらいますわよ」
「ま、まて! くそっ、外れない!? やめてくれぇぇ!」
そんな声を上げながら一所懸命抵抗しますが、あれはナールジアさんの特製ですから、いくらローエル姫様でも壊せるわけがありません。
そしてそのままズルズルと引きずられて、人混みに消えていきます。
「……おい、ユキ。王族、しかも軍部のトップである王女をあんな扱いしていいのか?」
「いや、連れて行ったのもその王族だし。俺の関与するところじゃないな。で、サマンサにどう弁明するのか聞かせてもらおうか?」
「陛下。私も宰相様やお父様から、一人でうろついてたら見つけ次第問答無用で捕縛せよ。と厳命されておりますが? いかなる理由で、おひとりで?」
「ああ、それなら心配ない。お前ら」
「「「はっ!」」」
ローデイ王がそう声を掛けると、すぐに一般人の服を着た人たちがサッと前に出てくる。
……いや、違います。ちゃんと訓練受けている人たちで、どうやら護衛の方のようです。
なるほど。ちゃんと護衛を連れていたのですね
「な、こうしてちゃんと護衛と一緒に食べ歩いていたわけだ」
「「「……」」」
それはお仕事をしているといっていいのでしょうか?
「なるほど。以前護衛を手懐けたと聞いていましたが、どうやら本当のようですわね」
「手懐けたとは人聞きが悪いな。護衛の連中はこうして一般人に紛れ、俺とより親密でいることで守りやすくなるわけだ。そして、こんな苦労をさせているんだから、当然褒美も必要だろう? 部下をねぎらうのも上に立つ者に必要なことだ」
「ぬぐぐぐ……」
なんという屁理屈でしょうか、それでも一応筋が通っているように感じてしまうのはなぜでしょうか?
サマンサお姉さまもどうやらそう思っているようですから、それで何も言えないんでしょう……。
と、そんなことを考えて悶々としている隙に、ローデイ王様は、ミヤビ女王様たちにむけ、
「で、俺のことは置いとくとして、ハイエルフの女王と……、そっちのは噂の竜人族か?」
「うむ。お主は相変わらず遊びまわっているようじゃな。ローデイ王。そうじゃ、こちらが竜人の里の長であるガウルじゃ」
「初めまして、ローデイ王。お初にお目にかかります。竜人の里の長を務めています、ガウルと申します」
「俺がローディの王、ブレードだ。よろしく頼む。ふむ。しかし、見た目は全く普通の人だな」
「ええ。ドラゴンの姿では迷惑ですし、こうして、美味しいモノを食べられませんからね」
「あっ」
ガウルさんまでそう言ったかと思うと、何の躊躇いもなく私のトレーから試食品を取って食べてしまいます。
「うん。美味しい。これはお土産に欲しくなりますな。私も10箱ほどお願いしていいでしょうか?」
「そりゃ当然じゃろう。ヴィリアが作ったのじゃぞ。妾も10個じゃな」
「うはは! ノリがいいじゃないか。よし、見たところウィーモールの見学中だな。俺も案内してやるよ。と、ヒイロ、俺のも合わせて30箱だ。案内終わるころまでに準備たのむ」
「おっけー」
「はぁ、わかったわ。じゃぁ、ユキ、案内の方お願いね。私たちはお土産の準備しておくから。ね、ヴィリア」
「あ、はい! 任せてください、お兄様!」
「あー、そうか。じゃ頼む」
ということで、私たちは何とかその怒涛の一幕を切り抜けたのでした。
「で、ヒイロ。なんであんなにローデイ王と仲がいいの?」
「ええ。いつの間に?」
「ん? ラーメンの案内しててマブダチになった」
「「……」」
なんとラーメンの情報源はヒイロだったようです。
……これはサマンサお姉さまには秘密にしておきましょう。
世界共通語「ラーメン」
世の中、そんなもので繋がれる。
地球だってそうだ。アニメでつながるからそれでいいんだよね!
というかそんなものじゃないけどね。
ラーメンはうまい!!
さあ、みんなは何味が好きだい?
あ、ヒイロはこういうノリです。




