第904堀:衣装合わせの報告
衣装合わせの報告
Side:セラリア
「いやぁー、驚いた。リーアたちがなかなか戻ってこないのでどうしたんだろうと思って見に行ったら、泣いてたからな」
「それだけ嬉しかったってことでしょう。いいじゃない。リーアもようやく花嫁になれたんだから」
私は日中のドレス合わせの時の話に思わず微笑んでいた。
まさか、リーアが泣いたなんて話を聞くとは思ってなかったけど、写真のリーアは幸せそうな満面の笑みだった。
あれだけでもドレスを着せたかいがあったというもの。
「でもなんで、デリーユが泣いてるのよ?」
一緒に写っているデリーユの方がなぜかボロボロと涙を流している。
「仕方ないじゃろう。あの時は、愛娘が嫁ぐような気がしてな。いや、親友が遠くに行ってしまうようでな」
「ユーユはまだ行かないわよ。で、親友が遠くにって、ユキの妻のままなんだからどこにも行かないわよ。ま、リーアがこんな幸せそうな笑顔を見せてくれてるのは本当に嬉しいけどね」
そう、その写真のリーアは出会った頃とはまるで違う。
あの時の絶望の彼方にある心をなくした無表情が嘘のようだ。
ただただ、美しいドレスを身に纏って心底喜んでいる少女がそこにいた。
奴隷とか勇者とか、そんな立場などとは関係ない、女の子なら誰もが夢見るであろう姿の、花のような笑顔のリーアが。
そこに至る長き苦難の日々を知っているからこそ、デリーユは泣いてしまったんでしょうけど。
「もー! そんなに見ないでくださいよー! サマンサとかカグラとか、他のみんなも褒めてくださいよ!」
流石にみんなから同じようなことを言われて恥ずかしくなったのか、ちょっと赤くなってそんなことを言うリーア。
可愛らしいわね。そして、本当に立派になった。
勇者としても、一人の女性としても。
と、あまり弄りすぎるのはよくないわね。
「カグラは意外なことに洋装なのね。てっきり和装かと思っていたけど」
「あはは……白無垢はなんか、重そうなんで……」
「確かに、着物はきついのよねー」
そう、着物は美しい上に可愛らしいけど、着付けは相当大変だ。
決してドレスが楽というわけではないけれど、それでも着物とドレスのどちらが大変かといわれると、やはり着物だ。
「というか、白塗りにして髪を結いあげて綿帽子でも被った日には誰か分からないよねー」
「ミコスの言う通りですね。確かに白無垢は綺麗ではありますが、各大陸が集う中でのお披露目の意味もある今回の式では、誰が結婚式を挙げているのか分かりにくい格好は避けるべきですね」
ミコスとスタシアの言う通りだと思う。
白無垢は綺麗だけど、髪型が固定される上に、顔も白塗りになるから、知り合いではないと誰だか判断が付かない。
各国は代表という意味を含めてこの結婚式に力を入れているから、そんな誰だか見分けのつきにくい姿は嫌がるわね。
ここで、ガツンとドレスに力を入れて、国の看板たる花嫁を輝かせようとするのが当たり前。
「そうね。ま、後日内輪だけで、白無垢着てみるって言うのはどうかしら? それなら、いいと思うんだけど?」
「そうだね。エノラの言う案に僕も賛成だ。ユキの故郷の花嫁衣裳に袖を通すのも大事だろう」
「そうね。エージルの言うように機会があればみんなで着てみましょう。私も白無垢には興味があるし。既に結婚式を済ませたみんなも着てみたいわよね?」
私がそう言いながら、ラッツたちに視線を向けると、皆うんうんと頷いている。
当り前よね。
夫に晴れ姿を見せる。しかも夫の故郷の花嫁衣装。
着ないなどという選択肢はない。
「とはいえ、まずは目の前の式の準備よ。リーアのドレス姿がものすごく可愛らしかったのは分かったけど、ほかのみんなもドレスの試着は済ませて、リハーサルを何度かしたんでしょうけど、リハーサルの方で問題はなかったかしら?」
そう、今は大陸間交流会議と結婚式を成功させることが最優先。
一瞬、皆の白無垢姿を今回の結婚式にねじ込もうかなどと考えたけど、その場合ウィードの重鎮ほぼ全員が花嫁として参加することになり、かなり面倒なことになるから今回はパス。
今の予定でさえ一杯一杯なのよね。
特に結婚式のリハーサル。
今回は、イフ大陸、新大陸からも花嫁の家族が来るので、その指導も必要になる。
何せ、結婚式で問題や失敗を起こせば、その国の恥となるから。
「ミコスちゃんのとーちゃんたちはもうすっかりガチガチだったよ」
「まあ、ミコスのご両親は男爵家ですからね。居並ぶ周囲の面々を見てそうなるのは仕方ないかと。私は王族、カグラ殿は公爵家、エノラ殿はハイレ教の司教ですから」
「それは慣れてもらうしかないわね。でも、私のお父さまやお姉さまもなぜか緊張しているのよね」
「それはそうでしょう。カグラの家系も地位から言えば公爵でしょう? 今回の結婚式に集まるのは各国の国王を筆頭とするメンバー。しかもただの各国じゃないわ。ロガリ大陸、イフ大陸、そして新大陸よ? これで緊張しない方がおかしいわ。それに、カグラとミコスの実家だって今回の結婚で国からびっくりするぐらいバックアップを受けているでしょうに」
そう、エノラの言うように、今回の結婚式は各国がどれだけ自国の代表たる花嫁がいかに素晴らしいかを誇示する場でもある。
それぞれの国の威信を一身に背負うのは、結婚する花嫁とその実家だ。
そういった意味でも、ミコスのご両親がガチガチになるのは仕方がないことね。
「私たちの時は何のかんのと言って、ほぼ身内だけだったから良かったけど、今回はそうはいかないわ。気合を入れてしっかりリハーサルして、けっして失敗しないようにしないと、ウィードだけじゃなくカグラたちの祖国の恥にもなってしまうわ」
「結婚式そのものは、本来めでたい席なんだけどな。政治が絡んでくるとどうしてもこうなるんだよなー」
「なに、そんなことあなたがぼやいているのよ。政治的な思惑を込めて結婚式を提案したのはあなたでしょう? これで各大陸相互の認識が強くなるって意味もあるって」
「わかってるさ。とはいえ、そのとばっちりを受けて、ミコスのご両親がな。気の毒になるぐらい緊張しててな。俺がいくら気を楽にって言っても全然効果がなかった」
「普通の人はあなたと同じじゃないのよ。王同士でもないのに、各国の王相手に対等に話して、泰然自若としている方がおかしいのよ」
「「「うんうん」」」
私の言葉にみんなが頷く。
「そもそも、あなたと最初に会った時、私はロシュールの王女だったのに、あなたときたら、厄介者が来てしまったみたいな顔だったし」
「いや、それは事実だからな」
「事実なのは認めるけど、そこで即答しないで。普通なら機嫌を損ねて斬られないかとか心配するところなのよ。それが普通なの」
まったく、こういうところも面白いから、私やほかの妻たちにとってはいいんだけど、でも、ほかの人にはまねなんかできないわよね。
「ともかく、ミコスのご両親にもカグラのご家族にも、リハーサルを重ねて慣れてもらうしかないな」
「そうね。あ、そういえば、イフ大陸のメンバーの話は出なかったけど、どうなの?」
私はそう言って、ジェシカたちの方を見ると……。
「ああ、マーリィ様が私の家族として来てくれており、こちらは何も問題ありません。いえ、マーリィ様は自由すぎて問題ですね」
「僕の方はプリズムが来てくれているから全く問題ないね。いやぁ、将軍っていう立場も存外役に立つもんだね。それとも、ユキたちと前から交流があるからかな?」
「将軍っていうのもあるけど、マーリィもプリズムも元々そういうのには慣れているでしょう。魔剣使いとして国の顔なわけだし、それよりもつらい命のやり取りを長年続けていたんだから」
「確かに。マーリィ様はとにかく場数だけは踏んでいますからね」
「うん。プリズムもだね。ああ、でもなんかドレス姿の僕たちを見て震えていたんだけど、何かトラウマでもあるのかな?」
ジルバの風姫騎士であるマーリィ、そしてエナーリアは二刀魔剣使いプリズムが家族として参加するわけね。
2人とも、家族がいないって言うのは悲しくはあるけど、家族といえるような仲間がいるというのはいいことね。
まぁ、マーリィは一見あんな大人しそうな容姿だけど豪快だからねー。
私は嫌いな性格ではないんだけど。元部下だったジェシカや現在の副官であるヒヴィーアの胃が破壊されそうだから、私の方から釘を刺しておきましょう。
それよりプリズムの方が話をしておく必要がありそうね。ドレス姿を見て震えていたって、何か問題がありそうだわ。
「で、サマンサ、クリーナはどうかしら?」
「私の方は、なぜか陛下とお父様が、どちらが父親の立場で出席するかで只今延々と決闘中ですわ。はぁぁぁ……」
「こちらは、お師匠がお爺様の立場で、姉にイニス姫、そして王様たちが両親として来ることで決まっている」
「サマンサの所はまぁいつものこととして、クリーナの方はまとまっているって意外ね」
「ん。お師匠の歳がいっているのがよかった。サマンサの所みたいにもめることはない」
「……何か妙案を是非頂きたいのですが。私や宰相がいくらとりなしても、全く止まらないのです」
「そうねー……」
「なら、ブレードには新作のラーメンを教えるから、王として参加しろって言ってくれ」
「……妙案であるのは認めますが。それで陛下が大人しくなると想像できてしまうのがあまりに悲しいですわね」
サマンサの気持ちはよくわかるわ。
クソ親父もサクラたちを引き合いにだすとあっさり引くってのが、それはそれで腹が立つのよね……。
ともあれ、今のところ特に問題なく、結婚式の準備は進んでいるわね。
と、思っていると……。
「あ、あのー、私に家族は……、そのいないんだけど……」
すごく気まずそうにリーアが呟いた。
「何を言っているのよ。リーアの家族は私たちよ」
私がそう言うと、その場にいる全員が頷く。
「え?」
「リーアは私たちの家族。まあ、ご両親や本当のご家族は残念ながら参加できないけど。我慢してね」
恐らく本当の家族がいないことに引け目を感じているんだろうけど、そこは我慢してもらうしかない。
それ以上に私たちがリーアの家族として結婚式に出て補う。
「う、ううん。嬉しい、嬉しいよ! みんなぁ、ありがとう……ぐすっ」
「おーよしよし、泣くでない。妾たちが家族として出てやるからのう」
「うん。ありがとうデリーユ」
最近では慣れてしまって当たり前だと思うんだけれど、こうして魔王たる者と勇者たる者が仲睦まじいっていうのは本来ならおかしいのよね。
まあ、そんなのはいまさらだけど。
勇者とか魔王とか立場とか国とか、そんなのは関係なく私たちはこの場に集まって……いや、私たちは……。
「ん? どうした?」
そう、この夫の下だからこそ集まったのだ。
もっと、違う世界が見たくて。
当たり前で不幸な現実でもなく、ただ夢の世界に逃避するでもなく、飽くなき夢を見て血まみれになるでもなく、素敵な夢を叶えながら現実を歩くあなたの側を私たちは選んだ。
「そうね。衣装合わせとリハーサルの話はいいとして、大陸間交流会議の方はどうなのかしら? 竜人族が入ってくることで随分準備の予定が狂ったみたいだけど?」
「あー、そっちは何とか午前中に終わらせた。詳しい内容は資料を渡したから知ってるだろう? ま、その竜人族だが、明日にはウィードに着くみたいだな。ゲートを使って来るそうだ」
そして、夢を叶える旅路はまだまだ続いていく。
「へー、意外。そういうのは気にしないんですね」
「まぁ、陸路でゆっくり来られるよりはるかにましだから、ありがたいわね」
「そうね。なら警備の方はトーリに?」
「そうなるな。あとは……」
こうして着々と準備が進んでいく。
この結婚式が終わった時、世界にはどんな光景が広がっているのかしら?
私は、私たちはきっとそれが楽しみで仕方がないのよ。
さあ、そのために目の前の仕事一つ一つ片付けていきましょうか。
「よーし、明日からも頑張るぞー!」
「「「おー!!」」」
衣装合わせに親族の様子。
みんな大変だね。
特にローデイとかな。
サマンサは大変だね。




