第903堀:少女とドレス
少女とドレス
Side:リーア
「おー、みんな綺麗だな」
そう言うユキさんの目の前には、綺麗なウェディングドレスで着飾ったみんなが揃っています。
この結婚式のために、私たちも手伝って選んだドレスです。
みんな本当に、本当によく似合っています。
「みんなよく似合ってますよ」
「そうですか? ありがとうございます、リーアさん」
私がそういうとサマンサさんは目の前で嬉しそうにくるっと回って見せます。
「「おー」」
さすがサマンサさんは公爵の娘さんですから、その動き一つとっても洗練されて綺麗で、ドレスの美しさとも相俟ってその優雅に回る姿は思わず目を奪われるほどです。
「……ユキ、リーア、私も見て」
「そうだね。僕も見てほしいね」
「あ、私も……」
「ミコスちゃんも同じく! あと、写真撮って! リーアよろしく!」
ミコスがそう言いながらカメラを渡してきたので、一通りみんなの撮影をする。
各々ユキさんとのツーショットはもちろん、私とや、みんなでの写真も何枚も撮りました。
これで、ミコスが作る記事の役にも立つし、この場に来れなかったセラリアたちに見せる写真も出来て良かった。
……みんな、今は竜人族が大陸間交流会議に参加する件で、大忙しだからね。
まぁ、私たちもその準備で忙しかったんだけど。
「さて、あとは、ドレッサたちが着替えてくるのを……。おっと、そうだリーアも着替えないとな」
「え?」
ユキさんが何を言っているのか分からなかった。
だって、私が着替える理由なんてない。
だって、これは私の結婚式じゃないから。
そう、これはイフ大陸と新大陸のメンバーのみんなの結婚式で、……私の結婚式じゃない。
「いや、リーアだってこの結婚式のメンバーだからな。ほら、リーアはセラリアたちの結婚式の直後に来ただろう? で色々あって、結婚式をまだ挙げてないだろう?」
「……え、あ、その……」
あまりに突然なことで、その言葉が未だに理解できない。
違う、意外過ぎて声にならない
「ぐすっ」
そして、自然と涙があふれてきた。
「はい!? なんだ!? どうしたリーア、おぃ何かあったのか!?」
私の突然の涙を見たユキさんは慌てふためいている。
それでも、涙は止まることを知らない。
だって、あまりにうれしすぎるから。
「あ、り、うう……」
「リーア!? 医者! おぃ、医者を!!」
「ユキ様落ち着いてくださいませ」
「……ん。ユキ落ち着く」
「落ち着くって、リーアが突然涙を流してんだぞ!? 何か急病じゃ……」
違います、違うんです。
「あうあ……」
でもやっぱり言葉にならない。
「ほらやっぱり、なんかすごく苦しそうだぞ!」
「あー、まずは落ち着きなよ。ユキ。どう見てもうれし泣きだよ。こういうところは全く朴念仁ねぇ。ねぇ、ジェシカ」
「ですね。ちゃんと配慮は出来るのに、なぜかその中身が完全にズレますね」
「え? え? どういうことだ?」
「だい、じょう、ぶです」
何とかそれだけは言えた。
でも、こんなたどたどしいものいいじゃ全然説得力ないよね。
ユキさんは相変わらず慌てたままだし。
「いやいや。ほら、全然大丈夫じゃないぞ! 本人には自覚がないタイプか?」
「……いや、ユキこそ落ち着きなさい。ただのではないけど、そう、嬉し泣きよ」
「当然よね。こんな素晴らしいところで結婚式を挙げてくれるんだから」
「それに、リーアは今回も結婚式を挙げられるなんて夢にも思ってなかったみたいだし。だから、喜びがあふれかえっちゃったんじゃないかな?」
カグラ、エノラ、ミコスの言う通りなので、顔を上下に振ってそう、その通りだと意思表示をした。
すると、ようやくユキさんは落ち着いてくれて。
「そうか、よかった……。いや、こんな大事なことを急に言ってわるかった」
「いえ、私も、思わず過剰な反応になってしまい…」
そう言って、お互いに謝っていると、ジェシカが話に入ってきて……。
「さ、リーアも落ち着いたことですし、ユキ。着替えてきますね」
「ああ、頼む。しっかり綺麗にしてやってくれ」
「はい。お任せください。さ、リーア行きますよ」
「うん。じゃ、ユキさん。みんな、行ってきます」
私はそう言って、ジェシカの後を追って、大聖堂の奥へと入っていく。
そこも、礼拝堂ほどではないけど、やはり綺麗で、荘厳な造りになっている。
すごい職人が気合いれて作ったんだなーって、素人の私でもわかる。
「私、ここに入るのは初めてだよ。すごいねー」
なので、素直にそんな感想を漏らしたら……。
「おや、意外ですね。リーアはリリーシュ様たちとも仲がいいですから、てっきりここにも来ているモノかと」
「リリーシュ様やルルアとは仲良しだけど、いつも行くのは小さい教会の方なんだ」
「ああ、確かに」
そう、普段私がよく行くのは、小さい教会の方で、わざわざ大聖堂を利用することはない。
だから今まで大聖堂に行く用事がなかったんだよね。
と、そんなことを話しながら、さらに進んでいくと……。
「あちらの部屋ですね」
そう言いながら、ジェシカがその部屋の扉を開けると……。
「うー、なんか動きにくいよぉ」
「ヒイロ、ほらじっとしなさい。ドレスってそういうモノよ」
「今日はおとなしくしていなさい。ドレスが汚れたり、破れたりしたら大変ですよ」
「うー……。あ、でも汚れはともかく、ジア姉が作ったものが破れるわけがない!」
「お馬鹿。いくら破れないからといって、汚して良い訳じゃないのよ」
「そうです。というか、汚れたドレスでお兄様の横に立つとか私が絶っっ対に許しません。そんなヒイロは観客の中にいなさい」
「そんなのはヒイロいや!」
「「ならおとなしくしなさい!」」
そんな感じで、にぎやかに着替えている、ドレッサたちがいた。
「う~~……。あ、リーアお姉、ジェシお姉」
「あら、遅かったわね」
「何かあったのですか?」
「いえ、ユキが相変わらず抜けていただけです」
「えーと、ジェシカ。あれは私が悪かったんだよ?」
さっきのことはユキさんが悪いはずがないじゃない。
まぁ抜けていたっていわれると、そうかもしれないけど、ユキさんの性格を考えれば、普通にあれぐらいのことはするよね。
「お兄が抜けている?」
「リーアが悪かった?」
「……ああ、お兄様が、リーアお姉さまには結婚式だと伝えていなかったという事でしょうか?」
「「あたり」」
「「あぁー」」
さすが、ヴィリアが一発で言い当てて、ドレッサとヒイロは如何にもすごく納得したという声を出す。
「私たちの時もそうだったのよねぇ。私たちは大丈夫だからって、カグラたちを先にしたもの」
「「あー」」
今度は私とジェシカであの時のことを思いだし、思わず納得の声を上げる。
確かに、あれはあまりにひどいと思った。
まあ、元々は、カグラたち新大陸のメンバーは本当に結婚していいのか? という確認に行ったんだけどね。
とはいえ、ドレッサたちのショックがそれは大きかったというのはよくわかる。
結局、自分たちはほったらかしにして、カグラたちへの結婚の申し込みを先にしたってことだから。
「じゃ、リーアお姉もこれからドレス着るの?」
「うん。着るよ」
「じゃあリーアお姉さま、こちらです。すでにドレスは用意してあるんですよ」
「え? そうなの?」
「そうよ。ユキが言うには、いつか着せてやるんだって言って随分前から準備してたみたいね」
「……ああそういえば、聞き覚えがある」
その時はまだウィードに来たばかりの頃で、いろいろあまりに忙しくてそれどころじゃなかったんだけど、あの時からちゃんと用意してくれていたんですね。
「その様子だと、かなり前の話のようですね」
「うん。まだジェシカと会う前、ウィードが建国したてのころだね。魔王デキラとかを倒した直後で色々忙しかった時に、いつかドレスを、結婚式をって言ってくれてた」
「はぁ~。まあ、それで更なる問題を手繰り寄せてきて、リーアの結婚式はズルズルと引き延ばしてきたんですか。私が言えたことではありませんが……」
「あはは、そんな事あったね。もう随分前の事な気がするよ。まだ数年前の事なのにね。でも、なんかホントに随分遠くまで来た気がする。同じウィードにいるのに」
本当に、本当になんかすごく遠くまで来てしまった気がする。
村が無くなって、みんなが殺されて、自分だけが生き残ってしまって、絶望して、何も感じれなくなって、そして奴隷として連れてこられて、ユキさんに出会った。
そして、奥さんになって、ついでに勇者になった。
「魔王を倒したけど、お兄様の目的は終わりませんでした」
「うん。お兄はドレお姉たちと出会うために、イフ大陸に来た」
「ふふん。そうよ。ユキは私に出会うためにイフ大陸に来たのよね」
「……ドレッサの事はいいとして、真面目な話をしますと、ルナに頼まれてですね」
「だね。びっくりしたよ。ルナさんが来たと思ったら別の大陸に行ってくれって話だったし」
ヴィリアの言う通り、魔王を倒しただけじゃ、私たちとユキさんの旅は終わらなかった。
ルナさんの要請にこたえて、見知らぬ別大陸へと飛び出して、ジェシカたちと出会って、そこでも色々な問題を解決してきた。
「リーアお姉さまに言われて思い出してみると、今更ですが、本当に色々ありましたね。お兄様と私たちは本当に頑張ってきたんだと思います」
「ヒイロたちは頑張った」
「ええ。ほんとにね。国が滅び、奴隷となってた私がいまじゃ、空母の艦長兼シーサイフォ防衛艦隊の総司令官よ?」
「私も気が付けば、マーリィ様の副官ではなく、ユキの護衛になっていましたからね」
「本当に色々あったね。って、ドレス着ないと」
長々と思い出に時間を費やしてる暇はない。
ユキさんたちが私たちとの結婚式の準備で待っているんだ。
「そうでした。私のドレスは……」
「これだぞ」
「どうも。マーリィ様」
「リーアのはこれじゃな」
「ありがとう。デリーユ」
「「って、なんでここに!?」」
なぜか、私たちのウェディングドレスを持って現れた、ジェシカの元上司のマーリィさんと、デリーユ。
「何でここにって言われてもな。ジェシカにドレスを着せるのは、そりゃ当然私の役目だろう! なにせ私の大切な部下だったんだからな!」
「いえ、その理屈はおかしいですからね? まあ、ありがとうございます。で、デリーユは?」
「うむ。妾はもちろん、リーアの手伝いじゃな。無論、ドレッサたちの手伝いでもあるが」
「私の?」
「そうじゃ、今回ロガリ大陸出身の花嫁は少ない。それにヴィリアとヒイロは元々孤児じゃし、体もまだ小さい。そうなると、やはりリーアじゃ」
「ああ、なるほど。ロガリの方からもそれなりの花嫁がいるってことか」
最近、政治ってものもわかってきた。
今回の結婚式は確かに、イフ大陸と新大陸のことをお披露目することが大事だから、メインは確かに二つの大陸なんだろうけど、それじゃ、ロガリ大陸はただ会議と結婚式を開催しただけとなってしまう。
まあ、それだけでも決して悪い話じゃないんだけど、一大イベントとなる結婚式にロガリの女性がいないっていうのは、やっぱりつまらないと思ってしまう者も出る。
だから……。
「私がちょうどいいってことか」
理由が分かってちょっと寂しい気がする。
でもしかたないよね。今の私たちの行動には色々意味が付いてくる。
と、そんなことを考えてしまい、少し凹んでいると……。
「うむ。政治的にはそうともいえるが…。勘違いするな、リーア。お前の花嫁姿は妾たちはもちろんじゃが、なによりユキが望んだことじゃ。我が家自慢のリーアがおるとな!」
デリーユが笑顔でそう言ってくれた。
「そうです。リーアお姉さまの花嫁姿をぜひ見てみたいです」
「ヒイロも!」
「ええ。なんてったって、勇者様の花嫁姿とかそうそう見れないわよね」
「ですね。私もリーアの花嫁姿が見てみたいです」
「みんな……。ぐすっ」
あ、また泣けてきた。
「ほら、泣くんじゃない! 私とデリーユで最高の花嫁に仕立て上げてやろう!」
「そうじゃ、魔剣の姫と魔王のコンビが、いや、ウィードの全力を挙げてリーアを最高の花嫁にしてやろうぞ!」
「うん!」
あぁ、いい旦那さんだけじゃなかった。
私が手に入れてたものは、もっともっと大きくて、そして暖かだった。
そう、私には家族がいた。
リーアもこうしてウエディングドレスを着ることになりました。
ちゃんとお嫁さんはお披露目しないとね!
こうして、ロガリ大陸からの花嫁も登場。
花嫁は出そろって、後はリハーサルを重ねて、本番に備える。
とはいえ、それが一番大変だよね。




