第851堀:どっちだろう?
どっちだろう?
Side:ユキ
俺たちはハイデンでの王たちとの会合を終え、ウィードに戻って会議をしている。
あれだけ、色々忘れていたことが浮上したんだ。
一旦、きちんと方針を考え直す必要があるんだが、外れの可能性も十分あるのがな……。
そう考えつつ、みんなに声をかける。
「ということで、今後のシーサイフォの魔物出現海域でマジック・ギア。それか、それに近いモノの反応を探そうと思うんだが、みんなの意見はどうだ?」
とりあえず、俺一人で決められることじゃないから、みんなに相談してみる。
あ、ちなみに、ハイデン、フィンダール、ハイレ教のトップはマジック・ギアがらみのことと聞いて、気合を入れなおして残党の締め上げと、再調査に力を入れると言い残してさっさと仕事に戻っていった。
まあ、下手をすると大陸間交流に波乱が及ぶからな。
とはいえ、俺としては、既に各国には注意を促しているんだから、それで被害を受けたら自業自得だと思うんだけどな。
それに、アクエノキや叡智の集が暴れてくれればそれだけ結束が強まるということも考えているんだよなー。
既に、ハイデン、フィンダール、ハイレ教、そして現在シーサイフォは暫定とはいえ、この新大陸同盟に参加している状態だ。
この状況で、責任をというやつはなかなか肝が据わっているか、バカという感じだな。
うん。どのみち俺にとっては面倒なことには変わりないか。
あー、もう、サボって寝てー。
と、そんな風に現実逃避している間にカグラたちが口を開く。
「私はユキの言う通りマジック・ギアが関係していると思うわ」
「えー? そうかな? 断定するのはどうかとミコスちゃんは思うけど……。ソロはどう思う?」
「うーん、そうですねー。ミコス先輩の言うように、断定するのはどうかとは思いますけど、絶対ないとも言い切れませんし、少しでも可能性があるというのは、陛下たちにとっては……。そのスタシア殿下はどう思いますか?」
「難しいところですが、我が国や、ハイデン、ハイレ教の立場を考えると、ソロの言う通り見過ごせるものではありませんね。今や大陸間交流同盟が結ばれており、そう易々と厳しい立場に追いやられることはないとは思いますが、不用意に周りの反感を買うようなことは避けるべきだとは思います。エノラ司教様はどう思いますか?」
「私はスタシア殿下の意見に賛成ね。周りの反感を買う必要なんてないもの。でも、予算の方が……。この調査のためにどれだけかかるのか、見当もつかないし、その元手もウィードが主体なのよね……」
エノラがそう言って、こちらを向く。
まあ、確かに、調査をすべきと判断するのはいいが、それが他人の財布に依存するなら躊躇いもするか。
「予算や物資の方はどうなんだエリス、ラッツ」
ということで、ウィードの財政を管理しているこの二人に確認することにする。
「特に問題はない……と言いたいのですが、どこまでの海域をダンジョンとして支配下に置くのか次第ですね。範囲が広ければそれだけ維持費がかかります」
「同じく、どれだけの範囲をカバーするかですね。確かに大量に予算は確保しています。それでも有限です。そこは理解してもらいたいですねー」
「そもそも、お話の海域をダンジョンにした時の負荷がどれぐらいかかるかわかりませんので、何とも言えません」
「ですねー。お兄さんが新大陸に来た当初はコストが物凄かったでしょう?」
あー、そうだった。
おかげで貯蓄していたDPがすっからかんになったんだよ。
いや、痛かったね。
「DPの消費量によっては確保できる範囲も限られてきますから、まずは、どれだけダンジョンとして確保できそうなのかというのを調べてみるのが先ですね」
「とはいえ、存在するおそれのある目的のマジック・ギアをこの広大な海の中から発見するっていう目標もありますから、対象とする海域はある程度絞っていく必要もありますねー」
「確かにな。何とか海域に目星を付けるか、それか一旦あるていどのダンジョンを作って様子を見てみるかだな」
とはいえ、そもそも目星をつける方法がさっぱりわからん。
そうなると、一旦ダンジョンを使って海域の把握をするのが先か?
そんなことを考えていると、今まで聞きに徹していたセラリアが口を開く。
「ねえ。シーサイフォの海にマジック・ギアがあるってことは、あの狂信者の連中が船を使ってあの海域にいたってことよね? まさか、山から転がり落ちたのが巡り巡ってあの海域にまで辿り着いた、とかいう話じゃないでしょう?」
「まあ、その二択からいうと。誰かが持っていて、それを落としたんだろうな」
至極当然の話だ。
あんな沖の方にマジック・ギアが存在するなら誰かが持ってきたってことで……。
そこまで考えて、ある答えに行きついた。
「そうか。シーサイフォからの船の航路をたどればマジック・ギアが見つかるかもしれないってことか」
「まあ、マジック・ギアが存在しているならね。だから、シーサイフォ側で海に魔物が現れる直前の船の出入りを調べればある程度把握できるんじゃないかしら?」
「確かにな。潮の流れで航路から外れている可能性もあるだろうが、それでも魔物がこの海域に出没しているから、そこまでハズレではないか」
全く予想もつかない場所にポツンとマジック・ギアが存在しているという可能性は低いってことだな。
あの魔物たちが別の海域から派遣されているなら、あんな魔力不足な状態はありえないしな。
「問題点としては、マジック・ギアが原因だった場合、それを知ったシーサイフォが難癖をつけてくる可能性があることね」
「そこが問題だな。俺としては別に構わないが……」
「「「……」」」
俺の発言に新大陸のメンバーは沈黙してしまっている。
ま、下手したらまた戦争だからな。
警告をしたとはいえ、シーサイフォの貿易の航路を妨害した原因が、私たちの国から出て行った連中ですとはなかなか言いにくいだろう。
「まあ、シーサイフォとこじれるのはあれだしな。ただの魔物の発生源の調査で誤魔化せるだろう」
「そ、そうよね。それで行きましょう」
「うん。ミコスちゃんもそれがいいと思うな」
「……でも、海洋調査はシーサイフォと合同ですよ? バレたりしませんか? 狂信者のことも、マジック・ギアのことも各国に伝えていますよね?」
「ソロの心配はもっともですが、レイク将軍たちはマジック・ギアをその目で見たことがあるわけではないし、シーラちゃんたちでこっそり回収してしまえば、それで済むことだと思いますが」
「そうね。それならばれないでしょう。まあ、心苦しいのはわかるけど、無用な争いを避けるために必要よ」
どうやら、新大陸の大まかな方針は決まったようだ。
俺としてもそれでいいと思う。
バレなければいいのだよな。こういうのは。
正直に言って問題を抱えるよりよっぽどましだ。
「じゃ、カグラたちはトップの方にそういう方針で動くってことを伝えて許可をもらってきてくれ。俺たちが勝手に動いては問題な内容だからな。俺の方は、霧華に出現時期と、航路の割り出しをさせて、ドレッサの艦隊にもこの方針を伝える」
「「「はい」」」
ということで、さっそくカグラたちは上司への連絡に出ていくのだが……。
「時間をかけて話していたけど、これで原因がマジック・ギアじゃなければ、時間と労力の無駄ね」
そう皮肉を言ってくるセラリア。
「それはそれで、別の原因があるんだとわかるんだ。成果だよ成果」
「……ああ言えばこう言うのはいつまでたっても変わらないわね」
「ポジティブと言ってくれ」
「どちらかと言うと、あなたはネガティブの発想のもとに動くと思うんだけど?」
うんうん。
揃ってそう頷く嫁さんたち。
失礼な。失敗を悔やんでも仕方ないだろう。
人は前へ進むんだよ。
「でも、不思議ですね。既にシーサイフォの城下町は私たちのダンジョンの範囲ですが、そこにはマジック・ギアの反応がありません。ここまで流通してきているのなら、他に陸上にもあってもおかしくないと思うのですが」
「確かに変ですねー。まあ、まとめてとか、数少ない中から一個だけ持って行ったとも考えられますけど、なんで海に?って疑問がありますよね」
「そこらへんはいくらでも憶測なら立てられるな。国外逃亡を図ったとか。とはいえ、今までその手の話が一切ないのは不思議なんだよなーって、そういえば、元々の情報は怪物が出る峠があるって報告だったな」
そう、確か元々の怪物騒ぎは大山脈の峠に魔物がでるって話だ。
それからシーサイフォに来て、海に魔物が出るという話になったんだよな。
「……その話が別件だと面倒ね。シーサイフォのいきなりの依頼に驚いて忘れてしまっていたけど、そっちも調査が必要ね」
「確かにな。でも、あれから続報は聞かないな。潜伏したか?」
「どうかしら。とにかく、まずは目の前の問題であるシーサイフォの海域にいる魔物をどうにかするのが先ね」
その言葉に全員が頷く。
いまは、救援要請をしてきたシーサイフォが最優先事項だ。
峠の怪物に関してはただの噂だしな。こちらから積極的に首を突っ込む理由もない。
そのあとは、ウィードの近況などを軽く聞いて会議は終わり、空母リリーシュの方に戻っていた。
「……ということで、霧華。頼む」
「はっ」
霧華にはさっそく、マジックギアが運ばれたと思しき航路の割り出しと出現時期の特定を頼む。
「ドレッサの方は、エージルやコメット、調査班の意見を参考に海域の調査を」
「わかったわ。でも、マジック・ギアがここで出てくるのね。魔物はどこかからやってきたんじゃなくて、この場で呼び出されたってことね」
「その可能性もあるってことだ。あまり固執しすぎるなよ。別の原因かもしれないからな」
「分かっているわよ。とは言っても、あれから襲撃も何も無いんだけどね」
あの襲撃からというと、大体2日か。
……こりゃ本当に、マジック・ギアの可能性が出てきたな。
「でも、その理由もマジック・ギアが原因ならわかるんだけどね」
「マジック・ギアで呼び出せる数には制限があるからな。だから、他の魔物と遭遇がないってことか。しかし、レイク将軍の話だと、他の種類の海の魔物もいたような話だったが?」
「さあ、そこは私に聞かれてもね。実際、シーラちゃんもどきしか来ていないんだし」
「あれから、魔物と遭遇した海域から動いていないよな?」
「ええ。襲われてから、イカリを落として動いていないわ。予定通り、シーラちゃんたちによる海域調査を始めてはいるけど、こっちも特にね……」
何も見つからないか。
そう簡単にわかるなら誰も苦労はしないか。
「今まではただ闇雲に怪しい所をって感じだったからな。霧華の情報を元にマジック・ギアを重点的に探せばもう少しは効率は良くなると思う」
「そうだといいわね」
そう言いながらドレッサは艦橋から外を見つめ、俺もそれに倣う。
ただただ何もなく、水平線まで広がっている海しか目に入らない。
綺麗だと思えるのは精々数日、あとは……。
「なるべく早く終わらせないと、士気にかかわってくるわ。私たちウィードのメンバーはここで何をしているのか分かっているけど、シーサイフォの随伴艦の人たちは私たちが魔物を撃退したと聞いてはいるものの、ただ何も知らされずに停泊しているだけだから」
「そっちの問題もあるな。司令官はつらいな」
「バカ。ユキが私をこの立場につけたんでしょうが」
そんな風に笑いながら話すが、士気は結構問題だな。
ゲートを使って人員の入れ替えも考える必要があるか?
はあ、前途多難だな。
今まで情報から、シーサイフォの魔物騒ぎの原因は、マジック・ギア? それとも自然災害?
皆さんはどうおもいましたか?
ああ、人災ならぬ神災ってのもあるかもね。
あの悪気のない奴が。




