第850堀:魔物を招く石
魔物を招く石
Side:カグラ
「……ということで、海域の調査にはしばらく時間がかかるだろうから、その間にアクエノキの動きを追おうと思っている。協力してもらえるか?」
「ええ、任せて!」
私は、ユキのそのお願いを何も考えることなくすぐに受け入れる。
「ちょっ、カグラ。シーサイフォに頼まれている魔術指導はどうするの!? 流石に姫様の指令を破るのはまずいって」
「そうですよ、先輩。こういうのはだめだと思います」
そう言って私を止めようとしたのは、ソロだけでなく、なんと意外にもミコスもだった。
とはいえ、この程度の制止は予測していたわ。
「別にそっちの方は私たちが全員揃って教えるなければならない段階は終えているでしょう?」
「まあ、ミコスちゃんたちの一人で十分かなーって思うことはあるけど。って、それを利用するってこと?」
「ええ。一人が教えている間に、他の人はユキの手伝いをする。姫様だってユキの安全を最優先にって言っていたし、大丈夫よ」
「なるほど。それは名案だよカグラ!」
ミコスは理解が早くて助かるわ。
そう、シーサイフォの軍人は国の威信がかかっているためか皆真面目で、反発もない。
だから、私たちの一人だけで十分に教えられる。
当初の心配はどこに行ったのかというか。
「えーと、本当にそれでいいんでしょうか?」
「いいのよ。ソロ。それに、シーサイフォで指導した見どころある人を学院に送る手続きのために、向こうに戻るって手もあるんだし」
「おー、ナイスアイディアだね」
「えー……」
ソロは真面目なのか、どうもこういうのはダメみたい。
あれ? 私も優等生なはずなんだけど?
まあ、あれね。旦那に似てくるってやつ。ふふふ……。
世の中優等生なだけじゃ生きていけないのよ。
と、思っていると……。
「なにだらしのない顔をしているのよ。カグラ」
「はぁ? いきなり何よ、エノラ。というかなんでエノラまでいるのよ」
なんかいきなりエノラが喧嘩を売ってきた。
「別に事実を言っただけよ。まったく、ユキ殿が謁見するのはハイデン王だけじゃないのよ。エノル大司教もよ。だから私も、スタシア殿下も一緒にいるの」
「私たちは元々、シーサイフォへの外交官ではなく、ウィードへの外交官ですからね。そして、今回ユキ様から聞いた、シーサイフォの問題にアクエノキの関与がないとは言い切れませんし、問題はシーサイフォだけに留まらないかもしれません。その確認のためにも、今回はカグラ殿には悪いと思いましたが、同行させていただきます」
「あ、いえ。スタシア殿下が一緒なら心強いです」
私たちの新大陸で唯一の女性将軍。
男尊女卑が根強いこの新大陸における、私たち女性の希望の星だ。
その彼女がそう言うのならそうなのだろう。
「で、話がまとまったのなら早速移動するぞ。いいか?」
「あ、うん。いいわ」
ということで、私たちは久々に空母を離れて、祖国に戻ることになった。
オマケがなんか多いけど、まあ、仕方ないわね。
「なるほど、そういうわけで戻ってきたのですか」
「はい。シーサイフォの海域に出現している魔物の件、アクエノキが関わっている可能性がありますので、あれ以降のアクエノキに関しての情報が欲しいとのことです。あと、こちらがシーサイフォの軍人への魔術指導の経過報告書になります」
差し出された書類を受け取るのは、私の上司であるキャリー姫様。
相変わらず忙しいようで、目の下にクマがあるように見えるけど、それをうっかり指摘してはまずいので黙っておくしかない。
「預かります。追って魔術指導の件に関しては連絡いたします。で、ユキ様。シーサイフォの問題とアクエノキが繋がっているかもしれないという件はシーサイフォ側には?」
「もちろん言っていない。下手すればこのことで話がこじれる可能性があるからな」
ユキの言う通りよね。
シーサイフォの海洋の問題にアクエノキが関わっているとか、ハイデンとハイレ教にとっては致命的だわ。
何かしら賠償や謝罪を要求されることになれば、財政的にも立場的にも苦しいことになるもの。
もちろん、突っぱねることは可能だけど、もともとハイレ教の失態として狂信者の件は各国に伝えているし、被害に対して何もしないとなると、ハイレ教の権威は地に落ちるわ。
「それを聞いて安心いたしましたわ。まあ、ユキ様が迂闊にそのようなことを言うとは思いませんが」
「そりゃな。下手をするとハイデンの立場どころか大陸間交流に支障が出ることだからな。そういうことは言わない」
確かに、この問題は単にハイデンやハイレ教だけではなく、大陸間交流にも影響が及ぶわよね。
「ということで、アクエノキや叡智の集に関する情報がどれだけ集まっているか、聞きたいんだが……」
「お待ちください。そちらの方は叔父様、陛下の管轄になります。既に面会の依頼は入れていますの……」
「いや、来たぞ」
そう言いながら、なぜか陛下が突然姫様の執務室に入ってきた。
「……陛下。なぜここに?」
「なぜって言われてもな。ユキ殿が私に用事なんだろ? だからこっちに来た」
「一応、国主としての体面が……」
「キャリー。国主としての体面ってウィードとは同格だろう? しかも相手は救国の英雄でもあるユキ殿だぞ? というか、国力差からいえば、ハイデンが頭を下げるべきだが?」
いや、陛下の言う通りなんだけど、そういうわけにもいかないのが国というものでして……。
というか、意外と陛下って軽いのよね。
私は家臣の一人として、御三家の一人としてなにを言うべきなのだろうかと迷っていると……。
「こら、ハイデン王。いちいちキャリー姫をからかっても仕方ないだろう。というか、後ろの連中も出てこい」
「おー、バレているか。残念だったな」
そう言って、陛下がドア前から退くと、その後ろから……。
「まあ、ユキ殿にわからないはずもないか」
「父上!? いえ、陛下!! なぜここに!?」
「なぜと問われてもな。普通に会議しに来ているだけだが。いまや、ゲートを通じてフィンダール王都とハイデン王都、そして、ハイレ教総本山はすぐに行き来できるご近所だからな」
フィンダール王もそう言って横によけると、更に……。
「どうも、お邪魔しています」
「エノル大司教様までいるのですか!?」
「ええ。当然ですよ。今日は、会議兼食事会の日ですよ」
「あ、そう言えばそうですね」
……あー、エノル大司教に言われてやっと思い出したけど、確かに今日は、新大陸交流会議の日だったわね。
ウィードから提供されたゲートを使って定期的に会議を開いているんだった。
「って、姫様。知らなかったわけじゃないでしょう?」
「それは当然です。ですが、お二人を連れて、私の執務室にまで来るとは思っていませんでしたわ」
「まあ、それは確かに」
気が付けば、話題の3人は思い思い適当にソファーに座っていて……。
「紅茶です」
「はい。フィンダール王はお茶でしたね。で、エノル大司教はコーヒーですね」
スーパーメイドのキルエさんとサーサリさんが既にお茶の用意をしていた。
あ、もちろん私たちの分は既に用意してもらっている。
「うむ。いつもながらキルエ殿のお茶は美味いな。さて、さっそくお茶を楽しみたいところだが、まずはアクエノキと叡智の集に関してだったな?」
「ああ、シーサイフォの問題でな。あの海域に魔物が出てくる原因がアクエノキとか叡智の集に関係があるかもって可能性が出てきてな」
「「「……」」」
ユキは相変わらず、爆弾発言を普通に言うわよね。
3人とも全員美味しいお茶を持ったまま固まってしまっている。
まあ、それも当然。
アクエノキの問題がまだ続いていて、しかも他国に被害が及んでいるかもしれないというのは、ハイデン、フィンダール、ハイレ教にとっては大問題でしかないのよね。
「……その話どこまで確証がある?」
「いや、まだ確証はない。そもそもそれを調べるために来たんだからな」
「では、どこから、アクエノキや叡智の集が係わっていると思っているんだ?」
「そうですね。なぜそう思ったのかお聞かせいただけるでしょうか?」
「まあ、それもそうだな。一応後で報告書は渡す予定だから、簡単に説明するぞ……」
と言うことで、ユキが3人にも今回のシーサイフォでのことを話す。
「……随分とこじつけのような気もするが、ありえない話ではないな」
「確かにな。可能性は潰しておくということか」
「ですね。しかし、そうなると、放逐したことは悪手だったように思えます。今更ですが、さっさと始末するべきでしょうか?」
エノル大司教はゾッとすることをサラッという。
……いや、理屈はわかるわ。
アクエノキが今後の大陸間交流の邪魔となるなら、さっさと始末したほうがいいというのは当然よね。
そう納得していると……。
「いや、それはない。アレは、撒き餌だからな。おかげで叡智の集の情報を絞り出すのに使える。今回はアクエノキが直接関わっている可能性は低いしな。ハイレ教会の裏で動いていた狂信者と、ハイデンの内部にいた叡智の集の動きと見るのが妥当だろう」
ユキがバッサリと否定してくる。
確かに、ユキの言うことももっともよね。
アクエノキがいるから情報が取れるというのもある。
「そう言われるとそうだな。アクエノキの方は、目立った動きを見せていないからな。となると、叡智の集だが、これといった情報は集まっていないな。あ、そういえば、フィンダールの方で狂信者関連を潰したんじゃなかったか?」
「ああ、確かにあったな。狂信者の集団を捕縛したと聞いている。ただ、その関連の資料は目にしていないが、そこは詳しく調べてみるか。大司教の方はどうかな?」
「そうですね……。魔物に関する研究関連はマジック・ギアの事ばかりでして、いえ、まだ全部を調べ終わったわけではないので……」
とエノル大司教の言葉にその存在を思い出した。
マジック・ギア。
この新大陸に置いて、魔物を呼び出すことが出来る珍しい魔道具。
その名前で、私はなぜかシーサイフォの問題が繋がった気がした。
「ねえ、ユキ……」
「まて、まだそれが確定したわけじゃない」
ユキも、いやみんなも同じ結論に至ったのか、険しい表情をしている。
「ハイデン王。そっちで押さえたマジック・ギアの数は? 総数は把握しているか?」
「いや、総数は把握できていない。とはいえ、数としてもそこまで多くないはずだ。ユキ殿たちの調べでも回収ミスはなかったはずだが」
「ええ。そのはずですが……」
確かに、マジック・ギアの回収に関してはユキが陣頭指揮を執って漏れなく回収したはず……。
「いや、まあ、それぞれの首都ではちゃんと回収したが、ほかの地域は完璧じゃないぞ。というか、俺が来る前に出荷していたモノもあるぞ」
「「「……」」」
……ユキの言葉に全員沈黙する。
いや、確かにユキの言う通りなんだけど、それを認めるとなると……。
「……ユキ先生。それって、シーサイフォだけじゃないって話ですよね?」
「「「!?」」」
思わず言っちゃいけないことを、言ってしまった。
「ま、それは当初から予想はしていたからな。注意喚起はしていたし、それでも被害にあった国はただの間抜けだろう」
「いや、そういうわけにもいかないだろう? 大元はこちらの責任ではあるのだ」
そう、下手をすれば、大陸間交流が揺らぐ可能性が……。
「まあ、それはそうだけどな。被害のないことに対して対処を促すことはできないからな。ったく、これで足を引っ張られる可能性はさらに高まったな。とりあえず、シーサイフォの海域調査の方針はできたな。それだけでも成果が出たことを喜ぶか」
本当にユキは動じないわね。
でも、確かにユキの言う通りだわ。
起こってしまったことはなかったことにはできない。
なら、解決するために動くだけ。
今までと何も変わらないじゃない。
ユキと一緒なら大丈夫。
そう、私は気持ちを新たにするのであった。
ここで再びM.G.S!!
こうして、伝説のパシリの第二幕が上がる。
舞台は海洋上。
んー、似ているね。
さて、スティーブは本当に海に放り込まれるのか?
マジック・ギアは存在するのか!
あ、アクエノキは真面目に鍛錬している模様。
今のところは実害はないって感じ。




