第847堀:解析結果
解析結果
Side:ユキ
「うめぇ!!」
「あの魔物がこんなに美味いとはな!」
「前に持って帰った時には既に腐っていたしな。食おうなどとは思わなかったからな……」
「散々仲間が食われたんだ。俺たちが食ってやるのが最高の仕返しだろう!」
「だな。こいつらを食うことで、仲間の魂も戻ってくる気がするしな」
そんなことを言いあいながら、シーサイフォの指導生たちは魔物の刺身を美味しくいただいている。
まあ、内心色々と思うところはあるようだが、そこは軍人。割り切っているところは流石だ。
「……ということであります」
「ふむ。わかった。貴官の貴重な話に感謝する。あとは、ゆっくり食事をするといい。仲間を弔うためにもな」
「ありがとうございます!!」
そう言って、カグラに第2艦隊のことを話してくれた士官が仲間の処に戻ってゆく。
話の内容はカグラがしてくれたものと大きな違いはなかったが、当時の詳しい配置はわかってきた。
「第2艦隊は当時、12隻を集めた大艦隊で魔物討伐に乗り出していたんですね」
「はい。そのうち、魔術師を集めて載せていた3隻が魔物から集中攻撃を受けて轟沈いたしました」
「まあ、乱戦での誤射というのも含まれるみたいですね」
「……お恥ずかしい限りです」
「いえ、初めての経験なら当然そういうこともあるでしょう」
レイク将軍や、アクアマリン宰相、そしてエメラルド女王がこの話をしなかったのも当然だ。
確かにその3隻に魔物の攻撃が集中し、沈没した艦に乗艦していた魔術師たちは食われた。
それは確かだが、うち一隻は、艦に飛びこんできた魔物を退治しようとして、慌てて甲板で炎の魔術をぶちかまして、艦そのものが大破炎上。
……乗員は海へ飛びこんで餌になったとさ。
ただの自爆だ。そんな情報では、魔物が魔術師を狙ってきたと判断はできんし、他国の人間に情報提供をするのはためらわれるな。
私たちはただのアホですと言うようなものだ。
まあ、俺たちに伝えなかったのは、これだけが理由じゃない。
自爆した1隻はともかく、2隻がやられる前に、護衛として随伴していた護衛艦も半数がやられたのだ。
これでは、魔術師を狙ったとは判断はしにくいだろう。
「とはいえ、魔物たちが残存した艦を襲わず、引いた理由は分かったのかもしれません」
「確かに、腹が膨れたのではなく、魔力の補充が出来たから、残りの艦隊を襲うことはなかったということですな?」
「ええ。その可能性が高いでしょう。なあ、エージル、コメット」
俺がそう言って、同席している2人の技術者に視線を向けたのだが、彼女らはなにやら難しそうな顔をしている。
「どうした? 何か見当違いなことでもいったか?」
「いや、今の話の範囲に限ればユキの言う通りだと思う。だけど、根本的なところがね」
「そうそう。そろそろザーギスから情報は届くとは思うけど、魔力が足りないから、人を襲ったっていうのはわかる。でも、ではなぜそんな海域にわざわざ魔物たちが居るのか。っていうのがね」
「まあな。でも、状況的に、どこからか流れてきたって推測は最初から言われていただろう?」
コメットが言う今更なことに首を傾げる。
こいつらがいきなり現れたから、シーサイフォ軍はこの海域に防衛出動することになったんだ。
「いや、私の言い方が悪かったね。なぜ、この魔物たちはこの海域にとどまるんだ。という謎が出てくる」
「だね。コメットの言う通り、魔力の補給が困難なこの海域になぜ魔物がとどまっているのかがわからない。というか、その謎が解ければ、それでこの海域の魔物問題も決着がつくだろうと思うけどね」
「それを調べるための海域調査だしな。ともあれ、この海域に何かヒントがあるというのは分かったな」
この海域には、何か魔物が魔力をすり減らしてでも居座る理由っていうのがあるんだろう。
と、そんなことを話していると、食堂へ入ってきた人がいる。
この空母内食堂は基本的にシーサイフォ軍の士官しか使わないから、この状況でそれ以外の誰かが入ってくるはずはないんだが……。
「急ぎの仕事にCDCへ行ってもいないので聞いてみれば、こっちだと言われたのでわざわざ足を運んだのですが、皆さんはのんびりと食事ですか。いいご身分ですね」
そんな皮肉を言いながら入ってきたのは、ザーギスだった。
そういえば、解析がそろそろ終わるとかなんとか言ってたっけ?
「そりゃ、いい身分だからな。俺、一応王配だし」
「皮肉に素で返さないでください。それより、報告書ですよ」
「わざわざすまんな。コールでデータを送ってくれればよかったのに」
「どうせこっちに呼び出されますから、来たんですよ」
といって、関係者に資料を渡す。
ザーギスは仕事だけでなく、こういう細やかな気配りができるからな。
初めて会った時のあのダメダメな四天王なんかより、こっちが向いていると本当に思うぞ。
いや、リリアーナ女王はこのザーギスは能力があると見出したんだから、間違ってはいないか。
と、そんなことより、資料に目を通さないとな……。
「よし、数字の羅列だけではよくわからん。もうちょっと資料は配る相手のことを考えて作れ」
「無茶言わないでください。これは見ればわかる連中に配る用ですよ。説明はしますんで……」
ザーギスとそんなことを話していると、資料を受け取ったコメットがコメントする。
「ふむふむ。やっぱりウィードの平均値よりもずいぶん低いね。およそ1割ってところか」
「だね。枯渇寸前ってところだ。だから魔力を得るために、海域にやってきた人を襲ったわけだ」
説明はどうやら、2人がやってくれたようだ。
「なるほど、ウィードの同じサイズの魔石に比べて、極端に保有魔力量が少なすぎるってことか。ああ、これか……」
資料の下の方に集計がある。
エク〇ルで作ったんだろうが、横に合計とか、上にタイトルぐらい書けよ。
まあ、時間がなかったから仕方ないか。
「ええ。そうです。ですが、それが問題なのです。そもそもこんな状態で魔物が存在できるわけがないんですよ」
「ん? どういうことだ?」
「本来、ダンジョン以外の魔物は自分で魔力を生成して、その体を維持しています。それは知っていますね?」
「ああ。そうでないと魔物は存在していられないからな」
普通、魔力の補給方法がなければ、魔物と言う物は存在できない。
みなそうであれば、平和なんだけどなー。
あ、いや、生物として存在していられるものなら、魔石が無くてもよかったな。
「で、魔物がその魔力を生成するために必要としていることはなんでしょうか?」
「そりゃ、食事……。うーん? 食料は一杯ある海域だよな」
「ですね。ドレッサ司令官の報告書には目を通しました。だからこそおかしいんです。食事が出来ていて、なお魔力の補充が追い付いていないということですが、本来そんな効率の悪い魔物が存在しているわけないですからね。そんなやつらは生まれても即座に消滅するしかない」
「いやいや、この海域はまだハイレン……様のご加護の範囲ってことじゃないのか? それに、魔石が無くても、魔力を生きるために必要としていないのなら、生きてはいけるんじゃないか」
「ハイレン……様のご加護の範囲かどうかはこれから調べるとして、やつらが魔力が無くても生きていけるというのはあり得ませんね。それなら人を優先的に襲う理由がないですから」
お互い、レイク将軍やシーサイフォの軍人さんの手前、ハイレンをちゃんと様付けで呼んでいるんだが、違和感バリバリだな。
まあ、そこはいいとして、ザーギスの言う通り、魔力無しで体を維持できるなら、人を襲う理由はないよな。
「それらを踏まえると、この魔物たちがこの海域にとどまっているのは、何らかの意図があると見ていいでしょう」
「意図ねえ。シーラちゃんは一応呼びかけを行ったけど、なにも反応はなかったって言ってたけどな。単に魔物が生活圏を変えたって可能性は?」
「野生の魔物が生活圏を変えたという可能性も否定はできませんが、それならここからさっさと移動していいと思いますが? 生活できない海域にとどまる理由なんてないですから。今はシーサイフォの軍人たちがやってきていますが、このままではいずれいなくなる。というか、今も既に、一度撤退をしてしばらく時間が空いている状態なのです。それなのに、ここにとどまる理由がないと思いますね」
「言ってることはわかるがな」
だが、この海域に魔物が居座る理由がさっぱりわからない。
「肝心の原因がわかっていないんだよねー」
「駄目だなー。ザーギスは」
「それはお2人が調べることでしょう……。とはいえ、私一個人としては、この海域に何かあると思っています。早急に海域調査を行うべきかと」
「やっぱりそこに行きつくか」
研究者3人が揃って、やはり海域調査が必要と判断するか。
まあ、当初から予定していたことだしな。
さて、一応の結論は出たんだが、一気に物事が進むわけでもない。
この海域というが、どこからどこまでが対象範囲なのかもわかっていない状態だしな。
と、今後の予定を考えていると、話を聞いていたレイク将軍が口を開く。
「ふむ。……話は分かりました。これから本格的にこの海域の調査というわけですな。この話、一旦陛下にご報告してきてもよいでしょうか? 先ほどの襲撃の件もありますし、この情報は有益なものかと思います」
「俺としては構わないが……。3人はどう思う?」
「良いと思うよ。しっかりレイク将軍が説明する必要はあるとは思うけど」
「だね。下手な説明は誤解を招くから、あくまで現段階でわかっていることとして、説明してくれるかな?」
「ですね。この仮説が絶対というわけではありません。それを伝えてください」
「ということです。まあ、私も同伴いたしましょう。戦闘や解析の結果を伝えるのは私もいた方が説得力があるでしょう」
「ありがとうございます。では、一旦、報告書をまとめますので、しばらくお待ちいただいてよろしいでしょうか?」
「ええ。いいですよ」
「では、さっそく」
そう言ってレイク将軍は退出する。
いやー、どこもここも、報告書だよなー。
いやになるよね、事務仕事って。
と、現実逃避するよりも、俺は俺で、シーサイフォに出向く準備と……。
「霧華、聞こえるか?」
『はい。聞こえております』
「今から、シーサイフォ本土に向かう。例の魔物と一戦交えたからな」
『報告は受けております。ご無事で何よりです』
「ありがとう。で、向かうついでに、そっちの情報収集の結果も聞いておきたい。まとめておいてくれ」
『はい。かしこまりました。お待ちしております』
さて、俺たちが海上で成果を得たように、霧華たちの方も何か面白い情報が集まっていればいいんだけどな。
「じゃ、俺はレイク将軍と一緒にシーサイフォの王城に向かうけど、タイキ君はどうする?」
「いや、俺はこっちでのんびりしますよ。あ、あと、この刺身持って帰っていいですか? アイリと宰相にも食べさせてやりたいですし」
「いいぞ。あと、カグラたちも一緒だ」
「「「ふぁい?」」」
そう返事をしたカグラたちは刺身を口一杯に頬張っていた。
まあ、美味いからな。
「シーサイフォに戻る。カグラたちも魔術指導の成果を伝えるのにちょうどいいだろう? 少しはできる連中もいたんだし」
「わ、わかったわ」
「あ、でも、ご飯……」
「もったいないですね……」
「いや、食ってからでいいぞ」
なんだかなー。
ここは海の資源が素晴らしいってことで喜ぶべきことなのかね?
と、苦笑いするのであった。
やはりこの海域に何かがあると、研究者たちは考えているようです。
海の冒険ロマンスが今まさに幕を開ける!!のかねぇ?
君たちは未知の海域に何があると思っていますか?
財宝? 沈んだ古代遺跡? それとも怪物?
さあ、予測をするのだ!!
それもロマンの第一歩だ!




