第842堀:襲撃の結果
襲撃の結果
Side:タイキ
『警報、警報、当艦隊に向かって、大型の魔力保有生物が複数接近中。乗員は第一種戦闘態勢へ。繰り返す。当艦隊に向かって……』
そんな警報が空母に鳴り響き、周りがあわただしく動き出す。
「思ったより敵の動きが早いですね」
「だな。まさか目標海域に入ってすぐに来るとは思わなかった。どうやって俺たちを発見したんだろうな」
「不思議ですね。何か海の魔物ならではのそういう特殊能力があるのかもしれませんね」
「あー、そういうのはありそうだな。魚とかは目じゃなくて匂いとか音で判断するからな」
サメとか血の匂いを数キロ先までわかるとかいうし。
俺とルースはそんなことを話しながら、CDCへ向かう。
「しかし、タイミングがいいというか、こっちに来たばかりなのを嘆くべきか……」
「国で執務中に緊急呼び出しされるよりはマシかと」
いや、俺にとってユキさんの急な呼び出しは、大手を振って仕事がさぼれるからありがたいんだけどなー。
と、そこはいいとして、俺たちは、国から戻ってきた?ばかり。
いや、こっちに出張してきたのが正しいのか。
で、状況がよくつかめていない。
やってきた瞬間に目標海域についたって連絡と、ドレッサの訓示があったと思ったら、いきなりさっきの警報だ。
まずは、関係者が集まっているはずのCDCに行って状況の確認を……。
ズドーン!!
と、そんな音がして思わず足を止める。
「敵が艦に攻撃してきたか?」
「いえ、その割には艦は全く揺れていません」
「そういえばそうだな」
というか、いくら大型の魔物とはいえ、全長300メートルはあろうこの船は攻撃されても揺るぎはしないだろうが。
つまり、揺れもしないレベルだから、大したことはないってことだ。
この船が揺れるレベルならもうやばいってことだしな。
「ま、とにかくCDCに行くか。ここからじゃ何も見えないし、判らない」
「ですね」
そういうことで、俺たちは慌てることなく移動を再開し、CDCに着く。
「どもー」
「失礼します」
俺たちがそう言いいながらCDCに入ったら、ちょうど前面のモニターに戦闘風景の映像が映っていた。
ザッパーン!! ズドーン!!
『ひとーつ!!』
ザッパーン!! ズドーン!!
『ふたーつ!!』
ザッパーン!! ズドーン!!
『みぃーっつ!!』
と、どこかで聞いたことがあるようなセリフを言いながら海上を飛び跳ねまわるシーラちゃんの姿が映っていた。
「「「……」」」
CDCの主要メンバーはその姿を見て、言葉がない。
まあ、シュールだよな。シーラちゃんが飛び跳ねるたびに、なんかでかい魚が海面上へ吹き飛ばされ、空中コンボで追撃の雷魔術が入っては海面へ落下し、そのままプカリと浮く。
なるほど、ああやれば海の中にいても感電を防げるわけか。
そんな感心をしつつ……。
「で、ユキさん。これなんですか?」
とりあえず、状況があまりに理解できないものなので、ユキさんに尋ねる。
「ん? ああ、タイキ君。戻ってきたのか」
「戻ってきたというより、こっちにやってきたの方が正しいんですけどね」
「まぁ、そういえばそうだな。で、あの映像はシーラちゃんの部隊が100前後の魔物の群れと交戦している様子だな」
「どこかのエースパイロットのセリフを言っているみたいですけど?」
「あれは俺の仕込みじゃない。さっきちょっとカグラにやらかしてな。ちゃんと仕事をしてますってアピールだろうな」
「やらかしたって何ですか?」
「何がしたかったのかはわからんが、滑走路にわざわざジャンプして着艦したんだよ。その余波で海水がカグラにかかった」
「そりゃー。あのセリフから察するに、ロマンがあったんじゃないんですかね?」
ロボットモノを知ってたら、滑走路とかカタパルトを見ればやりたくなるよな。
「……ロボット好きの地球人なら理解はできるが、あれは魚だぞ?」
「……種族差別は良くないと思いますよ。たぶん」
魚の魔物たちもあこがれるロボットアニメがある地球を誇るべきだと思う。
いや、よくよく考えれば、水中っていうのは宇宙の感覚というし、ある意味あのロボットのパイロットに向いているのかもしれない。
「で、そういう話はいいとして、さっそく魔物が襲ってきたみたいですけど?」
「ああ、そうそう。意外と早かったな。しばらくは海域調査だけの日々かと覚悟していたんだけどな」
「俺もそのつもりでしたよ。でも、これで多少は何かわかるんじゃないですか?」
「だといいけどな。まあ、今回の襲撃だけで終わりってことはないだろう」
「流石にそれはですね」
この広大な海でたかが100前後の魔物を倒して、それで全てが終わりなわけないよな。
そんなことを話している内にも、シーラちゃんたちが接近する魔物たちを次々と撃破していき……。
「報告します。反応があった敵性生物は全て沈黙しました。シーラちゃん率いる海洋調査隊が防ぎ切ったようです」
あっという間に終わってしまった。
ま、喜ぶべきことだよな。
これで、一応同じ魔物が相手なら苦戦することなく、対応できることが分かったわけだ。
「戦闘態勢から警戒態勢へ移行。各艦は被害報告。シーラちゃんたちには、倒した魔物の回収をさせなさい。それと、エージルとコメットを呼び戻しなさい。遺体の検分をするように伝えて」
「はっ」
ドレッサは意外としっかりやっているようで、てきぱきと指示を出している。
この数日で慣れてきたってことだろうな。
そんなことを考えていると、ユキさんがこっちを見て……。
「ま、見てた限り、シーラちゃんが防ぎぎったようだな。各艦も無事だろう」
「ですね。何かあるなら真っ先に報告が来ているでしょうし」
「ということで、俺は魔物の確認に行こうと思うけど、タイキ君たちはどうする?」
「ついていきますよ。問題の魔物をこの目で確認したいですから。シーサイフォで見たのは既に腐っているか、骨だけでしたからね」
「あったな、そんなこと。あの時はひどかった」
そう、実のところ、今まで俺たちはシーサイフォ王国軍を襲っている魔物の実際の姿を見たことが無いのだ。
タイミングが悪かったというべきか、時間が経ちすぎていて、ゾンビ化しているのまでいたんだよな。
その時はちょうどルルアさんがシーサイフォに来ていて、速攻浄化してたが。
ゾンビ化すると動きや習性ががらりと変わるからな。
見た目が同じようで、中身が全然違うんだよ。
ということで、俺たちはレイク将軍も一緒に、格納庫へ行くと……。
「おー。なるほどなるほど」
「すごいもんだね。これが海の魔物か! ほら、カグラ、触ってみないかい?」
「い、いえ。いいです。先ほどお風呂から上がったばっかりですから」
「だねー。でも、こんな大きいのをシーラちゃん倒したんだ。ミコスちゃんびっくり」
「ですね。シーラちゃんすごいです」
「いやー。そんなに褒めないでくださいよ」
なんか、既にワイワイにぎやかにやっている一団がいた。
「既にエージルとコメットも来ているな。さすが素早いな」
「そりゃ、一応あの二人研究者ですしね。というか、さっきまで前線で戦っていたシーラちゃんまでがなんでもうここにいるんですかねー」
俺の記憶違いでなければ、先ほどの戦闘風景に映っていたのは間違いなくシーラちゃんだったはずだけど。
「だな。はぁ、まったく、また飛んできたのか……」
「ああ、そういうことですか」
飛んできたならそりゃ殆ど時間をかけずに戻れるよな。
というか、空飛ぶ魚って魚なのか?
でも、飛び魚とかもいるしな。
とまあ、そんな話をしつつ、エージルたちに近づくと……。
「お、ユキとタイキじゃないか。見てくれこの魔物」
「いやー、本当にウィードの訓練で使ったタイプだね」
そう言われて、目の前の魚を見ると、確かにカグラたちの訓練で使っていた魔物だ。
もちろんだが既に死んでいて、なんというかゴロゴロと並べられたその様子は、死体検分というより水揚げされた大物を見ている感じだ。
これから競りが行われるという感じがする。
そんなアホなことを考えている間にユキさんはレイク将軍に話しかけていて……。
「本当にシーラカンスタイプだな。レイク将軍。間違いないですか?」
「はい。この魔物で間違いありません」
ユキさんの質問にレイク将軍がそう断言するということは、やはりこの魚の魔物がシーサイフォの海を荒らしまわっているやつか。
まあ、どっちが本当に荒らしまわっているかはわからないけど、シーサイフォ海軍に打撃を与えたのはこいつらで間違いないだろう。
「カグラ、ミコス、ソロ、3人から見て何か気が付いたところはあるか?」
「え? あ、えーっと、実際戦ったわけじゃないから詳しいことはわからないけど、訓練の時のやつと同じだと思うわ。ねえ、ミコス、ソロ」
「だね。ミコスちゃんも同じ魔物に見えます」
「はい。私も同じ魔物に見えます」
カグラたちも同意見か。
となると、あとは戦った本人の意見だな。
「なあ、シーラちゃん。強さ的にはどうだった?」
俺はそうシーラちゃんに聞く。
見た限り戦力的にはシーラちゃんが圧勝してたが、戦っている本人にしかわからないこともあるだろうからな。
「んー。そうですねー。正直ウィードの同型の魔物の方が断然強かったですね」
「そこまでの強さはないわけだ。ま、ウィードクラスの魔物がそこいらにいたら、人類とかこの世界では生きていけない気がするけどな」
「ま、そうですね。ああ、でも意外とこの魚は身がしまっているというか栄養失調に近いですね。餌を上手く採れていないんじゃないんですかね」
「餌? というか栄養失調? この魚が?」
俺は、目の前に転がるでかい魚、シーラカンスのグロテスクバージョンを見る。
どこからどう見ても栄養失調には見えないな。
「いやー、見た目でわかるもんじゃないですね。魚って餓死はしますけど。普通はその前に他の魚に食われて死にますからね」
「あー、なるほど。って、こいつらは十分人を食ってるんじゃないのか?」
散々軍艦を襲ったんだ。それだけたっぷり……。
そう思って、自分の間違いに気がついた。
「って、そうか。このサイズが百単位でいるなら、ここで襲われただけの量で足りるわけないよな」
と、ひらめいたつもりだったのだが……。
「いや、意外とそうでもないんですよ。魚って意外と燃費いいですし、人なんか食べなくても、普通は海にいる生き物食えば生きていけるはずですけど……」
「……そうだな」
あっさりシーラちゃんに否定されて少しショックを受けると同時に、そりゃそうだと納得もする。
海に潜れば海藻もあれば、貝とかもとれるし、魚もいるから、普通なら餓死するとは思えない。
「じゃあ、なんで栄養失調なんか?」
「いや、こっちを見た時にかなり目を血走らせて襲ってきたから、そう思ったんですよ。こりゃ腹減ってるなって」
「なるほど。で、ユキさん的にはどう思います?」
「さあな。魚とは会話したことないしな」
「あ、いや。俺魚ですけど」
「シーラちゃんは例外だ。ともかく、遺体があるんだ。そこの研究者コンビ、何かわからないか?」
ということで、やっぱりこういうことは研究者の二人にってことになるわけか。
「よーし。任せてくれ」
「まずは三枚おろしだね」
……あれ? なんか食べる気じゃね?
お魚は捌いて食べましょう。




