第841堀:それぞれの仕事
それぞれの仕事
Side:ユキ
「……ということで、エージル将軍とコメットさんに講義への協力を頼みたいんだけど」
そんなことをカグラが言いだした。
まあ、理屈はわかる。
俺が知りうる限り、2人は魔術、魔力研究の第一人者だ。
その2人を入れればシーサイフォ王国への魔術習得に何か進展があるかもしれないというのはよくわかる。
よくわかるのだが……。
「邪魔はしないよ」
「そうそう。ハイデンの魔術教育に興味があるのさ」
そうエージルとコメットは非常にいい笑顔で宣言する。
傍から見れば、研究熱心な研究者とも見て取れるが……。
「暇なだけだろう。お前ら」
「いやー、なんのことかな。ちなみに武器の整備はきちんと終わらせたよ」
「そうそう。ちゃんと仕事をしたその上でカグラたちに協力しようっていうんだよ? 暇なだけ、なんてわけがないだろう?」
「……まあ、いいか。くれぐれも邪魔だけはするなよ。あと、ハイデン魔術学院に送る人員の選定も手伝ってやれ」
「もとよりそのつもりさ」
「そうそう。シーサイフォ王国の戦力増強は必須だからね」
はぁ、こういう天才共はなにを強制した所で勝手に動くからな。
ここはよけいなことは言わずに手伝わせるのが吉か。
「わかった。ただし、くどいようだがカグラたちの邪魔だけはするなよ」
「「HAHAHA! そんなことするわけないよ!」」
駄目だこいつら。
趣味の人体実験とかしかねん。
なぜいい笑顔なのに、説得力が完全にゼロなんだろう。
エージルは将軍でもあるので、そこらへんまだ信頼できるが、コメットがな~。
「カグラ、ミコス、ソロ、こいつらが万一暴走したらすぐ伝えろ。いいな」
「あ、うん」
「えーと、ユキ先生。エージルさんとコメットさんがそんな無茶や馬鹿なことをするなんて、とても思えないんだけど……」
「……なにかあったんですか?」
「いや、ただあの笑顔が信用ならん」
「「ひどっ!?」」
マッドサイエンティストどもが何か言ったようだが無視をする。
それよりも、カグラには確認しておくことがあるからな。
「今更ではあるが、カグラ。体は大丈夫か?」
「へ?」
俺の唐突な質問にカグラは変な声を出した。
ああ、話を飛ばしすぎたな。
「すまん。シーラちゃんが甲板まで飛んできただろう? その時、ケガとかはなかったか? もちろん、ミコスとソロもだ」
「あ、うん。大丈夫……ちょっと生臭い海水がかかっただけだから」
「ミコスちゃんは大丈夫でしたよ」
「私も平気でした」
被害者は3人中1人だけか。
とはいえ、被害者が出たことに変わりはない、しかも生臭い海水をぶっかけたとか、女性には致命傷の一撃だな。
ミリーからお風呂に行ったとも聞いているし、今から仕事っていう時にそんな手間を増やさせたのは俺の責任だ。
「すまない。シーラちゃんにはアスリンからちゃんと言い聞かせる」
あのクソ魚。今から講義をするっていうカグラに何を迷惑かけてるんだよ。
シーサイフォ側どころか、ハイデンからも苦情が来かねん。
とはいえ、戦闘不能にするような罰は与えられない。一応あれでも第一海中遊撃隊の隊長であり、統括だからな。
「大丈夫。気にしないでっていうのは立場上ダメよね。うん、ユキの誠意は伝わったからここだけの話にしておくわ」
「助かる」
ここで、カグラが上に抗議をすると言われればかなりの問題になっていた。
マジで、あの魚は事が終わったら、塩焼きの刑にしてくれるわ!
といっても骨魚だからな、食えそうな部分はないが。
「それに、私も海水を被っただけのことで騒ぎを起こしたら問題なのよ」
「いや、被害者だろうに。というが、まあそっちも色々あるよな」
「ええ。色々あるのよ。本当に……」
カグラがそう言うと、ミコスとソロもそろって頷く。
中間管理職のつらいところだよな。
「とりあえず、迷惑をかけたことは事実だ。政治的に文句は言い辛いのはわかるから、個人的な要望があれば応えるぞ」
「「本当!?」」
なんか物凄く食いついてきたな。
「じゃ、じゃあ、その……」
「ユキ先生、ミコスちゃんは……」
ガシッ!
と思っていると、なにやら迫りくる2人をソロが背後からしっかり押さえて、笑顔で……。
「はーい、先輩方。お仕事の時間ですよー。エージルさん、コメットさんも、さあ行きましょう」
「「……はい」」
「「イエスマム!」」
そう告げて、4人を連れて行ってしまう。
いや、かなりの迫力だな。
ソロの意外な一面を見た。
「案外、みんなのまとめ役に向いているのかもしれないな」
「いやー、ただウザイと思っただけじゃろう」
「流石に仕事の時間にねー」
なるほど、ソロは2人が仕事中にも関わらず、俺へ私的な要望を言うのは不謹慎に思えたわけだ。
ソロは平民の出でありながら魔術学院に通ってたぐらいだからな、そこらへんしっかりしているのだろう。世渡り上手ってやつだ。
「ま、ソロにも何か欲しくないか聞かないとな。こういう埋め合わせはちゃんとしないと後に響くからな」
「じゃな。カグラたちが頑張っているのは事実じゃしな」
「外交官としてだけじゃなく、シーサイフォ王国の魔術指導要員としてもだからね。大変よね」
人員を選別したあとはハイデンの魔術学院で受け入れてくれるとはいえ、その選別まではカグラたちがしなければいけない。
本来、正規軍人の使える使えないとかは、カグラが判断する立場じゃないんだがな。
キャリー姫も色々考えているんだろうっていうのはわかる。
おそらくカグラに経験を積んでほしいと思っているんだろうな。
人を見る力を付けろってことだ。
そういうのも含めて、労ってやらないとな。
と、そんなことを考えていると通信が入った。
『一号艦より空母リリーシュへ。応答願う』
「つないで」
ドレッサがそう言うと、モニターの全面に映像が映る。
そこには、ヴィリアが映っている。横には先日の模擬戦相手だったマランもいる。
「何かあったのかしら?」
『マラン艦長の報告によりますと、そろそろ指定海域とのことです』
「予定より早いわね。そこまで速力があったのかしら?」
『空母が先行したため、風よけになったのではないかと、マラン艦長は言っています。そうですよね?』
そうヴィリアに言われて、マラン艦長が口を開く。
『はっ、ヴィリア殿の言う通り、空母が前方からの風よけとなり、さらに背後からの風を引き込み、追い風となったため、通常より早く到着したものと思います』
「なるほど。わかったわ。予定通り、あと1時間ほど航行して停泊。海域の調査及び魔物の探索を開始します。各艦は用意を」
『はいっ』
と、きりっと返事をするヴィリア。
『はーい』
のんびり返事をするのはヒイロ。
『はい』
『わかりました』
2人で返事をするのはアマンダとエオイド。
この2人はポープリからの要請での参加だ。
もちろん、鍛えてはいるから、ヴィリアやヒイロ程ではないにしても、そうそう負けることはない。
ちなみに今回の調査に付いてきているのはマランの艦隊だ。この前の模擬戦で感服したと言って、随伴艦になりたいと名乗りを上げてくれたわけだ。
たった3艦ではあるが、貴重な戦力を出してくれて、こうして航海に同行してくれている。
本来は、戻ってきた第三艦隊も一緒にという予定だったんだが、こちらは半壊してたからな。
戻って来た第三艦隊の証言では、海の魔物との交戦で1隻が大破しそのまま破棄。海に逃げ出した乗員の半数は魔物に食われたとのこと。
そんなことがあったため、シーサイフォ第三艦隊はそのままドック入りしたうえに、人員の殆どは休養となっている。
もう、しばらくは海に出たくないと言っている者もいるようだ。
そりゃな、海で仲間が喰われるのをみて、それでも海に行くとか言えるのは、そうとう根性が据わっている奴だ。
色々進んでる現代の地球でさえも戦場での精神的ショックは当然のごとくあるからな。
戦う兵士にとって、一番大事なのは兵站とメンタルケアといわれるぐらいだ。
「観測班は周囲に注意を払って。第三艦隊の生き残りがいる可能性もあるわ。海中調査隊は予定通りに先行調査を開始。2、3、4番隊を向かわせなさい。シーラちゃんの1番隊はお仕置き中だから」
「「「了解」」」
と、艦隊への指示をテキパキとこなしていくドレッサ。
この2日の航海や、前日の打ち合わせでそれなりに自信がついてきたようだ。
模擬戦の時のようなためらいはもうない。
思い切って海洋調査の方の艦隊司令に任命して良かったな。
ゲートがつながったおかげで、もう一隻の空母ルナと簡単に行き来できるお陰だ。
シーサイフォ近海防衛艦隊の司令はスティーブに任せてある。
あっちは実質的には暇だろうしな。休暇の約束は果たした。
暇なときは遊んでいいって言ったし。
しかし、本当にシーラちゃんのやつはタイミングが悪い。
こんな時にくだらない馬鹿をやってお仕置き中とか。
そんなことを考えていると、ドレッサはこちらを向いて……。
「ユキ様。当艦隊は指定海域に間もなく到着予定です。予定通り作戦を開始しますので、ウィード本国への連絡、そしてシーサイフォ王国への報告をお願いいたします」
「了解」
俺がそう返事をすると、ドレッサは頷いて即座に正面を向き……。
「全作戦参加艦艇につないで」
「了解」
「空母リリーシュ艦長より、全作戦参加艦艇に告げる。我がシーサイフォ、ウィード連合艦隊は間もなく作戦海域に到着する。総員、これから何があるかわからない。気を引き締めて、引き続き任務を行うように。諸君らの堅実な働きに期待する」
そう宣言をする。
これで、作戦参加艦艇への引き締めはできただろう。
ま、遊びではないってことだ。
「俺たちも真面目に仕事をこなすかね」
「うむ。カグラたちやドレッサたちの頑張りを無駄にするわけにもいかんしのう」
「ですね。さ、レイク将軍も準備はよろしいですか?」
「問題ありません。陛下からも密に報告をするようにと言われております」
もちろんこのCDCにはレイク将軍も乗船している。
主に、シーサイフォ本国との連絡のためにだ。
すぐに連絡を取る方法があるなら当然のことだよな。
「よし、じゃあ。俺たちも報告するか。おーい、セラリア、聞こえるか?」
『聞こえているわよ。どうしたの?』
ということで、その場で通信を開く。
CDCにいるんだし、ここ以上に通信が安定しているところはない。
横ではレイク将軍の方もエメラルド女王と連絡を取っている。
そうでもしないと、エメラルド女王が自ら空母に乗り込む勢いだったからな。
「予定の海域に到着して作戦行動を開始した所だ」
『あら、意外に早かったわね』
「うまく風にのれたらしい」
『ふーん。海の事はよくわからないけど、作戦が上手くいくことを祈っているわ。あと、厳しいようなら、ちゃんと逃げるのよ』
「それはわかっている」
『あなたの場合は、最後まで残ってそうなのよねー』
「俺だって命は惜しいからすぐに逃げるぞ」
『全員が無事に退艦したことを確認したらすぐに、でしょう?』
「そういう屁理屈は言わな……」
そう言いかけた時……。
「魔力感知レーダーに感あり! 繰り返す、魔力感知レーダーに感あり! 3時方向より当艦隊に向かって多数の魔力保有生物が接近中!」
観測班からそんな報告が飛ぶ。
『なに? レーダーに感ありって、もう接触したの?』
「まて、まだ詳しいことはわかっていない。また後で連絡する」
『わかったわ』
これ以上、又聞きで情報を流しても混乱するだけなので、一度通信を切る。
隣のレイク将軍も……。
『レイク! 魔物か!?』
「陛下、まだ状況ははっきりしておりません。また改めて連絡をさせていただきます」
『む。よかろう』
どっちの女王も肝が据わっている堂々とした返しだったな。
強い女性で頼りになるねー。
で、この状況にドレッサは……。
「第一種戦闘態勢へ、警報鳴らせ!!」
「はっ」
うん。どっかで見たことがある感じになってきたな。
しかし、この場で声を荒げているあたりまだまだ若いって感じかね。
「海中調査隊の報告はどうなっている。数は」
「第3番隊を向かわせています。接触まであと5分弱、数は魔力感知レーダーに反応しているものでおよそ30。……次の報告出ました! 保有魔力量から考えて該当レベルは30前後! シーサイフォ艦隊は後方へ下げることを提案します!」
「わかったわ。シーサイフォ艦隊に通達を……」
「報告します!! 後続を確認! その数およそ100! さらにその反対方角より50の増援!」
「ちっ、シーラちゃん率いる1番隊も出撃、3番隊の援護へ。2番隊は艦隊護衛、4番隊は反対方角の対処に向かわせなさい!」
「了解」
「ヴィリア、ヒイロ、アマンダ、エオイドに乗艦の防衛を優先させなさい」
「はっ」
一気にあわただしくなってきたな。
しかし、ここまで一気にくるとは、この海域は魔物の巣でもあるのかね?
それか意外と、人懐っこいイルカの群れってことでもあれば和むんだが……。
色々ありつつも、ちゃんと仕事をこなしていくメンバー。
そして、唐突な襲撃。
海の魔物との戦いが始まる!!
シーラちゃんは塩焼きになっているのか!!
あ、GWは楽しんでいますでしょうか?
こっちはGWの落とし穴を書くべきか、ネタは何にするべきかで、間に合うか微妙ですねー。
ゲームとかしたいですし。




