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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第208話 残しておきたい言葉

聞けなかった言葉は、時間が経つほど増えていくことがあります。


それでも、誰かから受け取ったものまで失われるわけではありません。


残されたものを、どう受け取っていくのか。

靴屋を訪れたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


店の奥から、革を磨く音が聞こえてくる。


「こんにちは」


「おう。いらっしゃい」


店主は手を止め、悠斗に椅子を勧めた。


「この前の話なんですけど」


「ああ。親父と、あの人のことか」


悠斗は頷いた。


老人に会えたら、国道で声をかけてくれた理由を聞く。


そして、店主が知りたがっている先代との関係についても、本人が話してくれる範囲で聞いてみる。


それが、二人の間で確かめたことだった。


「店主さんは、先代に聞いておきたかったことってありますか?」


店主は磨いていた靴を置いた。


「そうだな……」


少し考えてから、答えた。


「親父が、あの人とどんな時間を過ごしていたのか。それを聞いてみたい」


「どんな時間、ですか」


「親父は仕事の話ならよくしていた。でも、自分が誰と会って、何を感じたのか。そういう話はあまりしなかった」


店主は作業台に視線を落とした。


「俺も、もっと聞いておけばよかったと思うことがある」


その言葉に、悠斗はすぐに返事ができなかった。


聞けるときには、いつでも聞けると思ってしまう。


近くにいる人のことほど、知らないままにしてしまうことがある。


そして、気づいたときには、もう聞けないこともある。


「僕も、母に聞けなかったことがあります」


店主が顔を上げた。


「そうか」


「最後に会えなかったので。今でも、聞いておけばよかったと思うことがあります」


悠斗は、母のことを思い浮かべた。


黒糖飴の甘さ。

手の温もり。

もう確かめることのできない、母の声。


それでも、母から受け取ったものは残っている。


自分が誰かに優しくできたとき、その中に母からもらったものがあるような気がする。


「だから、あの人に会えたら、ちゃんと話を聞きたいんです」


「うん」


「僕が知りたいことだけじゃなくて、あの人が話したいことも」


店主は静かに頷いた。


「それがいいと思う」


短い言葉だった。


けれど、悠斗には十分だった。


店主は再び靴を手に取った。


「親父が残したものを、俺はまだ全部分かっていない。でも、分からないからといって、なかったことにはしたくないんだ」


「はい」


「いつか分かることがあれば、それでいい」


悠斗は、その言葉を胸に置いた。


写真に書かれた文字も、老人と先代の関係も、まだ答えは出ていない。


それでも、誰かが残したものを大切にしようとする人がいる。


その気持ちは、確かにここにあった。


店を出る前、悠斗は店主に言った。


「もし会えたら、話を聞いてきます」


「ああ。頼むな」


「でも、無理に聞き出すことはしません」


「分かってる」


店主は笑った。


悠斗は頭を下げ、商店街へ出た。


歩きながら、母のことを考えていた。


聞けなかった言葉は、もう戻らない。


けれど、受け取った優しさまで消えてしまうわけではない。


誰かの言葉を聞くこと。

誰かの思いを受け取ること。

そして、それを自分の中だけに留めず、次の誰かへ渡していくこと。


悠斗は、急がずに歩き続けた。


まだ会えていない人がいる。


まだ聞けていない言葉がある。


そのどちらも、忘れずにいたかった。

店主にも、悠斗にも、もう聞くことのできない言葉があります。


だからこそ、これから出会う人の言葉を大切にしたい。


写真に残された老人と先代の時間。その答えは、まだ見えていません。


けれど、知ろうとする気持ちは、二人の間で少しずつ共有され始めています。

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