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7、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜第7章 優しさの続きを  作者: Nao9999


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第190話 先代が残した問い

古い靴箱の底に残されていた、一枚の紙。


そこに書かれていたのは、誰かの苦しさを簡単に決めつけないという、静かな言葉でした。


優斗は、その言葉を手がかりに、あの日の出会いをもう一度見つめ直します。

翌朝。


優斗は、靴箱を抱えて靴屋へ向かっていた。


国道を走る車の音を聞きながら、昨日読んだ紙の言葉を思い返す。


『靴を渡す日が来たなら、理由を聞く前に、その人の足元を見てほしい』


そして、その下に書かれていた一文。


『人は、歩けなくなった理由を、いつも言葉にできるわけではない』


何度読み返しても、答えは見つからなかった。


けれど、ひとつだけ気になっていることがあった。


この言葉を書いた人は、誰に読んでもらうつもりだったのだろう。


靴を受け取る人へ向けた言葉なのか。


それとも、靴を渡す側の人間へ向けた言葉なのか。


優斗には、まだ分からなかった。


「おはようございます」


店先に着くと、店主が靴を磨いていた。


「おう、優斗。今日はどうした?」


「ちょっと、聞きたいことがあって」


優斗は抱えていた靴箱を、店主に見えるように持ち上げた。


「この箱に入っていた紙なんです」


店主は手を止めた。


「紙?」


「はい。先代が残したものなのかもしれなくて」


優斗は、折り畳んだ紙を取り出した。


店主は受け取ると、急がずに文字を追った。


しばらくして、紙から目を上げた。


「……そうか」


「何か分かりますか?」


店主はすぐには答えなかった。


紙をもう一度見つめ、それから優斗へ返した。


「悪いな。これを書いたときのことまでは、俺にも分からん」


優斗は頷いた。


「そうですよね」


少し残念だった。


ここへ来れば、何か答えが見つかると思っていたのかもしれない。


けれど、店主が知らないことまで、無理に聞き出すわけにはいかなかった。


「ただな」


店主が口を開いた。


「先代は、靴を買いに来た人の話を、よく聞いていたよ」


優斗は顔を上げた。


「どんな話ですか?」


「いろいろだ。仕事を失った人もいれば、家族のために靴を探している人もいた。自分のことを話さず、黙って靴を見ている人もな」


店主は、磨いていた靴をそっと置いた。


「先代は、そういう人を急かさなかった」


「……」


「何があったのか、全部話してもらわなくてもいい。靴が必要な理由を、本人がうまく説明できないことだってあるからな」


優斗は、手の中の紙を見た。


書かれていた言葉と、どこか重なっている気がした。


「じゃあ、この紙も……」


「そこまでは分からん」


店主は正直に答えた。


「俺が勝手に意味を決めるわけにはいかないからな」


その言葉を聞いて、優斗は小さく笑った。


そうだ。


自分も、同じことを考えていたはずだった。


分からないことを、想像だけで埋めない。


相手が何を伝えたかったのか、確かめられることと、確かめられないことを分けて考える。


それも、誰かの思いを大切にすることなのだろう。


「ありがとうございます」


優斗が頭を下げると、店主は少し困ったように笑った。


「礼を言われるような話じゃないさ」


「でも、来てよかったです」


「そうか」


店主は再び靴を手に取った。


「優斗」


「はい?」


「答えが分からないからって、無理に答えを作る必要はないぞ」


優斗は頷いた。


「……はい」


店を出る前に、もう一度だけ紙を見た。


そこに書かれた言葉は、昨日と何も変わっていない。


それなのに、少しだけ見え方が変わった気がした。


誰かの思いを知ることは、簡単ではない。


本人が話してくれなければ、分からないこともある。


時が過ぎれば、もう聞けなくなってしまうことだってある。


それでも、残された言葉を大切にすることはできる。


優斗は紙を丁寧に折り、靴箱へ戻した。


「また来ます」


「ああ。気をつけてな」


店主の声を背に、優斗は国道へ出た。


ロードバイクのハンドルに手を添える。


昨日よりも、答えが見つかったわけではない。


けれど、分からないことを分からないまま抱えていてもいいのだと、少しだけ思えた。


すべての出会いに、すぐ意味が見つかるわけではない。


そのときには気づかなかった言葉が、何年も経ってから心に残ることもある。


あの日、裸足の老人に声をかけられたときも、そうだった。


あの出会いが、これほど長く自分の人生につながっていくとは思わなかった。


優斗はポケットに手を入れた。


黒糖飴の包み紙に、指先が触れる。


一粒の飴から始まった出会い。


その先で出会った人たち。


そして、今も分からないまま残されていること。


どれも、無理にひとつの答えへ押し込める必要はない。


いつか、別の出会いが答えを運んでくれるかもしれない。


あるいは、最後まで分からないこともあるかもしれない。


それでも。


優斗は顔を上げた。


「歩いていくしかないか」


誰に聞かせるでもなく呟き、ロードバイクを押し始めた。


国道の先には、今日も知らない誰かの人生が続いている。


自分がまだ知らない思いも、言葉にできない事情も、きっとそこにある。


だからこそ、出会った人の話を聞こう。


分からないときには、分からないと言おう。


そして、自分にできることを考えよう。


優斗は一歩ずつ進んでいった。


答えを急がずに。


誰かの歩いてきた道を、知ろうとしながら。

お読みいただきありがとうございます。


今回は、靴箱に残されていた言葉を通して、優斗が「あの日」の自分を振り返るお話でした。


まだ明かされていないことはありますが、焦って答えを出すのではなく、これまでの出会いを大切にしながら、一つずつつなげていきます。


小さな優しさが、誰かの次の一歩になりますように。

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