第9話:甘酒と、お誂え向きの風
定期検診のため、結は一人、町外れの産婦人科へと歩いていた。
つわりが明けたばかりの身体には、まだ長歩きは少し堪える。そう思った瞬間だった。ふわりと、どこからか汗をすうっと引かせるような、冷たくて心地よい風が通り抜けた。
(あら、涼しい……)
見上げると、初秋の太陽がジリジリと照りつけているのに、結の周りだけがまるで木陰に入ったかのように涼やかだった。
さらに歩みを進めると、大通りに面した大きな交差点に差し掛かる。いつもなら長く待たされるはずの信号機は、結が歩道に一歩近づいた瞬間に、まるで待っていたかのようにカチリと青に変わった。その次の信号も、さらにその次の信号も、結が足を止めることなく、全て青のまま彼女を迎え入れる。
少し歩いて、ちょうど小腹が空き、喉の渇きを覚えた頃だった。目の前の角を、冷たい甘酒を木箱に詰めた物売りの小父さんが通りかかった。まるでお誂え向きのタイミングだった。
「はい、お嬢さん、冷えてるよ。お腹に優しいやつだ」
お代を払い、お椀に注がれた冷やし甘酒を口にする。お米の優しい甘みと、ひんやりとした喉越しが、乾いた身体に驚くほどすうっと染み渡っていく。
信号も、風も、この甘酒も。
まるでこの世界のすべてが、自分を祝福し、お膳立てしてくれているかのような――そんな、奇妙なほどに都合の良い優しさに満ちていた。
第9話をお読みいただき、ありがとうございました。
結のお出かけは、驚くほどスムーズで幸運なものばかりでしたね。冷たい甘酒、とても美味しそうです。
それでは、また第10話でお会いしましょう。
[SYSTEM_LOG: HEURISTIC_OVERRIDE]
Environmental factor optimization applied.
Subject_YUI physical load mitigation priority: HIGH.
Traffic infrastructure, local atmosphere, and commerce logs (Amazake Vendor) synchronized to target route.




