その他の場合
リーラとの話を終えて部屋に戻ると、既にジェフリーとアラインが宴会を始めていた。
……というか、どうして僕の部屋に勝手に入ってるのかな、2人とも。
「ああもう、なんで2人とも僕の部屋で宴会やってるのさ。自分の部屋があるだろ?」
「おう、待ってたぜ。どうだった?」
アラインが酒をなみなみ注いだマグを掲げる。これはもう結構飲んでるな。
「だってさ、気になるでしょう? ビットの部屋で待ってれば、すぐに結果が聞けるじゃないか」
ジェフリーまでそんなことを言って。はあっと溜息を吐いて、それから僕はくすくすと笑った。
「まあ、2人の気持ちもわかるけど……っていうか、リーラねえ……」
勿体をつけるように言うと、2人とも身を乗り出して続きを促してくる。
「リーラ、よりによって、“フレインがどう思うってるかわからないし、知らない”とか言い出すんだよ。僕どうしようかと思っちゃったよ!」
「あ?」
「え?」
アラインもジェフリーもぽかんと目を丸くして固まってしまう。そうだよね、やっぱりそうだよね。
「僕、あんまり驚きすぎて、何も言えなかったよ」
「お、おう……マジでか」
「それはないよねえ……フレインどんだけダダ漏れだったと……」
ジェフリーが床を見つめてぽつりと呟くのに、僕もアラインも頷いた。
「うん、そうだよね。僕もまさかって思ったし」
「フレイン見てりゃ、普通わかるだろ……」
アラインも、思わずといったように天井を仰ぎ見る。
「リーラって、普通じゃなかったんだねえ」
しみじみ言う僕の言葉に、3人ではあ、と大きな溜息を吐いた。
「俺さ、吟遊詩人って、そういう心の機微に敏感なんだと思ってたんだけど、違うのかな」
「いや、ジェフリー、ありゃリーラだからだと思うぜ」
まだ茫然としているジェフリーに、アラインが首を振る。確かに、リーラのあれが吟遊詩人の標準だと考えるのは、他の吟遊詩人に対して失礼なんじゃないだろうか。
そこで、ふと思いついた。
「もしかして、宰相閣下って、わかっててこれ仕組んだのかな?」
「もしかしなくてもそうじゃないの? わざわざ時間ずらして2人呼び出して話をするとか……さすが閣下だ、人が悪いなあ」
感心したようにうんうんと頷くジェフリーに、僕も同意する。
「さすが腹黒だよね。なんだか感動したな。僕も宰相閣下を見習おう」
「それはともかく、肝心のリーラはこの後どうすんだって?」
ぐびっとマグを空けながらアラインに尋ねられて、僕はにんまりと笑う。
「今からフレインとこに行くってさ。酒の勢いはまずいから、毒消し飲ませといたよ」
「うん、それは正しい判断だね。酒臭かったら絶対フレインが引いて、部屋に戻らせちゃうだろうし」
ジェフリーもそう頷きながら、「明日の朝が楽しみだな」とにっこり笑った。アラインは、はっと何かに気付いて、また茫然とする。
「え。マジで? ……俺の白金貨……」
あはは、と僕は笑いながら、アラインの背中をどんどんと叩いた。
「それにしてもさすがだねえ。リーラってガチ肉食系だったんだなあ。俺、ちょっとリーラのこと舐めてたみたいだよ」
ジェフリーは妙なところに感心していた。僕もそれには同意だけど。
「フレインは周りとか気にしすぎるし考え過ぎて動けなくなるタイプだけど、リーラは自分の衝動と勢いに正直で周りなんかお構いなしだもんね。そりゃ、フレインのことなんか待ってるわけないよ」
また僕とジェフリーはあははと笑った。
今ごろリーラはフレインの部屋に特攻してるんだろう。心配しなくても、このままうまく行くのに間違いないはずだ。
僕たちは、結局東の空が白み始めるまで、そのまま宴会を続けたのだった。