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淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
第4章 ロリババア、過去の因縁に決着を付ける
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第32話 70年越しの決着


 自分の身長とほとんど変わらない打刀で、美鶴が加藤に斬りかかった。

 身体の軸もぶれず、刀に振り回されることもない。

 まるで身体の一部のように使いこなしている。


「肉体強化か。機関にいたときには使っていなかったがな」


 どこから取り出したのか、加藤が軍刀で受ける。

 こちらも危なげない動きだ。


「六歳で陰陽術など使えるわけがなかろう。後から憶えたのじゃよ」


 なおも攻撃を続ける美鶴。

 成人男性と幼女が互角に剣を打ち合わせている。

 なかなかに異常な光景だが、さっきの陰陽術は彼女自身の身体能力を強化したものなのだろう。


「子供が使ってこれほどの力か。なぜそれを隠す。国とために使おうとせぬ」

「陰陽の技に限らず、オカルトを捨てたのは日本人自身じゃよ。ほとんどの知識をアメリカに奪われたとはいえ、この国にはまだまだ使い手は残っていたのに」


 霊刀と軍刀がぶつかるたびに飛び散る火花が、二人の顔を白く照らす。

 戦いながら主義主張をぶつけ合うなんて、国民的な人気を誇るSFロボットアニメみたいだなと、と、つい関係ないことを考えてしまった。


 ともあれ、美鶴のいうことは正しい。


 占いや怪談を信じる人がいる一方で、霊能力者の力をわざわざ科学的に否定するテレビ番組だって後を絶たないののである。

 恐山(おそれざん)のイタコに、マリリン・モンローの霊を呼び出させるとか、馬鹿な企画だってあったくらいだ。


 降霊なんて、そうそう簡単にできることじゃないし、やっていいことでもない。テレビ番組の企画で霊を召喚するなんてもってのほかというべきで、ぶっちゃけホントにそんなことをやったら、関係者全員が怪死したっておかしくない。

 テレビ局に霊的な防壁なんてあるわけもないしね。


 そうやってオカルトをバカにするというカタチで、日本人たちは否定してきた。

 かわりに科学を信仰(・・)してるんだから、お笑いぐさなんだけどね。


 漢方薬を、胡散臭いとか気休めだとかいって切り捨てる人だって枚挙に暇がないんだぜ。

 どんだけ科学教(・・・)を盲信してんだって話である。


「だから私が変えるのだと言っている」

「それが余計なことだというのじゃ」


 切りつけ、外し。

 薙ぎ払い、受け流し。

 掬い上げ、叩き潰す。


 まったく互角に見えたが、徐々に美鶴がおされはじめる。

 ていうか加藤の霊力が増大してないか?


「まま!」


 危機を見た美胡が、すぐに援護に入った。


「二対一か! ハンデにもならんな!」


 いつの間にか加藤の軍刀が二本に分かれ、左右の手に握られている。

 それで二人の攻撃をいなし、反撃しているのだ。


「魔力を具現化した刀ってことか。人間にできる技じゃないよな」


 となると、あんまり面白くもない結論しかまってなさそうだなぁ。


「疾っ!」

「くあっ!?」


 加藤の蹴りが美鶴の腹に決まり、ものすごい勢いで弾き飛ばされた。


 奥多摩湖へと一直線だ。

 やばい!

 いくら強化していたって、この高さと勢いだったら大怪我をしてしまう。


「美胡がいく! ぱぱはそいつを!」


 飛び出そうとした俺を制し、美胡が大きく踏み切る。

 獲物を追うネコ科の猛獣のように。

 彼女が空中で美鶴をキャッチするのを、俺は横目で確認しながら加藤と正対した。


「残りは貴様ひとりだな。夜魔よ」

「いやいや。すぐ戻ってくると思うけどね? あの二人」


 べつに死んだわけじゃないもん。

 体勢を立て直したら、すぐに戦線復帰するだろう。


「もっとも、あんたがそれを目にすることはないけどね」


 ニヒルに笑ってみせる。

 俺の相棒を足蹴にしたんだ。まさかラクに死ねるとは思ってないだろうな。加藤。







 ばん、と、背中に翼が開く。

 次の瞬間、俺の身体は加藤の頭上五メートルの位置にあった。

 手には魔力の槍。


「さあ。とっとと死ね」


 出現させては投げ、出現させては投げ、とぶつけまくる。

 毎秒三発くらいの密度で。


 最初は軍刀でさばいていた加藤だったが、そのうちかするようになり、次第に足や腕にダメージを負い始めた。


「貴様! 卑怯だぞ!」

「相手の攻撃が届かない場所から攻撃する。人間の得意技じゃないか。卑怯とは心外だな。きみたちのルールで戦ってあげてるのに」


 加藤の叫びに、空中からせせら笑ってやる。


 自分の正体を明かさずに誹謗中傷をし、相手を精神的に追いつめて自殺に追い込んだ。

 なんて事件が何度も何度も起きている。

 そしてそれが明るみに出ると、誹謗中傷した人間が今度は誹謗中傷される側になるのだ。


「じつに日本人らしい戦い方じゃないか」


 くすくすと笑いながらひたすら槍を投げつけてやる。


「調子に……のるなよ!」


 怒りの声とともに、加藤の背中にも黒い翼が現れた。

 一直線にこちらへと向かってくる。


「やっぱりそうか」


 斬りかかってきた軍刀を紙一重で回避し、俺は適度な距離を取った。

 加藤は追撃してこない。

 姿勢制御に手一杯って感じ。


 おそらく、空中戦の経験が少ないのだろう。

 元が人間だから仕方ないね。


「悪魔族の翼に魔力の具象化。お前、悪魔を食ったな? 加藤」

「……気づいていたのか」

「確証はなかったさ。だから飛んでもらいたかったんだよ」


 魔力の具象化は俺たち夜魔でもできる。人間の中でも大魔法使い(ウィザード)なんて呼ばれる人なら、できなくはないだろう。

 あれだけでは確証は持てなかった。


 けど、翼を出してしまえば一目瞭然。

 夜魔の翼と、悪魔の翼と、吸血鬼の翼は、ぜんっぜん違うからね。

 ゆえに、空中戦を挑んでみたのである。


「うおおおっ!」


 加藤が突っ込んでくる。が、直線的すぎるね。


 戦闘機の戦い方でも猛禽の戦い方でも一緒だけど、空中戦の基本は円運動だよ。

 まっすぐ飛ぶなんて、的にしかなれない。

 ひらりと身をかわした俺は、その背中にぶっすりと槍をお見舞いしてやった。


「ぐぅ!?」


 翼を貫かれ、揚力を失った加藤が地に落ちる。

 俺もまた、ふうわりと着地した。


「なぜ……?」


 無様にもがきながら、それでも立ち上がった加藤が問いかける。

 どうして空中からの一方的に攻撃をやめたのか、という種類の問いだろうか。


「お前の正体を確かめたかっただけ。べつに俺の趣味じゃないよ。あんな人間みたいな戦い方」


 左手を前に出し、手のひらをくいくいと動かす。


「こいよ。地上戦なら勝ち目があるかもしれないぜ」


 眼光だけで人を殺せそうって目で睨んでいた加藤が、軍刀を構え直した。


「敵に塩をおくったつもりか。後悔するぞ!」


 セリフとともに斬り込んできた。

 獣人化した多賀谷よりも速く、鋭い。

 俺の身体能力では受けることも避けることもできないほどに。


 だが、

「なん……だと……?」

 加藤の刀は、俺の身体の五センチ手前で折れ飛んだ。


「防御魔法だよ。べつに珍しいもんじゃないさ」


 夜魔だろうと悪魔だろうと普通に使える魔法である。

 ゲームなんかでもメジャーだよね。

 けど、いまいちな扱いになってしまうのは、どうしても派手さがないから。


「この!」


 ふたたび刀を具象化して斬りかかってくる加藤。はたして結果は同様だった。

 彼の攻撃では、俺の防御を突破することはできない。

 まして充分にダメージは与えてあるし。


「ほらほら。そんなもんか?」

「ふざけるな!」

「これが人間と夜魔の差。思い知って、絶望しろ」


 ひょうひょうとした態度の俺に加藤がいきりたつ。

 もう完全に周囲が見えなくなっているね。


「この程度の男にひどい目に遭わされたと思えば、我が身の情けなさに涙が出てくるのう」


 ゆえに、背後の忍び寄っていた美鶴に気づくこともなかった。

 声に驚いて振り返ったとき、すでに彼の首は胴体と切り離された後だったのである。


 驚愕の表情を浮かべた顔が、さらさらと大気に溶けてゆく。

 獣人などとは違って悪魔は死体を残すことはない。

 首に一瞬だけ遅れ、胴体も消滅していった。


「グッドキル。美鶴」

「囮役、ご苦労であったの。アゾールトや」


 霊刀を鞘にしまい、近づいてきた美鶴が右拳を突き出す。

 こつんと、自分の拳をぶつけた。


 俺が加藤を倒す、みたいにいった言葉はフェイクである。

 だって美鶴の獲物だもの、横取りするわけにはいかんでしょう。


「自らの復讐を果たしたわけじゃが、たいして晴れやかな気分にはならんのう」


 いつも通りの淡々とした口調で言い放ち、幼女が奥多摩湖を見はるかす。


 俺は背後から、彼女の頭に手を置いた。

 たぶん顔は見られたくないだろうから。


 静謐をたたえた湖に、夕映えが映り込んでゆく。


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