表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淫魔と幼女  作者: 南野 雪花
エピローグ
33/33

少しだけ、その後の話をしようか


 風祭機関の研究資料を持ち出した加藤は、そのオカルト知識によって代々の日本政府にがっちり食い込んでいたらしい。

 不老不死は人類の夢だからね。


 まったく歳を取らない加藤という存在そのものが、政治家や高級官僚たちから垂涎の的だったのだろう。

 彼は知識を小出しにすることで、政府を間接的に支配してきた。

 たとえば霊的な治療でがん細胞を消滅させたりとかね。


「風祭はそんなことまで研究していたのかや」

「いや、そのへんは加藤が食った悪魔の知識だと思うけどね」


 首をかしげる美鶴に、俺は微笑を浮かべる。


 奴が食った悪魔のことは、ラシュアーニが突き止めてくれた。

 五十年くらい前に突如として消息を絶った悪魔族がいたらしい。名をレントール。女性型の悪魔だったそうだ。

 おそらくは、それが加藤に食われてしまった悪魔だろう。


 時系列で考えれば、風祭で研究していたのは人間を魔族に近づける方法。その副産物として悪魔族を召喚するというものがあった。

 その技法を使い、加藤は悪魔を呼び出して、その力を自分のものにしてしまった。


 あ、食べるっていうのは、マヨネーズをかけて頭からバリバリって意味ではなくて、その存在が持つエネルギーのすべてを吸収してしまうってこと。

 これによって、加藤は悪魔が持っていた知識を得ることができた。


「そこから快進撃が始まったんだろうね」

「人猫を増やして人間に因子を移植するという、馬鹿げた実験まではじめてのう」


 ふうとため息をつく美鶴。


 加藤を殺してから一週間。ことは表沙汰にならず、闇から闇へと葬られていった。

 これにはラシュアーニの尽力も大きいが、彼女の妹姫たるミュリアーニさまも手を貸してくれたらしい。

 なんかあの人、この街で人間の男と同棲してるらしいよ。


「私の問題は、まったく解決してないけどね!」


 美咲が息巻いている。

 あれからずっと、俺たちはラシュアーニの屋敷に住まわせてもらっているわけだ。

 なにしろ美咲がマスコミに追われているから。


「解決もなにも。そちらにはまったく手を打ってないからのう」

「せいぜいモリールトたちが、また余計なことを言ったってことくらいかな?」


 美鶴と俺は苦笑だ。

 ほっときゃいいのに、騒いでるマスコミや視聴者の前で「俺たちは真剣な交際を望んでるから、彼女につきまとわないで欲しい」なんておバカなことを言ったりしたから、そりゃもう火に油を注いじゃってるわけさ。


 男二人と女一人で、なにが真剣な交際だよ。

 美咲がどっちを選ぶのかって話題で持ちきりですよ。マスコミは。


 もうね。喋れば喋るほどドツボにハマっていくんだから、なんにも言わないのが吉。

 大学にまでマスコミやイフリートのファンに押しかけられた美咲は、へたしたら退学処分ってくらいまで追いつめられたんだ。


 これを救ったのが、ラシュアーニ配下のサキュバスたち。

 大学の上層部を軒並み籠絡して、美咲の権利を守らせたわけだ。

 やることが大げさだよね。

 ほっとけばいいのに。


「ほっといたら大学追い出されちゃうでしょうが! なんでホクトくんは私には冷たいのよ!」

「精気吸えないし」


 簡にして要を得た回答である。我ながら。

 俺にとって美咲というのは美鶴のオマケにすぎないからね。


「じゃがアゾールトや。美咲が留年したり退学になったりすれば、親元に呼び戻されることはあきらかじゃ。そうなれば、わしだって東京にはいられぬぞい」

「なんだと! 美咲の生活を脅かす輩は、この俺が始末してやる!」

「日本の政治家だって、そこまで見事に手のひらは返さないわよ。ホクトくん」


 きゃいきゃいと騒いでいるのを、美胡がにこにこ笑いながら見つめる。

 それが日常の光景になった。

 あとは、自分のマンションに帰ることができれば完璧なんだけどね。






「健康的な顔色しちゃって」


 不意に後ろから声をかけられる。

 美鶴から精気を分けてもらい、屋敷の屋根の上で月光浴としゃれこんでいたのに。


「ちゃんとした食事って良いもんだよな。ラシュ」

「まさかアゾンからそんな言葉が出る日がくるなんてねえ」


 ちょんと横に腰掛けたラシュアーニが微笑する。


 まったくだよ。

 二百まで生きられるか、かなり不安だったもの。俺自身が。


 いまは余裕がある。

 他の人への気遣いも、前よりできてると思う。

 すくなくとも、嫉んだ目で同族を見ることはなくなったね。


「衣食足りて礼節を知る。人間たちの言葉よ。厚意まで拒絶して無頼を気取ってたアゾンは、見るに堪えなかったわ」

「そんなにひどかった? 俺」

「鼻持ちならなかった。何回蹴っ飛ばしてやろうかと思ったことか」

「うん。実行してるよね。何回も」


 何度蹴飛ばされたり投げ飛ばされたり首を絞められたりしたことか。

 信じられるかい?

 こいつ、俺の乳姉弟で幼なじみなんだぜ。


「親愛表現よ。弟はいじめられるものと相場が決まってるのよ」

「そんな相場は犬にでも食わせてしまえ」


 笑い合う。

 こういう冗談を飛ばし合えるようになるんだもんなぁ。

 本当に美鶴のおかげだよ。


「来週、獣王がうちにくるわよ」


 人猫の子供たちの引き渡しに関しての交渉だろう。

 とくに問題なく受け入れてもらえる手筈にはなっているが、一応は礼を述べるために顔を出すんだそうだ。

 希少な人猫を保護してくれたってことでね。


「ミツルのご飯も食べてみたいって言ってたわよ」

「なんだか、試験みたいだな」

「みたいじゃなくて試験なのよ。人猫を人間に預けるってこと関して、彼けっこう懐疑的なの」

「まじすか」


 なんと。

 美鶴の為人とかを見て決めるってことか。

 風祭機関との因縁に決着がついたと思ったら、次は獣王の試練ときた。

 波瀾万丈である。


「俺はいつ、しがない探偵に戻れるんだろうな」


 ため息がでちゃうよ。


「にやにや笑いながらぼやいても説得力セロよ」


 ぷすっとラシュアーニが俺の頬をつつく。

 やばい。顔に出ていたか。

 美鶴と知り合ってから、なんだか人生が楽しくなってきたのだ。

 次はなにが起きるのかとワクワクしている自分がいる。


 次のステージは、獣王モルデナサを納得させること。

 面白そうじゃないか。


 挑戦的な笑みを空へと向ける。

 受けて立つぞといわんばかりに、沖天にかかる満月が輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様でした。 猫探偵のテクニックで獣王も骨抜きに。
[良い点] 安定のテンポの良さと陰陽師というワードにニヤニヤが止まりませんでした。 今回もとても楽しませていただきました。 次回作もお待ちしております。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ