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紅蓮の大地  作者: 大田牛二
第二章 五胡躍動

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韓璞

317年


これ以前に長安で謡(流行り歌)が歌われていた。


「秦川の中、血が流れて腕が沈むほどになる。ただ涼州だけは柱に寄りかかって傍観する」


漢趙の兵が関中を顛覆させると、氐・羌が隴右を侵すようになり、雍・秦では民の死者が十分の八、九に上ったが、涼州だけは安全であった。


そんな涼州に晋の黄門郎・史淑ししゅくと侍御史・王沖おうちゅうが長安から奔ってきた。


史淑らは、西晋の愍帝・司馬鄴しばぎょうが城を出て漢趙に投降する一日前、自分達に詔を持たせて涼州に派遣し、それを張寔ちょうしょくに下賜させた、と称し、張寔を大都督・涼州牧・侍中・司空に任命して、皇帝の代わりに命を発して政務を行う権限を与えた。


更に愍帝の詔はこう告げた。


「私は既に琅邪王(司馬睿しばえい)に対して、即時、帝位を代行するように詔した。君(張寔)は琅邪王に協力し、共に多難を乗り越えよ」


史淑らが姑臧に至ってから、張寔は三日間、大臨(哀哭の儀式)した。一方、大都督等の官は辞退して受け入れなかった。


これ以前に張寔の叔父・張粛ちょうしゅくが西海太守になり、長安の危急を聞いて、自ら先鋒になって救援に向かう許可を請うていたが、張寔は張粛が老齢だったため、同意しなかった。


張粛は長安の失陥を聞くと、悲憤して死んでしまった。


張寔が太府司馬・韓璞かんはく、撫戎将軍・張閬ちょうろうらを派遣し、歩騎一万を率いて東の漢趙を撃たせた。討虜将軍・陳安ちんあん、安故太守・賈騫かおう、隴西太守・呉紹ごしょうに命じ、それぞれ郡兵を率いて先鋒にさせた。


更に、秦州にいる相国・司馬保しばほに書を送ってこう伝えた。


「王室の有事に当たって、尽力を忘れたことがありません。以前、賈騫を派遣してあなた様の挙動を視させましたが、ちょうど符命を受け取ったので、賈騫に命じて軍を還らせました。しかし賊が長安に迫ったのに、胡崧こしょうが進もうとしないので、麴允が金五百を持って胡崧に救援を請うたと俄かに聞きました。そこで、張騫らを派遣し、軍を進めて嶺を越えさせることを決断しましたが、ちょうど、朝廷が顛覆したと聞き、忠を為そうとしても遂げられなかったので、憤痛の深さは、死んでも償いきれない罪責があるほどです。今、改めて韓璞らを派遣しました。ただあなた様の命に従うだけです」


結局、韓璞等は兵を進めることができず、引き還した。


韓璞らが南安に至った時、諸羌が路を断った。対峙が百余日も続き、韓璞らは食糧も矢も使い果たしてしまった。


そこで韓璞は車を牽く牛を殺して士卒にふるまい、泣いてこう問うた。


「汝らは父母を思念しているか?」


士卒は「思念しています」と答えた。


また、韓璞が問うた。


「妻子を思念しているか?」


士卒は「思念しています」と答えた。


また、韓璞が問うた。


「生きて還ることを欲するか?」


士卒は「欲します」と答えた。


また、韓璞が問うた。


「私の命令に従うか」


士卒は「はい」と答えた。


そこで韓璞は戦鼓を敲いて喚声を上げ、兵を進めて戦った。ちょうどこの時、張閬が金城の兵を率いて後から到着したため、挟撃して大破し、数千級を斬首した。






二月、漢趙の昭武帝・劉聡りゅうそうが従弟・劉暢りゅうちょうに歩騎三万を率いて滎陽を攻撃させた。


晋の太守・李矩りくが劉暢から七里離れた韓王故塁に駐屯した。


劉暢は使者を派遣して李矩を招いた。


李矩は、劉暢の兵が突然至ったため、まだ防備が間にあっていなかった。そこで、使者を送って劉暢に偽りの投降をすることにした。


劉暢はこれを聞くと喜ぶと備えを設けなくなり、李矩を大いにもてなした。将帥が皆酔いつぶれる中、李矩は夜襲しようと欲したが、士卒が皆、恐懼しており動こうとしなかった。


そこで自分の将・郭誦かくしょうを派遣して子産祠(子産は春秋時代、鄭国の名相)で祈祷させ、巫にこう公言させた。


「子産の教えがあった。神兵を遣わして助けるであろう」


李矩の兵が皆、奮い立ち、争って前に進もうとしたので、李矩は勇敢な士千人を選び、郭誦に指揮させた。


こうして劉暢の営を襲撃して破り、数千級を斬首した。


劉暢は単身でなんとか脱出することにできた。







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― 新着の感想 ―
[一言] 子産という人は本質は政治家でありながら、軍事でも失敗しなかった人ですが、こういうふうな軍神あつかいには違和感がつよいですね。
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