80. 電話が欲しい
前回のお話
先代国王エンジアルゴが参ったぞ。
ははー。orz
先代国王が優剛の屋敷に来てから数日後。
普通にお客としてエンジアルゴが飛行屋を訪れたのである。
もちろん列に並んでいたのは護衛だったが、次に呼ばれるという時に本人が現れた。
エンジアルゴは飛行前の待機場所では無く、堂々と優剛に近づいていった。
「お爺ちゃん何してんの・・・?」
「馬鹿もん。フィールドに来たら1度は体験するもんだと評判になっておるんだ。儂が来ても文句はあるまい。では、行ってくるぞ。」
他のお客には幸いにも元気な白髪お爺ちゃんとしてしか認識されていない。こんな田舎地方のフィールドでは、先代国王の姿を知っている者は極一部である。
本人も話しかけてくるお客たちと気軽に会話を楽しんでいるようだった。
「ハッハッハ!これは凄い!ハッハッハ!」
最初はアイサが補助に付いたが、すぐにコツを掴んだエンジアルゴは既に1人で飛んでいる。
「ふむ。もう終わりか。しかし、5人で銅貨1枚は安いのぉ。」
「子供の数が多ければもっと安いですよ。」
「ハッハッハ!今度は孫と一緒に来るぞ。」
「はーい。お待ちしてまーす。」
帯同している使用人や護衛たちも一緒に飛んだが、非常に満足した表情をしていたので、エンジアルゴは追加の代金として金貨1枚を置いていった。
幸いにも小市民の優剛がそれを目撃する事は無かったが、あとでテスから報告を受けて頭を抱える。
「100万とかお爺ちゃん呆けちゃったのかな?」
「それだけ満足したのかと思います。」
「国民の血税を何だと思ってるんだ。」
日本の政治家が同じ事をしたら辞職まで追い込まれるだろう。しかし、異世界の王族であれば許されるのだ。
「シュークリームのレシピ代だと思う事にするよ・・・。」
優剛はそう思い込んで無理矢理納得するのだった。
「なぁ、ユーゴ。」
「お爺ちゃん昨日も来ましたよね?金貨1枚は多いですよ。規定分だけ払って下さいね?」
「折角来た客に何を言うか。儂は王族だぞ。ケチな金額を払えるか。そんな事よりだな。」
2日続けてお客として来たエンジアルゴが、飛行後に優剛に話しかけた。
「バスタが持っていた刃が引っ込む短剣は何処で手に入るのだ?ユーゴから貰ったと言うだけで、詳しい事は教えてくれんのだ。」
「あぁ・・・。アレですか・・・。」
「そうだ。バスタに騙されてな。儂も仕返しがしたいんじゃ。」
「ちょっと待って下さいね。お爺ちゃんが欲しがってるなんて知ったら驚くと思うので聞いてみます。」
優剛は異空間からスマホサイズの金属板を取り出して、魔力を込めて強化する。そして、金属板を電話のように耳に当てて口を開く。
「ダメさーん。刃が引っ込む短剣を欲しい人が居るんだけど、今って話せる?」
優剛の不思議な行動にエンジアルゴは眉根を寄せて口を開く。
「貴様、何をしておるんだ?」
「電話です。電話。」
優剛は麻実に貰った木の板では、電話の雰囲気が出ないという謎の理由で、ダメリオンに聞く魔力を貼り付ける金属板を貰いに行ったのだ。
その際にダメリオンが「ユーゴさんなら他人の聞く魔力も作れるんじゃないっスか?」という発言を聞いて、ダメリオンで実験したら見事に出来たのである。
当然、ランドとダメリオンは気持ち悪がったが、便利な物が出来たと喜んでいた。突然、優剛が来て無茶ぶりされるよりよっぽどマシである。
オリハルコンを持って来たり、人間が荷台を牽く為のベルトなど、普通ではありえない発注を優剛はしてきたのだ。
『あんなの誰が欲しいっスか?』
しばらくして優剛の頭にダメリオンの声が響いた。
「先代の国王様だよ。」
『ぶっ!今フィールドに来てるって噂の?知り合いっスか?』
「うん。ちょっとした知り合い。ランドさんのお店を紹介して良いの?」
『待つっス!絶対止めて欲しいっス!短剣を持って行くから滞在場所を聞いて欲しいっス。』
「あーい。ちょっと待ってて。」
優剛は金属板を耳から離して、エンジアルゴに尋ねる。
「お爺ちゃんって何処に泊ってるんですか?」
『なんスかお爺ちゃんって!?ホントに先代の国王様っスか!?って言うか優剛さんの傍に居るっスか!?』
しかし、金属板を優剛の耳から離したところで、ダメリオンの声が聞こえなくなるわけではない。ダメリオンの持っている金属板自体が優剛の耳であり、聴覚なのだ。
「あー。名前は知らんな・・・。」
「じゃあ、執事さんとか居ないの?滞在場所に行って直接渡すって言ってますよ。」
「おぉ!ではそうしようか。」
そう言って優剛はエンジアルゴに古くから仕えている執事を紹介された。
彼は非常に優秀ですぐに段取りを整えてくれた。優剛もダメリオンにエンジアルゴが滞在している場所を伝えて、今後は執事が窓口になって詳しい短剣の見た目に関して話し合うそうだ。
そんな話が一段落して優剛が口を開く。
「適当に作って渡せば良いじゃん。」
『ユーゴさん、馬鹿っスか?無礼者っスか?両方っスか?王族に片手間で作った玩具みたいな短剣を渡すわけにはいかないっスよ。ただでさえ玩具なのに・・・。』
「第一号は既にバスタ・・・、今の国王にあげちゃったよ。」
『何してるんスかあぁぁ!?聞いて無いっスよ!?』
「なんか欲しそうに見られたからあげちゃった。喜んでたよ?嬉しいでしょ?」
ダメリオンは狼狽えた。そして気になってしまった。あの刃が引っ込む短剣を王様の前で誰に使ったのか。優剛なら自分が考えている最悪の使用法をしているはずだ。
「見られたって・・・。ユーゴさん、あの短剣を誰に使ったんっスか?」
「バスタだよ。あー、今の王様本人の胸に深々と突き刺した。」
優剛の頭の中にダメリオンの絶叫が響いた。優剛は金属板を耳から離すが、絶叫の音量は変わらない。
優剛が金属板を耳から離したタイミングでエンジアルゴが口を開く。
「もう良いか?それでそのデンワとやらが知りたいのだが?」
再びダメリオンの絶叫が優剛を襲う。
『うあぁぁぁ!不敬っス!先代の国王を待たせたっス!あぁぁぁあ!俺・・・死んだっス・・・。』
優剛は耳を抑えながらも真剣な表情をしているエンジアルゴを見て、人差し指でポリポリと頭を掻く。
(しまった。メッチャ欲しそうだ・・・。国の平和の為のとか絶対言ってくるよ・・・。)
「同じ物がもう1つあって、そこにこちらの音を届ける魔術です。」
本質は魔道具に限りなく近い物だが、優剛は絶妙な嘘を加えてさらに魔術と言った。
それでもエンジアルゴは絶句した。
この技術があれば遠く離れた街の様子や魔物の襲撃があっても、現場から緊急の報告をすぐに受ける事が出来るからだ。遠い距離が一瞬でゼロになる。
エンジアルゴは似たような魔道具に心当たりがあるようで口を開く。
「似たような魔道具はアーティファクトの水晶玉でしか見た事が無いぞ。」
(ん?あるのか・・・。水晶玉同士で空気の振動でも再現するのかね・・・。)
優剛もこの世界の魔術をかなりいじり倒している。
何が出来て何が出来ないのか。というのは優剛の基準でかなり固まりつつある。あとは発想だけの段階で止まっている妄想も数多く抱えている。
水晶玉で会話するという魔術を聞いた瞬間に、音のやり取りをする為に、送る側の空気の振動を受け側で再現すれば良いという結論を導き出す。
「おい!聞いているのか!?」
(触覚に似た機能を付けて、あとは風かなんかで空気を震わせるか?・・・うん。出来るな・・・。)
思考に没頭する優剛をエンジアルゴが強引に引き戻す。しかし、この間もお客たちは飛行を楽しんでいる。高速で飛ばす訳では無いので、優剛にとっては無意識でも問題ない。
「おい!貴様!そのデンワの価値がわかっているのか!?救えない命が救える魔術だぞ!」
「あぁ。失礼しました。水晶玉の魔道具は面白いですね。」
「そんな事を話しているのではない!む?・・・作れるのか?」
「難しいと思います。」
(たぶん出来る。)
優剛は再び嘘をついた。遠距離通話が可能な魔道具を新たに作成可能というのが、エンジアルゴのようなコントロール不能な権力者に知られたら、厄介事の匂いしかしないのである。
しかし、エンジアルゴは諦めた様子を見せずに口を開く。
「そのデンワなら作れるであろう。金はいくらでも出す。作るんだ。」
「電話は魔術なんですよ。やり方を教えるのは出来ます。しかし、僕ならこの街全体に魔力が届くので出来ますけど、距離は術者に依存しますよ?」
「ぐぅ・・・。貴様は・・・完全に規格外か・・・。」
(水晶を量産しても結局、人は死ぬでしょ。街の外が危険すぎるよ。)
今もどこかで誰かが理不尽に死んでいる。どんなに魔術を極めても世界中が見通せるわけではない。全ての命が救えるわけでは無い。魔獣も人間を襲って糧にしている。
異世界では弱肉強食のルールに人間も当て嵌められている。しかし、全ての命を救うために、自分の命を燃やして努力する者も居るだろうが、優剛は自分の大切な人の命を守る為に全力を尽くすのだ。
エンジアルゴは目を閉じたまま口を開く。
「では水晶を作る研究をするのはどうだ?金ならいくらでも出そう。」
「アーティファクトなんて作れませんよ。僕の時間は家族の為に使いたいです。他の人を当たって下さい。」
『俺の聞く魔力を解除して欲しいっス・・・。』
電話の作成方法を知っているダメリオンにとっては、エンジアルゴの言葉1つ1つに圧力を感じて、優剛が嘘を重ねつつ断っているのが信じられなかった。
優剛が断る度に「やるっス!」っと返事をしているが、精神的に限界を迎えたダメリオンが呟くように告げても無理はない。
「あぁ。ごめん、ごめん。あとは執事さんとよろしくねー。」
優剛は異空間に金属板を放り込んで、エンジアルゴを見つめる。ここで怯んでは相手に嘘がバレる可能性もある。優剛は真剣な表情でエンジアルゴと目を合わせ続ける。
何かを言いかけたエンジアルゴは首を左右に振って言葉を飲み込んでから、溜息を吐き出して優剛に告げる。
「ふぅー。・・・残念だが、わかった。」
「はーい。ありがとうございます。」
重い雰囲気を身体から発するエンジアルゴは、ゆっくり歩いて庭から出て行った。
いつものダラっとした優剛の雰囲気に戻った事を安心したフガッジュが口を開く。
「やっぱり元国王はプレッシャーが凄いですね。」
「・・・超怖かった。」
「全然そんな風に見えなかったですよ・・・?」
「あのお爺ちゃんの目を見た?殺されるかと思ったよ・・・。」
優剛は営業開始前に用意して貰った紅茶を飲んで心を落ち着ける。
「ふー。今日も平和で紅茶が美味しい。」
「・・・さっきまで修羅場だったじゃないですか。」
「忘れたいの!忘れさせてよ!」
その数日後にダメリオンから電話で、エンジアルゴの執事に刃が引っ込む短剣を納入したと連絡があった。
『凄い沢山報酬が貰えたっス。ユーゴさんが紹介してきた時は死ぬかと思ったっスけど、この仕事をやって良かったっス。』
「それは良かったねー。」
『でも、デンワを献上しろ。って言われたっス。』
「え?でも今してるじゃん。」
『俺の持ってるデンワはユーゴさんに聞こえるだけだって説明したっス。それに魔術なら王都に持って行けないからって事で一旦保留になったっス。』
「あのジジイ。まだ諦めてなかったか。」
『ちょ!止めるっス!不敬っス!ユーゴさん殺さ・・・、無理っスね。逆に襲撃者が心配っス。』
「まぁ、また何か言って来たら、献上しちゃって良いよ。魔力消すし。そんで新しいのをダメさんにあげるよ。」
『そうなったら新しいデンワは要らないっスよ・・・。』
「えー。便利じゃん。」
『ただ話すだけなら優剛さんの屋敷に行くっスよ・・・。デンワがあるとシュークリームを食べられる機会が無くなるっス。』
「別に用が無くても来て良いよ。」
『え?マジっすか?ご飯食べに行くだけでも良いんスか?』
「部屋は余ってるし、泊っても良いよ」
『いつの間にかユーゴさんの使用人になってそうで怖いっス・・・。』
「はは。ダメリオンは優秀な職人だからいつでも歓迎するぞ。」
優剛はあえて仰々しい口調で言った。
『ちょ!止めるっス!まだまだ修行中の身っス。・・・でも、ユーゴさんなら考えておくっス。』
「ははは。期待してるよー。」
『じゃあまた何かあったら連絡するっス。』
「はーい。」
今は飛行屋の営業中である。既にフガッジュと優剛の護衛を交代していたシオンが、電話を異空間に放り込んだ優剛に声をかける。
「ダメさんうちの使用人になるんですか?」
「ううん。修行中の身だからって遠慮してたよ。うちに来たら作って欲しい物があるんだよなぁ・・・。」
優剛が作って欲しい物はきっと非常識な物に決まっている。そんな物を誰かに見せる訳が無い。見せれば欲しがってランドとダメリオンの身が危ない。そういった優剛の思いを読み取って、ダメリオンに発注していないとシオンは推察した。
「あっ。王都に行こう。」
「唐突ですね・・・。」
「試験の日程確認と用意する物があれば早めに用意しないとね。」
その日の午後。優剛は王都に飛んでいく。
しかし、由里とティセルセラは試験を受けてもいないのに準備万端で、明日からでも学園に行く事が出来る状態だった。
「え?じゃあ用意する物とか無いんですか?お金とかは?」
「全てこちらで用意しましたので、ユーゴ様が用意するような物はありません。」
ムラクリモに確認すると優剛が用意する物は無かったが、お金の話は別である。
「お金は駄目ですよ。由里に渡しておくんで掛かった費用は払います。」
「いえ、いえ。ユリちゃんが自分の分は全部自分で払ってくれましたよ。」
優剛はムラクリモの答えに驚きを隠せない。優剛が異世界のお金を由里に渡した事は無いのだ。
「マミちゃんから貰ってたみたいよ。たぶんエンジアルゴ様を治療した報酬を、そのまま渡したんじゃないかしら。」
(麻実いぃぃぃぃ!聞いてないけどOKだ!)
「えっと・・・。じゃあ試験の日程だけ確認したいです。」
「試験は来月の1日からね。2人は初日に合格してくる予定よ。」
初日に合格する事を疑っていないムラクリモに優剛が尋ねる。
「合格ってその日にわかるんですか?」
「普通は翌日に合格者の番号が貼りだされるわ。翌日以降も試験は続くからドンドン追加されていく形ね。でも、あの2人なら即日で合格が言い渡されるはずよ。」
発表前に直接合格を言い渡されるのは、魔術試験で非常に優秀な結果を出した者だけだ。座学の試験結果など考慮しない程の圧倒的な結果が必要だが、由里とティセルセラなら学校側が欲しいと言うほどの人材である。
「はは・・・。では、1日にまた・・・。あっそうだ。王城の料理人がシュークリームの作り方を聞きに来ると思いますので、その時はよろしくお願いしますね。」
優剛は思い出したかのようにムラクリモに告げた。
「あら、それは大変ね。王族の誰かがシュークリームを食べたのですか?」
「先代国王が今フィールドに居るんですけど、うちに来た時に食べたんですよ。」
「あら、あら。実際に来るのはもう少し後かもしれないけど、準備だけは進めておきますね。」
そして、改めて優剛は別れを切り出す。
「では、今日は帰りますね。」
「あら、もう帰るんですか?」
「はい。由里の顔も見れたし、帰ります。」
(ラーズが帰って来る!)
「あらー、それは残念ねぇ・・・。」
(くっ。戦闘狂の目が怖い。)
非常に残念そうなムラクリモの目は挑戦者の目だ。ラーズリアと同じように優剛と模擬戦をする機会を常に伺っている。優剛は王都に来てすぐに由里と軽く会話した事もあって、逃げるように王都を飛び立った。
「ユーゴはよく来るわね。」
「うーん。私が想像してた留学と、なんか違うんだよね・・・。」
由里が麻実から聞いていた留学の話は1年に1、2回しか会えないというものだった。しかし、1週間に1,2回のペースで優剛は王都に現れるので、少し拍子抜けする由里であった。
既にラーズリア邸の庭の端っこには優剛の着地用スペースまで用意されている。来月の1日に来るのは確定しているが、それより前に来ないとは言っていない。
翌々日も優剛は由里に会いに王都に飛んでいく。
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