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家族で異世界生活  作者: しゅむ
70/215

70. 買い食い

前回のお話

ハンターズギルド見学。

軽快なやり取りを続けるラーズリアとハンターズギルドの会長であるミカテイル。そんな2人に割り込むようにして優剛が尋ねる。


「あのー。僕を呼び出した用件はなんでしょうか?」


腰の低い弱気な大魔術士に違和感を抱いたラーズリアが優剛に尋ねる。

「なぁ、普段のユーゴはこんな感じなのか?」

「ラーズ以外には大体そうだよ。ちょっと引っ込んでてよ。」


どちらの態度が優剛の素なのかは一目瞭然である。自分にだけ素で接する友人の優剛に気を良くして、どことなく嬉しそうなラーズリアは優剛の要求通りに黙る。


「ほぉ、ラーズリアと仲が良いのは意外だな。用件は君の等級についてだ。」

「何級でも良いですよ・・・。本当に。」

「フハハ!本心でそんな風に言うハンターは大物しかおらんよ。」


困ったような表情の優剛に向かってミカテイルは告げる。

「依頼達成数が1件のハンターが1級というのは前例が無い。しかし、ユーゴ君の実力は1級以上だと認識している。」

「俺より強いぞ。」


ミカテイルは口を挟んだラーズリアに同意する。

「わかっている。狂魔地帯に単独で入った上に、超特級危険生物を2体も同時に相手をして無傷の生還だ。とても信じられる内容ではない。儂はフィールドのギルドマスターからの報告書を読んで目を疑ったぞ。」

「ユーゴだからな。」


自分の事のように言うラーズリアを無視してミカテイルは続ける。

「どんなに裏付けを取っても報告書の内容が真実だと告げている。ユーゴ君の前では青銀狼とブラックテイルドラゴンは完全にペット扱いだ。さらにユーゴ君を直接審査官が審査すれば、審査官が2人同時でも歯が立たなかったという報告だ。しかし、依頼達成数は1件だけ・・・。」


ミカテイルは困ったように首を横に振って口を開く。

「達成した依頼も狂魔地帯の調査だけだ。依頼主が秘匿を希望しない限り、ハンターが達成した依頼名くらいの閲覧は可能だ。詳しい内容は見る事は出来んが、狂魔地帯の調査だけなら他のハンターも達成している依頼で、とても特別扱いは出来ん。前例が無いにもほどがあるんだよ・・・。」


ミカテイルは溜息を吐き出して優剛に告げる。

「儂はユーゴ君が特級に値するハンターだと考えている。しかし、それにはユーゴ君の実力を証明するような依頼を達成して欲しいんだ。」

「特級か!ユーゴには相応しいな。」


特級を知らない優剛がミカテイルに尋ねる。

「等級は1級が最大では?」

「ギルドカードに記載される等級は1級が最大だが、等級そのものには特級があるんだ。」

「なぜギルドカードに記載されないんですか?」


ミカテイルは頷いて口を開く。

「特級ハンターが少なすぎて、世間に浸透しておらんのだ。特級のギルドカードを見ても4級以下や、偽造されたカードだと勘違いされる事が多くてな。それでギルドカードには1級を記載するが、本当に困難な依頼を持って来た依頼人には、ギルドが特級ハンターを指名するという事だ。」


優剛は大きく頷いて口を開く。

「おぉ!なるほど。・・・辞退します。2級で良いです。」

「いや、いや。待ってくれ。」

「待てないですよ。僕が特級か1級に相応しい依頼を達成するっていうのが、そもそも間違っています。僕は昇級を望んでいないのに、そんな依頼を受ける訳が無いじゃないですか。」


ミカテイルは顎ヒゲをサラっと撫でてから口を開く。

「ふむ。報告通りだな・・・。しかし、優秀な人材を遊ばせておくわけにはいかんのだ。」

「評価して頂けているのは嬉しいですが、僕の気持ちは変わらないですよ。」

「そうか・・・。実に残念だ。優秀なハンターは貴重なんだがな・・・。」


残念そうなミカテイルを見て、ラーズリアが口を開く。

「なぁユーゴ、良いのか?特級はともかく、1級は何かと便利だぞ?」

「僕はフィールドで気楽に生活出来れば良いんだから、3級でも便利だとは思って無いんだよ。飛行屋も順調だし、危険なハンター業に興味は無いよ。」

「だそうだ。オッサン、諦めろ。」


ミカテイルは名残惜しそうに口を開く。

「むぅ。わかった。ユーゴ君の等級は2級とする。」


話は終わったと、優剛とラーズリアが腰を上げる。続いてジェラルオンと真人も立ち上がる。

扉の前で待機していたエミーナが優剛を睨みつける。


(クッコロさんがめっちゃ睨んでる・・・。あ!)


優剛は少しでも関係が改善出来ればと思っていたので、ラーズリアを使う事を閃いた。


「ねぇ、ラーズ。」

「ん?なんだ?」

「あそこに立ってる人はエミーナさんって人なんだけど、ラーズの大ファンなんだって。握手とかしたら喜ぶと思うよ。」


優剛の声が聞こえているエミーナは明らかに狼狽えている。頬を染めて視線は定まらない。


「ほぉ。それは大事にしないといかんな。」


ラーズリアはエミーナに歩み寄って口を開く。

「応援ありがとう。君は優秀なハンターだと思うが、身体には気を付けてくれ。」


そう言って手を差し出したラーズリアの手を、エミーナは両手でガッチリと掴んで惚けた表情でラーズリアを見上げる。


何かのイベント会場を幻視した優剛はエミーナが、このままラーズリアから離れないんじゃないかと想像する。


(はーい。お時間でーす。)

しかし、ここで優剛がラーズリアをエミーナから引き剥がせば恨まれたままだ。いや、むしろ恨みが深まって命の危険すらある。問題の解決にはならない。


そして、優剛は決断する。

優剛は握手する2人を無視して部屋を出ていく。それに続くジェラルオンと真人に慌てたラーズリアがエミーナから手を離して追従する。


部屋には残念そうなミカテイルと、名残惜しそうな表情のエミーナを残して扉が閉められた。


優剛は紅茶を飲んでいたが、果実水の味が気になって真人に尋ねる。

「果実水は美味しかった?」

「うん!」

「それは良かったね。」


ようやくギルドを出れば、陽が傾いた夕方である。

優剛はジェラルオンをチラっと見てからラーズリアに告げる。

「ラーズ、買い食いして帰ろうよ。」

「ハッハッハ!名案だ。」


優剛は身体が弱かったジェラルオンが、買い食いの経験も無い事を想像してラーズリアに打診したのだ。

ラーズリアもすぐにそれを察して、笑いながら快諾した。


「真人、何食べたい?」

「にく!」

「あそこの串焼きだぁぁ!」


優剛は真人の手を取って屋台に向かって走り出した。真人も嬉しそうな声をあげている。


その後ろ姿を見ていたラーズリアがジェラルオンに告げる。

「ジェラは何が食べたいんだ?」

「え・・・でも・・・。」

「好きな物を言って良いんだぞ。」


優しく告げるラーズリアに、何か悪い事でもしているような気がするジェラルオンは恐る恐る口を開く。

「・・・あそこの小さいお肉の串焼きが食べてみたいです。」

「よーっし!行くぞジェラ。」

「わっ!」


ラーズリアもジェラルオンの手を取って走り始める。今まではこんな事をすればすぐに咳き込んで呼吸困難になってしまっただろう。

ラーズリアは息子と一緒に並んで走る事を堪能する。ジェラルオンも一緒に走れる事を同じように楽しんでいる。

そして、ラーズリアは屋台の店主から2本の串焼きを購入して、先端の肉を1つ食べてから、食べてない方の串焼きをジェラルオンに手渡す。


その後もラーズリアはジェラルオンに見つめられながら、次々に串焼きを食べていく。ラーズリアもジェラルオンに串焼きを食べるように目で促す。


「坊主、熱い内に食った方が美味いぞ。」


屋台の店主がジェラルオンに声をかけた。ラーズリアは内心で店主の援護に感謝を述べる。

援護の甲斐もあってジェラルオンは先端の肉を口の中に納める。


「・・・美味しい。」

「あったりめぇだろ!」

胸を張る店主に笑顔を向けるジェラルオンは次々に肉を食べていく。


「ありがとな。」

「毎度。」

ラーズリアは店主に向かって軽く感謝を言ってから優剛たちを探す。


優剛たちは既に2軒目の果物が一口大に切られた物が、串に刺さった状態で売っている屋台の列に並んでいた。優剛と真人の手には肉の串焼きが握られており、2人は仲良さそうに食べている。


「よし。合流するぞ。」

「はい!」


列に並んでいた優剛は近づいて来たラーズリアたちに気が付いて尋ねる。

「ラーズも食べる?」

「ジェラ、どうする?」

「食べたいです!」

「2本余分に買うねー。」

「すまんな。あっちで待っているぞ。」

「あーい。」


ラーズリアとジェラルオンは屋台から離れて、少し広い空間で優剛たちを待つ事にした。

2人になったタイミングでラーズリアが口を開く。


「ジェラとこんな事が出来るなんて夢のようだ。」

「僕もです。昨日まで外に出られなかった僕が、今日は外で買い食いですよ。はは。信じられないです。」

「楽しいな。」

「はい!」


ラーズリアとジェラルオンは良い笑顔で会話を交わす。


果物が刺さった串を持った優剛たちが合流してからも、様々な屋台に寄り道をしながら帰宅する。

ジェラルオンが「もうお腹一杯です」と言った時に気づくべきだった。彼らには帰ったら夕食が待っているのだ。


優剛もラーズリアも気づいていたが、怒られるまでが買い食いなのだと開き直っていた。


ラーズリア邸に戻った優剛とラーズリアは夕食を食べる部屋の隅で正座していた。

2人の前には妻の麻実とムラクリモが腰に手を当てて、2人を見下ろしている。


「ラーズ、父親が子供に買い食いを勧めて夕食が食べられないってどういう事よ。」

「優剛、私たちはお客の立場なのよ。用意して頂いた食事を全部残して良いと思ってるの?」


時折、椅子に座っている真人とジェラルオンが、優剛たちを申し訳なさそうに見る。


「「はい、・・・すみません。」」

何故か絶妙なコンビネーションを発揮して、声を揃えて謝罪を口にする父親たち。


「ねぇ、優剛の身体・・・浮いてない?」

「浮いてないです。」

(今は!)


優剛は正座しながら1㎜ほど浮いていたが、今は浮いていない。麻実の指摘を受けて即座に着地したのだ。


「おい、ユーゴ。ズルいぞ。」

「裏切るのかラーズリア。」


優剛の言葉にムラクリモが反応した。

「ユーゴ様に浮かせてもらってるの?」


ラーズリアは慌てて否定する。

「そんな!そんな事は断じてないぞ。」


慌てれば慌てるほど言葉からは信用が失われていく。


(フッフッフ。計画通りだ。)

優剛は表情には出さずにほくそ笑む。


「おい、ユーゴ、これは逃げるべきじゃないのか?」

「無駄な抵抗は止めるんだラーズ君。朝の鬼ごっこで麻実を見ただろう。逃げられると思っているのかね?我々に出来る事は反省と謝罪なのだよ。」


不自然な口調の真面目な優剛の回答に麻実の第六感が何か告げた。子供たちには聞こえないような声で告げる。

「優剛・・・遊んでない?もしくは・・・教育?」

(あら、鋭い。)


怒られるまでが買い食いである。子供たちは怒られる優剛とラーズリアを見て学ぶのだ。買い食いは悪い事であると。しかし、夕食を食べ切ればバレないというところまで到達して一人前である。


現時点ではそこまで伝わらないが、後日父親たちは再び息子を唆すだろう。今度は上手くやってバレないように。


麻実がチラっと真人とジェラルオンの申し訳なさそうな表情を確認する。そして、ムラクリモに何やら耳打ちをした。

(マジっすか・・・。)


優剛は聴覚を強化して、耳打ちしていた内容を傍受した。

その内容は、『日頃の不満をぶつけるのは今がチャンス』であった。


優剛とラーズリアは妻から日頃の不満を次々とぶつけられた。しかし、優剛たちは悪い事をした直後とあって反論は許されない。


子供たちから見たら、買い食いをした父親たちが母親に思い切り叱られているという風にしか見えなかった。


ようやく解放されたラーズリアは足が痺れて呻いていた。

優剛は静かに足を伸ばしてストレッチをしている。麻実にバレないように再び浮いていたので足は痺れていないが、誤魔化す行動は必要なのだ。


「なぁ、足・・・痺れてないだろ?」

「ん?当たり前じゃん。バレないようにやるから面白いんでしょ。」


小声で話している優剛はラーズリアの足に軽く触れる。

「お?すまんな。」


優剛の魔力で足の痺れから解放されたラーズリアは軽快な動きで立ち上がった瞬間、盛大に転んで身体を床に打ち付ける。

「ぐあっ!」

「ラーズ、馬鹿なの?足が痺れている奴がそんなに動ける訳ないじゃん。」


優剛の魔力で転ばされたラーズリアが、優剛の発言の意図を読み取って頷いた。

「なるほど、ユーゴは悪い奴だな。」

「魔導騎士様ほどじゃござんせん。」


反省しているのか?という妻たちの視線が襲ってくるが、2人で仲良く足を伸ばすストレッチをしてから、ゆっくりと立ち上がる。


そんな2人に向かってジェラルオンと真人が歩み寄って来る。

「おとさん、ごめんなさい。」

「父さま、すみませんでした。」


優剛は真人の目線の高さに合わせて口を開く。

「次は夕食が食べられるくらいまでの買い食いにしよう。」

「買い食いしたら駄目なんだよ?」

(真面目か!?)


ラーズリアもジェラルオンに告げる。

「次はバレないようにしような。」

「買い食いは駄目ですよ。」


しかし、優剛たちは怯まない。

「ふっ。君たちには、いくら食べてもお腹が空いてしまう時期が来るのだよ。」

「その通りだ。・・・俺は今もそうだがな。」

「買い食いは悪であるのか!?否!断じて否である!次の食事も食べ切ってしまえば良いのだ!」


妙に芝居がかった優剛にラーズリアが続く。

「その通りだ!ユーゴ、良い事を言うな。」


そんな父親たちの暴挙は許されるはずが無かった。

「ねぇ、優剛、聞こえてるよ。」

「そうね。聞こえてるわね。」


しかし、そんな事は想定内だ。妻たちの言葉を聞こえない振りをして、父親たちは息子の手を掴んで口を開く。

「お風呂に入って来るね。」

「そうだな。男同士、裸の付き合いも大事だな。」


「ちょっと!待ちなさい!」

「ラーズ!話があるわ!」


母親たちの声は届かなかった。男たちは発言と同時に走りだして、部屋から逃げ出していた。


廊下を軽く走りながら優剛が愚痴る。

「あぁ・・・。また後で怒られるんだろうなぁ。」

「ハッハッハ。それは後で考えれば良いだろう。」


その後はお風呂でもしっかりと遊んで、ジェラルオンの魔力放出も忘れない。

筋肉と同じで魔力は使わないと成長しないのだ。


その夜、ラーズリアは寝室でムラクリモからしっかりとお説教を喰らった。

しかし、優剛は教育には必要な事だと上手く説いて、麻実からのお説教を回避した。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

皆様の読んでいた時間が少しでも良い時間であったなら幸いです。


評価や感想もお待ちしております。ブックマーク登録も是非お願いします。


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次回もよろしくお願い致します。

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