69. 男たちだけで
前回のお話
感謝感激。
飲み過ぎた。
優剛たちはラーズリア邸から出発する前に、外で昼食を食べるとラーズリアたちに伝えていた。
しかし、午後は王都に留学中のイコライズがラーズリア邸に遊びに来るという事で、午後はラーズリア邸に戻る必要がある。
そんな優剛たちは前日にトーナたちが気になっていたレストランで昼食を食べ終わり、今はラーズリア邸に戻っていた。
午前中だけの観光兼買い物であるが、女性陣は満足した買い物が出来たようで表情は明るい。
逆に優剛と真人は疲れたような表情をしていた。シオンはトーリアの教育の成果もあって、不満や疲れを表に出す事は無かった。
「ボク、疲れたよ・・・。」
「真人、一緒にゴロゴロしよう。」
既に優剛は寝転がっていた。
(ラーズの家も良い絨毯だなぁ。)
広いリビングのような部屋で優剛は念願のゴロゴロタイムを手に入れたのだ。この状態で魔力を使って遊ぶのが、優剛の趣味であり、娯楽である。
それに真人が加わろうと膝を曲げた時に、部屋の扉がノックされて、イコライズが入って来た。
「先生!お久しぶりです!」
優剛は寝転がった姿勢のまま、顔だけイコライズに向けて気軽に挨拶する。
「ういー。久しぶりだねー。」
さらにそれに続いて由里と真人もイコライズに声をかけながら駆け寄る。
「イコー!久しぶりー!」
「イコ姉さまー!」
イコライズは久しぶりに真人の姉さま呼びを聞いて、若干頬を染めて嬉しそうにする。
真人は可愛い弟なのである。
嬉しそうにするイコライズと由里や真人を見て、ティセルセラが口を開く。
「私はよく会ってるから、そこまで感動は無いわね。」
同意するようにイコライズがティセルセラに告げる。
「そうね。来たわよ、ティセ。」
「はい、はい。いらっしゃい。」
簡単なやり取りを終えたイコライズは由里と真人に集中しようとするが、お約束が待っていた。
レイは初めて見るイコライズを警戒して、由里とイコライズの間に割って入る。
「何この犬・・・。」
『犬じゃないぞ!狼だ!』
「きゃっ!喋った!?」
そんなレイの頭を由里が優しく撫でる。
「レイ、この子は友達のイコライズよ。それと家以外で喋っちゃ駄目でしょ。」
「くぅーん。」
頭を撫でられた事で尻尾は振られていたが、続く由里の言葉に尻尾は勢いを失って垂れ下がった。
そんなやり取りを見たイコライズはレイが由里のペットであると理解する。
「ねぇ・・・。このい、狼は喋るの?」
「そうよ。頭も良いし、私を守ってくれる騎士でもあるの。」
「わん!」
由里はレイを自慢するように言っているので、レイの尻尾は再び高速で左右に振られている。しかし、鳴き声は犬である。
なんとか理解したイコライズにティセルセラも合流して、4人で楽しそうに会話が始まる。
(悩みは無さそうで良かった、良かった。)
イコライズは魔力が使えずに悩んでいたが、今は王都の学園でも1年生でありながら、全生徒を含めた上位に名を連ねるエリート学生になっていた。
そんな4人を優剛はゴロゴロして見守りながら魔力で遊び始める。
(今日は何をしようかなー。)
魔力でどんな遊びをするのか考える優剛の右手の指は色鮮やかに彩られている。
火、水、土、雷、風。トンでも無い技術だが、目撃者は部屋の給仕を任されている使用人だけだ。チラチラと優剛を見ては驚きの表情に変わり、すぐに表情を引き締める辺りは質の高さが見て取れる。
そんな部屋にイコライズの母親であるミロマリアが入室してくる。
「マミ!久しぶりね!」
「ミロ!来てくれたのね!」
「当たり前じゃない!」
ミロマリアの後ろからはムラクリモが続いて入って来て、少し嫉妬するように口を開く。
「本当に仲が良いのね。」
「ずっと前からムラには話してたでしょ。さっきも言ったし。」
優剛にも軽く挨拶をして、そのまま3人集まって雑談に突入である。
ミロマリアはジェラルオンの話を聞いて、我が事のように喜んでいた。
しばらくしてラーズリアがフラっと入室して、そのまま優剛に一直線に向かってきて、見下ろす形で口を開く。
「ジェラがハンターズギルドに行きたいみたいなんだ。一緒に行かないか?」
引きこもり属性の優剛が簡単に了承する訳がなかった。
「行かないよ。ギルド怖いし。」
「ジェラが優剛と一緒が良いと言うんだよ。」
「むぅ・・・。」
優剛は自分から積極的に外遊びをしたりはしないが、子供から誘われるのは弱かった。渋々立ち上がって了承を口にする。
そんな優剛を視界の端で捉えた真人が声をかけて来る。
「おとさん、どっか行くの?」
「うん。ラーズとジェラとハンターズギルドに行ってくるよ。」
優剛は何しに行くは知らないけど。とは言わずに行先だけを告げた。
それを受けて真人はすぐに口を開く。
「ボクも行きたい!」
「ん?良いけど、話は良いの?」
「うーん。」
真人は視線を姉たちに向ければ、姉たちは優しく「行って来い」と口にした。
笑顔で頷いた真人は優剛の足元に駆けて来る。
そんな真人に優しい眼差しを向けるイコライズとティセルセラ。生まれた時から真人を見ている由里は、いつもと変わらぬ表情で真人を見ていた。
使用人も連れずに、男たちだけでのお出掛けである。
由里が居なくてもしっかりと上着を羽織った優剛が、歩きながらラーズリアに尋ねる。
「何しに行くの?」
「ただの見学だ。ジェラは身体が弱かったからな。あんな場所に行けば死ぬかもしれんから行った事が無かったのだ。まぁ、男の子なら1度は行ってみたい場所だと思うぞ。」
優剛は「へぇー」と言ってから、同行している男の子である真人の意見も気になって尋ねる。
「真人も行ってみたかったの?」
「うん!ヒロや騎士の皆に言っても、連れて行ってくれないんだよ。」
「うーん。まぁ、小さい子が行くとこじゃないからね。」
「まぁ、マコトなら大丈夫だろ。こいつに勝てるハンターの方が少ないくらいだろ。ハッハッハ。」
小さな子供である真人が屈強な男たちを、ボコボコにしている光景を幻視した優剛は乾いた笑い声を出していた。
そんな会話が気になったジェラルオンがラーズリアに尋ねる。
「マコトは強いの?」
「あぁ。こんなに小さいが俺と戦えるレベルだぞ。」
「本当ですか?」
「ジェラも今朝のオニゴッコは見ていただろ?あの速度で動けて、さらに俺が双剣を教えているからな。」
ジェラルオンは恐ろしいものでも見るかのように、並んで歩く小さな真人を見下ろす。
真人は首を傾げて見上げるだけだ。
やがてハンターズギルドが見えてくると、ジェラルオンと真人は目に見えて興奮する。
王都のハンターズギルドはとても大きく、フィールドの街にあるギルドとは比べ物にならない。
しかし、今は時間帯もあるのか、ハンターたちがギルドを活発に出入りする様子は見られない。
そんなギルドの正面でジェラルオンと真人は口を開けてギルドを見上げる。止まってしまった2人に振り返ってラーズリアが口を開く。
「よーし。入るぞ。」
「「はい!」」「ほーい。」
気の抜けた返事をしたのはもちろん優剛である。
(ラーズも居るし今日はテンプレ無いよね。)
3人はラーズリアの後ろに隠れるようにして大きなギルドの扉を抜ける。そう、優剛もラーズリアの巨体を盾にして隠れている。
ハンターズギルドに入った瞬間に、ラーズリアは視線を集める。
ハンターの多くが強さを求める者でもある。そんな者たちの目標の1つでもある魔導騎士のラーズリアがギルドに来ているのだ。注目を集めない訳が無い。
若いハンターは憧れの眼差しでラーズリアを見つめる者も居るくらいだ。
魔導騎士と言えば国の最高戦力である。そんな人物がギルドに訪れていれば、すぐに職員の女性が駆け足で寄って来る。
「ラーズリア様、本日はどのようなご用件でしょうか。」
「騒がせてすまんな。この通りただの見学だ。」
ラーズリアは後ろの子供たちを手で示した。職員はラーズリアが示した中に優剛が含まれていたが、使用人だろうくらいにしか思わなかった。
そんな職員の内心に気づいたラーズリアが優剛の肩に手を回して口を開く。
「おっと、こいつは2級だぞ。」
「え!2級ですか!?」
小さく細い優剛が2級だと聞いて驚く職員に優剛が告げる。
「ただの見学なのでお気になさらず・・・。」
とても2級ハンターとは思えないその容姿と優しそうな物腰に、女性の職員は獲物を見つけたかのように目を輝かせる。この際、着ている服は考慮しない。モノにした後でいくらでも指定は出来ると考えているのだ。
高い等級のハンターはその稼ぎから女性にとっては玉の輿の対象である。しかし、基本的には荒事に身を置いているハンターは、高い等級のハンターほど纏う雰囲気は尋常ではない。
逆に低い等級には荒くれ者も多い上に、稼ぎも少ない事から恋愛の対象にすらならない。
常日頃から色々な雰囲気のハンターと接しているギルド職員でさえ、高い等級のハンターは怖いと自然に思ってしまうのだ。
そんな場所に現れた優剛は異質である。
3級であれば推薦されただけかもしれないという疑惑は残るが、2級になっているのであれば既に実績がある証明だ。
優剛をよく見れば、他の男と比べて小さく細いが容姿は良い。物腰も柔らかい。強さやお金を稼ぐ能力も2級という資格がそれを証明している。
ここは勝負所。ほんの僅かな時間で優剛の分析を終えた未婚の女性職員は、優剛に狙いを定めた。
「あの・・・。お名前を聞いても良いですか?」
自分の容姿には自信がある。そして、男が好きな声の種類も色々なハンターに試して熟知している。今まで培った経験を総動員して優剛を落としにかかる。
「あぁー。優剛です。」
行ける!目を逸らし恥ずかしそうに名乗る優剛を見て女性は確信する。
「別室で今ある依頼の中からご紹介致します。」
優剛に1歩詰めて密室に誘導する。密室に入ってしまえば全力で誘惑が出来る。落としてみせるという気迫を内心に抑えつけて女性は優剛を攻める。
しかし、悪手である。
優剛が目を逸らしたのは女性を狙っているであろうハンターたちの視線が鋭いからだ。全力で自分はこの女性に気が無い事をハンターたちにアピールするしかない。
そして、元々強引にハンター登録された優剛が依頼を受ける事は無い。日々の生活費も飛行屋が順調で困ってもいない。
「結構です。見学だけなので。」
女性が思ってもいない答えが首を横に振る優剛から聞かされる。しかし、諦める女性では無い。
「良い依頼があるんです。」
優剛の手を取って必死に告げる。本当に軽く小さな力で優剛の手を引っ張りながら、別室への誘導を諦めない。
依頼を盾にすればするほど、優剛の心は離れていく。
いや、元々近くには無かった。『浮気=死』である。
さらに由里にも嫌われるだろう。そんな事になれば麻実に殺された方がマシである。
由里に会えない日々を想像するだけで、涙がこみ上げてくる。
「見学だけなので・・・。」
「あの・・・キャッ!」
女性は小さな悲鳴をあげて優剛から離れる。そして、自分の手を見つめる。
しつこい女性に優剛が弱い電撃を手に纏ったのだ。威力はいたずらに使う程度で、傷はもちろん、身体にも影響はない。
(この人が悲鳴あげたら魔力が漏れた奴も居るぞ・・・。やっぱギルド怖いわぁ。)
優剛は首を傾げて女性を不思議そうに見つめる。何もやっていないアピールだ。特に後ろのハンターたちに向けて。
女性は突然感じた手の痛みもあるが、ラーズリアが居る前ではこれ以上の強引な手段に出る訳にも行かずに大人しく引き下がった。
「では俺たちは行くぞ。ギルドの中を見るだけで帰るから気にしないでくれ。」
女性はラーズリアの言葉を聞いて、恭しく頭を下げて戻って行った。途中で何度か振り返り優剛を確認するが、優剛が女性と目を合わせる事は無い。
今もハンターたちに向けた『興味ない』アピールは続いているのである。
ラーズリアはギルドの中にも詳しいようで、食事をする場所や各種換金場所などを案内する。
「ねぇ、ラーズってギルド内について詳しくない?」
「当たり前だ。俺は1級だからな。若い頃に隠れてハンター活動をしていたんだ。もうバレて出来ないがな。ハッハッハ。」
「マジっすか!ラーズ先輩、ちょーリスペクトっス。」
「悪口ではないんだろうが、何か変な事を言ってるのはわかるぞ・・・。」
時間を掛けてギルド内を見終わった優剛たちは、ハンターや職員の邪魔をしても悪いので、外で飲み物でも飲みに行こうという話になった。
まさに外に出ようとした瞬間に優剛に声をかける者がいた。
「ユーゴ!待ちなさい!」
優剛は振り返って声の主を確認する。長い金髪の美人である。
(誰・・・。)
見覚えのない優剛はしばらく女性を見続ける。
沈黙に耐え切れなくなった女性が口を開く。
「審査官のエミーナよ!」
(あっ!クッコロさんだ。)
優剛は内心の笑いを堪えて頭を下げる。
「先日はどうも。」
「くっ!・・・ついて来なさい。審査の件で話があるわ。」
「昇級しなくても良いので失礼しますね。」
「駄目よ。私の指示に従わないなら除名も視野に入れるわよ。」
「どうぞ、どうぞ。」
むしろ助かる。そんな思いで優剛は嬉々として受け入れる。そんなやり取りを周囲で聞いてしまったハンターたちは驚きで固まっている。
2級まで来たのにあっさりと除名を受け入れる。そんな事が自分たちには出来る訳が無い。
怒りに燃えるエミーナにラーズリアが告げる。
「おい、おい。それくらいで除名は無いだろう。」
「え。ラーズリア様?どうしてここに・・・?」
エミーナはラーズリアの大ファンである。エミーナが優剛の昇級審査をする為に、屋敷に出向いた時に、優剛がラーズリアを馬鹿呼ばわりした事で激怒したのだ。
エミーナにとってのアイドルが目の前に居る状況で、これ以上は優剛に強く出る事が出来なくなった。
「良いよ。ラーズ、行こう。喉が乾いた真人とジェラを放ってはおけないでしょ。」
「話くらい聞いてやれば良いんじゃないか?」
エミーナはパァっと花が咲いたような笑顔でラーズリアを見つめる。アイドルが擁護してくれたのだ。畳みかけるようにアイドルは口を開く。
「飲み物くらい出るだろ?」
「出します!」
「ほらな。話を聞くだけなら問題ないだろう。」
ラーズリアの質問に即答するエミーナに気を良くしたラーズリアは、既にエミーナに向かって歩みを進めていた。優剛も諦めたようにラーズリアに続く。
子供たちも座れて飲み物があるなら否は無い。
エミールに案内された部屋には1人の男性が座っていた。
男性は入って来たラーズリアを見て、少し驚いた表情に変わる。同様にラーズリアも驚いたようで口を開く。
「あれ?なんでオッサンが居るんだ?」
「それはこっちの台詞だ、馬鹿もん。しかも子連れか・・・。」
「どうも初めまして。優剛です。」
優剛はきっちり頭を下げて名乗る。そして、真人の肩に手を置いて口を開く。
「真人、ご挨拶。」
「こんにちは、真人です。」
「よく出来ました」優剛は真人にだけ聞こえるように小さく呟いた。そして、真人の肩に置かれていた手は真人を褒めるように、肩を小さく撫でるよう動かされている。
それを横で見ていたジェラルオンも頭を下げて挨拶する。
「こんにちは、ジェラルオンです!」
子供たちから挨拶を受けて悪い気はしないようで、男性も微笑んで自己紹介を始める。
「儂はミカテイル。ハンターズギルドの会長だ。突然すまなかったな。ユーゴ君が来ていると聞いて、どうしても話がしたかったんだ。まぁ、座ってくれ。」
短く整えられた髪と整えられた少し長い顎ヒゲはどちらも白いが、鍛え抜かれた肉体はとても年齢相応には見えない。しかし、そんな男の前に堂々と腰を下ろしたラーズリアが口を開く。
「オッサン、こいつらに美味しい果実水をくれよ。」
「お前はもう少し儂を尊敬したらどうだ?」
「ん?尊敬してるぞ?」
ミカテイルは諦めたように傍に居た職員に指示を出す。
「とっておきの果実水を出してやれ。ユーゴ君は紅茶で良いかな?」
「はい。構いません。」
「俺も紅茶で良いかな。」
「貴様は白湯でも飲んでおれ!」
軽快なやり取りを重ねる2人の関係も気になるが、飲み物が提供されたタイミングで優剛は呼び出された理由を尋ねるのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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