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新庄やまがたものがたり  作者: 新庄知慧
17/23

17 おんな一丁、用意しろ?

17 


「ははは。驚いてらあ」

富樫さんに似た仲居は愉快そうに笑い、課長に訊いた。


「お客さん、今日は休みかい」

「ええ」

「今日は金曜日だ。週休2日か?なら3連休だね」

「ええ、まあ・・・」

「まあって、結構な会社だこと!で、どっから来なすった?」

「仙台です」

「で、ここは、いいかね。いい、宿かね?」

「ええ、まあ」

「まあって、気取ってる場合かね!」


富樫仲居は、口に手をあてて笑い、もう一方の手で課長の肩を叩いた。大きな手、相当の力で、課長は、危うく肩を脱臼するかと思った。


「き、気取ってるわけじゃなくて。あんまり楽しいショーだもんで、少し驚いてますよ」

「皮肉?」

「いいえ、皮肉だなんて、そんな・・・」

「じゃあ、どうして、もう部屋に帰るだ?」

「食事も終わりましたし・・・」

「部屋帰って、何するだ。なんにもするこた、ねえど!」

「風呂に入って、テレビ見て・・・」

「寂しいねえ」

「寂しくないでしょ、温泉で、静かに一人・・・」

「金はあるだろ、お客さん」

「金。そりゃあ、宿代くらいは。・・・それとも、もっとお金のかかることがありますか」


 富樫仲居は目をギラリと光らせ、また、さっき言ったセリフを叫んだ。 

「女一丁!おんな、いっちょう、お持ちしろい!」


 ひとつ離れた場所の膳を片付けていた、少し若い仲居が、下をみながら、げらげら笑った。

 課長はいたたまれなくなった。しかし、富樫仲居は、課長を逃しはしなかった。その大きな顔を、ぐっと課長に近づけて、迫力満点に言った。


「若いのがいいかね、やっぱり。でも、年増もいいもんだよ。いろいろ、教えてくれるど。まああ、お客さんなら、いまさら、何、教えてもらうこともないかね。でも、案外、うぶだろ。奥さん以外にゃ、なにも知らないべ。うんにゃ、そうだな。知りたくて、ここへ、来たべよ」


「・・・・」

 課長は、かえす言葉を思いつかなかった。


かまわずに、富樫仲居は言う。

「おとなしくなったな。そうか、やっぱ、若い子か、いいよ、いるよ、若い子。あたしは、ここの温泉場で、いい女の子、おさえてんだ。いいよ、いいよ、引き受けた。引き受けたぞ!」


そして、彼女はまた、「おんな一丁!」と、野太い声でシャウトした。ほうっておくと、また、何度も、シャウトしそうだった。課長はいやになって、思わず、言った。どこか心の底で、こんな事態を望んでいたのかもしれない、とも思い、言った。


「わかった!若い子、たのみます。若い子、一丁、たのみます」

「おー」

 課長のオファーに答えて、富樫仲居は歓喜をあらわにして唸った。

 

「いいよ、引き受けたよ。まかせろい!おんな、まかせろい!」

「わかった!わかったから、抑えて、抑えて!で、どうすればいいんです」

「どうすれば?まさか、ここで金をくれろとは言わねえよ。おらあ、そんな、あこぎじゃねえど。ちゃあんと、女の子が、おつとめしてから、金もらうだ。金は、女の子に渡せばいいだ」

「いくら渡すんです」

「大5枚」

「って、5万円?!」

「安いもんさ」


 富樫仲居は、恐ろしい気迫で課長をにらみ据えた。課長はたじろいだ。

「しかし・・・」


 富樫仲居は、さらに顔を課長に近づけ、ど迫力で、せまった。

「カードでもいいど」

「ほう・・・」


 カードなら持ってる。まあ、いいか。こんなのは初めてだ。何がでてくるか、試してみるか。どうせ、もう、何がなんだかわからない温泉一人旅なんだし・・・。


 そうした課長の惑いを見逃さず、富樫仲居はとどめを刺すように言った。

「わかったな。わかればいいんだ。そうだ、10時にしよう。10時にいくよ」

「10時?」

「そうだ10時だ。ははは。いよっ、いい男、おんな一丁、たいらげるど、ハハハ」


 交渉は、まとまってしまったのだ。

 いいや。まあ、いいや。こんなことは初めてなんだし・・・。


 課長は、また同じ理屈で、自身を説得した。

「で、私、部屋に帰りたいんですが。10時まで時間もあるし」

「そうだな、帰れ、帰れ」

「私の部屋、わかりますか」

「おう、わかるよ。わたしゃここの仲居だもの。10時に、その部屋に行くように、女の子にしっかり伝えとくど」

「私の部屋、いったい、どこでしょうか」

「どこって、この膳の部屋だ」

「名前は」

「お客さんの部屋は、なめえはねえだ。そういう客の部屋なんだ。かもの部屋だ」

「かも・・・」

「おっと、そういう「カモ」とちがうよ。勘違いして気を悪くすんなよ。名前がねえって、それだけの意味だ」

「名前はなくてもいいんですが。この宿、難しくて、無事に帰れるかどうか心配で」

「やだよ、お客さん、ジョークは、女の子に言えって、あたしらに言っても、つまんねえよ」


 ハハハハハ、と、富樫仲居は、またも大声で笑い、おら、忙しいんだ、と手を振り、約束は守れよ、と怖い顔で念を押し、座敷から出ていってしまった。


 ちくしょう。なんてこった。


 課長は思い、仲居を追いかけて部屋への道順を確認しようとも思ったが、めんどくさくなり、一方で、このまま、部屋に帰れなかったら、おんな一丁、の約束破棄でも免責になるんじゃないかとも勝手に思い、一人で、部屋に帰ることにした。

 課長は歩きはじめた。



つづく・・・

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