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新庄やまがたものがたり  作者: 新庄知慧
16/23

16 宇宙人、銀河温泉にあらわる

16  


 ヒトデ星人の体の中から人間たちが現れた。

それは、女性たちだった。


「いいぞいいぞ」

じじいたちの歓声があがった。口笛と指笛が鳴った。

「裸でねえか。おなごの、裸でねえか、やらしー」

ばあさんが口を尖らせ、不平を言うのが聞こえた。


ひとり、またひとりと、裸体の女性たちが、ヒトデのぬいぐるみを脱ぎ捨てて現れた。

美人。かわいい。すらりとした肢体。長い髪。顔かたちは、どこか日本人離れしていた。フィリピン人?そうか、これは、昔、どこかの温泉で課長が見そこなった、温泉フィリピン・レビュー・ショーか?


課長は思わず身を乗り出した。同じ座敷にいた若者3人も、色めき立った。

女性たちの一人は、どこかで見たような気がした。


「女湯にいた、あの女・・・?」

そうだ、課長と森林温泉で不意に出くわし、驚いて、おたがい、声もだせなかった裸体の女性・・・。似ていた。すると、舞台の上のほか女性たちはも、あの女湯にいた女性か?こんな温泉の女湯に、若い女性たちが、たくさんいるというのも妙な気がしていた。ひょっとして、この舞台上の一座の女性たちが入浴していたのか?


  課長が考える間もなく、音楽がはじまった。奇妙な電子音楽だった。昔々のSF映画に使われそうな、「フアア・・・」とシンセサイザーやメロトロンが奏でる、古色蒼然とした曲。その曲にあわせて、女性たちは、ダンスを始めた。


  輪になって、各自が、思い思いに手を振り、足を上げ、髪を振り乱し、踊った。

胸はあらわだし、股間も隠されていない。乳房が揺れ、陰毛がゆらめく。すると、背後に流れる曲は、SF音楽ではなく、たんに「やらしい」「エッチな」卑猥電子音楽にしか聞こえなくなる。


 「やーらしーがね、これ!」

 また、ばあさんの、批判的罵声が飛んだ。

 「うっせえな!だまって見れ。げーじつだぞ、これ。げーじつ!」

 じいさんが応戦する。 

「ばかもん!ばかもん!」

別のじいさんと、別のばあさんが同時に怒鳴り、興奮と怒りがユニゾンになって聞こえた。


 課長は、唖然として、舞台上のダンスを見続ける。

「・・・?」

 そのうち、何か変だと気づいた。

「あれ。あれ、ちょっと、なんか変だな」

 同室の若者たちの一人が、小さな声をあげた。 

たしかに、少し変だった。どこか普通と違う。


それはこういうことだった。

 ある女性は、頭を振り髪が流れると、額に三つめの目玉があった。ある女性の手に指は6本あった。別の女性の尻からは、悪魔のような尾が生えていた。乳房が4つの女性もいた。そして、口に陰毛が生えていて、おそらくは、そこが股間の性器になっているらしい女性もいた。目をこらすと、ほかの女性にも、次々と、似たような「変な」発見があった。


「はははっは」

また、下卑た笑い声。ばあさんだった。

「こりゃすげえ、こりゃすげえ」

男の声か女の声かわからない感嘆の叫び。


「・・・・」

課長は、もう、どう対処したものか、わからなくなり、ただ無言でいた。酒を飲み、箸を持って、膳の上の料理を黙々と食べた。食べながら、また、つい、考えた。


美女フリークス?

そうか、そうなのだな・・・。この女性たちは、どっかいかがわしい、「フリピン」から来たのだ。顔や姿は美人なのに、どっか、いかがわしく違うのだ・・・。

そのうち、女性の一人がマイクを持ってしゃべった。「はなちゃん」を紹介した、あの声だった。女性なのに、さっきと同じく、男性のがなり声だった。この人は、声が「変」なのだ。


「さあさあ、あたしたちも、かわいそう。かわいそうなのは、あたしたち。」

すると、声が変調した。女性の声になった。今まで、無理に男声をだしていたのが、やっと女声でしゃべれる、ということか。少し切ない声。


「おらたちの生まれは星のはて。どこかは知らねえ大星雲。名前ももう忘れつまった。遠い昔に出稼ぎにきた。星からきた集団就職。星のはてから、この星へ。みんなで稼ぎにやってきたよう。だども、ここも結局は、星のはてさあ。みなさん、ようこそ、この、星のはてに。ニューグランドへようこそ。つらい浮世を、いやな思いでを、みんな忘れて湯に流してけろ。あんたらも、つらがった。わたしらも、つらがった。わたしらのつたない踊りでよけりゃあ、楽しんでけれ。あんたらも、わたしらも、みな、星のはての、お友達さあ。さあ、かわいそうなのは、わたしたちでござい。かわいそうなのは、わたしたちでござい・・・」


いんちきとしか思えない、方言口調。しかし、ちょっとしんみりした語り口。客席も、しんみりとなった。

「そうか、おめえらも、つれえんだな、がんばれ」


じじいの声。エールを送っている。「出稼ぎ」という言葉に反応したのだろうか。あまりにも単純ではないか。


すると、拍手がおこった。「集団就職」というフレーズが、観客たちの心の琴線に触れたのか。がんばれ、おもしれえぞ、上手だぞ、うめえうめえ、などの言葉が飛び交った。


ありがと、ありがと、と舞台上のフリークス美女たちは、観客に手を振って答えた。


「・・・・」

異様な雰囲気に圧倒されて、課長は、黙々と食事を続けるしかなかった。

 すると、突然、舞台上の女たちは、蜘蛛の子を散らすかのように、四散して、舞台から消えた。舞台の上は、空っぽになった。


暗転。

しばらく間があって、ドンチャカ、ドンチャカ、演奏が始まった。


「待ってましたあ」

客席から、かけ声。

すると、くだんの演歌歌手が、今度はスーツ姿で現れた。また、民謡と演歌とジャズのフュージョン音楽が始まった。


それからは、永遠に続くかと思われる演歌ショーが、延々と、続いた。


・・・

課長は食事も終わり、茶を飲んだ。演歌歌手の歌は次から次へと続いていた。

・・・何というショーだろう、これは・・・。

夜通し続くらしい演歌ショーには、とてもつきあいきれないと思い、課長は席を立とうとした。


すると、背後から課長を呼ぶ声。

「お客さん、まだ、あるよ」

課長は振り向いた。そして、思わず声をあげた。


「富樫さん!」

そこには、身長190センチに近い、まあスポーツマンタイプといっていい、大柄な人物が、畳にひざをつき、座って、笑っていた。


「富樫?」

課長の言葉を聞き返し、また、笑った。

「富樫って誰?私は、富樫じゃないよ」

「いや、失礼。人ちがいでした」


課長は謝った。そこにいたのは、富樫さんではなかった。女性だ。男と見まがうばかりの大柄な女性だった。和服姿の、仲居だ。彼女は言った。


「お客さん、まだ、早いって」

「早い?いやあ、もう、おなかいっぱいだし。ショーも、もういいですし」

「まだ注文してないだろがね」

「注文?」


 課長が問いかけると、仲居は、わけありげに微笑み、大声をあげた。

「おんな一丁!」


 ・・・おんな一丁?また、何が始まるのだ?課長は訝しげに仲居を見た。



・・・つづく



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