第二話
二〇三〇年五月二十七日
日本 神奈川県横須賀市
如月重工業 横須賀造船所
海幕長から「太平洋艦隊計画」が刹那達に告げられてから一週間後、刹那は小百合から呼び出されて如月重工業の横須賀造船所に来ていた。
「待っていたわよ、刹那」
「母さん、長崎から呼び出すって一体何の用?」
「建造している艦艇を見せようと思ってね。刹那、地下ドックはこっちよ」
小百合の話を聞きながら造船所に入ろうとした刹那を小百合は呼び止め、造船所とは別の方向にある小さな倉庫へと案内した。
「これ普通の倉庫の様に見えるけど?」
「そう見える様に建てたからね。少し待ってなさい」
懐疑的な視線を向ける刹那に小百合は苦笑すると、倉庫入口の横にある壁に隠されていた解錠パネルに暗証番号を打ち込み、虹彩認証を行い倉庫の扉が開かれるのを確認すると、刹那を伴ってエレベーターに乗り込み、地下へと降り始めた。
「それにしても、こんな地下ドックを何時の間に作ったの?」
「母さんが、まだ社長だった時に作られたみたいよ。何でも、『有事の時でも艦艇を安全に建造、修理出来るドックが欲しい』って政府から頼まれたみたい」
小百合が言う「母さん」とは小百合の母で、刹那の祖母である如月重工業初代社長、如月真澄の事だった。
「おばあちゃんが……全然知らなかった……」
「刹那が知らないのは当然よ。私も、社長になってから母さんに聞かされたから。さっ、着いたわよ」
小百合がそう告げるのと同時に、地下ドックへ到着した事を知らせるベルが鳴り、エレベーターの扉が開いた。
「篤とご覧あれ。これが、太平洋艦隊よ!」
「これが、太平洋艦隊の艦艇……」
地下ドックへと足を踏み入れた刹那の目の前には、数多くある乾ドックにメザシの様に並べられた艦艇に大勢の工員たちが群がり溶接の火花を散らし、艦内に様々な機材の積み込みを行っていた。
「ここにいるのは、太平洋艦隊の磐城型イージス戦艦、瑞穂型イージス巡洋戦艦、蒼鷹型航空母艦の主力艦よ。他の補助艦艇は、後二つある地下ドックで建造されているわ」
「ここのドックで建造されている艦の状況はどうなっているの?」
「磐城型イージス戦艦を含めた全艦は、その殆どが完成して今はSMCの機材搬入と武器システムの調整を行っているわ」
「SMC……?」
「CICを発展させた物よ。従来よりもゆったりとした構造で、司令部能力等がCICに比べて格段に強化されているわ」
建造されている艦艇群の細かい説明を刹那に行いながら小百合は、太平洋艦隊の旗艦で「磐城」と命名される事になっている戦艦に乗り移ると、工員達を従えて作業の指揮を執っている作業責任者らしき男性に声を掛けた。
「岸田主任、進捗状況はどうなっているかしら?」
「あぁ、社長……刹那お嬢様!?」
「どうも、お久しぶりです岸田さん」
「おい!全員、刹那お嬢様がお出でだ!」
小百合が声を掛けたこの男性が、「太平洋艦隊計画」の艦艇建造責任者である岸田聡史だった。刹那も小さい頃に小百合に連れられて横須賀造船所に来た時は、岸田に遊んでもらっていた。
「それで、進捗状況はどうなっているの?」
「はい。この艦は艤装も全て終了しました。残りの艦も予定通り来年までには、艤装が完了すると思います」
「そう。予定通りで何よりだわ」
「それにしても社長、どうして刹那お嬢様がここに?ここは関係者以外立ち入り禁止だったはずですよ?」
「刹那も関係者よ。この艦隊を指揮するのは刹那だから」
「刹那お嬢様が艦隊を!?おめでとうございます。刹那お嬢様」
「だから、刹那達に相応しい艦隊にしなければ駄目よ」
「勿論です社長!必ずや刹那お嬢様が率いるに相応しい艦隊に仕立ててやります!全員、今までの更に十倍のやる気を出すぞ!」
「「「「「おぉー!」」」」」
岸田の言葉に雄叫びを上げて答える工員達の姿に小百合は苦笑し、刹那は呆気にとられていた。
「じゃあ、引き続き作業を頼んだわ」
「はい。お任せ下さい」
岸田と別れた小百合は、そのまま甲板を歩き、艦の前部に搭載されている第一、第二主砲に刹那を案内した。
「これが、磐城型イージス戦艦の象徴でもある二五式五十口径五一センチ三連装電磁投射砲よ」
「電磁投射砲……?」
「そうよ。所謂レールガンと言われている物ね。瑞穂型には、三八センチ電磁投射砲を搭載しているわ」
「レールガンを撃つ時の電力は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。磐城型、瑞穂型はその事を考慮して充分に余裕を持たせているから」
「それなら大丈夫ね」
小百合の説明を受けて刹那は納得した様に頷いた。この後も小百合から説明を受け、駆逐艦等の補助艦艇を建造している第二、第三地下ドックの視察を済ませると、造船所の事務室で休息を取っていた。
「艦隊を見た感想は?」
「凄いとしか言いようが無いよ、母さん」
刹那の言葉に満足したのか小百合は笑みを浮かべながら何度も頷いた。
「そう言ってくれると嬉しいわ。何せ、この艦隊にはこの会社の持てる技術を全て注ぎ込んだからね。来年には全艦艇が揃うけど、人員の確保は出来ているのかしら?」
「えぇ、全艦に配属される人員には辞令が出ているわ」
「それなら大丈夫ね」
刹那の言葉に小百合は再び満足そうに頷くと、用意していた封筒を取り出し刹那に差し出した。
「これは……?」
「太平洋艦隊に配備される新型艦上戦闘機と艦上戦闘攻撃機よ」
刹那は小百合から手渡された封筒を開くと、艦上戦闘機と艦上戦闘攻撃機の詳細資料に目を通し始めた。
「ちょ、ちょっと待って、この艦上戦闘機と艦上戦闘攻撃機はどう見てもF-22とF-35にしか見えないけど!?」
「やっぱり気付いた?そうよ。この新型機はロッキード・マーティンの技術者と協力して製作した機体よ」
「F-22はアメリカ議会で海外輸出が禁止されていたはずよ?」
「この機体は、さっきも言ったけどロッキード・マーティンの技術者と如月重工業の技術者が協力してF-22を基にして開発した機体だから大丈夫よ」
「そ、そう……」
「それよりも、パイロットの確保は出来ているの?機体があってもパイロットがいなければ話にならないわよ」
小百合の言葉に刹那は頷いた。
「そこの所は大丈夫よ。今、横須賀で航空隊パイロットの育成が行われていて、艦隊設立までには間に合う予定だから」
「そう。それなら大丈夫ね。海兵師団の保有する装備も新型の兵器が多数配備される予定だから」
小百合がそう告げると、刹那は自分が持ってきた艦隊計画書の一部を取り出して小百合に見せた。
「ねぇ、この海兵師団に配備されている外骨格兵装って何?」
「一言で言うと歩兵用のパワードスーツよ。人工筋肉とかを使用したおかげで小銃の口径は機関銃と互換性を考えて12.7ミリ弾を採用しているわ」
「それって、オーバーキルじゃないの?」
「……まっ、大丈夫でしょ」
「はぁ、まったく……母さんの事だから防弾性能もあるのよね?」
「当然よ。12.7ミリ弾位じゃビクともしない特殊装甲を採用しているわ」
「何て凄い物を……」
「刹那、まだ驚くのは早いわよ。戦車連隊には、如月重工が開発した125ミリ電磁投射砲を搭載している三〇式戦車を配備するわ」
小百合の言葉に、刹那は呆れた表情を驚きの表情に変え、悪戯を成功させた子供の様な笑みを浮かべている小百合に視線を向けた。
「ま、待って母さん。電磁投射砲って、磐城型や瑞穂型に搭載されている物と同じ物よね?」
「そうよ。磐城型や瑞穂型の電磁投射砲を製造する過程で最初に作ったのだけれど、予想以上に性能が良かったから三〇式試製戦車として製作を初めて、陸軍の配備よりも早く海兵師団に配備される事になったのよ」
予想以上の兵器を搭載した戦車の話を聞いた刹那は驚きの声を上げたが、小百合はそれに構う事無く淡々と戦車の説明を続けた。
「――取り敢えず、以上が艦隊に随伴する海兵師団の装備だけど何か質問があるかしら?」
説明を終えた小百合が、説明を聞きながら詳細資料に目を通していた刹那に尋ねると、刹那は資料から目を上げて首を振った。
「何もないけど、配備される兵器の殆どが初めて実戦配備でしょ?不具合が出ない様にして欲しいわね」
「任せなさい。『完璧な物を提供する』が社訓の如月重工よ。絶対に、不具合が起こらない様にするわ」
小百合の言葉に刹那は頷くと、持っていた装備の詳細資料を小百合に手渡すと、席から立ち上がった。
「じゃあ、艦隊の建造は任せたわよ。体調に気を付けてね」
「任せなさい。必ず完璧に仕上げるわ。刹那も隊長には気を付けるのよ。無理しちゃだめよ」
小百合と刹那は互いに言葉を交わすと、刹那は艦隊司令部へと戻り、小百合は如月重工本社へと向かった。
短くてすみません。
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次回の更新は5月10日になります。




