御子神一族と霞の眼
ホルゼロ本編の世界観の補足資料です、ただ兵器のスペックやキャラの履歴を羅列した普通の設定資料では面白くないので、架空の三流オカルト雑誌「月刊アトランティス」に寄稿されたフリールポライター荒吐 九十九氏によるオカルト記事風の体裁にしたものです。
九十九令和奇譚 真説・耳嚢シリーズ
第五夜
御子神一族について。
月刊アトランティス編集部
文責:フリールポライター 荒吐 九十九著
本稿は長年にわたり著者が追っているとある特異な一族に関する報告としてまとめたものである。
本稿に登場する御子神一族に関してお貸し頂いた、御子神家の家伝書や資料を基に書かれている。
注意して頂きたいのは、ここに記された情報はフリールポライターである著者の独自の取材に基づく研究解釈や、著者の知識に基づいた解釈も多数含まれている点だ。
また参考にされている資料文献は、御子神家から提供いただいた資料以外にも、本来であれば何の関係も無いはずの地方の土着伝承や口伝に纏わるものも多く含まれている。
それらを著者が強引に結びつけた結果たどり着いた結論も含まれているため、あまり信用しすぎず、肩の力を抜いてオカルト系のエンターテイメント程度に受け止め、楽しんでいただければ、幸いである。
御子神の一族はかつて神道に仕える巫女の一族であると同時に代々多くの女傑を輩出してきた一族であり、御子神 零女史の異常ともいえる戦闘能力のルーツもここにあると思われる。
その遺伝子は母系で特に強く伝えられているらしく、御子神の一族は代々多くの女傑を輩出してきた。
女児しか授からなかった場合、特にその中に後述する霞の眼の素養を持った、もしくは開花させた者が家督を継ぎ、婿養子を取って血脈を繋いできたそうである。
筆者の好奇心からの無作法な取材に快く応じて頂いた現当主の御子神 巴氏も、伴侶である御子神 太蔵氏を婿養子として迎えている。
また次女三女であっても、長女に霞の眼の発現が見られなかった場合などは、発現させた次女や三女が当主の座を継ぐなど、実力主義的な面もあるようだ。
なお血脈の遺伝そのものには男女の性別には関係がないらしく、男児であっても霞の眼を発現させる者はいたらしい。
その場合は通常通り妻を娶り、その子供にも問題なく生まれつきの優れた身体能力や、霞の眼が発現したという。
ただし必ずしも、特に霞の眼は発現するとは限らず、事実巴氏の御息女には優れたフィジカルは遺伝したものの、霞の眼はついぞ発現することはなかったらしい。
ただしその孫娘である御子神 零女史には早くからこの能力が開花しており、一族特有の身体的素養も相まって海外で一時期は傭兵として凄まじい戦果を残したと語っていた。
つまり当代で発現しなくとも、後の子孫に一族の特異な能力が隔世遺伝する場合があるようだ。
零女史の異常ともいえるフィジカルを実感するために色々と話を伺う流れで、彼女の愛用する武器について聞いてみたのだが...傭兵時代のメインウェポンは、なんと35mm対艦狙撃『砲』だというのだ。
最初は聞き間違いかと思い確認してみた「狙撃銃ですか?」と。
著者は雑食性ライターでもあるので、同僚のミリオタライターなどにもよく話を聞く。なにが飯のタネになるか分からないのだから、知識は広く浅く持っておく必要があるのだ。
よって、ある程度のミリタリー知識もある。
しかし著者のつたない軍事知識からしても、35mm口径の狙撃銃など聞いたこともない。
件のミリオタ同僚氏からの知識では、確か世界最大クラスの対物ライフルが20mm口径だと言っていたのだが...
しかし彼女は間違いなく「狙撃銃ではなく、巡洋艦クラスの装甲をブチ貫くために頭がおかしいジジイが設計した、対艦狙撃『砲』なのだ」という。
どのような人物が設計したのか聞いてみたら
「深夜に魔女っ子アニメ見ながらショットガンぶっ放して、背中に不倫母さんってタトゥー入れてて、和式便器にドタマ打ち付ける奇行を自分からやってるイカれジジイ」
との返答、もしかして著者はからかわれただけなのかも知れない…。
現物を見せて欲しいとお願いしたのだが
「あまり人に見せびらかすようなモンじゃないから。」
とお断りされてしまった。
代わりに彼女の傭兵時代に仲間と撮影した写真を見せて頂いた。
酒場と思わしき場所の店の前で撮影された写真に、傭兵時代の仲間とともに映っている彼女が片手で地面に立てかけた巨大な銃、いや砲を持っている写真だ。
それはもはや、鉄塊という言葉を直感的に想起させるサイズのシロモノであった。
重量を聞いてみると
「正確には知らない、計ったこと無いし。でもたぶん50kgちょいぐらいじゃないかな? 60kgはないと思う。」
と、あっけらかんと答える。
50kgと言えばほぼ人間一人分の重量である。
それを彼女はいつも担いで戦場を駆け回っていたのだという、やはりこの一族は人間離れしている。
またその運用に関してはMTバイポッドなる技術が不可欠らしいのだが、その話題の時、彼女は自身の特定部位を指して説明してくれた。
だが、著者の生半可な軍事知識では良く解らなかった。
あとでミリオタ君に、MTバイポッドなる技術について聞いてみるとしよう。
ただこの写真で彼女が持っているモデルは旧式で、すでに壊れて引退しており、現在使用しているのは最新型のモデルで、重量もサイズも一回り小さいものだそうだ。
おかげで随分楽になったと彼女は笑うが、それでも重量は40kg近いらしい。
40kgの重量を、随分軽くなって楽になったと言える身体能力...。
いやはや、なにをかいわんや、だ。
あとは御子神一族に伝わる伝統的な先祖伝来の武器庫にも案内していただいたのだが、その光景は異様の一言だ。
刀、槍、鎖鎌、鉄棍、抱え大筒、破城槌、甲冑、鉄弓。
時代劇や大河ドラマではおなじみのメンツがずらりと並んでいるが、常軌を逸しているのはそのサイズだ。
どれも普通の、最低でも倍から三倍はあろうかという巨大さだ。
巴氏の説明によると御子神の一族の生まれ持った体躯と、それをさらに底上げする霞の眼の力に並みの武器では耐えられず、すぐに折れたり曲がったり砕けたりしてしまうため、切れ味よりも頑強さを重視した特注品ばかりになってしまった結果が、この異様な陳列棚の光景らしい。
普通この手の武器というものは刃先以外はなるべく扱いやすいように軽くて丈夫な素材、例えば硬い樫の木などを使用するものだろう。
だがここにある武器は柄までほとんどが鉄でできている、耐久性を重視した結果だという。
当然、途方もない重量になってしまうのだが、それを天性の体躯と霞の眼の力でねじ伏せて振るっているのだ。
零女史の愛刀を見せて頂いた、といっても彼女の現在の得物は前述の狙撃砲なので、あまり使う機会は無いらしいが、子供のころの修業時代には使っていた懐かしい武器類がいくつかあったようだ。
彼女の愛刀であり守り刀は、やはり異常なものであった。
刀剣類にもそれなりに知識があった著者は、一目見て実戦刀として名高い胴田貫であることはすぐにわかった。
胴田貫は戦国時代から江戸時代にかけて肥後の国の実用本位の豪刀を鍛えることで有名な刀鍛冶師の一派の作だ、華美な装飾などは一切廃した
「折れず、曲がらず、よく切れる」
の質実剛健な作刀で有名である。
その身幅(刀身幅)や重ねの厚さや蛤刃と呼ばれる丸みを帯びた独特の断面で、素人にも比較的見分けやすい特徴がある。
加藤清正が自身の体躯に合わせて特注した「兜割り正国」などが有名である。
また時代劇ファンならば、小説「子連れ狼」の主人公、拝 一刀の佩刀、と言ったほうが通りがいいかも知れない。
しかし零女史の愛刀はそれを遥かに上回る身幅がある。
平均的な日本刀の身幅(峰から刃までの距離)はおよそ30mmから35mm
重ね(峰の厚み)は6mmから7mm。
胴田貫は重ねが9mmから10mmを超える個体も現存しているらしいが、零女史のものはどう見ても身幅55mm、(通常の同田貫の1.8倍)
重ね(峰の厚み):約30mm(通常の同田貫の約3倍)はある。
鍔元2cmほどには刃がついておらず、峰ほどではないが幅20mmほどの頑丈な厚みを持たせることで強度を増す作りになっているようだ。
胴田貫正国に特注して作らせたシロモノで、依頼を受けた正国は
「鬼にでも使わせるつもりか?」
と呆れたという逸話が残っているそうだ。
銘は「鉞刀・夜叉明王」。
鉞(音読み:えつ)とは「まさかり」のことだ。
確かにこれはその異様な身幅、重ねの厚さと重量からして、刀というより刀の形をしたマサカリ、と呼ぶべきシロモノだろう。
その威容は恐ろし気なヤシャという響きも相まって、凄まじい存在感を放っていた。
刀身長80cm(約2尺6寸4分)とかなりの大太刀だ。
重量は凡そ20kg、一般的な打刀の凡そ20倍超の重量。
刀身の断面図は蛤刃の楔形、身幅を鉈並みに厚くすることで叩きつけた時、慣性で峰のいわゆる「腰が伸びる」のを防いでいるのだ、とは巴氏の説明だ。
軽量化のための樋(ひ:溝)は切られておらず、軽量化よりも重ねを維持することによる耐久性を重視した刀身となっている。
柄は通常のものより少し長めのようで、内部こそ通常の刀と同じく樫の木だが、これは衝撃吸収材の役割を持たせるためだそうだ。
やはり耐久性増加のため、その外から鉄製の柄でサンドイッチして固め、目釘は鉄製を3本(三挺目釘)、鮫皮と柄糸を巻いてある。
刃の角度は一般的な刀よりかなり鈍角で、切れ味よりとにかく耐久力と刃持ちを重視しており、切れ味の方は「ナマクラもいいとこ」らしいが...
そもそもこんな重量を、40kgの鉄塊を軽々と運ぶ御子神の膂力で打ち込まれたら、もはや切れ味など関係あるまい。
兜、甲冑ごと真っ二つに切断、というより、これは剪断と呼ぶべきだろう…されるのが容易に想像できた。
後述する巴氏の愛薙「降魔・羅刹薙」もここに収められていた。
なお御子神一族は異常ともいえる人間離れしたフィジカルを先天的に持って生まれる者が多いが、筆者が巴氏のご厚意により見せて頂いた巴氏の若い頃のお写真では、つややかな長い黒髪に切れ長の目を持つ、可憐さと凛々しさを同時に兼ね備えたような雰囲気の着物姿の大変な和服美人であった。
その孫娘である当代の御子神 零女史も、祖母の若い頃を思わせる、涼やかな切れ長の目を持つショートヘアの相当な美人である。
これも御子神の血なのであろうか?
実にうらやましいと思うと同時に、零女史の場合はその美貌以上にとある身体的圧倒的な特徴に目を奪われてしまった。
本稿の趣旨からは離れてしまうため、詳細は割愛させていただく。
話がそれたが、かように美貌にも恵まれた一族の血ゆえに、婿養子を必要としても相手選びには困らなかったであろうことは想像に難くない。
御子神の先祖たちは地方のさびれた地域で代々神職を務めてきたようだが、その教義は神道を主体としつつも土着の民族宗教や修験道などの山岳信仰や修行形式、密教や陰陽道、はては道教の思想までも取り込んだ混沌とした宗教体系だったそうである。
巴氏いわく
「荒吐さんが思うような、あまりまっとうな神道でも巫女さんでもないかもしれんのぅ。」
そんな彼女達がある時期を境に、時の権力者による弾圧にさらされたという。
御子神の巫女達は時の権力者の弾圧に対抗し、自身の身と神域、信仰を守るためその身を鎧おい、武装化した僧兵のような集団、「戦巫女」を生み出した。
代々多くの女傑を輩出してきた御子神の一族が自然とその戦力の中核を担っていった。
零女史の先祖達がその成り立ちから「巫女神」を名乗り始め、やがてそれが「御子神」へと転じたものと思われる。
霞の眼について。
御子神の戦巫女達は、その優れたフィジカルを最大限に発揮するため「霞の目」と呼ばれる独自の自己暗示操作術を用い、戦場で鬼神の如き剛力を発揮したと伝えられている。
これは強烈な自己暗示と特殊な呼吸法、修験道や密教由来の真言、神道の祝詞等の意図的、精神的な操作などを用いて人間の肉体の持つ潜在能力を瞬間的に引き出し、超人的な力と集中力を発現させる、一種のセルフバフ技能である。
いわゆる火事場の馬鹿力を強制的かつ意図的に引き釣り出す自己精神操作法の技法であり、メンタルコントロールテクニックの一種であろうと推測される。
この技法を用い戦巫女が戦場に現れる時は、正体を悟られぬよう鬼の面をつけた甲冑姿で現れ、その凄惨な戦いぶりは突如として戦場に降臨し、絶対の死を撒き散らす災厄の戦場伝説として「修羅姫」とも呼ばれた。
一部の文献においては、戦場で無念を飲んで斃れた死者の怨念が集まり生まれた、物の怪の一種としても記されている。
戦巫女達は圧倒的兵力の不利を補うべく、こういった戦場伝説も巧みに利用していた形跡がある。
こういった噂が流れるたびに
「神域を侵した罰当たり者の前には、必ず神仏の遣いたる修羅姫が現れ、黄泉平坂に送られる神罰が下る。」
等の噂を意図的に流布していたようだ。
まだ迷信深かった当時の人々に対する、これらの心理的効果は予想以上のものであり、寺社仏閣へ手出しすることに対する強力な心理的抑止力となっていたはずだ。
この技法を零女史は、幼いころに巴氏から
「一族に伝わる、いざという時に不思議な力が湧いてくるおまじない」、
として伝えられており、巴氏から零女史へと隔世遺伝する形で引き継がれた。(零女史の母君には発現しなかったそうだ)
零女史が極限の狙撃時に見せる異常な集中力、修羅の三白眼の正体はこれであろう。
実際に零女史の協力のもと、霞の眼の実演を見せて頂いた。
あの美女の容貌が瞬時に殺気を孕んだ三白眼に変化する様は、一気に室温が3-4度は下がったような錯覚を覚える程であった。
ただその三白眼への変化については、零女史本人には自覚がないようにも見えた。
後に女史に新しいお茶を入れてくるよう巴氏が命じ、彼女が席を立っている間に巴氏が語った話によると
「あの子はただのおまじないと思っておるようじゃからの、幸い瞳の変化は自分では鏡に向かって霞の眼を使わん限り気づかんからの。あぁ荒吐さんもすまんが、それについては黙っててやって欲しい、ああ見えても年ごろの娘じゃ、あまりあの目は世間体が良いモンじゃないからのぅ。」
と、そこには孫娘を案じるただの優しい祖母の顔があった。
修羅の三白眼への身体的変異だが、これは必ずしも霞の眼発現時に現れるものとは限らないようだ。
過去の霞の眼の使い手達の中には修羅の三白眼以外にも、筋肉の隆起による身体の肥大化、髪が逆立つ、皮膚の色の赤銅化などの形で現れる者もいたようだ。
またそういった視覚的に解りやすい身体変化が、全く現れない使い手もいたことが記録に残っている。
共通しているのは爆発的な集中力と身体能力の強化、意識の覚醒と人間離れした動体視力と反射速度の増加、痛覚や出血への異常なまでの耐性増加などである。
その身体変化の現れ方は、使い手により様々であるらしい。
また自己暗示のためのメソッドであるため、プロセスとしては当初は、巴氏に教わった通り、忍者のように九字を切ったり、光明真言を唱えることをトリガーとしていた。
しかし、これはあくまで自己暗示の発動トリガーであり、自身が
「このおまじないは効果がある」
と確信できていることが重要なのだ。
ルーティーンの内容自体は問わず、自分が
「これをやれば必ず効果がある、自分には超常的な力が宿るのだ」
と信じ切ることができる物ならなんでも良いそうだ。
ホルゼロ本編と、予定されているホルゼロ外伝、妖刀奇譚において重要な要素となる零の「おまじない」に関する説明がメインとなっています。
これらを本編で説明しようとすると、どうしても冗長になってしまうため、それならいっそ補足資料の方に隔離しちまえ!となったのです。
ただそれでは誰にも読んでもらえないので、オカルト記事風に加工してみました。




