第13話「見えるようになったんだが、ちょっと楽しい」
拳に残る感触が、まだ消えない。
(……勝った)
さっきまで一方的に殺されていた相手を、今は普通に倒している。
「いや、これ強くない?」
思わず漏れる。
視界が違う。動きが読める。反応できる。
(別ゲーだろ、これ)
足元の男を軽く蹴る。反応なし。完全に沈んでいる。
静かだ。さっきまでの暴力が嘘みたいに。
「——で」
店主に近づく。
「生きてるか?」
軽く揺らす。
「……っ」
微かな反応。
(セーフ)
致命傷じゃない。
「運いいな、おっさん」
自分も、だが。
⸻
「——何してるの」
「うわ、ビビった」
振り返る。リズ。
「戻ってきてたのか」
「騒がしかったから」
床の惨状を見る。
「……やったの?」
「まあ」
「一人で?」
「一応」
リズの目が細くなる。
「さっきの動きじゃ勝てない相手だった」
「まあな」
「何したの」
「企業秘密」
「胡散臭い」
「よく言われる」
一歩、近づく。じっと観察。
「……変わってる」
「そんな分かる?」
「分かる」
即答。
「視線。前は追ってた。今は先を見てる」
「……鋭いな」
「事実」
ほんの少し、口元が緩む。
(観察力バケモンか)
⸻
「とりあえず縛る」
ロープを取り出す。
「持ってんのかよ」
「基本」
「その基本怖いわ」
手際よく三人を拘束。
「慣れてるな」
「何度もやってる」
「物騒だなこの街」
「今さら?」
正論。
⸻
「——で」
リズがこっちを見る。
「調子乗ってるでしょ」
「え」
「顔」
「マジ?」
「マジ」
否定できない。
むしろ——
「ちょっと楽しい」
「……」
ため息。
「あんまり乗ると死ぬよ」
「一回死んだ」
「そういうのいいから」
「分かってるって」
でも——
(見えるって、こんな違うのか)
あの一撃。
“見えた瞬間”のあの感覚。
あれは、正直——癖になる。
⸻
「——おい」
低い声。
男の一人が目を開ける。
「……誰に手出してるか分かってんのか」
「テンプレ助かる」
「この辺は俺らの縄張りだぞ」
「へえ」
肩をすくめる。
「じゃあもう違うな」
「……あ?」
「お前ら全員、床だし」
沈黙。
横でリズが小さく息を吐く。
「煽るね」
「つい」
「殺されるよ」
「それは体験済み」
「学習して」
「してるって」
——見えるから。
⸻
「……覚えとけよ」
「仲間が来る」
「来れば?」
「……は?」
「むしろ来いよ」
肩を回す。
「練習になる」
リズが額を押さえる。
「バカ」
「なんで」
「戦いは遊びじゃない」
「分かってる」
「分かってない」
間。
少しだけ低い声。
「——強くなった直後が、一番死ぬ」
「……」
その言葉だけ、妙に残る。
⸻
外。足音。複数。
「ほら来た」
リズが構える。
「どうする」
「どうするも何も」
扉を見る。
(見える)
気配。重心。癖。
「……五人」
「正解」
「楽勝じゃね?」
「バカ」
でも——笑う。
「試す」
「……止めても無駄?」
「うん」
「そう」
ため息。でも、構える。
「死なないでよ」
「善処する」
扉が開く。
新しい敵。新しい動き。
——全部、見える。
(いいな、これ)
口元が上がる。
——ただ。
ほんの一瞬だけ。
“違和感”。
五人のうち、一人。
動きが——遅くない。
「……あ?」
次の瞬間。
そいつの視線が、こっちを捉えた。
——“合った”。
《To be continued》




