エピソード葉月 シャロンと翔子とリサの夏休み 美味しい「葛切り」のレシピ付き
ガランガランガラン!
「特賞大当たり〜」
商店街のイベント会場、
福引の大当たりが出た合図の鐘が鳴り響いています。
「ナニが起こったのデスカ?」
びっくりしていたのは、シャロンの父のジャン
彼は商店街の福引で二泊三日の温泉旅行を引き当てたのでした。
「やったねジャンさん!」
「アリガトゴザイマース、でも、1グループ3人までナンデスネ…」
「まあ、うちの商店街の予算じゃこれが精一杯だよ。」
「3人までデスカ…OH!いいコト思いつきまシタ!」
カラン…
「タダイマ〜♪」
東京の下町にある喫茶店「樹」にジャンが帰ってきました。
「お父さん、お帰りなさい…何だかご機嫌ね?」
「フッフ〜ン♪コレ見て下サイ」
ジャンが特賞と書いてある包を差し出します。
「なになに?」「何ですか?」
リサと翔子も寄ってきます。
「あ!」「これ!」「福引の特賞!」
包の中にあったのは温泉旅館の宿泊券が3枚
「イツも忙しく働く三人にプレゼントデス!タマには温泉に行って、疲れを癒して来てクダサイ!」
そう言って、ジャンは三人娘に宿泊券を渡したのでした。
早速計画を立て、喜んで旅行に出かけるシャロンと翔子とリサの三人
「やっと着いた〜」「遠かったね〜」「さすが秘境の湯…山奥過ぎて携帯も圏外だよ」
降ってくるような蝉時雨の中
着いた先は山奥のひなびた温泉旅館
その温泉旅館は山奥である事を逆手に取って「秘境の湯」を売りにしていました。
しかし…
「この旅館…かなり古い建物だけど」
「うん…」
「…何かあちこち苔生してますけど…大丈夫かなぁ?」
かなりの建物の外観に、不安を隠しきれない三人
「いらっしゃいませ、奥山温泉山田屋にようこそ!」
「お世話になります〜」
チェックイン…と言うより、宿帳に名前を書いて受付を済ませ、部屋に入ると…
「このテレビ…ブラウン管?」
「あ、ガチャガチャ回すやつだ!」
「これは…もしかして」
部屋に常備してあるコップや水差し
曲線的にデザインされた脚が美しい大きなテーブル
そのテーブルに合わせて作られたであろう座椅子
他にも、急須や茶托などなど…
懐かしさに溢れた部屋を見て、翔子は何やら考え込んでいます。
「…なるほど、ここの温泉旅館、昭和レトロをコンセプトにしてるのね!」
翔子の目が輝く
「山奥の秘湯、ひなびた旅館、家具もテレビも子供の玩具に至るまで、完璧に昭和を再現しているなんて!…やるわね、ここの経営者」
と、一人勝手に感動していました。
「翔子ぉ〜、お風呂いこ〜よ〜」
「置いてっちゃうわよ〜」
「あぁ、待って待って(汗)」
三人は旅館自慢の露天風呂「秘湯の湯」に向かいます。
秘湯というだけあって、岩場にある専用の出入口以外からは全く外からは分かりません。
「わぁ〜!」
そこは五、六人が入れるぐらいの小さな露天風呂、しかしそこから見える景観は素晴らしいものでした。
案内してくれた若女将は
「そしたら四、五十分後に迎えに来ますね?」
と言ってシャロンに鍵を渡して母屋に帰っていきました。
「貸切だぁ〜♪」
リサが脱衣場から飛び出してきます。
「ちょっとリサ、前くらい隠して…」
「何でよ?三人だけなんだから良いじゃない!」
「そうね〜、三人だけですもの、気兼ねすることないんじゃない?」
そう言ってシャロンも脱衣場から出てきました。
「…二人共、スタイル良くて…目のやり場に困るんですよぅ…」
「あれっ?翔子もしかして、胸が小さい事を気にしてるの〜?」
と、からかうリサ
「う…いいもん!いつか旦那様になる人に揉んでもらって大きく…」
「あ、その話嘘みたいよ?」
「え〜!?そうなの?どうしよう…」
なんて定番のガールズトークを弾ませながら、温泉に浸かっていると…
「はあ〜…」
「気持ちいい〜…」
「溶けちゃいそう〜…」
まるで時間の流れが、ゆったりとなって…
今だけは何も考えず、ただ温泉に身を任せる三人娘…
「いいお湯だったね〜」
「おおっ!」
「いい匂い〜」
温泉から戻ってみると、部屋には既に夕食が用意されていました。
山の幸らしく猪肉のステーキまである豪華な夕食に舌鼓を打つ三人。
「美味し〜い♪」
温泉も料理も素晴らしくて三人は大満足だった。
「はぁ〜」「美味しかったね〜」「満腹満腹〜」
と、そこへ…
「失礼しますじゃ…」
シャロン達の部屋に挨拶に来たのは、旅館の大女将でした。
「…何だか妖怪みたいなお婆ちゃんだね」
「しっ!リサったらもう(汗)」
「本日はお越しくださいまして、誠にありがとう御座います。この旅館の大女将で御座います」
「とっても、素敵な旅館ですね〜」
「そうじゃろう?
この旅館には座敷童子がおるからのぅ…
むかしむかし…」
大女将は、頼んでもいない座敷童子の伝説を語り出す。
その上「♪遊んでやりゃあ幸せに〜♪怖がり逃げりゃ祟られる〜♪」なんて歌まで聞かされた三人…
「た、祟られる?」「やめてくださいよ〜(汗)」
「それではごゆっくり…ひっひっひ…」
シャロンと翔子は怖がっていたけれど、リサは
「もしかして、オバケに会えるの!?」
と、逆に目をキラキラさせて喜んでいました。
その晩、
部屋で奇妙な事が起こり始める。
誰もいない廊下をパタパタと走るような音
扉が急に大きな音を立てて閉まる
いつの間にか置物の位置が変わっている
急にオモチャが動き出すなどなど…
そして、物陰で蠢く白い影が…
「きゃあァァァ!」
シャロンと翔子が悲鳴をあげる
そんな中、
「オバケ待て!」
リサがその影を捕まえようと追いかけ回す
「わわわ(汗)」
「な、なんだよ!この人」
「きゃー」
ドッシーン!
「やったあ!オバケを捕まえた!
…あれ?」
オバケの正体は、旅館の子供達でした。
「…本当に申し訳ございません!ほらっアンタたちも!!」
「ごめんなさーい」
若女将が三人の子供と一緒に頭を下げる。
「剛、晃、千鶴、何でこんな事したの!」
「だって…お姉ちゃんたち、婆ちゃんに座敷童子の話を聞かされただろ?」
「婆ちゃんの話を聞いた後だと、ちょっと音を立てるだけで、皆凄く怖がるんだ」
「大人が怖がるのが面白くて…」
と言うのがイタズラの理由でした。
「まったくもう…本当にすみません」
再度深々と頭を下げる若女将
「ああいえ、そんなに謝らないで下さい。それに…」
「えぇ、リサはオバケに会いたかったみたいだし…」
シャロンと翔子は苦笑いをしていた
「はぁ…オバケじゃなかったのね…」
と、気落ちしているリサだった。
「ごめんねお姉ちゃん」
「お詫びに、明日僕達が、いいところに連れてくよ!」
「山女魚が釣れるんだよ」
翌日、
子供達の案内で、山でキノコや山菜を採ったり、川で魚を釣ったり…
そこへ、
「お~い!」「あ、父ちゃん達だ!」
旅館の旦那さん達が、子供達のイタズラのお詫びにと、お昼にBBQを準備してくれました。
子供達も一緒になって釣った魚を串に刺して塩焼きにしたりしてます。
「塩焼き、最高!」
「お肉も野菜も新鮮で、美味しいです!」
そうして、短い夏休みを満喫する三人…
「水菓子を食べるかい?」
大女将が持ってきてくれたのは「葛切り」でした。
それはとても美味しくて…
「美味しい…凄く美味しいです!」
「おや、そんなに気に入ったのかい?」
「はい、この弾力…どうやって」
「ほんなら作り方、教えてやるよ」
「是非お願いします!」
シャロンは、大女将に「葛切り」の作り方を教えてもらいました。
「この山で採れる葛粉は特別でね」
大女将は納屋の奥から葛粉を持ってきました。
「本物の葛粉(本葛)だけを使うから、この透明感と弾力が出るのさ」
そして、シャロンにその葛粉を分けてくれたのでした。
夕食の後「花火しようよ!」と子供達に誘われるシャロン達
「わぁ綺麗!」
「手持ち花火なんて何年ぶりかしら」
「東京だと花火をする場所も中々無いですからね」
シャロン達が持つ花火の先から、色とりどりの光が弾ける…
「へー、東京って花火も自由にできないのか」
「それならあたしは、東京より山がいいな」
「千鶴は、あれだけ東京行きたいって言ってたくせに(笑)」
剛、晃、千鶴の三兄妹が、それぞれ花火を持って駆け回っている。
「…本当に、楽しそう」
その姿を、若女将と大女将が離れたところから見守っています。
リサもシャロンも翔子も、童心に戻って花火を楽しんでいました。
次の日の朝
帰る頃には子供達とすっかり仲良くなっていたシャロン達
「絶対また来るからね(泣)」と泣き出すリサをなだめながら、旅館の大女将達皆と一緒に記念写真を撮り、三人は帰京しました。
「お父さん、これお土産」
「OH!アリガトウゴザイマース」
「すっごく良いところだったよ〜遠かったけど…」
「本当に良いところだったね…凄い山の中だったけど…」
「…楽しめたみたいで良かったデス」
「あ、そうだ!」
早速、シャロンは分けてもらった葛粉で大女将直伝の「葛切り」を作りました。
「…オイシイデス!やはり日本のスイーツは奥深いデス!」
「これ、お店に出しても良いかな?」
「もちろんデス!皆に食べてもらって笑顔になって、皆Happyになれますネ!」
新メニュー
大女将直伝「吉野本葛を使ったツルツル葛切り」
こうして、喫茶店「樹」にまた新しいメニューが追加されたのでした。
8月の終わり、一つの古い温泉旅館が廃業したと小さくニュースが報じていました。
『…あまりに山奥にあったその旅館は、訪れる客が殆どいなくなり、秘湯ファンに惜しまれつつ解体されると言うことです。』
『ありがとうございました、次のニュースです…』
「…」
「区長?どうかなさいましたか?」
「あぁいや…書類は揃っているのかな?」
「はい、後は区長のサインを頂ければ」
「うむ」
「しかし、何故急に公園での花火を許可するよう指示なさったのですか?」
「いや、子供の頃、皆でやった花火を思い出してね…」
「確かに、他の区でも手持ち花火なら、公園の使用を許可し始めていますからね。」
最近は、東京都内でも、手持ち花火を楽しめる公園が少しづつですが増えてきています。
「東京の子供達…いや大人達にも、花火を楽しんで欲しいからね。」
「…では区長、私は書類を提出して参ります。」
「あぁ…頼んだよ…」
ガガガッゴゴン…
山奥の解体工事現場では、
どんどん旅館が解体されてゆきます
「おや?」
ふと、解体業者の作業員が手にしたのは、若い女性三人と旅館の従業員と子供達が一緒に写っている色あせた記念写真…
少しセピア色に変色したその写真には、S50.8.8の日付が刻まれている
「へー、随分古い写真だな……半世紀近く前のか?」
「おやっさん、何かあったんですか?」
「いや、何でもねえよ…サァ仕事を片付けちまおう!」
解体工事はあっという間に終わり、旅館は跡形も無くなりました。
ただ、あの秘湯だけは誰にも見つからなかったのです。
解体されて更地になった山奥の跡地。
しかし、鬱蒼とした草木の奥、岩間にひっそりと湧き出るあたたかな湯だけは、
今も静かに湯気を立てていたのでした。
〜〜〜美味しい「葛切り」のレシピ〜〜〜
大女将から教わった、本格的なのに家庭でも作れる「吉野本葛を使ったツルツル葛切り」のレシピです。
【材料】(2人分)
* 葛切り生地
* 本葛粉:50g
* 水:200ml
* 黒蜜(作りやすい分量)
* 黒砂糖(粉末):50g
* 水:50ml
* (お好みに応じて)醤油:1〜2滴(コクが出ます)
* 仕上げ用
* 氷水:適量
【作り方】
1. 黒蜜を作る
* 小鍋に黒砂糖と水を入れて中火にかけます。
* 砂糖が溶けたら弱火にし、少しとろみがつくまで2〜3分煮詰めます。(隠し味に醤油を1滴垂らすと味が締まります)
* 火から下ろし、しっかり冷ましておきます。
2.葛液を作る
* ボウルに本葛粉と水を入れ、泡立て器でダマがなくなるまでよく混ぜ合わせます。
* 茶こしなどで一度漉しておくと、なめらかな口当たりになります。
3.湯せんで固める(ここがポイント!)
* 鍋にたっぷりのお湯を沸かします。
* 耐熱性の四角いバット(またはタッパーなど)の内側をサッと水で濡らし、2の葛液を底から2〜3mm程度の厚さになるように流し入れます。
* お湯を沸かした鍋の上にバットを浮かべ、湯せんにかけます。
* 全体が透明になるまで、弱火〜中火で2〜3分ほど加熱します。
4.冷やして切り分ける
* 全体が完全に透明になったら、バットを鍋から外し、すぐに氷水につけて冷やします。
* 冷たくなったら、バットの中で葛生地の端を少し浮かせ、水の中で静かにはがし取ります。
* まな板に移し、包丁で5mm〜1cm幅の麺状に切り分けます。(包丁を少し濡らしておくと切りやすいです)
5.盛り付け
* 器に氷水と一緒に葛切りを盛り付け、冷やしておいた黒蜜を添えて完成です!
★シャロンのコツノート
「葛粉はできるだけ『本葛100%』のものを使うのが一番のポイントだよ。透明感と、もちもちしながらも歯切れの良い独特の食感が全然違うんだから!」
喫茶店「樹」の新メニュー
大女将直伝「吉野本葛を使ったツルツル葛切り」
本物の葛粉(本葛)だけを使って、この透明感と弾力を出してます。
手作りの黒蜜をかけてお召し上がり下さい。
エピソード葉月 シャロンと翔子とリサの夏休み 終わり
あとがき
「シャロンの喫茶店」エピソード葉月、お読みいただきありがとうございました!
今回の物語は、東京の下町から少し離れ、山奥のひなびた温泉旅館へ出かけたシャロン、翔子、リサの三人のひと夏のお話です。昭和レトロな雰囲気が残る温泉、美味しい山の幸、そしてどこか懐かしい人々との出会いと小さなイタズラ――。
喧騒を離れた自然の中で、彼女たちが心から夏休みを満喫する姿を描いてみました。
そして物語の終盤、少しだけ切ない時の流れや、形を変えて受け継がれていく温かな思い出についても触れました。どんなに建物がなくなっても、あの夏の思い出や、そこで味わった優しい味は、人々の心や喫茶店「樹」の新しいメニューとしてずっと生き続けていきます。
作中に登場した「吉野本葛を使ったツルツル葛切り」、レシピも載せさせていただきましたので、もしご興味があればご自宅でも試してみてくださいね。本物の葛が持つ独特の透明感ともちもちの食感は、おうち時間をちょっと贅沢にしてくれるはずです。
それでは、また来月のエピソードでお会いしましょう!




