2011
2011年8月13日。
深夜の舞鶴市の国道2号線では、2台の車が暴走運転をしていた。
2台とも車線を頻繁に換え、ジグザグ運転をしている。
「ちょっと、スピード出し過ぎよ!」
助手席の古町悦子は、肝を潰した。
曲がり角では、確実に日本海に落ちてしまう。
ガードレールの下は、断崖絶壁なのだ。
運転している池田満作は、スピードを落とした。
「ケッ、つまらねえ・・・」
後部座席の三浦裕一は、運転している池田満作の顔を見た。
酒に酔って、ヘベレケになっている。
「おい、池田。俺が運転代わるぜ。お前に任せてたら、全員死亡だ」
「何だよ、俺の運転が気に入らねえってのかよ」
「智恵美を、死なせたくないんでな」
三浦は隣の席の、小木智恵美を見た。
この女も、酒を飲みまくってイビキをかいて寝ている。
「いいから止めろよ!」
「うるせえ、俺の車なんだから俺が運転するのが当たり前だ!」
池田満作はアクセルを踏み、余計スピードを出した。
「バカにつける薬はねえな」
「満作の運転が怖いっていうの?」
助手席の古町悦子が振り返って、三浦の顔を見た。
「死にたくないんでな」
「満作の運転テクニックは十分過ぎるほど優秀よ。プロのスタントマンだって顔負け」
「分かったよ。酔っ払いに運転させときゃいいんだろ?」
いきなり、池田が急ブレーキを踏んだ。
前につんのめる三浦と悦子。
仲間の後続車が突然の急ブレーキに驚き、車線をはみ出した。
「バカヤロー!」
後ろの後続車を運転していた、千本松幸雄が怒った。
後続車に乗っていた四人が、降りた。
運転していた千本松、藤崎真知子、山田進也、西原真衣。
合計8人の男女は皆、幼稚園からの同級生である。
深夜まで、全員で酒を飲んでいたのだ。
「何だよ、危ないだろ!」
「何だよ、とは何だ?お前、運転代われって言ったろうが!」
池田が後ろを振り向いて、三浦に怒鳴った。
「穏やかに止まってくれるか?」
三浦は池田と運転を交代するために、車を降りた。
隣では、悦子がブツブツと文句を言ってる。
今度は三浦が運転席に座り、ちゃんとシートベルトを閉めた。
「じゃあ、見せてもらおうじゃねえか。お前の超セーフティーな運転をな」
後部座席で、池田が悪態をついた。
「やれやれ、死ぬ所だったじゃねえか」
三浦は車を発進させた。
後ろの千本松の車も、同時に発車した。
しかし、ものの五分もしないうちに、三浦は居眠り運転をし始めた。
車体が左右に揺れる。
「このヤロー、すぐに寝やがって!」
後部座席の池田が怒った。
車はガードレールにぶつかる寸前だ。
「危な~い!」
完全に寝てしまった三浦のために、助手席の悦子がハンドルを握った。
間一髪、車はガードレールにぶつからずに済んだ。
「助かった・・・」
悦子が安心したのも束の間、前方に人が歩いているのを発見した。
こんな夜中、ド田舎に人が歩いているなんて想像していなかったのだ。
ブレーキを踏んでも、間に合わない。
後部座席の池田も、人が歩いているのを見つけた。
悦子は足を伸ばして、急ブレーキを踏んだ。
しかし間に合わず、車は通行人をハネた。