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舞鶴怪談  作者: かわむら
3/20

殺戮

その頃、加護村では一日が始まろうとしていた。

村は日の出と共に、生活が始まるのだ。

吉三郎は朝ごはんを食べる前に、一仕事片付けるのが習慣になっていた。

養子にした孝治と共に、吉三郎は鶏小屋にいた。

鶏の産んだ卵を集め、工場に出荷する作業である。

収穫した卵は集めて、工場からのトラックのドライバーに渡せばよい。

吉三郎と孝治だけでなく、鶏小屋にはまだ、五名の作業者がいた。

その者も、吉三郎の古くからの友人である。

その内の一人が、誤って卵の入った箱を落としてしまい、卵は割れてしまった。

「バカ野郎、不安定な所に置きやがって!」

落とした慌て者に、突っかかる奴がいる。

「お前が悪いんじゃねえか!」

鶏小屋で、ケンカ騒動が始まった。

「まあ、待てや」

吉三郎は仲裁に入った。

このままでは、取っ組み合いのケンカになってしまう。

鼻息を荒くして、興奮している二人の間に立った。

「ケンカをする場合じゃないぞ」

「黙ってろ」

いきなり、銃を撃つ音がした。

吉三郎の言う事を聞かない奴の胸から、血が出てきた。

もう一人のケンカをしようとした奴の胸からも、血が流れた。

さっきまで言い争いをしていた二人の男は、同時に倒れた。

外からは何やら銃をブッ放す音が連続で聞こえた。

吉三郎は何事かと、小屋の外に出てみた。

外は地獄絵の惨状だった。

数人の村人たちが倒れ、血が流れているではないか。

大友を筆頭とする脱走囚人たちは、奪ったトラックで加護村に到着したのだ。

トラックで家屋もろとも、なぎ倒していってる。

なぎ倒すばかりではない。

トラックの荷台からは、奪った機関銃で仲間が村の男たちを射殺していっている。

大友の命令で、村の若い女は生かすようにしているのだ。

いつも朝飯の前に乳牛の乳搾りをしている小百合と浩一は、周囲が騒々しいので、外を見てみた。

外では軍用トラックに乗った凶悪な男たちが、村人たちを射殺していってるではないか!

小百合と浩一は、身震いした。

今出て行っては奴らに殺されるか、捕まるかのどちらかだ。

二人は牛小屋で、身を隠す事に決めた。

その牛小屋から、身を潜めて状況を見た。

叫び声を上げ、逃げ惑う村の人々。

ただ、オロオロするだけだ。

地面の至るところに、死体が散らばった。

トラックから降りた脱走囚人は機関銃を片手に、今度は歩いて村の男たちを射殺していく。

何者なんだ、あいつらは?!

どうすればいいか、吉三郎には分からない。

取り合えず、子供を安全な場所に避難させるのが先決だ。

「どうなってるの、おじちゃん?!」

「いいか、孝治!逃げるんだ!」

吉三郎は孝治を手を握り、走った。

孝治と一緒に逃げる吉三郎には、家族の事が気がかりだった。

息子と娘は牛小屋にいるし、朝飯を作っている妻の身も危険だ。

当たり構わず撃っている脱走囚人の機関銃の弾が、吉三郎の背中に当たった。

「おじちゃん!」

倒れた吉三郎に詰め寄る孝治。

吉三郎は撃たれた背中に、手を当てた。

血がどっぷりと、手についている。

瀕死の重傷だ。

「死なないで!」

孝治は泣いて頼んでいる。

「早く・・・逃げるんだ・・・安全な場所に・・・」

吉三郎は血のついた手で、孝治の体に触った。

そこへ笑っている脱走囚人の一人が、近づいてきた。

「頼む・・・、子供だけは殺すな・・・」

倒れたまま、吉三郎は脱走囚人に懇願した。

脱走囚人の一人、大村は(ふところ)から拳銃を取り出した。

「このガキの命が、そんなに大切なのか?」

「殺さないでくれ、この通りだ・・・」

吉三郎は大村に、両手を合わせて懇願した。

大村は笑うと、拳銃で孝治の頭を撃ち抜いた。

孝治が倒れ、血が吉三郎に降り注いだ。

大声を上げて悲しむ吉三郎。

親友から預かった子供を、死なせてしまったのだ。

「安心しろ。悲しまなくても、お前も同じ所へ送ってやる」

大村は機関銃で、吉三郎の腹へ向けて撃った。

吉三郎は口から血を流し、絶命した。



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