最終話 永遠のスペースヒーロー
5月7日 0800
突然、地球近傍に出現した秒速100kmの小惑星は、大気圏に突入する直前に爆発四散した。
専門家によると、あまりに速度が速すぎたため、大気圏に接触した瞬間に発生した衝撃波で砕け散ったのではないかということだった。
一部の専門家は、危うく東京湾付近に落下するところだったと言い、もし爆発していなければ、大震災規模の被害が発生していたとも。
朝からクラスの話題は、そのことばかりだ。
特に、その小惑星が全天を覆う花火のように砕け散った光景を直接見た者たちは、皆、興奮気味にその時のことを話している。
南條由里亜は自分の席に座り、楽しそうに昨夜の隕石について話すクラスメイトたちを眺めていた。
そして、西條亘とマゼラが登校していないことに気付く。
「西條君とマゼラさんは休みかしら」
その時、予鈴が鳴り、皆が自分の席へとついていく。
結局のところ、二人は来ないままだ。
「ん? 西條とマゼラは来ていないのか?」
教室に入ってきた担任の教師が、二人の空いている席を見てそう言った。
ということは、欠席の連絡が入っていないということだ。
「あの二人、怪しいよな」
「ゴールデンウィークに入ったばかりの時、二人が一緒に歩いているのを見たぜ」
「まさか、付き合ってないよな? もしそうだったら西條を消す」
どこまで冗談か分からないことを言い合う男子たち。
「そういえば、皆、昨日の夜の流星は見たか?」
担任の教師がそう言うと、生徒たちが口々に見たと返事をする。
そのあと、しばらくその話題で盛り上がり、1時限目の授業が始まろうとしたとき――。
突然、グラウンドに何かが落下してきた。
ドシン!! と鈍い音がして、土煙が上がる。
驚いた生徒たちが一斉に窓際に集まると、グラウンドに目を向けた。
すると、薄れていく土煙の中に、誰かが倒れているのが見える。
「誰か倒れているぞ!!」
「お、おい、あの格好……」
「ボロボロだけど、V男じゃないか?!」
それを聞いて南條由里亜がクラスメイトたちをかき分けて窓に張り付くと、グラウンドに倒れている男の姿を見つめた。
大の字になって倒れているその男の年齢は若く、確かに赤い全身タイツを着ているような気がするが、ボロボロなうえに、ところどころ黒く煤けている。
右手の手袋はなく、両足の白いブーツもつま先がなくなって、足の指が見えている。
あと、ヘルメットはつけていない。
「なんとなく、西條に似ていないか?」
誰かがボソッとそう言った。
その時、グラウンドに見たことがない制服姿のマゼラが駆け込んできて、倒れている男に近づくと、驚いたことに軽々と抱え上げた。
そして校舎の窓に大勢の生徒たちが集まっているのに気付き
「お騒がせしてすいません」
と、校舎に向かってそう言うと、お辞儀をした。
そして、そそくさとグラウンドから駆け出していく。
「一体どういうことだよ!!」
「待って、マゼラさん、事情を聞かせて?!」
「やっぱり、あいつは西條だったのか?」
クラスメイトたちがそう言うと、一斉に教室から駆け出していく。
南條由里亜もその一人で、階段を駆け下りると、亘を担いで校門から出ていこうとしているマゼラを追いかける。
「待って、マゼラさん、あの変態は西條君だったの?!」
その背中に彼女が大声でそう問いかけると、
マゼラが足を止めて振り返り、
「亘さんは変態じゃありませんよ、地球の平和を守ったヒーローです!!」
と、いつもの笑顔で言い、そこから全力疾走で逃げ去っていった。
「ま、待って、一体何があったの?!」
南條由里亜がそう言って追いかけるが、とても追いつけない。
「あなた達って何者なの?」
校門に着いたときには、亘を抱えたマゼラの姿はどこにも見えなくなっていた。
亘が目を覚ますと、そこは宇宙警察のUFOの中だった。
「あ、あれ? ここは……」
そう言って上半身を起こすと、デスラー保安官がいた。
「おや、亘君。気がついたようだね」
「俺は一体……」
「随分と無茶をしたね。いくらスペーススーツが頑丈だからって、限界はあるんだよ」
そう言われ、自分の姿を見ると、どこか見覚えのある作業つなぎを着ている。
「あれっ? これ、ワーキングマンで買って、どこかに吹き飛んでいったやつだ」
「マゼラが回収してきたんだよ。スカイツリーのてっぺんに引っ掛かっていたらしい」
「なんでそんなところに……」
そう言ってから、亘は思い出した。
「そうだ、俺、不法投棄ゴミに穴をあけて、マゼラフィギュアのスカートの中を覗いたんだ」
これだけ聞いたら、救いようがない変態だ。
「あのゴミはどうなったんだ?」
「成功したよ。マゼラフィギュアの機密保持用自爆機能が作動して、不法投棄ゴミは粉々になった。一部の小さな破片が海や陸地に落下したけど、人的被害はない」
それを聞いて亘が、心底ホッとした表情になり、再び床の上に倒れ込む。
「よかった、本当に良かった」
「君の活躍のおかげだ。よくやった」
そう言って、デスラー保安官が凶悪な表情になった。
これは彼の種族の笑顔だ。
「あと、スペーススーツはどうなったんだ?」
「さすがに、目の前で800ktの爆発が発生して、そのあと大気圏に突入して地面に激突したからね。スーツは壊れてしまった」
「俺、よく生きてるな……」
そう言ってから自分の体を見るが、怪我などは見当たらない。
「そっか。でも、もう二度とあれを着なくて済むんだ」
ホッとしつつも、少し寂しいような気もする。
その時、マゼラが段ボールを抱えてブリッジに入ってきた。
「あっ! 亘さん、目が覚めたんですね」
「ああっ」
「よかったです。そんなことより、まさか学校のグラウンドに落ちるとは思いませんでしたから、焦りましたよ」
「……えっ?」
「だから、亘さんは宇宙から学校のグラウンドに落っこちたんです。一歩間違ったら、亘さん自体が隕石になって大変なことになるところでしたけど、スペーススーツの安全機能が作動して、地面にぶつかる直前に減速をしたんですよ」
「そんなことより、学校に落ちたって……まさか、皆が登校する前だよな?」
「皆さんいましたよ。だから亘さんに代わって、お騒がせしてすいませんって謝っておきました」
「ちょっと、待って。じゃあ皆に俺が変態ヒーローだってバレたの?」
「気付いた人もいるかもしれませんね。あと、南條さんには私から、亘さんが地球を救ったヒーローだって伝えておきました」
そう言って、私って気が利くでしょ、とばかりにウィンクをする。
しかし亘は絶望的な表情になり、
「終わった、俺はもう二度とあの学校には行けない」
と、ブツブツと呟いている。
「あと、これは亘さんにです」
そんな彼にマゼラが両手で抱えていた段ボールを手渡した。
「何これって……うぇ?!」
その上面には見覚えのあるロゴが書かれている。
Amadon。
「も、もしかしてこれって……」
「ああ、ごみを不法投棄した宇宙船からたっぷりと罰金を取れたからね」
「よかったですね、まだセールやってて」
デスラー保安官とマゼラがそう言って、ねぇ~と言い合う。
「ち、ちょっと待て、いくら何でも、昨日の今日で……」
「ハハハ、実は私はプライム会員なんだよ」
段ボールを開けると、見覚えのある真っ赤な全身タイツと白手袋とブーツ、そしてヘルメットが入っていた。
「冗談じゃない、もうこんなクソダサスーツなんか絶対に着ないからな!!」
亘がそう怒鳴ると、そんな彼にマゼラが近づいて、顔を覗き込んできた。
「もちろん、亘さんが嫌なら、もうパーソナルデータ登録はしません。他の人を探します」
「ああっ、そうしてくれ」
「良いんですか?」
「何?」
「本当に良いんですか? 知っての通り、登録しちゃったら、もう変更はできませんよ」
「…………」
マゼラとデスラー保安官がニヤニヤと笑っている。
※デスラー保安官は不気味な表情。
「さあ、どうします、西條亘さん?」
「・・・・・・・・。」
もう答えは決まっていた。
スペースヒーロはこれで最終話となります。
今後、面白いネタが浮かんだらまた続編を書くかもしれませんが
ひとまず、つたない文章にお付き合いいただきましてありがとうございました。
他にもいろいろ投稿していますので、目を通していただければ嬉しいです。




