2.10 ポンコツとはいったいなんなのか
Side:ベル
その後全裸のサイボーグが
「こちらから危害を与えることは無い。こんな体だから外に出るのも難しいんだ。少し外の話を聞かせてくれないか?」
と言われ、言われるがままに奥の部屋について行くと紅茶や茶菓子でもてなされた。
うん。
サイボーグにもいい人はいる。
でも、全裸族に普通の感性を持った人がいるとは思わなかった。
服はどうしたのか聞いても
「服は随分前に朽ちてしまってね。私には服を作る技術も素材も無くてね、済まないが我慢してくれ。」
と、丁寧に理由まで説明していただいた。
外見以外はしっかりした人なのかもしれない。
第一印象が最低なだけにどうにも信用しがたいけど。
するといきなり扉が開かれて、メイド服を着た少女が出てきた。
うん。
服が無いうんぬんは嘘だったみたいだ。
いつ聞いたのかこの言葉を思い出した『ホモは嘘つき』。合っているのかもしれない。
「あ、マスター!やっぱり一人でやってる!絶対に私のこと忘れてたでしょ!ねぇ!」
全裸のサイボーグ―名前は「そうだね、キドと名乗っておこうか」って言ってた。胡散臭い―はもとから少女が来ることを知ってたように動じない。
「アイ、どうやってここに来た?」
マスターと呼ばれたキドは、体も動かさずチラッと目線を向けたあと僕を見ながら少女と会話をする。
アイと呼ばれた少女はイラッとする仕草でやれやれとため息をついたあとに
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花の私がマスターの性格も分からないとでも?転送装置にスイッチを押したと同時に私が起動する機能も追加しただけよ」
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花は性格が分かるかどうかに関係は無いと思うな。
文章量の割に情報量は少ない。
ついでに意味が分からない。虚言癖?
まぁ、一言一句間違えずに言ったあたり記憶力はいいんだろうけどこの子からボンコツ臭がする。
「ああ、あれはそういうやつだったか」
「ふふん!誰だか知らないけどそこのちっちゃい子!私を侮らないことね!いつもここに来る人は私をポンコツだとか破滅的だとか言ってくるけど私は技術の粋を集めて作られた完全無欠のホムンクルスよ!」
ホムンクルスか……まぁ、スライムだとかモンスターとか異世界特有のは目が腐るほど見たし今更驚かないけどね。
なんか喋り方からしてなんとなくポンコツ臭が漂ってるんだよね。
本人が自分から違うと言うのはフラグだと相場が決まってる。
「まぁ、詳しくは見なかったが、何かあったら駄目だから効果時間を3分。大体後残り1分だな。さて、どうする?」
やっぱりポンコツだったか。
「待って!私あと一分で消えちゃうの!?「あと四十秒はあるな」あと四十秒!?」
さよならアイさん。
会ってから1分程度だったけど楽しかったよ。
「待って!なんでよ!私はすっごく待ったのよ!私を動かすエネルギーが無いとか言って停止させられたのよ!」
「確かにそんな理由だったか、あれはアイが発電所を爆破させたからだったか?」
うむ。
中々のポンコツ具合だ。
ただそろそろ会話に入れてほしいな。
蚊帳の外は嫌だ。
「そ、それは!……だからって私を停止させることはないんじゃないの?!」
どちらかと言うと自業自得だと思うけどな。
「あと十秒」
「そ、そんな!そこのあなた!どうかマスターを説得してください!あなたは私の最後の希望なんです!もう私が起動することはマスターが起動するしかないんです!お願いします!」
「あと3秒」
「ねぇお願い、頷いて!嘘でもいいから!私ポンコツだからこのままだとずっとマスターが起動してくれないかもしれないの!」
取り敢えず僕は基本的に家庭の教育方針には口を出さない主義なので。
困った風に苦笑いをしておこうか。
…説得できる機会があれば説得してみるからね、でも今の僕には何も出来ないんだ。
「あと一秒」
「あーあ、私はこのまま外の世界を見ないままに眠りにつくんだ。私、マスターと一緒に海で泳ぐのが夢だったの。マスターと一緒に買い物に行ったり、学校にも行ってみたかったなー。マスターと一緒に大会で優勝したり………
……うん。
あと一秒と言ったあとも問題なく活動してるっぽいね。
一緒にハイキング、ゲーセン、キャンプいっぱい出てきてる、むしろよく出てくるね。
もうすでに自分が今食べたいものを言い始めてるし。
ハンバーグ…しっかりイメージ通りだな。
「さて、すまないがあれはしばらくおいておいてくれ。まずは名前から聞いてもいいかな?」
「ベルです。とりあえずあなたの目的を聞いてもいいですか?」
なんだかアイさんが来たことでゆるい感じの空気になってしまったが、目の前の人物がいきなり僕を此処に連れてきたのは間違いないんだ。
目的によっては僕は全力で逃げる。
戦いは論外だね。勝てるわけがない。
そもそもサイボーグだから身のこなしがどうとかいうレベルはじゃない。
僕はこの人が腕からミサイル発射しても驚かないね。
「さっき聞いた『話を聞きたい』はあのときは納得はしましたが、それなら僕である必要は無いです。もっと警戒心の無い子供とか、適任な人はいっぱいいるし。さっきそこのホムンクルスが言ったようにここはエネルギーが不足しているらしい。なのに僕を転送装置とかいうものを使って貴重なはずのエネルギーを使った。」
「………」
「グラタン、エビチリ、チャーハン、ラザニア、チーズ、ヨーグルト………
「………僕はここまで分かっていてそれでも連れてこられた理由が話を聞くだけとは思いません。どうして僕をここまで連れてきたんですか?それを把握できないと僕は身の安全を確信できないし、僕が身の危険を感じたら即座に魔法をぶっ放しますから。」
「………」
「カレー、パスタ、オムライス、コロッケ、ピザ……
「これを聞いてまだ何も言わないのであれば僕は帰らせてもらいます。話す気になりましたか?」
キドは何も言わずにじっとこちらを見ている。
出合ったときからずっと。
興味深そうに、図鑑を眺めるようにじっと見ていた。
やがて気が済んだのか、僕の目を見て言ってくる。
「やっと見えた」
その言葉を聞いてピンと来た。
お母さんが言ってた偶発的に宿主に宿る、目を介した異能力『魔眼』。
魔力が見えるものから、もっと珍しいものだと視線を向けるだけで自分より圧倒的に弱い相手を殺すものまで。
発動動作の必要ない初見殺しの異能力。
発言からして人の弱点を特定できるものか思考を読むことができるものなどの直接の攻撃力はない魔眼といったところか。
だが、ここまで時間をかけてやっと見えるのであればそこまで強力な魔眼ではないのだろう。
だが、魔眼を使ってきたのであれば明確な敵対行為だ、戦闘は避けられない。
思考を読まれたとしても椅子に座っている今が好機。
相手を殺すまで行かなくとも両親のどちらかが来るまで耐えればいい。
そう思っていたが続く言葉に体が止まってしまった。
「よく戻ってきた。あの時からずっと探していたぞ、レイ。」




