強化魔法
接近するシルアとガルヴォロス。先に相手を間合いに捉えたのはガルヴォロスだった。得物である『魔槍ゲイ・ボルグ』はその昔魔界を牛耳ったといわれる伝説の戦士、ク・ホリンが使っていたとされる伝説の武器である。
連続で突き出されるゲイ・ボルグは空気を射抜き、ボッ! ボッ! ボッ! と、おおよそ槍で突いているとは思えぬ音を響かせる。
間合いの遥か遠くから飛んでくる攻撃を俊敏な動きで躱すシルアだが、先程までの狭い空間の時とはまるで違う研ぎ澄まされたガルヴォロスの槍さばきの前に、シルアは全く近づけない。
一旦距離を離したシルアに対して、ガルヴォロスは魔槍の柄を地面に突き刺した。
すると瞬く間に紫電が柄から穂先に至るまで帯電し、その状態で横薙ぎに振るわれた一撃は雷を広範囲に拡散させ離れたシルアにも襲い掛かった。
跳躍し空中に逃れたシルアだったが、逃げ道を予測していたガルヴォロスは既に狙いを定めており、五月雨の如く激しい突きを繰り出す。さらにこの突きは槍に溜まった紫電を一々放電する為、紙一重の回避ではその影響から逃れ切ることはできない。
「くっ!」
案の定突きの軌道は見極め躱すシルアだが、弾ける紫電を受けて身体機能を蝕まれてしまう。
並外れた動体視力に差し支えなくとも、麻痺した運動神経では身体がついていけず、すべての攻撃を回避で凌いでいたシルアは双剣による防御を余儀なくされる。
そこを待っていたガルヴォロスは一突きで防御を弾き上げ、双剣が戻ってくる前に、シルアの腹部を魔槍で強打した。
吹き飛んだシルアは積み上がる瓦礫の山に深々と埋まったが、直ぐに脱出すると口元をゆるゆると伝う血を拭った。
「属性付与は嫌いです。こうやって属性打ち消し魔法を唱える以外に、これといった対策の打ちようがない」
淡い緑色の光を放つシルアの右手が麻痺する身体を正常に戻す。
「お前は属性を纏った攻撃を得意とはしないようだな。神が遣わした天空騎士がそのくらいの芸当もできぬのか?」
「ええ。僕は属性付与が苦手です。そもそも魔法自体あまり使えませんし、他の仲間たちに比べたら僕は芸のない騎士ですよ。ただ……」
シルアの纏う闘気が大きくなる。
「そんな僕でも得意な魔法があります。強化魔法がそれに当たります」
強化魔法とはその名の通り、力を高める効果を及ぼす魔法である。高める能力は肉体強化と魔力強化の二つに大分され、効果が及べば本来は持ち得ぬ限界以上の能力を発揮することができる。
「ほう。補助的な側面が強い強化魔法でどれほどの闘いを見せてくれるのか」
「行きますよ」
踊るような足捌きを始めたかと思うと、シルアの姿が突然消えた。驚いたガルヴォロスは思わず後ろに飛び退き辺りを見渡したが、シルアの姿はどこにもない。
背後からの殺気にガルヴォロスの背筋が寒くなる。
「ぐあっ!」
振り向こうとした時には背中を斬り付けられる衝撃が走り、一拍子遅れて振り返ればそこにシルアの姿はなく、蹴り上げて巻き上がった砂埃が僅かに上がるのみである。
次々とガルヴォロスの漆黒の甲冑に傷が付くが、攻撃される瞬間を視認することすら容易ではない程のシルアの速さ。
接近戦を仕掛ける相手の姿を捉えられないなどという馬鹿な話があるだろうか。正に神業、神速といっても過言ではない圧倒的速度は、数え切れない程の戦闘を経験してきたガルヴォロスをしても初の体験だった。
「なるほど、補助魔法などととんでもない。この技自体が必殺足り得る程の神技的領域ではないか。だが!」
ガルヴォロスの紅い瞳がぎらりと光る。姿を捉え切れずとも予測はできる。そしてその予測は幾多の死線を潜り抜けてきた猛者、ガルヴォロスにとって確信的要素となる。
「そこだっ! くらえ、シルアッ!」
今まさにガルヴォロスに攻撃しようとするシルアの目の前に、ガルヴォロスが繰り出したカウンターの突きが襲い掛かった。




