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ラグナロククエスト 『神々に翻弄されし運命』  作者: 風花 香
第一章 宿命を背負いし者たち
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森の中の闘い

 ガレスの宿を出た一行は、一路西へ進みヴィデトの塔を目指す。

 この日も晴天は地平線の彼方まで続いており、暖かな陽の恵みは先へ進む活力を生む。


 一年を通じて最も穏やかな気候で天気の移り変わりも少ない精霊の月は、縁起の良い月としてラー大陸の人々に親しまれている。寒さ厳しく災いの起こりやすい悪魔の月とは対をなす季節なのだ。


 ヨハンたちの今回の旅も、季節と気候には大変恵まれているといえる。


 しかしそれも魔物が彷徨く現在では気休め程度の好事であり、真の脅威には常に細心の注意を払わなければならない。


 やがて街道が南に大きく曲がった。そのまま街道を進めば、ヨハンが訓練に赴く城塞都市スメロストに着く。人口二八〇〇〇人を数える繁栄した城下町である。


 今いる道を通る人々は十人中十人がスメロスト方面に進むだろうが、ヨハンたちはさらに西へと続く整備されていない獣道を行くのだ。

 人の往来が少ないその道は左右が鬱蒼と茂った草木に覆われており、侵入する者を拒んでいるかのような雰囲気を醸し出している。

 道の分岐で立ち止まり、ヨハンは二人に厳しい口調で言った。


「わかっているとは思うが、ここから先は危険度がぐっと増す。油断したら即、死ぬものだと思え。ユリア、これをお前に渡しておく。降り掛かる危険は自分自身で払うんだ」


 手渡されたのは細身の刃が特徴のレイピアであり、女性の細腕でも容易に扱える武器である。

 ユリアは真剣な表情で頷き、レイピアを腰に差した。


「行くぞ」


 整備された土の街道とは違い、馬が草や枝を踏む音は周囲の木々のざわめきに溶けて混ざり合い、襲撃者の発見に遅れが生じてしまいそうだ。


 三〇分ほど進み、前後左右全方位に警戒心を尖らせていたヨハンが手を挙げて止まった。


「パウルは下馬しろ。ゴブリンが二匹だ」


 前方およそ三〇メートル程の所に太い木が横たわっている。


 その木の後ろで周囲の緑に擬態して身を屈めて潜んでいるゴブリンの尖った耳をヨハンは見逃さなかった。

 狡猾な性格のようで、ヨハンたち獲物が知らず知らず近付いてくるのを待ち伏せしているようだ。 


 ヨハンはツヴァイハンダーを、パウルはロングソードを抜きじりじりと距離を詰める。


 すると存在がバレていることに気付いたゴブリンたちは横たわる木に登り姿を現した。

 二匹揃って咆哮を上げヨハンたちを睨みつける。不意打ちが失敗したことへの怒りか、ゴブリンたちは猛然と襲い掛かってきた。 


 咆哮に驚いたパウルはすくみ上がり動きが止まる。対してヨハンは接近するゴブリンに向かって駆け出した。

 ヨハンは右手に握ったツヴァイハンダーを左腰の辺りで構え、間合いに入ったゴブリンに向け横薙ぎに一閃を見舞った。斬撃をまともに受けたゴブリンは胴体部分から両断され即死する。


 しかしすぐ後ろに控えていたもう一匹のゴブリンが飛び上がり、頭上からヨハンに襲い掛かる。

 剣を振るったヨハンには隙が生じるはずだったが、横薙ぎに払った動きの流れを止めることなく身体を回転させると、狙いすました蹴りを放た。

 回し蹴りをまともに受けたゴブリンは短い悲鳴を上げて仰向けに倒れ、一瞬の内に距離を詰めたヨハンはゴブリンの首に剣を滑らせる。

 ゴブリンの首からは青い血が噴水のように上がり、僅かに痙攣した後事切れた。


 一瞬の攻防。

 それもゴブリンに何もさせない圧勝であり、地の利が効かないことも人外の化物を相手にしていることもヨハンには関係がないようだった。


 後ろで呆然と立ち尽くすパウルを見やり「大丈夫か? 腰抜けくん」とからかうヨハン。

 その嘲笑する顔を見てはっとしたパウルは顔を朱に染めた。


「て、てめえヨハン! 一匹は俺の獲物だろうが!」


「ふん、今にもへたり込みそうなやつが言う台詞か?」


 ヨハンはパウルのさらに後ろで馬に跨ったままこちらを微笑ましそうに見つめているユリアに目をやるが、一瞬の違和感を見逃さなかった。

 ユリアの斜め後ろの茂みが揺れたのだ。嫌な予感が全身を一瞬でかけ巡る。


 パウルは既に自分を相手にしていないヨハンに苛立ったが、ヨハンの後ろ、先程ゴブリンが隠れていた倒木の辺り。

 新たに現れたゴブリンの姿に狼狽した。

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