不気味な肉料理
鼻孔を刺激する芳ばしい香りにヨハンは目を覚ました。
「美味そうな匂いがするな」
続いてどかどかと荒々しい足音が聞こえ、次の瞬間寝室と受付の間を隔てる扉が勢い良く開けられた。
「飯だぞー!」
相変わらずの豪快すぎる声量に、まだぐっすり眠っていたパウルはひどく驚き飛び起きた。
肩に担ぐように持つ皿には大きな焼き魚が乗せられ、もう片方の手には包丁が握られている。
「普段は飯なんざ出さねえんだが、お前たちにはサービスだ。思いっ切り食って体力つけていけ!」
「でかい声のサービスは勘弁してくれよ、ガレスさんよぉ」
食卓につくと、案の定ヨハンが魚にどんどん手を伸ばす。
その勢いは喰らい尽くすと表現するのが合うほどで、骨までバリバリと食べている。
ぶつ切りにされた魚は僅かの間に半分ほどがなくなり、その殆どがヨハンの胃袋へ送られた。
「てめえ、ヨハン。俺達のことも考えて食えよ」
「飯は戦争だ」
「分けわかんねえ事言ってんじゃねえ! 俺は寝起きだと飯が喉を通らねえんだよ」
「じじいか、お前は。ところでおっさん。この魚はどうしたんだよ? 随分新鮮じゃないか」
カウンターに立ちコーヒーを飲んでいるガレスは腕組みをして得意げに笑う。
「昨日お前たちが寝入った後にインガドル川に釣りに行ったのよ! 若い奴らがあんなパン切れ食べてるのを見せられちゃあじっとしていられねえ」
「あんな時間から釣りに?」
ユリアとパウルは驚いているが、ヨハンは別段驚きもしないようだ。
「おっさんにかかればいつものことだし、魔物に襲われたってまず返り討ちだよ。だけどありがとなおっさん。おかげで元気がでるぜ」
相変わらず魚を頬張るヨハン。
ガレスも親指を立てて応える。
ガレスは視線を釜に移し、そろそろか。と呟きその釜を開けた。
「ほらよ! 二品目だ!」
テーブルの上にはこんがりと焼けた大きな肉が乗せられ、これもガレスの包丁でぶつ切りにしていく。
「でっけえ肉だな。でも皮が緑っぽくねえか? こんな肉見たことねえよ。何の肉だガレスさん?」
何の肉かわからず、食べる事を躊躇するパウルをよそに、ヨハンはその肉にナイフを突き刺した。
「ふん、そうやって好き嫌い言ってるようじゃ身体は強くならねえな」
「そいつは今朝仕留めたゴブリンの肉だ」
あっけらかんと言い放つガレス。
口の手前まで運んでいた肉がピタリと止まるヨハン。
パウルもユリアもその緑色の肉をただ凝視している。
すっとナイフを下ろし「腹は満たされた」とヨハンが一言。
気味の悪い肉はそのままに話題はヴィデトの塔へと移る。
ガレスはここで長く商売をやってれば、否応無しに様々な情報が入って来ると言う。
ヴィデトの塔の現在は山賊のアジトとなっており、到達してもその山賊たちをどうにかしないと中には入れないであろうこと。
またヴィデトの塔には神聖な力が宿っており、塔内部に魔物は入り込めないことを教えてくれた。
どちらの情報もここ数日の内に行商人から聞いたものらしく、信憑性は高いと付け加えるガレス。
「なるほど。山賊は厄介だが追い払ってお邪魔させてもらおう。それじゃあおっさん、そろそろ行くよ。帰りも寄るからな」
「ああ、気をつけて行けよ。道中も森林に囲まれた地域だから魔物の急襲には用心しろよ! それに一日じゃ恐らく抜けきれねえ森だ。餞別にこの肉を持ってけ!」
「……ああ、ありがとよ。それじゃあな」
三人が出た後にはナイフが刺さった以外変わりない肉がテーブルに残された。




