3・学級委員決定!
あの後、クレアさんにレベルアップについて詳しく聞いてみた。
やはり俺の予想通り、最初の内は必要経験値も少なく、レベルアップしやすくなっているらしいが、後につれてレベルアップがしにくくなっていくらしい。
「では授業を始めるぞ〜」
右手に白いチョーク、左手に教科書を持って授業を開始する。
——奴隷学校の先生になってから三日目。
魔法のチョークの使い勝手も大体分かってきた。
レベルアップ!
レベルアップ!
初日に比べて、生徒の頭でホップする『レベルアップ』の数が少ない。
しかし一日で一人の生徒が1レベルアップするくらいが普通、という基準で考えればたった一時間の授業で、複数の生徒がレベルアップする状況は異常ともいえた。
「この奴隷学校があるアドルフ市はカサナリア地方にあり、主要言語はカサナリア語になり……」
ちなみに俺がこうして普通に異世界の言語を話せ、且つ書くことが出来るのは校長のおかげだ。
何でも、召還したと同時に《万能言語》(オールストラクチャー)という魔法? を使ったらしく、その恩恵を俺達は受けている。
相変わらず、あの人、何で校長先生なんかやってんだよ。
レベルアップ!
こうしている間にもレベルアップしていく生徒達。
ただチョークで黒板に書き込んでいるだけで、『レベルアップ』の文字がホップしていく光景は圧巻であった。
ここ三日間で魔法のチョークの効果についても調べてみた。
どうやら書き込んだ文字数が多ければ多い程、生徒達に経験値が入っていく仕組みらしい。
ただ『○文字で○経験値が入る』という規則はない。
いや、本当はあるかもしれないが、見つからないのだ。
そして——レベルアップについてだが、一年三組の生徒が平等にレベルアップしていくわけでもないらしい。
この辺りはクレアさんに聞いてみれば、何でも『得意科目』『苦手科目』、さらに生徒が持っている固有の『ジョブ』が関係してくるらしい。
後者についてはよく分からないが、前者については何となく理解出来る。
この奴隷学校では主要な五科目があり、それを中心に授業を行っていく。
その五科目とは『言語』『数学』『魔法』『体術』『社会』であり、名前から大体分かると思うが、個々の詳しい説明についてはまた機会があればするとしよう。
主要な五科目の中に、生徒によって『得意科目』と『苦手科目』が存在しており、『得意科目』の授業ならば多く経験値が入り、『苦手科目』ならば得られる経験値も少ない、ということなのか。
また生徒自身の資質の問題もあるかもしれないな。
勉強が得意な人間、地面を早く走れる人間、空を飛べる人間、みんな違うからみんな良いのだろう。金子みすずかよ。
「という、感じで、あって……」
俺は元々喋るのが得意な人間じゃない。
だから、たまに語彙が尽きてしまい、こんな感じのしどろもどろの授業になってしまう。
内容もただ教科書を読んで、書き写しているだけの単純なモノだ。
……これではいけないな。
魔法のチョークに頼り切るのではなく、先生としての質も高めなければ。
レベルアップ!
——魔法のチョークの力で、順調にレベルアップしていく生徒達。
しかし俺はその中で一人だけ、ホップするレベルアップの文字の頻度が明らかに少ない生徒に気付いていた。
(さあて……どうするかな……)
勉強は苦手なのだろうか?
しかし一生懸命、ノートと黒板に視線を往復させている。
それなのに、隣でウトウトしている生徒の方がレベルアップの回数が多いような気がする。
(後で話しかけてみようかな?)
頑張っている子は嫌いじゃない。
後で個別で呼びだして……って、これじゃあ警戒されるかな?
そんなことを考えていたら、終わりの鐘の音が鳴り響いた。
「よーし、これで今日の授業は終わりにするか。みんな、帰ってゆっくり休めよ」
そう告げて、俺は荷物をまとめて教室から出て行こうとする。
「待ってください!」
扉に手をかけた瞬間。
後ろから、そんな女の子の声が聞こえてきた。
「……どうした? ロレッタ?」
——ダメなことではあるが、まだ全員の名前は覚えられていない。
しかしその子の名前は覚えていた。
何故ならば……、
「先生。このクラスに欠けているものがあると思うんですが、それが何か分かりますか?」
その子は猫耳を頭から生やしており、愛嬌たっぷりのクリクリした瞳がトレードマークの可愛らしい女の子だ。
「欠けているもの?」
「はい。授業終わる時にいつも何かに引っ掛かりませんか?」
授業が終わる時?
ロレッタは一人立ち上がり、猫耳をピョンピョンと動かしてこう言った。
「終わりの挨拶ですよ! 終わりの挨拶がないから、いまいち引き締まらないんですよ」
「ああ……」
言われてみればそうだ。
今まで終わりの鐘が鳴り響いたら、例え授業が終わりでも「授業終わり!」と俺が切り上げて、教室から出て行くだけだった。
これは「てめぇの授業進行が下手なせいで、俺達の貴重な休み時間を減らすんじゃねえよ」というニホン時代に思っていたので、それを実践したからだ。
ただ、いきなり終わるものだから、生徒としては授業と休み時間のメリハリが付けにくいのかもしれない。
「確かにそうだな……よし。決めた」
ロレッタの猫耳が一つの独立した生き物のように動く。
「明日から授業が終わったら、もっと大きな声で『授業終わり!』と言うことにしよう」
「って! 何でそうなるんですか!」
コント芸人のようにずっこける素振りを見せるロレッタ。
「冗談だ……お前はつまり『気をつけ』『礼!』みたいなことをしたいんだよな」
「そ、その通りです!」
ロレッタが身を乗り出して言う。
「その『気をつけ』『礼!』っていう係にお困りのようでしたら、私がやってあげましょうか?」
「お前が? でもこういうのって、学級委員とかがなるもんじゃないのか?」
ああ、そういえば学級委員も決めていなかったな。
そんなことを思っていると、ロレッタは「今だ!」という表情で、自分を指差し、
「私が! 私が学級委員になってあげましょう」
「やけにやる気があるんだな」
「そりゃそうでしょ。私みたいなお利口さんで責任感の強い優等生。まさに学級委員になるために生まれてきた奴隷とも言えるでしょう」
「奴隷である必要はあるのか?」
「だから先生! 私に学級委員をさせてください!」
鼻息を荒くするロレッタ。
どうやら、相当『学級委員』がしたいらしい。
「うーん……まあ俺は別に誰でも良いと思うんだが、他のみんなはどうだ?」
座っている他の生徒にも視線を配らす。
すると「誰でもいいよ」「そんな面倒臭いことやりたくないよ」という雰囲気が教室に漂っているのを、俺でもはっきりと分かるようであった。
「決まり、ですね」
指を鳴らすロレッタ。
「反対がなければ私が! 学級委員をしたいと思います。先生! それで良いですよね」
「お、おう……別にいいぜ」
今にも机ごと、こちらに突っ込んでくる勢いだったぜ。
正直、こんな学級委員なんて役回り、無駄に目立つし無駄に雑用は多いし自分からやりたいヤツなんてなかなかいないだろう。
そんな奉仕の心に満ち溢れているロレッタ……彼女のやる気を買うことにした。
「よっしゃ。今日からお前が三組の学級委員だ。頼むぜ。クラスをまとめれくれ」
「はい! お任せあれ」
ピシッ、と右手で敬礼するロレッタ。
そんな文化が異世界ミルドファースにも存在するのだろうか。
学級委員も決まったところで、改めて教室から出て行く。
「ロレッタか……まさか、あいつが学級委員だなんてな」
俺がロレッタの名を覚えていた理由——。
無駄に自分に自信があった少女。
「あいつ、一人だけレベルアップの速度が鈍いんだよな……」
そうなのだ。
あいつは自分で『優等生』と言っていたが、少なくてもレベルの観点から見ると三組一の劣等生だったのだ。
「まあレベルなんてつまらない指標! 俺には必要ないけどな!」
なんたって、俺の目指すのはハーレムクラスなのだ!
しかし……みんながレベル100! とか達成しているのに、あいつだけレベル10のままだったりとかしたら、孤立してしまうかもしれないだろう。
あいつでも授業に付いていけるようにしないと……。
通信簿を開き、あいつのことを思いながら廊下を歩くのであった。
ロレッタ 13歳
種族:獣人族 猫科
ジョブ:猫
レベル:3
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