第3話 選別の闘技
冒険者ギルドの模擬戦場は、いつも以上の熱気に包まれていた。
観客席には多くの冒険者たちが集まり、ざわめきが絶えない。
「新人が出るらしいぞ」
「二人組だってよ」
視線の先に立つのは、レオンとカイル。
「思ったより人多いな」
カイルは口元を緩め、楽しそうに周囲を見回す。
「模擬戦は人気だからね。でも――ちょうどいいよ」
レオンは静かに答えた。
「ここなら、仲間になってくれそうな人も見つかるはずだ」
やがて、開始の合図が鳴り響いた。
最初の相手は、粗暴な男だった。
「新人か? 遊んでやるよ」
その言葉が終わるより早く、カイルが踏み込む。
一歩。
それだけで間合いを消し去る。
剣が閃く。
甲高い音とともに、男の武器が弾かれた。
「なっ――」
次の瞬間には背後。
「終わりだ」
一撃。決着。
観客席がどよめいた。
試合は進み、三人目。
現れたのは、小柄な影――ゴブリンだった。
「ゴブリン……?」
ざわめきが広がる。
だが、戦いが始まると空気が変わった。
低い姿勢。無駄のない足運び。
カイルの剣を、紙一重で避ける。
「へぇ……やるじゃん」
カイルは笑う。
ゴブリンは反撃に出る。
狙いはすべて急所。
(力は弱い……でも、全部当てに来ている)
レオンは目を細めた。
何度かの攻防の末、勝負は決する。
だがカイルは剣を下ろし、素直に言った。
「いい戦い方だ」
そして――
次に現れたのは、見覚えのある顔だった。
「兄貴……?」
「……ルークか?」
カイルの目が見開かれる。
その隣には、小柄で中性的な人物。
「ネル・アルシェ。よろしくー」
気の抜けた声。
だがレオンは気づく。
(違う。この子……)
試合開始。
ルークが前に出る。
盾で間合いを詰め、剣を振るう。
その横に、ネルが並ぶ。
「右、来るよ」
短い声。
同時にネル自身も踏み込み、双剣を振るう。
カイルの死角を狙った一撃。
「おっと!」
受け流した直後、ルークが押し込む。
盾で弾き、剣で追撃。
さらにネルが横から斬り込む。
流れるような連携。
(……噛み合ってる)
レオンは息を呑む。
(前に出るのはルーク。でも、この連携を作っているのは――ネルだ)
ネルは戦いながら、的確に指示を飛ばす。
「ルーク、そのまま。次、左」
「分かってる!」
(僕とカイルみたいだ)
その構図に、レオンは気づいた。
「いいじゃん、お前ら!」
カイルの目が輝く。
一気に速度を上げた。
間合いを詰め、ルークへ圧をかける。
「っ……!」
盾で受けるが、押される。
ネルが踏み込もうとする。
その瞬間――
「……っ」
一瞬の迷い。
カイルの速さが、想定を超えた。
ネルの判断が遅れる。
そのわずかな綻び。
ルークの動きが遅れた。
「そこだ」
カイルの剣が止まる。
寸止め。決着。
静寂のあと、歓声。
レオンは静かに呟いた。
(連携はほぼ完璧。でも――一人が崩れた瞬間、もう一人が迷った)
(それでも……この二人は、きっと強くなる)
そして最後。
前に出てきたのは――小柄な少女だった。
「……よろしくお願いします」
ざわめきが広がる。
「子供……?」
レオンは目を見開く。
(あんな幼い子が……?)
カイルが肩をすくめる。
「おいおい、お嬢ちゃん。来るとこ間違ってるぜ?」
少女は何も言わず、杖を構えた。
短い詠唱。
「――展開」
次の瞬間。
爆ぜるような音。
地面が抉れた。
「なっ――!?」
カイルが後ろへ跳ぶ。
衝撃波が遅れて通り抜ける。
砂煙が舞い、視界が歪む。
(速い……それに、この魔力)
レオンの背筋に冷たいものが走る。
(密度が違う……)
追撃。
間髪入れず、次の魔法。
逃げ場を塞ぐように、正確に。
容赦なく。
「ははっ……マジかよ!」
カイルは笑った。
「いいね、お嬢ちゃん――面白ぇ!」
ギリギリでかわしながら、距離を詰める。
魔法の隙を突く。
接近。
「これで――!」
剣が止まる。
決着。
静まり返る会場。
やがて、どよめきが広がる。
レオンは確信していた。
(この子は強い……ただの魔法使いじゃない)
すべての試合が終わる。
「……決まりだな」
「ああ」
二人は歩き出す。
「僕たちと、一緒に来てくれませんか」
レオンの言葉に、青年が頷く。
ルークも笑った。
「負けたけど……ついてくよ。」
ネルは軽く肩をすくめる。
「まあ、面白そうだしね」
エレナは小さく頷いた。
だが、ゴブリンは首を振る。
「僕なんか、弱いですから……」
そのまま去っていく。
(違う……あの戦い方は)
レオンはその背を見つめた。
新たな仲間とともに、ギルドへ向かう。
夕暮れが、長い影を落としていた。
その背後。
影の中から、数人の冒険者が見つめていた。
「あいつら……ただの新人じゃねぇな」
「粗いが――伸びる」
「……特にあの剣」
「上に来るのが楽しみだな」
Aランク冒険者たちの視線は、確かに未来を捉えていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
少しでも「先が気になる」と思っていただけたら、ブックマークや下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!




