インパーフェクト(2)
「痛あっ!」
そのまま地面に叩きつけられた南は、衝撃と痛みに悲鳴を上げる。
「なんか……思いっきり押されてません?」
戦闘の様子を観察していたみさが正直な感想を口にする。
「押されてるねぇ」
福田はため息を漏らす。
「なんていうか……前回よりも相手が明らかに強いような」
「前に話したけど、ジモクっていうのは人の悪意がデジタルツインの世界で顕現したような存在だからね。ククライの配信が注目され、多くの人が集まっている今みたいな状況だと、ジモクもパワーアップするんだ」
「あー……なるほど」
澤野の説明にみさは納得する。
「何か司馬君が対抗する手段とかは無いんですか?」
あいねの質問に福田はため息を漏らす。
「ここの神社を信仰する人が増えたらこっちも遠渡星様の力が増すんだけどねぇ」
その言葉を聞いて、みさは朝に福田と話した内容を思い出す。
『日本の神様ってのはそういうもんらしいよ。信仰されることで神様は存在が明確化し、力を得て、その力を以て人に恵みを与えるといった感じなんだとか』
みさは左の掌を右こぶしの底で叩く。
「ああ、信仰する人が増えると神様の得られる力も上がるのか。そういう意味では注目されて悪意が集まると力を増すジモクと同じような仕組みってこと……?」
みさの理解に福田は頷く。
「そういうこと。で、遠渡星様の力ってのは年々減っているんだ」
「信仰する人が減ってる……ってことですか?でもどうして?」
あいねが首を傾げる。
「だって……少子高齢化と過疎化でこの地域の人口減る一方だし」
「「あっ……」」
福田の身もふたもない回答に二人は顔を見合わせる。
「そうか……」
それからみさは考え込み、一人ぶつぶつと呟く。
「ジモクの方はインターネットで多数の人を集めてるから、瞬間的な霊的な力を高くすることが出来るんだ。でも、遠渡星様は今までのストックでなんとかするしかない。でも、こっちもジモクと同じような方式で人からの注目を集められるなら……」
そんなみさの様子を福田は首を傾げながら眺める。それからみさはおもむろに顔を上げる。
「あいね!今からここでアレやるよ!SNSで緊急告知して!澤野さん!そこのウェブカメラとマイク、借りますよ!あと、そっちの戦闘の映像のストリーム、私が利用できるようにしてください!」
「分かったよ、みさちゃん!」
「え?え?どういうこと!?」
「いいから早く!あとコレ、私が大学の方で使っているコラボツールのアカウント!これなら連携スムーズでしょ!!」
突然のみさの指示にあいねは同意し素早く行動に移す一方、澤野は戸惑う。しかし、澤野の戸惑いにも構わず自身のカバンからノートPCを取り出しつつ、スマートフォンではQRコードを画面に表示させて、アカウント情報を連携させるように澤野に指示を出す。
「何する気?」
みさの突然の行動に福田は驚きつつ、その意図を尋ねる。そんな福田にみさは不敵な笑みを浮かべる。
「まあ見ててください。勝たせてあげますから」
大量の触手が頭上から降り注ぐ。南はそれをバク転を高速で繰り返しながらかわしていく。それから返す刀で腕から光線を発射する。しかし、南の放った光線は相手にかすり傷一つ負わすことが出来ない。それどころか、大量の警告音が耳に鳴り響き、視界ををアラートで埋め尽くされた直後、すさまじい勢いで反撃の触手が襲い掛かかってくる。
「やばいっ!」
南は再び逃げ回る。なんとか遠渡星のナビもあるおかげで相手の攻撃を回避できているが、このままではじり貧になる。
「どうすれば……」
前回よりも強大化し、まともに攻撃が通用すらしなくなっている敵と、いまだ戦いに不慣れな自分。この状況を打開するための手立ては思いつかず、南の中の焦りが募っていく。
「落ち着くんだ。どうやら、君の友人達がなにやら打開策を考えてくれているようだ」
「友人……みさ先輩とあいね先輩が?」
南は驚きの声を上げる。一体、あの二人が現在のこの事態に対してどのような手立てを打つことが出来るのか、何も想像できない南は驚きの声を上げる。
「司馬君」
直後、福田からの通信が入る。
「みさくんとあいねくんの『準備』が整ったらしい。どうなるかは分からないが、なんとか持ちこたえてくれ」
「りょ、了解ですぅぅぅぅっ!」
南は逃げ回りながら返事をする。
直後、南の視界の一角に小さなウィンドウが現れる。そして、そこには南が見たことが無い3Dのキャラクターが映っている。3Dのキャラクターはイルカの被り物をしており、顔立ちはおっとりしていて穏やかな印象を与える。
「これは……?」
一体、これが何の画面なのか、そして何故今自身の視界にこのようなものが映っているのか。訳が分からず南が疑問の声を上げた直後、キャラクターがしゃべりだす。
『こんにちわー!バーチャルストリーマー・宇宙野いるかの特別ライブ配信へようこそー!今日は、面白いコラボを緊急ですることになったよ!告知不十分でこんなイベントすることになっちゃってみんなごめんねー!』
そう言って、自身をいるかと名乗る女性キャラクターは手を振る。南にはその声に聞き覚えがあった。
「この声って……あいね先輩!?」
南は思わず驚きの声を上げる。よく見ると画面上には大量のコメントが表示されている。
『いいよー!』
『コラボって?』
『待ってた』
一体、これは何なのか理解が出来ないが、事態はどんどん進んでいく。
『それじゃあ、今回のコラボ先を紹介するね!今回のコラボ先はなんと神社です!そう、そしてその相手とは……星降神社に祀られている神様である遠渡星様、そして遠渡星様のお手伝いをしている宇宙からやってきたヒーロー・スターゲイザーさんです!』
そう言っているかが手を上げると、ライブ配信上にサブディスプレイが現れる。そして、そこにはリアルタイムでの南の戦いの様子が表示されていた。
「あれって……」
「私達のようだな」
理解の許容量を答えた事態の連発に南の頭が困惑する。
「なんなんですかアレ!?」
「さあ、私にも分からない」
遠渡星はあくまで落ち着いた様子で返す。
『今ね、スターゲイザーさんは街を襲う巨大怪獣と戦ってるんです!さあ、みんなで彼を応援しましょう!せーの、がんばれー!』
そんないるかの掛け声にコメント欄が次々に反応する。
『どういうコラボ相手だよwww』
『え?なにこれ?クオリティ高くない?ガチ特撮っぽいじゃん!』
『頑張れー!』
その様子を見て南の混乱はさらに加速する。
「何か勝手に名前つけられてる!?それに、これで事態がどう変わるっていうんです!?」
しかし、そんな南とは対照的に、遠渡星は静かに笑う。
「なるほど、このような形で私達に信仰の力を集めよう……ということか。面白いことを考える」
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