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インパーフェクト(1)

「やれー!つぶせ―!だーんざい!ホラだーんざい!」

 ククライは黒い人影のような者達に、罪袋を頭に被せられた女性型のアバターが追いかけられる様を楽しそうに実況する。

『いいぞー!今回こそ断罪しろー!』

『馬鹿な動画上げてバズろうとするノータリンなんぞ生きる価値なし』

『さっさとやられて意識不明でもなんでもなればいい』

『また前回みたいな変な乱入者現れないかな』

 その実況の様子をリスナー達は楽しそうに視聴しつつ、どこかで前回のような想定外の事態が起きることを期待していた。実際、前回の動画の展開のウケが良かったのか、今回の配信の同時接続数は普段の同時接続数の倍以上である5000人近い。それに呼応するかのように黒い人型の数も前回の配信の倍以上いるように見える。


「うわっ……めちゃくちゃ盛り上がってる……」

 南が倒れた直後からスマホを取り出し、ククライの配信の様子も確認し始めたみさは、配信の盛り上がり具合を見て思わず眉を顰める。

「前回の展開がエンタメ性高すぎて盛り上がっちゃったか……。これはまずいかもしれないな」

 福田はそう言って人差し指と親指で顎を抑える。


「はあっ……はあっ……はあっ……」

 牧野はジモク達がから、全力で走って逃げ回っていた。今自分が走っているのは、普段生活している見知っている街のはずなのにどこか違和感を感じる。これは化け物に追われているせいだろうか。しかし、自身が走っている歩道橋の前方からもジモクの群れが現れ、逃げ場を塞がれてしまったため、そんなことを考える暇すらも無くなった。

「そんな……」

 肩で息をしながら牧野は周囲を見回す。そんな牧野にジモクたちがじりじりと近寄ってくる。

「やだ……来ないで……」

 しかし、当然牧野のそんな言葉も聞かず、ジモクたちはにじり寄ってくる。


「だーんざい!だーんざい!だーんざい!」

『断罪!断罪!断罪』

 ついに断罪が成されようとしているためか、ククライの配信の盛り上がりは最高潮に達する。


 ジモクたちは昨日と同じように、手に人の口が大量についた剣を握る。そして、手を伸ばし、牧野に触れようとする。

「ひっ……」

 牧野は恐怖に思わず息を飲む。


 直後、巨大な手が現れ、牧野を救い上げた。

「え……?」

 想定外の事態ではあったが、牧野には覚えがあった。

(そうだ……私、昨日もこの巨大な手に助けられて……)

 そう言って牧野は巨大な手から、本体へと目線を辿らせる。その先には、昨日自分を助けてくれた巨人と同じ姿があった。


「ふぅ……なんとか間に合った」

 自身の右手の上に乗る牧野を見ながら、南は一息つく。彼女の救助はどうにか間に合ったらしい。

「一旦、彼女をこの場から避難させよう」

「了解です」

 遠渡星からの指示を受け、南は一度大きく跳躍し、ジモクの群れから距離を離す。そして、降り立った先の近くにあるビルの屋上に、牧野を下す。


「もー!!また来たー!!こいつ嫌いーっ!!」

 ククライは再び現れ、そして断罪対象をかすめ取っていった南に怒りを爆発させる。

『うわっ、またなんか出たwww』

『え、マジでウケるw』

『これそういう仕込みじゃないの?』

 ククライにとっても想定外の事態を、リスナー達はエンタメとして消化していく。しかし、それすらもジモクの力になるということを知っているのか、知らないのか。ククライは引き続き南への、そして牧野への断罪を煽る。

「もう許さないんだからっ!こんなやつつぶしちゃえ!断罪断罪!」

『そうだそうだ!』

『あんな訳の分からん奴ごと、不届き者をぶっ潰せ!』

『断罪!断罪!』

 そんなリスナーのコメントに呼応するかの如く、罪袋を被った男達が合体し、巨大な罪袋を被った男となる。

『巨大化www』

『やっちまえwww』


 ククライの配信上で黒い人影達が合体する。それと同時にデジタルツイン上のジモクの姿にも変化が起きる。ジモク達は合体し一つの巨大なジモクへと姿を変える。

「うわ……前回より……デカい?」

 以前よりも巨大化したように感じられる合体ジモクを見て、南は息を飲む。

「どうやら、前回の戦いよりも多くの人に注目されているようだな。それがそのまま力になっている」

 遠渡星の説明を受けて、南は思わず悲鳴を上げる。

「前回より強いってことですか?噓でしょ……!?」

 そんなことを言っていると、巨大ジモクの腕が触手状になる。そのまま巨大ジモクは腕を縦に振り回し、南を打ち据えようとする。それを受けて南の視界に大量の警告と相手の攻撃軌道予測が表示される。

「だあぁぁぁぁ!?あっぶな……!」

 南は咄嗟に跳びすさり、相手の攻撃の射程外に逃れる。その一撃で、南とジモクの間にあったビルが悉く崩れ落ちている。直後、南の聴覚にアラート音が、そして敵の予測攻撃軌道が表示され、さらに連撃の触手が襲い掛かる。

「!?」

 よけきれないと判断した南は咄嗟に腕のブレスレットから光のブレードを出現させ、触手を迎撃する。

「うわああああああっ!?」

 しかし、光の刃は相手の触手に力負けして霧散し、南は相手の攻撃を胸部に受ける。鈍い痛みに悲鳴を上げながらよろけ、車を踏みつけ、背後にあったビルに倒れこんで潰してしまう。


 そんな戦いの様子を見て、社務所で南の戦いをサポートしていた面々が顔をしかめる。

「まずいな、これは……」

 福田がつぶやくと、都市のシステムが異常検知したことを告げるアラートが各々が持つスマートフォンや、澤野や西山が操作しているPCから鳴り響いた。どうやらスマートシティ内で自動運転車の緊急停止や、ビルシステムの緊急停止などが起きているらしい。それの報告を受けて、福田はPCに取り付けられたマイクを手に取る。

「あー、司馬君。聞こえる?」


『あー、司馬君、聞こえる?』

「ひゃいっ!?」

 突如として頭の中に鳴り響く福田の声に南は素っ頓狂な声を上げる。

「ふ、福田さん……!なんでしょうか!?急に話しかけられるとびっくりするんですが!」

『あー、そりゃごめん』

 音声のやり取りをしている間もジモクの触手攻撃は続く。それを必死でよけながら南は返事をする。

『ところで司馬君』

「なんですかあああああ!?」

 敵の攻撃のあまりの密度に、反撃に出ることが出来ない事への焦りを感じつつ、南は必死に返事をする。

『君達の戦いでデジタルツイン上の街に被害が出てしまうと、現実の街に情報システムによる被害が発生するんだが……どうにか抑えながら戦えない?』

 無茶だとわかりつつも頼む福田の表情は、珍しく渋い。

「…………」

 そんな福田の表情をうかがい知ることが出来ない南は無言で必死に攻撃を回避し続ける。しかし、それすらも覚束なくなった南は触手の一撃を胸に受ける。

「そんなん無理でえええええす!!」

 悲鳴のような叫びをあげながら、敵の攻撃によって南は勢いよく吹きとばされていった。

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