HATENA(7)
「ここは……」
牧野の意識が覚醒する。どうやら眠っていたらしい。最後の記憶は自身が入院していた病室で、バイトの同僚である勝間あいねと司馬南相手に自身の胸の内を吐露し、号泣してしまったところまでである。
「うわっ、恥っず……」
気が付いたら泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。だとしたら三人とももはや帰ってしまっただろうと思い、周囲を見回そうとしたところで以上に気が付く。 気が付けば周囲には壁もない野ざらしの空間にいた。どうやらどこかの公園らしい。しかし、ここはどこで自分は今、何故この場所にいるのか。それが分からず牧野は混乱する。
「まさか……」
牧野はふと昨日のことを思い出す。あの時も気が付いたら見知らぬ場所にいて、得体のしれない人のような形をした化け物に囲まれていた。昨日と同じようなことが起こっているのだろうかと牧野は改めて周囲を見回す。
「ひっ……!?」
そして、周囲を見回した牧野の視界には昨日と同じ化け物が映り、反射的に小さく悲鳴を上げる。化け物たちは牧野を取り囲み、遠巻きに自身を見つめている。昨日の体験のトラウマと相まって、言いしれようのない恐怖が牧野の全身を駆け巡る。
「……やだ……助けて……誰か……助けて……」
無意識に助けを求める言葉を口にするが、その言葉を耳にする者は周囲にはいなかった。
その頃、南達は星降神社付近にたどり着いていた。
「さっき出ていったと思ったら、もう出戻りか……」
南は一人そんなことをつぶやきながら自動運転車から降りる。
「しかたないじゃない、あんたが同意したんだから」
みさが突き放すように言いながら、南の後に続いて自動運転車から降りる。
「それはそうなんですけど……」
「まあまあ。とりあえず急ごう?きっと時間はそんなにないよ?」
あいねも二人を宥めつつ自動運転車から降りる。
「……」
南はみさとあいねを無言で見まわし、そして正直な感想を口から漏らす。
「ところで、なんで二人ともついてきてるんです?」
南の疑問にみさとあいねは顔を見合わせる。
「うーん、なんていうかまあ」
「うん、成り行き?」
「えぇ……?」
双子の身もふたもない回答に、南は思わずため息を漏らす。
「ほれ、なにしてるの。行くよ」
福田はそんな三人に声をかけると、社務所に向かって先に歩き出した。
「あ、ちょっと待ってください!」
南は慌てて福田の後を小走りで追いかけると、みさとあいねもそれに続いた。
一行が星降神社の社務所に入ると、澤野が声をかけてきた。
「福田さん、どこ行ってたんですか……って司馬君!?どうしてここに?」
澤野は南の姿をみて思わず驚きの声を上げる。
「ああ、澤野君。司馬君、協力してくれることになったから」
こともなげな福田の回答に澤野は一瞬呆気にとられた後、南の顔をじっと見る。なんらかの重大な結論を出すために苦悩したかのように疲れ切った南の表情から何かを察した澤野は顔をしかめた後、福田をにらむ。
「福田さん……あんた何をしたんですか……」
「いやあ?穏当に交渉して協力してもらうことに同意してもらっただけだよ」
そんな福田の言葉にみさが思わずあいねに耳打ちする。
「きをつけなさい、あいね。さっきみたいな交渉はどうみても穏当ではないからね」
あいねはみさからの助言にうんうんと首を縦に振る。
「まあどっちにせよ誰かにゃやってもらわなきゃならないんだ。彼がやってくれるんなら問題ないでしょ」
福田に言われて澤野はため息を漏らす。そのため息からはこんなことに巻き込まれた南に対する同情の色が感じられる。そして、そんなやり取りをしている福田や澤野、南を西山はおどおどとしながら見つめていた。
「さて、司馬君。昨日の今日だ、要領は分かっているよね?」
そう言って福田はアクロスを手渡す。南は頷いてそれを受け取る。
「では今回は最初から私が力を貸そう」
南がアクロスを受け取った直後、社務所内に落ち着いた声が染み渡るように響き渡る。
「あ……」
この聞き覚えのある声は……と、社務所の中にいる者達が一様に認識した直後、気が付けば南の背後に遠渡星が立っていた。
(神様っていうのは唐突に現れるなあ)
南がそんなことを考えていると、福田が遠渡星に頭を下げる。
「遠渡星様……彼のサポート、よろしくお願いします」
遠渡星は静かな微笑を浮かべる。
「ああ、確かに任された」
それから南と遠渡星は目を合わせ、互いに頷く。
「それじゃあ始めよう」
福田はそう言うと、社務所の和室の方を指さす。そこには昨日は置かれていなかった一人用のソファが配置されている。どうやらそこに座れということらしい。澤野達がそれぞれPCの前に座り、準備をし始める後ろで南はソファの前に立つ。
「準備OK!司馬君!」
「分かりました」
南はそう言うと自身のスマートフォンを取り出し、Stargazerを起動する。直後、脳内に不意に言葉が溢れ、気が付いたら口走っていた。
「掛けまくも畏き遠渡星命 星降の電脳の双界に 諸諸の禍事罪穢有らむをば 祓へ給ひ清め給へと白す事を聞こし召せと 恐み恐みも白す」
「何アレ……」
「祝詞……?」
突如として謎の呪文を唱え始めた南をみさとあいねは訝しむ。しかし、そんな二人の疑問の声も聞こえていないのか、南はアクロスを眼前に持ってくる。
「あれは祓詞かな?」
福田は二人の疑問に答える。
「はらいことば?」
あいねの疑問に福田は頷く。
「そう、祓詞。神様に厄災を祓うようにお願いするための言葉。多分司馬君は遠渡星様と強くリンクしたから、その影響で咄嗟に口から出たんだろうね」
「なるほど……」
福田の説明にみさは頷き、あいねはよくわかっていない様子で首を傾げる。
「アバター・ライド!」
そう叫ぶと同時にアクロスを装着する。そしてそのまま、一人用ソファへと倒れこんだ。
「どこかの二人で一人の仮面ライダーの片方みたいね……」
そんな南の様子を見て、みさは感想を漏らした。
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