ダンジョン攻略開始! しなれ4メートルの棒!!
「塔タイプか・・・。」
ダンジョンについた俺たちは、目の前にそびえたつ塔を見上げてため息をついた。
8階くらいありそうだが、外側の見た目はあてにならない。
見た目10階でも中は3階とかよくある。
円柱形の塔なのに中は四角の部屋ばっかなんて事も多い。
塔タイプは洞窟タイプより一階層が狭いのが特徴だ。
マッピングが楽なのは良いが、細かく階層に分かれているので、たくさん財宝を手に入れようとするとそれぞれの階層に発生するフロアボスというのを倒して先に進む必要がある。
あと、塔には魔術じゃないと開けられない扉が時々あるのもうちのパーティーには向いてない。
「まあ、何もかにも思い通りには行きませんよ。」
「そうですね、行きましょう!!」
グリゴリーが扉を開ける。
ちなみにトレジャーハンターの居ないパーティーではタンクが扉をあける。
毒や爆発で一撃で死なないからだ。
幸い、扉には罠も魔法のカギも無かった。
入り口に魔法のカギが掛かってたら即終了だったのでみんな胸をなでおろす。
「じゃあ、行きましょう。ここは私に任せてください。こういうの前のパーティーでやってたから得意なんです。」
フロウはそう言うと、いつもの大きな荷物の中から何本かの棒を取り出して組み立て始めた。
「じゃーん!!」
そして、できあがる4メートルの長い棒。
先には布を丸めて作った丸い球がついている。
槍士が練習の時に使う、棒をものすごく長くしたようなものだ。
これで、進行方向の罠を物理的に発動させて解除するのだ。
「じゃあ行きましょう!」
フロウが4メートルの棒を構えて、進行方向の床だの壁だの天井だのをトントントントンとものすごい速さで叩いてチェックしていく。
「す、すげえぇ・・・。」
俺もグリゴリーも感嘆の声を上げる。
冒険と言うと剣や魔法での派手な戦いばかりに目が行きがちだが、こういった地道な作業がとても重要だ。
ヒーラーは誰かが怪我をしないと出番がないので、こういった目立たないサポートをやるから身をもって知っている。
これを失敗すると強さ関係なく、みんなが罠に嵌る。
フロウは簡単に前方のあらゆるところを棒をしならせながら叩いていく。
「すごいよ! フロウ!」
「これは本当に助かる。ありがとう。」
「えへへ。こんな事で褒めないでください。恥ずかしいっですよ。」
「いやいや、これは誇っていい。誰が理解しなくても俺たちはこのすごさを知ってるから!」
フロウは何も答えなかった。
俺たちより前に居るので、表情は分らない。
実際フロウのこれはすごい技術なのだ。
まず、力加減が難しい。
棒で叩いてカンカンと音を立ててしまっては、モンスターを呼び出してしまう。
その音のせいでモンスターの奇襲に気づけないこともある。
かといって、叩くのが弱いと罠が発動しない。
さらに、床も壁も天井も、全体を叩き逃しなく、くまなく調べなくてはならない。
必然的に進みが遅くなる。
なのに俺たちはほとんど歩みを止めることなく前に進めている。
これは全部フロウの卓越した技術のおかげだ。
さっきの曲がり角にしてもそうだ。
4メートルの棒を振り回しながら、狭い通路を曲がるんだぜ?
フロウは当たり前のように、壁をすべて調べながら簡単に曲がってみせた。
「灯りの位置が良いので前が見やすいです。グリゴリーさんもありがとうございます。」
「どういたしまして。背が高いからね。」
グリゴリーは謙遜するが、これだって技術だ。
戦闘時にどの位置に松明があれば戦いやすいか、移動時にどの位置に松明があれば飛び道具で奇襲されないか、なんてことを松明を持つ人間は考えなくてはならない。
特に、戦闘時に松明を放さなくてはいけない場合なんかは、どこに投げるかめっちゃ悩む。
迂闊な所に投げて、消えてしまったら超大変だからだ。
俺としてはグリゴリーが自ら松明の係を買ってくれたのは気持ち的にとても助かった。
「ディーさんもマッピングありがとうございます。」
「そのくらい任せてくれ、ちゃんと、通った道も探索してない分かれ道も距離まで含めて全部記憶してあるから心配いらない。」
マッピングといっても紙に書くわけではない。。
ダンジョン攻略におけるマッピングとは、迷わないためにあるのではない。
てか、迷わないなんて当然だ。
ダンジョン攻略におけるマッピングとは、逃走時に罠を探索した通路を通って逃げるために行う行為なのだ。
探っていない分かれ道からモンスターが出てくる可能性も把握しておかなくてはならない。
「やるねぇ。」
「すごいです!」
マッピングで褒められたのなんて初めてだな。
マッピングが役に立つ時って、みんなで必死に逃げてる時だからそれどこじゃないし。
「私、マッピング苦手で、通ってない通路を時々忘れちゃうんですよね。ディーさんのおかげでだいぶ気が楽です。」
「ちょっとまって? もしかして、前のパーティーではマッピングしながら、罠解除してたの!?」
「ええ。」
「マジか・・・」
逸材じゃねえか・・・。
フロウの事はもっと大切にしていこう。




