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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』

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第272話 アホ毛の魔法「フェレルナーデ」

 簡易ストーブ小屋を説明するならまあ、

 簡単なDIYで骨組みを組み、透明な耐火性の分厚いビニールカーテンで仕切ったもの。

 キャンピングカーを格納可能なサイズのガレージなので、周囲や天井から雨風に晒されることはない。

 中央には筒形の大型石油ストーブがあり、

 上に置かれたやかんから蒸気が出ている。

 ほうじ茶の香り。


「あー……さむかったー……」


 そしてそこには、

 もう一人のナターシャさん。

 フェレルナーデさん……だったか?

 12歳の銀髪激かわ外人スレンダー美少女が、黒っぽいフリフリフリルたっぷりなワンピースを着て、ストーブの熱を浴びていた。

 やがて、ちらりとこちらを見る。

 彼女はすごく嬉しそうな顔をした。


「やほ。お疲れリズール。

 ここ最近の話でもしない?

 あっち――クーゲルが腹を括った以上は、

 私もガチらないとダメだし」


「あ……ああ、はい」


 むむむ。少し戸惑ったが、

 リズールさんと勘違いされているようだ。

 なにより、フェレルナーデさんは、

 ナターシャさんのことをクーゲルさんと呼んだ。何かの意図があり、

 私はミスリードさせられているのかも。

 するとツムギさんが急に咳払いする。


「そうでした、そうでした。

 予約注文した商品を受け取らないと。

 皆さんもご一緒に行きませんか?

 美味しいスイーツですよ。

 リズールさんには、

 つもる話がありそうですし」


「あ、ああ――はい! そうします!

 小学生のみんなも行きましょう!

 私が奢ります!」


「奢りで甘味!?」

「食べたい食べたい!」


 屋上さんも同調圧を感じ取ったのか、

 小学生たちを連れて席を外してくれた。

 残った私は、ただ言葉に詰まる。


「……っ」


 私はなんにも知らない。

 ナターシャさんとリズールさんの関係を。

 なのでただ、

 彼女の「おいでよ」というお誘いに乗り、

 近くに体育座りして沈黙を選ぶ。

 やがて彼女、フェレルナーデさんは呆れたように笑った。


「いやー、五十年。

 クーゲルの願いで影武者にして、

 お互いの立場を入れ替えてから、

 この最悪の鬱シナリオの中で五十年。

 やっと解放されたよ。死ぬかと思った。

 まあ、いっぺん身バレして、

 ガチで処刑されて死んでるんだけどさ。

 斬鬼丸が地獄まで迎えに来てくれて、

 なんとかこうして生きてる。

 蘇生手段を伝えておいて良かった」


 身体を入れ替えて……死んで、地獄に?

 どうしてそこまでのことを?


「自力で復讐を遂げたかったんだろうね。

 大元のグランギニョル退治とか、邪神レノス殺しとか、大魔導元帥さまの暗殺とか。

 でも私がメタ貼られて死んで、

 仲間や魔法少女のみんなが死んで、

 自分も普通に寿命で死にかけて、慌てて。

 あげく私をデュラハンってことにして、

 問答無用で生き返らせて、

 懺悔か代償なのか、心臓病を患ってる。

 バカで不器用にも程があるよね」


 「……」


 そ、そんな事情があったのか……

 私たちが平和のために戦っていた裏では、

 ナターシャさんを偽るクーゲルさんの、

 いわば……影武者さんの、

 生き足掻いた人生があったんだ。


「でもま、やりたい放題する権利は、

 クーゲルにはあったよ。

 異界で起きた百年前の異端戦争の中では、

 そんな自由もなかっただろうし。

 私も二人目の名付け親として、

 その責任を全うした。


 ……だからこうして、

 元のナターシャちゃんに戻れたわけ。

 でも、堪えるなあ。

 天使ちゃんは死ぬし、クレフォリアちゃんも、他の友達や家族も、異界も。

 彼女の仲間だった十傑作のゴーレムも。

 その復讐劇の中で消えたわけで。


 私もやっと黄泉帰ったのに、

 もう斬鬼丸と、

 リズールしか頼れる相手が居なくなっちゃった。

 たまたま二人が超優秀だったから、

 生き残っただけかもだけどさ」


「……っ」


 お……重い。話が重すぎる。

 あの、十年を与えた方のナターシャさん。

 影武者のクーゲルさん。

 あなたはどれだけ罪深いんだ。

 しかしフェレルナーデさんは軽くため息。

 ははっと朗らかに笑う。


「でも、責めるに責められないよ。

 そうすることそのものが、

 同じ穴の狢の証明だもん。

 ゴーレム族を使役魔法で奴隷種族にした異端と、

 ゴーレム族に自由を、

 というスローガンでゴーレムを呼び込み、

 国のために使い潰した異界の魔導爵たち。


 私はこんななりでも本物の魔王だからさ。

 魔物の王とか、悪魔の王だから魔王じゃなくて、真の魔法世界の王として、

 彼女の復讐劇を観るしかなかった。

 じゃないと、人の意思で異界のゴーレム族が絶滅させられた罪が晴らせないからね。

 甘んじて受け止めた。魔王様として。


 でさ、この罪を未来に押し付けた野郎。

 大賢者ウィスタリア。

 あいつはマジでいつか探し出して、

 ボコボコに殴ってやりたい。


 未来に生まれる私から魔力やリソースを、

 勝手に前借りしたうえ、

 新たな原罪まで創造して押し付けて、

 自分は当代の魔王と差し違えて死んで、

 英雄になった傲慢クソジジイ。

 当時は調子に乗って、ルーンの神、

 ルーンデウスとか名乗ってたらしい。

 いやーマジでさ、死んでてよかった。

 生きてたらあいつの国と世界を、

 跡形もなく滅ぼしてる。


 ……たまたま、因果応報を受けたから、

 罪に問わないでいるけど。

 なーんか、今も飄々と生きてそうなさ、

 しぶとさを感じるんだよね。


 まだ自分には何かを為せるとか、

 そんな少年のような憧憬を持ったまま。

 人でありながら神になってそう。

 はあ、めんどくさいよね。


 魔法がある人生なんだからさ、

 魔法研究に人生を捧げればいいのに。

 なまじ大賢者だから、

 出来もしない大義に身を染めた。


 秀才の限界、周囲の天才への嫉妬、

 才能や力の渇望、前借り、圧政と支配。

 裏切りと断罪。原罪の再創造。


 それもこれもぜーんぶ、

 私なら何とかしてくれるとか、

 クソ甘えた考え。

 国を守って満足げにくたばった。


 まあ所詮は、前世ヒキニートの他責野郎。

 唯一の評価ポイントは、

 自分の偉業を残したい自己顕示欲から、

 大魔導書リズールを残したことだけ。


 なんか戦闘用パワーアーマーもあったけど、

 シンプルにゴミ。重いし魔力食い過ぎ。

 しかも鉄くさい。ロボバカの末路。


 というか、そもそもさ、

 不死身の怪物を物理的に殺すだけなら、

 泥で再生するゴーレム族でいいもの。

 リズールみたいなね」


 えっ、そうなんですか?

 リズールさんは生身で化け物を殺せる?

 静かにフェレルナーデさんを見ると、

 彼女は「褒められて嬉しい?」と微笑み、

 自慢げに話してくれる。


「死んでる最中の地獄でさ、

 誰かの走馬灯とか過去を眺められたんだ。

 リズールの経験した過去の戦争とかね。


 ルーンデウス様は突撃バカだけど、

 技術者のスタンリーは現実を分かってた。

 バカみたいに高価な素材で作るロボやパワードスーツにこだわるより、

 ありふれた素材で生み出せる、

 大賢者並みの魔力操作性能を持った、

 人間大の土塊でいいってね。


 魔力操作を極めた泥ゴーレム族なら、

 体内の水分量の調整が自由自在なんだよ。

 戦闘方法が面白くてさ、インパクトの瞬間に膝から先の水気を抜いて、

 陶器並に硬化させてさ、

 余分な水分を肘から爆発的に放出して、

 片腕一本を犠牲にパイルバンカー。

 人の体なのに十トン近い威力のパンチが出せる。

 敵を拘束したり、自分の足元も固めれば、

 さらに上がるんだ。

 

 しかも地面と水さえあれば、

 泥ゴーレムは足元から体素材を

 無制限に補給できる。

 条件を完璧に整えた場合には、

 一発で衝突点がプラズマ化するパンチを、

 最大秒間二十発で無制限に出すんだよ?

 いくら不死身でも再生が追いつかなくて消し炭になってた。くそやばい。

 戦略級ゴーレムを名乗るだけあるよね。

 スタンリーはマジで天才だわ。

 いつか会いたい。


 ……はー、

 魔法オタク語りばっかになっちゃうね。

 やだやだ。ナターシャちゃんは陽キャ。

 常に美少女らしく振る舞わないと。

 悪意と報復の連鎖はここで私が断ち切る。

 今日も頑張るぞーっと」


 ぐーっと背伸びをした彼女、

 フェレルナーデさん。

 そのお腹から「ぐうぅ〜」と音が鳴る。


「う〜、おなかすいたぁ。

 リズール、なんか食べ物持ってない?」

 

「ああ、ええと……」


 私があたふたすると、

 笑いの神ライジングさんの幻影が現れ、

 胸元を指差す。こ、ここに手を差し込む?

 リズールさんの豊満な胸の谷間に?

 そう考えると親指を立てた。ガチですか。

 な、何があるんだ……?


 恐る恐る、谷間の上から手を差し込む。

 トプン……と未知の感覚があり、

 すみっこのアーケード筐体が起動。


 温かい何かから手を優しく握られ、

 感謝するように手を撫でられ、

 温かいものを握らされた。


 取り出してみれば、

 ほかほかのアップルパイ。芳醇な香りだ。

 フェレルナーデさんの目がぱあっと輝く。


「まさかそれは私の大好物の……!?」

「あ、アップルパイ、です。

 食べますか? 一緒に」

「食べるー!」


 私はリズールさん本人ではないが、

 フェレルナーデさんとの仲は、

 取り持った方が良さそうだと思い、

 共に同じスイーツをとることに。


 フェレルナーデ……いや、ナターシャさん。

 パイを半分に割って、彼女に分ける。

 そしたらもう子供のように無邪気な笑顔で、美味しそうにアップルパイをパク付き、私に寄りかかってきた。

 なんか赤ちゃんミルクの香りがする。

 あ、甘やかしたい欲が溢れ出てきた。


「うー、寒っ……」


 するとぶるっと震えるナターシャさん。

 そうだそうだった、たしか病み上がり。

 この人、蘇ってからまだそんなに月日が経ってなかった。

 酷いくらいにボロボロだったもんな。

 風邪を引かれるとまずいなと思い、

 彼女を抱き抱えて、自分の両脚の間に囲い込むようにして座らせた。

 おお、と驚かれたが、特に気にしないし怒られないどころか、私の胸に頭を預けた。


「……お母さんを思い出すなぁ。

 このまましばらく、居させてよ」


 私は恥ずかしながらも無言でうなづき、

 どう接すればいいか分からないながらも、

 一緒にアップルパイを食べた。

 なんだか分からないけど、いつもより塩辛い。

 ぽろぽろと塩気が溢れたら、

 パイを食べ終えて満足していた眼下の彼女も気づいた。


「ああ、ダメだ、だめだめ。

 しんみりするのはやっぱなし。

 ただ、久しぶりにゆっくり話をしたかっただけなんだよ。

 リズールを泣かしたいわけじゃなかった」

 

 フェレルナーデさんがこちらを向き、

 膝立ちして、私の頬を両手で支える。

 彼女の親指が私の目尻を拭った。


「だけどこれは、

 この世界への精一杯のわがままだから、

 どうか私を存分に憎んで欲しい。

 ここは私の世界じゃない。

 だから、私は、主役になれなかった。


 それが灰の魔法少女の物語。


 それでも取り返したい世界があるから、

 何度燃え尽きても、

 不死鳥のように立ち上がるんだよ。

 心が折れても、愛する人や、

 友達や、家族や、両親が、世界が死んでも。


 リズール、これは最後のお約束だ。

 もう二度と、途中で諦めることを禁ずる。

 根源を倒して必ず元の世界に帰ろう。

 温かいお家や、家族のみんなが待ってる。

 諦めなきゃ、私たちの夢は必ず叶う。

 それが魔法だろ?」


 ニシッと笑う銀髪美少女。

 そんなに絶望的なのに、誰にも助けてもらうこともせず、希望を信じて歩けるんだ?

 私には分からない、

 そんな強さを生まれ持ってない私には――


「……はあ、寒いね。震えが止まんないや」


 やがて、私も本意に気づく。

 彼女のか細い腕は、かすかに震えている。

 彼女も命懸けで戦うのが怖いんだ。

 それでも、周りを鼓舞するために、

 目の前の絶望感に抗うために、

 なけなしの勇気を振り絞って、

 彼女は地獄の最前線を歩んでいる。


 フェレルナーデさんは、

 ただの世界一の意地っ張りさん。

 それが、世界を背負うために必要な要素。

 たったそれだけの、話だったのか。


 気がつけば、私の涙も止まっていた。

 この人って凄いなと、もしかしたらキラキラと、憧れの人を見る女の子の顔になっていたかもしれない。

 だって相手がはずかしそうにニヤけたからだ。


「どうしたのさ、まじまじと私を見て。

 まさか惚れ直した?

 リズールのキスならいつでも歓迎するよ」


「じ、冗談を……」


 あーダメだ。私は大人。しかも元男性。

 男らしく、しゃんとしないと。

 両頬の相手の手を掴み、感謝を込めて優しく握りしめた。少し驚く彼女。


「でも、初心に帰れました。

 心のどこかで忘れていた正義の本質を、

 改めて掴み直せた気がします。

 ありがとうございます。

 ちゃんと最後まで、

 責任を持ってやり遂げます」


「お、おお?

 なんだかよくわかんないけど、

 リズールが元気になってよかった。

 大賢者の魔導書がいるだけで百人力だし。

 じゃあこれ、通信用にね」


 彼女は急にプチっと自分の髪を一本抜き、

 私の前頭葉のある頭部に当てた。


「む゛」


 プスっと長い針が突き刺さる鋭い痛み。

 同時に、頭頂部の毛髪がけばだつ感覚。

 私は驚いてザッと身を引いた。


「い、痛!? いっっっ痛ぁ!?

 何!? いま何をしました!?」


「何って、フェレルナーデだけど」


「フェレルナー……なんです!?」


「いや、アホ毛の魔法。フェレルナーデ。

 電子機器だとハッキングされるから、

 魔法少女同士の通信用に創ったじゃん。

 ……あ、そっか。

 今までは生身じゃなかったから、

 痛覚刺激は初めてで驚いた感じか」


「アホ毛の魔法……!?」


 びっくりして頭頂部を触ると、

 なんか毛髪の一部が犬のしっぽみたく動く。生きてる。怖い。

 たまたま近くのアーケード筐体の画面が鏡のようだったので、近づいて確認すると、

 頭頂部から前髪に向かって流れる髪の一部が、私の意思と連動して動いた。


「わわわ、私の頭部になんかアホの象徴が生えてます! しかも生きてる!」


「ふふん、凄いでしょ?

 これがアホ毛の魔法フェレルナーデ。

 起動ワードも同じくフェレルナーデ。

 私に倒された悪人が名前を呼ぶと、

 呪い返しとしてもれなくアホ毛が生える。

 しかも生きて動くから、再犯かどうかが分かりやすい。

 逆に、私の大切な髪を一本消費すれば、

 どんなマジカルアイテムよりも強力な、

 変身触媒になるんだ。

 何本か束で渡しておくからさ、

 有望そうな子に配っておいてよ。

 プリティコスモスとか良さそうだし」


 彼女が「インベントリ」と言うと、謎の異空間の亀裂が発生。

 そこから彼女のものとおぼしき銀髪の入った透明な筒を取り出し、私に手渡す。

 ようやくハッとして、彼女に尋ねた。


「もしかして……プリティコスモスのことを認めておられる?」


「まあね。

 斬鬼丸はともかく、赤城と、リズールと、クーゲル。最低でも構成員三人は惚れ込んで力を貸してるから、最後は秘密結社ブラックマンデーの本当の長であるこの私――

 創世白銀の魔王フェレルナーデ様が承認しないとね。

 アイツはとびきりの有望株だから、

 ソレイユや争奪戦運営が、プリティコスモスの扱いに困ってのけ者する、なんて隙を見せたら引き抜くつもりで頼む。


 ……というかぶっちゃけるわ。

 魔法少女プリティコスモスさえいれば、

 この世界は何度でも救える。

 消えた異界も間違いなく取り戻せる。

 そう確信できるよ」


 なんともまあ、

 大きな風呂敷を広げる人だ。

 だからこそ、みんなが同じ夢を見て、

 この人について行っているのが分かる。


「なら、プリティコスモス以外は……」


「他はまあ、本物を支えるためのモブかな。

 民間人救助とか、小規模な調査要員。

 まあ扱いは警察の人たちと変わんないね。

 成果を譲らないとグチグチしつこいタイプ。

 解決可能かどうかはリズール、判断頼む」


「――分かりました。確実に伝えます。

 ここは私にお任せください。

 今は病み上がりですから、

 お休みになられると良いかと」


 そう言うと、急に彼女の震えが止まった。

 というか驚いた顔をされる。


「ま……マジ?

 だいぶ変わったんだね、リズール。

 なら、ちょっとだけ好意に甘えるよ。

 私もせっかくの外出だし、この世界の知り合いの顔を見に行きたい。

 なんかよくわかんないけど、

 この高松学園都市に来てるみたいでさ。

 ちょっと会って話してくる。それじゃ」


 スタッと立ち上がった彼女は、

 とても楽しそうにるんるんとスキップして、ストーブ小屋を後にした。

 その後ろ姿の、なんと神々しい可愛さか。

 伝説の幼女先輩を思い出す。

 

 私は……私は、ああ。

 今はこの、世界で一番ふざけた魔法のアホ毛で、十分なほどに勇気を貰えた。


「……シンデレラフィットスター」


 呼ぶと頭上に大きなカードが現れ、

 手とアホ毛を上から下に下げる動きで、カードのエフェクトが頭頂部から全身を通過。

 リズールさんになっている私の身体を、

 元のピンク髪ツーサイドアップ美少女へと戻してくれる。一般的な制服コーデ。


「はあー……ありがとうございます。

 フェレルナーデさん。

 あなたが私の最推し魔法少女です」


 これが今日から私の原点となる、

 変身ポーズの完成日。

 夜見ライナ初変身の日だ。

 このアホ毛と変身の覚悟があれば、マジタブやステッキを失ったとしても、私は何度でも変身して戦える。

 あとは……何だったか、インベントリ?

 ナターシャさんのあの異空間魔法、

 なんだか真似できる気がする。

 思い出すように、少したわわな自分の胸を見た。


「まだ使えるのかな」


 試しに指を差し込むと、

 謎空間にトプンと入った。

 よし行ける。ここは秘密の収納異空間だ。

 フェレルナーデさんの毛髪が入った筒を、

 トプンと胸の谷間に収納。

 これでダントさんに頼らずとも、

 入手したアイテムを管理できる。成長。

 すると後方腕組みしながら出てくるオカマ霊体。


『ふふっ、どう?

 魔法を覚えるのって楽しいでしょ?

 できることや、やれることが増えて』


「本っ当にその通りでした。

 私はもっとどっぷり魔導に浸るべきだった。そうすれば、私もフェレルナーデさんみたいに、愛と勇気で戦う魔法少女になれる。

 今はそう確信してます」


『心が弾んで来たわね♪

 そろそろ、席を外したみんなが帰ってくるわ。

 愛と勇気を分けてあげれば、

 みんなも大喜びよ!』


「つまりアホ毛ですね! よぉし……!」


 とりあえず軽いウォーミングアップ。

 ストレッチや柔軟体操などで

 現在の身体での感覚を思い出しつつ、

 みんなを待つ。少し焦ったい。


 もう少し経つとカーテンの向こうから、

 ツムギさんたちと、屋上さんのほか、

 小学生たちの楽しそうな話し声が聞こえ、

 ケーキの箱を持って帰ってきた。

 私はツムギさんたちの呆気に取られた顔を見るなり、もちうる全ての元気を振り絞る。


「お待たせ! やっと戻れました!

 私ことリズール・アージェントは、

 なんとプリティコスモスだったんです!」


「教祖だー!」

「元に戻られたー!」


 元気よく騒ぐ教徒たち、硬直して動かないツムギさんや歩き巫女の方々。

 そしてなんだかホッとする屋上さん。


 ……うーん、だいぶんと全員の認識との齟齬が出た気がするけど、まあいいか。

 プリティコスモスはプリティコスモス。

 そして夜見治は夜見治。

 さらにリズール・アージェントはプリティコスモス。

 今日からは強めの思想として生きる。

 レッツプリティ。


 ただ――あんまりにも恥ずかしいので、

 頭頂部のアホ毛がぐるんぐるん回っていたのは内緒だ。

 ま、まあ、ともかく。

 私はアホ毛を早急に普及するべく、事情説明は放棄。胸元から取り出した銀の毛髪入りの筒を見せて、マジックアイテムとしての説明から入る事にした。

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― 新着の感想 ―
「ある時は夜見治、またある時はリズール•アージェント。その実態はプリティコスモス、夜見ライナなのさ!」(某キューティーハニー風に。) 魔法少女は、ネガティブに愚痴られ続けると鬱るんですよ。
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