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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』
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第263話 謎世界{危険な魔力を減らそう!}

 それから暇をつぶすこと三十分。

 ガレージの隅に青い魔法陣が発生したかと思うと、

 おしゃれマジック・マジカルガーリィのアーケード筐体が無から出現した。

 その画面には、現実世界側にいる佐藤ツムギさんたちが映る。


『ライナ様~? おられますか~?』


 どうやら私をお呼びらしい。

 筐体の前に行って顔を見せると、良かった~と安心された。


「なにかご用事ですか?」


『ああいえ、てっきり下層から入られたのだと思っていましたので、

 上層とこちらとの通信手段を用意できておらず、すみません。

 いまちょうど開通させたところです』


「あ、ただの報告ということですか?」


『そうなります』


 そうなんだ。

 曰く、このアーケード筐体を謎世界の至るところに出現させたらしく、

 ここを使えばいつでも現実側の彼女たちと会話できるようだ。

 事務報告のように会話が終わる。

 そこでふと思い、念のために振り向いた。


「説明が必要ですかね?」

「「「聞こえてまーす」」」

「はーい」


 まあ聞こえてるよねそりゃ。

 ピクニックに戻ると、

 待ってましたとばかりにミロちゃんが手を挙げた。


「いま、さらっと新情報が手に入りました。

 私たちは謎世界の上層にいるみたいです」


「だからエモエナ同好会とかいう集団を見かけない感じ?」


「そう言えばシャインジュエル植物も見当たりませんわね。

 下層にのみ生えているということかしら?」


「そこに答えを知ってる元凶はんがおるやん」


 おさげちゃんの発言で、リズールさんに視線が集まる。

 彼女は恥ずかしそうにこう答えた。


「お恥ずかしながら、謎世界は私でも管理しきれていません。

 この謎世界の構造を分かりやすく言えば、

 無限に広がり続ける折り紙を無限に折りたたんでいるような状態です。

 形としては高松学園都市を保っていますが、

 サイズはほぼ無限大――」


「うちらはどこまで管理できてるか聞いてるんやけど?」


「要石となっているアーケード筐体から別の筐体へのワープと、

 人が密集している地点の大まかな座標把握はできます」


「何をしたらもっと管理しやすくなるん?」


「この無駄な魔力(リソース)さえ減ってくれれば……」


 リズールさんはたわわな胸部をぽよんと抱え、辛そうな顔をする。

 なるほどな、とおさげちゃんは手を叩いた。


「つまりはダイエットが必要なんやな、この謎世界は。

 魔力を無駄遣いするために大きくなり続ける結界やけど、

 放置してると結界内に魔物が発生してまう。

 せやけど、魔力を肥料に育つ植物を生やすしか対抗策がないんや」


「よりアクティブに魔力を消費する必要がある、ということですね!」


「そういうことどす」


 ミロちゃんのまとめコメントに同意するおさげちゃん。

 結果、次の議題が「どうやって魔力を消費するか」に決まった。

 いちごちゃんが単刀直入に言う。


「あの人のおっぱいを揉めばいいんじゃない?」

「一番手っ取り早いのはそれやろなぁ。

 エモ力に変換されるし」

「ですわね」


 第一の案。リズールさんのおっぱいを揉む。

 まあ、性的興奮や刺激でエモ力が出るのは体験済みだし、

 わりと妥当な案かも。妥当か?


「……で、誰がやるんですか?」


 そう尋ねると、全員がじっと私を見た。

 少し言葉に詰まりつつ、こう静止する。


「あっいや、まあ、たしかに、私は彼女と知り合いですけどね?」

「それも仕事のうちやで夜見はん」

「緊急事態ですし、四の五の言ってられませんわ。

 魔獣災禍(スタンピード)の発生は未然に防ぐべきですの」

「きょ、拒否権は」

「「「ない」」」


 押し切られてしまい、

 私はリズールさんのパイ揉み係をあてがわれてしまった。

 第二、第三の案を実行するには前準備や仕込みが必要なので、

 それまでの一時的な措置だと。


 当然ながら話は丸聞こえなため、リズールさんの元に行くと、

 彼女は赤面しながらも、「や、やむを得えませんね」と腹をくくる。

 私は大きく深呼吸した。


「…………いいんですかね、これ?」

「し、仕方ありません。いまは拮抗しているといえ、

 送られてくる魔力がさらに増えれば、

 魔物や魔獣が大量発生して、

 人的被害に繋がるのも時間の問題です。

 少しでも多くの魔力を、迅速に無害なエモ力に変えるべきです」

「ですよね…………分かりました」


 私は色ボケして若干思考が止まりつつも、彼女の背後に移動。

 両手を伸ばし、優しくそのたわわな胸に触れ、指で軽く押した。


「ん……っ♡」


 ふわっと青いエモ力が湧き出し、魔力が減ったのが分かる。

 ただそれも一瞬のこと。すぐに元通りだ。

 ……私は、私はなんというかこう、恥ずかしながら多幸感を隠せない。


「ら、ライナ様……?」

「わあっ!? なな、なんですか!?」

「手を、お止めになられては、困ります……」

「ッスー……はい……」


 考えるな私。いまは魔力を減らしてエモ力を生み出す。

 それが仕事だ。ひたすら集中しろ。

 再び彼女――リズールさんの大きな双子山に手を当て、

 背後から優しく持ち上げ、マッサージする。


「あぁ……っ♡」

「んぐッ…………」


 その度に、青いエモ力が生まれて魔力が減り、

 煩悩をくすぐる甘い声が上がる。


 しかし魔法少女とはいえ、私は立派な社会人。

 普段よりも過剰に集中力を上げ、

 精神を鋼へと変えることで、私の心は機械のように冷静になり、

 リズールさん専属の魔力消費マシンになれた。


 何より――――今まで受けた数々の理不尽や、

 ありとあらゆる社会的不遇、努力が水泡に帰すような人生が、

 今日この時のために必要な犠牲だったのだと、

 いやむしろ、今日の幸運が決まっていたからこそ、

 ずっと不幸だったのだと……ああもう、脳が、思考が溶ける。

 何だこの多幸感は。ずっと揉んでいたい。


「あぁ……っ♡」

「ぐッ…………!」


 ――ぼ、煩悩退散。心を殺せ。職務を遂行しろ私。

 これはきっと、あれだ、世界を救うために必要な医療的行為だ……!












――――――――





――――





――






 ……それからしばらく。

 リズールさんの胸のサイズがかなり小さくなり、

 彼女が大事に抱えていた魔物「スライム」もジュオオ、と消滅した。

 ああ、何の意味もなく抱えていたわけじゃなく、

 魔力の蓄積状態を一目で分かるようにするためだったのか。

 ともあれ、スマートになったリズールさんは元気よく立ち上がった。


「ふぅ……身体が軽い。肩も楽です。助かりましたライナ様」


「あはは、どうも。なんだか一生分揉めた気がする……」


「――? ライナ様、何を言っているんですか?」


「え?」


魔力(リソース)が溜まるたびに消費して(揉んで)もらいますよ?

 元凶である悪魔どもを討滅するまで」


「わあ……」


 そしてどうやら、パイ揉み係は永久雇用枠だったらしい。

 中等部一年組を見ると、彼女たちはサッと自分の胸を手で隠す。

 このやろ……と思うも、

 本気で堪能してしまったのは事実だし、

 何より役割続投も事実なため、ニコと笑みを返すだけにとどめた。

 するとミロちゃんが手を挙げる。


「夜見さんの献身により、

 人類滅亡へのカウントダウンが遠ざかりました。

 とはいえ、予断を許さない状況なのは変わりません。

 会議を継続して、さらなる魔力消費案を考えましょう!」


「なら、ひとつ提案があるんやけど」


「はいおさげさんどうぞ!」


「リズールはん、やったっけ?

 その人が喜ぶことをやってあげたら、

 溜まり続ける魔力が自然とエモ力に変わるんとちゃう?」


「つまり待遇の改善ね!

 冷たいガレージの地べたから、居心地のいい家の中に入れてあげて、

 心地よく過ごせるようにしてあげればいいのよ!」


「彼女の困りごとや、

 問題の解決にも積極的になってあげるべきですわね?」


「ついでに魔法の影響を考えなくて済む現実世界に戻すべき♡」


 ……いやいやいや。

 ちょっと待て話が早いと思ったため、私も手を挙げた。


「あの、つまり、それは、私と同棲するってことですよね?」


「「「うん」」」


「いやうんじゃなくて」


「でも夜見はんも華族なわけやし、

 身の回りの世話をしてくれるハウスキーパーは必要やろ?」


「こういう現場では情報不足になることが多いんだし、

 味方や仲間は多いほうがいいわ。聖獣の負担も減るもの」


「そう言われると肯定するしかないですね……」


 彼女の立場に詳しいせいか、

 あまりにも私に都合がよすぎると考えてしまうが、

 実際は管理責任を押し付けられているだけか。

 まあでも、うん、いいか。リズールさんは私が貰っちゃおう。

 彼女に視線を送ると、嬉しそうな顔をした。


「じゃあ、ええと、リズールさん。

 私と一緒に住みましょう。私の家で」


「……そのお言葉、お待ちしていました。

 悪魔どもを打ち倒し、魔力を断つその日まで共に戦いましょう」


 自らの胸元に手を当て、軽くお辞儀をする彼女。

 コンサル契約からずいぶん長く経ったが、正式に私のメイドになった。

 ダント氏を見るとグーサインをしてくれたので、たぶん正解だ。

 そこで州柿先輩が「はい終わり♡」と合掌して手を叩く。


「結界主を口説き落として協力関係を結べたのでぇ、

 謎世界は人類が管理できる魔力災害になりましたぁ~♡

 よって謎世界のメインストーリー攻略はおしまいでーす♡」


「タイパがいい事案ですわね?」


「そら早いやろ。相手が夜見はんの知り合いやったし」


 たしかにと全員で腕を組み、納得した。

 私の交友関係が広いおかげで助かったねが結論らしい。

 そこで少し疑問が出て、首を傾げる。


「いや危機はまだ続いていません?

 魔力を送ってくる元凶のサキュバスシスターとかいう悪魔が生きてます」


「悪魔退治は魔法少女の日常業務ですわよ」


「サンデーちゃんが言うならそうか~……」


 そして、悪魔を倒さない限りは世界に平和が訪れないとも分かった。

 やっぱり魔法少女は悪魔や怪人をぶっ倒してなんぼだ。

 戦いに身を染めよう。勧善懲悪、悪鬼撲滅。


「はい、横道にずれた話を戻します」


 そこで失礼とばかりにミロちゃんが手を挙げて割り込む。


「ともかく、リズールさんの待遇改善は第二の案です。

 謎世界での魔力消費をさらに早める第三、第四の案を進めるには、

 現実世界からいろいろと持ってこないといけません」


「ああ、そうですわね。

 エモ力を生み出す装置も、方法を知っている人脈も、

 まずは現実世界から持ってこないと」


「んー……あ、あれや。

 夜見はんが持ってはる言うた、認識阻害の仮面の出番やろか。

 何枚あるん?」


「あ、一枚だけです。ダントさん」


「はいモル」


 彼のポーチから白磁の仮面「ノーフェイス」が取り出される。

 受け取った中等部一年組は、自分の聖獣さんに魔法で性能を調べてもらい、

 我が父君が新たに起こした会社「願叶デサイン」のサインを確認後、

 これしかないよねとばかりに顔を見合わせて私を見た。


「「「任せた!」」」

「結局ぜんぶ私ぃ! もーっ!」


 流れ的に分かっていたが、やはり私が現実世界に行くしかないようだ。

 まだ月読生徒会や風紀部にノーマークなうえ、

 頭脳派(ハイインテリジェンス)なリズールさんを連れて。

 仮面を受け取って「ノーネーム」のロボフェイスを被り、

 白磁の仮面を顔面にくっつける。

 認識阻害が起動し、キィィン――と音が鳴った。


「ふうー……怖いですよ、流石に」

「外れて見つかるんが怖いん?」

「いや……まあ、はい」


 ここまでお義父さんのシナリオ通りかもしれないから、とは流石に言えない。

 逆に、それくらい読めても救えないこの世界が怖い。

 魑魅魍魎としすぎている。……はあ、よし。それでも頑張ろう。

 私は振り向いて、リズールさんに手を伸ばした。


「リズールさん、今の調子は――」


 彼女はあえてその手を握らず、

 私の腕を掴んでかくんと肘を曲げたかと思うと、自分も同じく肘を曲げ、

 お互いの前腕をクロスするようにぶつけた。


「現在の魔力蓄積値は2%。

 行動になんの支障もありません。行けます」


「わ、分かりました……じゃ、ちょっと一緒に、

 現実でのコネクション作りを手伝ってしてください」


喜んで(オフコース)


 わ、わりとノリのいいタイプだ。

 流石はナターシャさんのお知り合い。

 おさげちゃんが「はいはい話を戻すで」と手を叩く。


「念のために役割分担しとこか。

 うちはそろそろ謎世界の調査に出るわ。

 近場に安全地帯(セーフティエリア)を増やしたいしな」


「むしろ夜見以外は全員残ってそれをした方がいいんじゃない?

 現実側には顔出しはしたくない協力者もいるだろうし。

 主に七光華族とか」


「あ、それもそやな。夜見はんそっちは任せたで」


「分かりました。州柿先輩は――」


「ここで子守りしまーす♤」


「お願いします。

 ダントさんとライブリさんも別行動でいいですかね?」


「「問題なし」」


 全員の同意と確認が取れたので、私はリズールさんと別行動だ。

 それでも謎世界にみんなを置いていくのが不安で、

 魔力による何らかの悪影響がないか尋ねたが、

 おさげちゃんに、


「そういう危険性を分かったうえで、

 一旦別行動しよう、調査しようって言ってるんや。

 そんなにうちらのことが信頼できへんの?」


「――すみません、失言でした。任せます」


「おおきに。こっちは任せてな」


 私たちはあなたの同僚。同じ魔法少女。

 時には信じて背中を預けてよと教えられた。

 逆に言えば、私もそれだけ彼女たちに信頼されているのだろう。

 今日まで頑張った甲斐があったなと、少し嬉しくなった。


「それじゃ、行きますかリズールさん」

「はい」


 リズールさんと共にガレージから私邸の玄関前に移動し、

 「ひみつのじゅもん」と唱えてドアを開け、現実世界に一時帰還する。

 最重要タスクは……まあ順当に、デミグラシアメンバーとの接触か。


 そこでガレージの方を見るとちょうど、

 買い出しを任せたフェザー&女の子が戻ってきていた。

 駄菓子の入ったリュックサックを背負っている。


「ピウ!」

「え? わ、誰?」

「あー……どーも、ノーネームです」


 手を合わせ、ペコリとお辞儀。

 サブミッションは、正体を伏せた状態で彼女と交流かな。

 ひとまず事情を説明するべく、私はガレージに向かう。

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