第262話 謎世界{周辺の安全確認&拠点構築}
私たちの目視での確認と、
州柿先輩や聖獣ズの魔法調査により、
家の周辺に危険な結界トラップなどは存在しないと分かった。
同時に、謎世界の存在強度を守る要石をガレージに設置したおかげか、
この家全体が謎世界における聖域になっているらしく、
謎世界を作った主といきなり出会えた。
(uu)←これみたいな謎生き物を抱えて申し訳なさそうに正座する、
たわわな胸の青髪メイド。リズールさんだ。
「こんにちはライナ様。
私の張った結界……通称では謎世界へようこそ」
「わあ。こんにちはリズールさん。
あなたが犯人なんですか?」
「はい。犯行を認めます」
「事情聴取してもいいですかね?」
「構いません」
そのまま彼女に話をうかがった。
理由としては、やはりアスモデウスすら接触を控える、
サキュバスシスターなる危険淫魔たちから無限に送られてくる信仰魔力が原因。
奈々子や佐藤ツムギさんなど存在譲渡して、減量を試みたものの、
時間が経つにつれてウワサが広まったのか、
信仰魔力の影響で胸囲が増える一方に。
他に有効的な対策を思いつかず、
もはやこれまでと天津魔ヶ原経由で裏世界をハッキングをして、
大規模な結界を生成し、その維持で浪費するしかなくなったようだ。
抱えている謎生物は最弱の魔物「スライム」らしく、
謎世界に満ちる信仰魔力の影響でどうしても生まれてしまうとのこと。
「ダークエモーショナルエネルギーへの対策は何重も張っていましたが、
主としてふさわしい相手か見極めるため、
相手の魔力を採取し、その質や量を調査する機能の脆弱性を突かれました。
……ただ、幸いなことに、
魔力を肥料に育つ作物や薬草は私の生まれた異界に多かった。
それらの種を撒き、生育させることで魔物の発生を防いでいます。
お詫びといってはなんですが、好きなだけ採取してください」
「そ、そうですか。謎世界を消滅させた場合は……?」
「――魔法少女が生まれて半世紀。
何度も世界滅亡、人類滅亡の危機がありました。
今からおよそ三、四十年前。第二世代から第三世代魔法少女の頃には、
魔物の大量発生事件――通称「魔獣災禍」と呼称される、
大規模な次元侵略が大悪魔グランギニョルによって行われ、
当時の魔法少女やナターシャ様の活躍によって阻止されました。
そういうたぐいの災いが起きます」
「や、やばいですね」
「はい。やばいです。世界が」
思っていたよりも事態は深刻だ。
私は謎世界やリズールさんを命がけで守らなくてはと考えたが、
他のみんなの答えはまったく違ったようだった。
まずミロちゃんが「なるほど」と言う。
「話をまとめますと、
謎世界の主は夜見さんのお知り合いの方。
その方には悪魔から常に送りつけられている莫大な魔力があり、
個人で消費しきれないから、
縛りがゆるくてコストのかかる大掛かりな結界をつくったということですね!」
「しかも解除すれば世界滅亡、
人類滅亡級の災害が発生してしまうほどの量ですわ。
それもただの魔力ではなく、悪魔の信仰心の入った魔力ですし、
相当な恨みのこもった嫌がらせですの」
「やけど、国内資源の乏しい日本国にとってはただの恩恵なんよなぁ」
「パパやママに電話した方がいいかもね、全員」
うんうんと頷く中等部一年組。
どういうことだろう?と私が首を傾げると、
州柿先輩が「教えてあげる♡」と肩を突いてきた。
「州柿先輩、くわしく教えてくれますか?」
「魔力とエモ力の関係をわかりやすく表現するとぉ、
原油とハイオクタンガソリンみたいな感じ♡」
「ああっ、なるほど!?
リズールさんが莫大な埋蔵量をほこる油田を掘り当てたみたいな感じ!?」
「そういうこと♡」
私も一気に思考が転換し、
謎世界は危険な場所であるという認識から、
とても重要な戦略資源が豊富に取れる資源地という見解で一致する。
ダント氏など聖獣ズに目を向けると、すでにマジタブを取り出していた。
「全員急いで日本の関係省庁に連絡を取るジャン」
「経産省は任せたニャ、わっしは農水省に送るニャ」
「僕は女学院にいるオリジンの先生方に話を通しますモル」
配信中だというのに忙しそうだ。
全員がやれやれと肩をすくませる。
「やれやれ、聖獣も大人も仕事熱心で困るわね」
「うちら魔法少女は善意でパトロールしてるだけやねんけどな」
「まあそういうのは彼らに任せておくべきですの。
わたくしたちは謎世界の活動拠点を作りますわよ!」
「「「おー!」」」
一大事だからこそ、みんなが謎世界に入ってすぐに立ち寄れる、
セーフティーエリアがあればいいよね。
そんな理想のもと、私も賛同した。
とはいえ、私たちは風紀部と一悶着を起こしたばかり。
しばらく謎世界から出られない。
すると州柿先輩が「とりあえず仕事済ませる♡」と会議を抜け、
ステッキをくるりんと振って、玄関ドアに青い魔法陣を描いた。
「はーいこれで裏口開通♡
「ひみつのじゅもん」と唱えたら、謎世界に入れるようにしました♡
そして一度でも使った子はぁ、
どんなドアからでもここに戻れまーす♡」
「「「すごーい!」」」
パチパチと拍手を送る私たちに、まんざらじゃなさそうな先輩。
で、言われたとおりに「ひみつのじゅもん」と唱えると、
ドアの魔法陣が青く光り、ガチャッと開けたら、
現実世界の大通りと、礼儀正しく並んだ佐藤ツムギさんたちがおり、
リズールさんを見てぺこりとお辞儀をした。
「リズールの姐さんお疲れ様ですッ」
「次はうちらの本拠地の東北でもお願いしますッ」
「あ、ああいえ、本当に偶然の事故というか悪魔どもの嫌がらせで……
こちらこそ謎世界を補強していただき助かります……」
いろいろな話がされつつ、玄関はパタンと閉じられた。
つまりは現実側の協力者がいれば、私たちは謎世界から出ずにすむわけだ。
よし、そろそろ仕事モードに移ろう。
「先輩のおかげで現実世界と自由に戻れるようになったみたいです」
「買い出しは誰が行きますの?」
「うちら魔法少女は風紀部に顔を覚えられてるからあかんで」
「あ、強力な認識阻害の仮面を持ってますけど」
「「なにかの拍子で外れたとたんにバレて捕まるでしょ」」
「た、たしかに……」
「少しいいか? 俺たちにアイデアがある」
次に手を上げたのはライブリさんとダント氏のコンビ。
曰く、ポータル配送を使えば謎世界内で売買が完結するはず、とのこと。
「いい案ね」
「せやな」
「州柿先輩はどう思われますか?」
「……ポータルが謎世界への危害判定になる可能性があるから、
選択肢としては薄い。まずは人力での調達だね♤」
「じゃあ、外で活動してくれる協力者を探す必要があるのか……ん?」
ふと振り向けば、
雑草を食べ飽きたフェザーが玄関をコツコツ突いていた。
視線を向けると鳴き声を出す。
「グワッ。ククックルルルル……」
「ダントさん?」
「探してくるから外に出せって言ってるモル」
「フェザーも乗り気ですね。はーい、すぐに開けますよー」
彼のお願い通りにじゅもんを唱え、ドアを開くと、
フェザーはバサバサと飛び立っていく。
彼が飛んでいった先に目を向ければ、最近よく出会う初等部の金髪女子がおり、
足元でピウピウと鳴くフェザーを見てびっくりしていた。
ガレージで暇そうにしているツムギさんたちではないんだ。
「あっ、すみません、ええと、見知らぬ――」
「ピウピウ」
「えっ!? なになに!?」
しかし初等部の女の子は私よりも、
足元でピウピウというフェザーの鳴き声を親身に聞いており、
少しして「私が必要なのね!」とガッツポーズ。
キッと強気な視線が向けられ、私はようやく口を開く。
「こ、こんにちは。私はその子の飼い主で」
「大丈夫! この子の話ですべて理解したわ!
おしゃれコーデバトルの開催を手伝えばいいのよね!
ここは私にまるっと任せて、
あなたは自分の役割に集中して!」
「ピウ! ピウ!」
そうだそうだと同意するフェザー。
意気投合したのか、彼女の肩に乗った。
一人と一羽がドヤァァァと胸を張る。
「あ、それで名前は……」
「あっ私の名前は知られなくていい!
善意の第三者として手伝いたいからやるの!
いまから買い出しに行くから待ってて!」
「ピウピウ! ククルルル」
「あ、ありがとう見知らぬ女の子さん! お願いします!」
圧に押され、名前も知らない女の子に買い出しを任せた。
まあ、フェザーがついているから大丈夫だろう。うん。
とりあえず、一連の出来事を見ていたガレージのツムギさんたちに、
彼女への対応や資金提供を依頼し、私は謎世界側に戻る。
「おかえり夜見~」
「どうやったん?」
「フェザーが協力者を見つけてくれました。
なんとかしてくれるはずです」
「ほなら霊鳥はんに任とこか」
「ですわね」
他の謎世界解明ゲームセンター部のメンツはというと、
それぞれの聖獣がポーチに保管している食料や回復アイテムを、
ガレージに敷いた大きなピクニックシートの上に並べ、個数を数えていて、
ちょっとした遠足気分だ。私はサンデーちゃんの隣につき、手伝う。
「わあ。ただいまです。ピクニックですか?」
「遊びがないと気を張るばかりで疲れますもの。
適度にリラックスタイムを設ける方が効率いいんですのよ」
「たしかに。根を詰めすぎるのもよくないですよね」
「粗茶どす」
「どもー」
エモーショナル茶道部の茶道要素を担っているおさげちゃんから、
以前に私が魔法で生成した甘い缶コーヒーを貰う。
少し置いてこれを粗茶と申したのかとハッとし、彼女を見ると、
口元を抑えてニヤニヤ笑っていたので、
このやろ……と、ニッコリ営業スマイルを浮かべていた。




