第261話 学生たちを助け出そう!②
月読ランドマークタワー前。
次の収容エレベーターを待つため、
オフの日を楽しんでいたであろう私服の学生たちが、
縦に何列にも並ばされていた。
「さっさと並べ不良学生ども!」
「絶対に列を乱すなよ! 撃つぞ!」
「ひぃぃ……!」
恫喝され、怯える一般私服学生。
そして、彼ら学生を脅し、その列を取り囲むのは、
視界を完全に覆う黒いバイザーを付けた月読学園の風紀部たち。
なぜかそうとう苛立っている様子で、語気が荒い。
手元にはアサルトライフルのような黒いペルソネードを所持している。
「うわー、なんでこんなブチキレてるんすかね風紀部」
「エモエナ同好会絡みだからだよ。大人しくしとけ」
「へーい」
その中には一般実務生で、
高校生であるケンジさんと、もう一人の上級実務の男子が小声で話しており、
中等部一年組の発言は本当だったと、
指揮長や風紀部への疑念がさらに深まった。
彼らは、なんらかの事情で暴走している。
私は止めないといけない。魔法少女として。
サンデーちゃんと横並びで、タワー前の道路の中央に立った。
『――そこまでよ!』
「「「!?」」」
天から響く声。困惑して周辺に銃口を向け警戒する風紀部たち。
それは私たちも同じだ。
すると急に、私の頭上からまばゆい光が降りてくる。
それはおしゃれマジック・マジカルガーリィの世界観から舞い降りた、
「シンデレラフィット・スター」のアルカナカード。
星を抱いて眠る、シルクのロリータドレス姿の幼い女の子のイラストだ。
ゲームにおいて最初に手に入るチュートリアルカードである。
「これは……!」
効果は単純。
お星さまの力で夢見る女の子を理想の姿に近づけてくれる。
このカードは、私を選んでくれたようだ。だけど、なぜ今……?
「夜見さん、それは……!?」
「おしゃれマジック・マジカルガーリィで手に入る、
十二のアルカナカードのうちの一つ。 シンデレラフィット・スター!
女の子の夢を叶えてくれるマジカルでドリーミィなカードさんが、
私を選んでくれました!
お願い……あなたの力、お貸しください!」
まあいいや細かい疑問なんて捨てて乗っちゃえ!
光に手を伸ばすと、カードはまばゆい光の粒子となって弾け、
指先から私の身体の中へ浸透してくれた。
全身が白い光に包まれる。
大きすぎた背丈と胸が縮み、十三歳相応のシンデレラバストボディに。
メガネとともに余剰リソースになったそれらは、
すべてエモ力へと変換され、そのマジカルなカードパワーで、
私の紫髪サラサラロングをリボン付きピンク髪ツインテールへと変化させた。
同時に、月読学園の制服も、聖ソレイユ女学園の真っ白な制服へと戻る。
きらりきらりとまばゆく光りなびく、私のツインテールとピンクリボン。
戦闘に適したスレンダーで機能美なボディ。
これこそ私が魔法少女に求めていたもの。
最後に、胸の重みによる肩のこりとストレスが浄化され、
ピンクのエモ力の風となり、周辺に吹き荒れた。
「ふぅー……レディ・パーフェクトリィー、です!」
ビュオオ――
「ぐっ……まさか、あの髪色と制服は!?」
急に変身バンクを見せつけられた風紀部の面々も、
最後に現れた私の姿で、ようやく理解が追いついたようだ。
「お前は、魔法少女プリティコスモスだな!?
隣の赤髪は……まさか魔法少女ラズベリーサンデーか!?
我ら風紀部の邪魔をするつもりか!」
「あら。ご理解が早いようですわね!」
ヒーローネームを呼ばれ、サンデーちゃんは機嫌が良くなった。
普段より一オクターブ上の声音で、声を荒げる。
「ご明察のとおり!
無垢な学生たちを助けるため、
指揮長とやらの野望を阻みに来ましたわ!」
「ええ、そうです!
例え卒論が書けていないとはいえ、強制収容は良くないことです!
今すぐに学生を開放してください!」
「お、おのれ……事情を知らない反逆者め!」
先ほどから私たちと会話していた風紀部の人は、
怒りの滲んだ声音でこちらに銃口を向けた。
「治安向上のためだと言われ、お前たちを野放しにしてみれば……!
バイオテロの次は、裏世界だの謎世界だのと、結界テロだのが連続発生し!
さらには現体制に反旗を翻すなど……ッ、
つけあがるなよ正義の味方気取りが!
我らからすれば、貴様ら魔法少女もテロリストの一人に過ぎない!
貴様らこそステッキを捨て、脊髄反射的な武力抵抗はやめろ!
都会の反逆者、アーバン・リベリオンズが!」
さらには反論を叩きつけ、上空に向けて怒りの威嚇射撃を行う彼。
その瞬間、この地に――いや、治安維持を行う彼ら風紀部に溜まっていた、
禍々しい黒いオーラ――ダークエモーショナルエネルギーが、
彼らの背後からふつふつと湧き溢れ始める。
「――そうだ! その通りだ!
ここは我ら風紀部と月読生徒会が長年守ってきた都市だ!
部外者は引っ込んでいろ!」
「そうだそうだ!
東京に帰れ! 我々の治安維持の邪魔をするな!」
指示に従わない者や、治安を乱す者へのありとあらゆる怒りと、
転校生への嫉妬、クラス格差など、風紀部以外の他人への差別感情、
そして刻々と悪化していくこの高松学園都市の危険度が、
『この地は自分たちが守らなければならない。
それに逆らう者――反逆者はすべて敵だ』
という、歪みながらも確固たる正義の信念となって、一斉に吹き出し始めたのだ。




