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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』
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第259話 お次は安心できる拠点で情報収集。

 まあ、その後の話はサクッと。

 私の家に到着時、タイミングよく高松不動産の方と出会い、

 各種土地権利書や家の受け渡し書類などにサイン。

 そして、部屋のインテリアデザインに関する話になり、

 相手方が一冊の冊子とともに、


「そうだ!

 うちの持ってる倉庫に面白いものがあったから、

 サインのお礼に渡すよう社長から頼まれたんですよ!」


 と、古いアーケードゲーム筐体のミニプラモデルを手渡してくれた。

 底にはバトルデコイと同じボタンがあるようで、

 腕の中のフェザーをちょっとごめんねと私の頭上に乗せつつ、

 教わったとおりに玄関横の車用ガレージに設置すると、

 ポンと煙を出しながら実物大サイズになった。


『おしゃれ☆マジック! マジカルガーリィ~~~~♡』


 どこにも電源も繋がっていないのに画面が付いて音声が鳴り、

 カラフルなドレスやコスチュームに身を包んだ、

 歌って踊るスレンダー美少女なアイドルたちが映る。

 中等部一年組と州柿先輩は、なにこれー!?わーっと走り寄っていった。

 これは……あれだ。

 私みたいなおじさん――大きなお友達が大好きな、

 女児向けアーケードゲームだ。大昔にゲームセンターで見たことがある。

 私はこれを持ってきた社員さんをじっと見た。社員さんは喜ぶ。


「お、気になります?

 うちの持ってる倉庫、古いアーケード筐体が山ほどあるんですよ!

 ほらあれ、高松ゲームセンター街!

 ゲーム規制条例で潰れたゲームセンターがわりと多くて、

 そのときに、筐体が保管されたままの倉庫を買い取ったんです!

 おしゃれコーデバトルってのが実際何なのかは分かりませんが、

 波に乗るのも悪くないと部長が言い出しまして! 

 ただいま在庫一掃の半額ガレージセール中です! 良ければ!」

「そ、そうだったんですか」


 赤城先輩からのし掛け人だと思ったが、

 単純にタイミングがいいだけの方だったようだ。

 「ここが倉庫の場所です!」と地図付きのチラシを差し出された。

 どうやら高松学園都市の郊外にあるらしく、買いに来てくれると嬉しいとのこと。

 

 まあ、ガレージセールで運試しするのも悪くないかな。

 何にせよ貰えるものは貰っておきたいし、とチラシを貰った。

 彼を見送った後、隣で黙って聞いていたライブリさんが腕を組む。


「おしゃれマジック、マジカルガーリィー……。

 聞いたことがない言葉だ。

 何年前のゲームなんだ……?」


「だいぶん古いやつですよね?」


「だな。プリティコスモスは知っているのか?」


「いえ、女児向けゲームはちょっと詳しくなくて……ふうー」


 嘘だ。少しだけ知っている。

 ドキドキ高鳴る胸を抑えるべく、

 深呼吸して冷静に……なれないので、好奇心に従った。


「ええとっ、中等部一年組のみんなー!」


「「「なぁにー?」」」


 私がさっきの事情を説明し、チラシを見せると、

 中等部一年組は倉庫での半額ガレージセールに興味津々になった。


「おさげさん、感じますわね?」

「せやな……シャインジュエルの匂いや。

 やけど、うちらの今日の目的はあくまでもパトロール配信。

 早いこと夜見はんの家のインテリアを決めて、

 大学生を説得して回らなあかん。今は我慢や」

「おさげの言う通りね。目的を忘れちゃいけないわ。

 だからこそ急いで拠点作り! 夜見の家に上がるわよー!」

「「「おー!」」」


 改めて一致団結する全員。

 興味が深まることはあるものの、目的を忘れないなんて。すごい。

 まあそれはさておき、玄関の鍵を開け、みんなを招く。


「私の家にいらっしゃいませー」

「「「おじゃましまーす!」」」


 女児五人(州柿先輩含む)が靴を脱いで家になだれ込む。

 各部屋の壁にあるスイッチがパチパチと押され、

 備え付けの電灯がピカッと光った。


『ここはリビングで決定ね!』

『いい感じのソファーを置きましょう!』


 おお、もうインテリアを決め始めている。

 私はそれを嬉しく思いながら、大人しく上がった。


 ……で、それから三十分くらい。

 殺風景だった私の家は、

 あっという間に静かで、安心感のある家になった。

 一階のリビング、キッチン、客間用の和室とトイレを全員で飾り付けて、

 二階には寝室と押入れ、そして配信部屋を作った。最後はダント氏の要望だ。

 インテリア冊子の注文先が願叶デザインのポータル配送業で、

 亀聖獣のゲンさんが対応しており、

 身内特典として、お試し設置をさせてくれたので早い。


「エモ取引なら500エモ。毎月好きなだけインテリアを交換可能だカメ」

「じゃあエモペイで!」


 エモペイ♪

 会計はマジタブのエモ取引で済ませ、

 今後の部屋の模様替えや配信機材の交換もできるようにした。

 これでインテリアも終わり。パトロール配信に集中できる……はずだが。


「待って。なにか足りない気がしない?」

「ですわね?」


 中等部一年組は納得していないようだ。

 彼女たちの聖獣が申し訳無さそうに手を合わせ、テレパシーを飛ばしてくる。


『お泊り会開催の許可をお願いしますジャン……』

『お願いしますニャ……』


 サンデーちゃんの聖獣――ジャンさんの声と、あと誰だろうか。

 語尾がニャでネコだし、いちごちゃんの聖獣かな。

 やれやれ仕方ないなぁ。


「もしかして……

 パトロール配信が一日で終わらないと直感しているんじゃ?」

「「「!」」」


 私の一言で、中等部一年組(+州柿先輩)はハッとした。


「きっとそうよ! お泊り会の開催が必要だわ!」

「人数分の寝具セットを注文します!」


 素早く動いたのはミロちゃん。

 ポータル配送業中の聖獣ゲンさんに掛け合い、

 人数分のおふとんと枕、それぞれのモチーフカラーパジャマをオーダーし、

 マジタブのエモ取引で支払った。するとポイント♪と聞き慣れない音。


「おお、一定以上のエモ取引がこの場で起きたカメから、

 シャインジュエルツリー育成セットをプレゼントだカメ。

 どうぞカメ」


 彼がポータルから持ち出したのは、

 白い土が入っている小さな陶器の鉢と金のジョウロだ。

 ミロちゃんが戸惑いながらも受け取ると、ぴょこっと双葉が咲いた。


「……き、貴重なものをありがとうございます」

「こちらこそエモ取引ありがとうカメ。またよろしくねーカメ」


 ゲンさんは注文のお泊りセットをポータルからリビングに出して、

 手を振りながらシュンと消える。

 そしてミロちゃんは鉢植えを持ったまま、びっくりして固まってしまった。


「こ、これ、どう扱えばいいんですか?」

「ええと……とりあえず夜見はんに預けよか!

 しばらくお泊りするわけやし!」

「は、はい! 夜見さん、お願いします!」

「わ、わあ……」


 急に渡されたので、まあ観葉植物扱いでいいかなと、

 日当たりの良いキッチンに置き、緑をプラスした。

 なんだか家の中のエモさが増した気がする。


「なんだか家でゆっくりしたくなってきましたね……」

「堕落はダメよ夜見! 日中はちゃんとパトロール配信するの!」

「せやろか? まずネットで情報収集するんが大事とちゃう?」

「「「!」」」


 今度はおさげちゃんの言葉にハッとさせられる私たち。

 しかし、現在は配信中。それぞれのマジタブを見るだけでは風情がないので、

 リビングに設置したばかりの大画面テレビと私のマジタブをリンクし、

 日進月歩から見れるニュース速報を表示させた。

 見出しはこうだ。


「おお、月読学園の大学生、謎世界の独自調査を開始……ですか」

「でも指揮長っていう人が「卒論書かずに謎世界に逃げ込むな」と遺憾表明……?」

「大学生側は「卒論執筆のための調査である」と反論し、

 生徒会と一般生徒、両者の対立が深まる……世間は大変ですのねぇ」

「「「ねー」」」


 サンデーちゃんの意見に同意する私たち。

 ともかく、パトロール前にできるだけ多くの情報を得るべきだ。

 私たちはニュースサイトをテレビに映しながら、

 マジタブをスワイプして謎世界に関わる情報やウワサなどを集めていく。

 するとおさげちゃんがなにかを見つけた。


「うわ、ヤバいでこれ。見てみ」

「なんですの?」


 それは緊急速報で、

『月読生徒会風紀部、卒論未提出の全大学生を、

 60階の補修講座教室に強制収容すると表明。

 一般生徒に対する事実上の武力弾圧か』

 という文章とともに、風紀部に縄や手錠で逮捕され、

 泣きべそをかきながら連行されていく私服大学生たちの動画が掲載された。

 私は「いや卒論書かないのが悪いんじゃないか?」と思い、

 偏向報道を疑ったが、


「これ卒論と関係ない大学一年生とか、高等部三年も混じってるで。

 たぶん私服の生徒を無差別に捕まえさせとる」

「ヤバいわね……」


 そう言われてみれば、

 たしかに四回生にしては顔が幼いかも、

 認知バイアスがかかっていたのは私だったのかもと反省。

 決めつけはよくない。


「次はこれや」


 続いてのニュースには、

『謎世界にて、

 新種のシャインジュエル生成植物が確認される。

 月読生徒会が確保、研究し、世間への迅速な公表を目指す動き』

 とあり、指揮長の賀田陸さんが、

 我が物顔でエモーショナルエネルギーと謎世界とその新植物を語り、

 迅速に研究を行い、社会に貢献すると言う動画が乗っていた。

 


 私は「世界が良くなるのはいいことだな」と関心したが、


「おさげさん……まさかこれって」

「せや。このアホヅラ、うちらの提案を丸パクリしよった。

 というか、卒論生から研究テーマを奪ったらなおさら卒論書けへんなるくらい、

 アホでも分かるやろのに、頭おかしいやろコイツ」

「そうね……だからたぶん、

 卒論を書かせるために大学生を捕まえてるんじゃないわ。

 本当は生徒を監禁して無理やり研究させて、成果を乗っ取るつもりなのよ!」

「な……なんて悪いお人ですの!」


 中等部一年組の指揮長に対する否定的な発言に、

 もしかして私って思考回路がおかしいんじゃ?と冷静になれた。

 普段から使っている「まあ」とか「でも」と切り替える思考って、

 正義の味方や魔法少女に向いてない? ガーンとショック。


「ううう……」

「どうしたの夜見?」

「私、社会の世知辛さに馴染みすぎてて、人の悪意が分からないかも……」

「魔法「紺」の練度を上げなさいですわ」

「そのことで質問なんですけど、魔法「緑」じゃ?」

「ちゃうで。緑は五感と手先の器用さが上がるんよ。

 魔法「紺」を鍛えると頭が良くなる理由は、

 紺の操作精度を上げると、脳のメモリ消費が効率化されて楽になるからや。

 夜見はんが思ってるより頭が疲れるんよ、魔法って」

「なるほど、つまり紺が未熟な私は脳メモリの使用に無駄が多い……」

「「「そういうこと」」」


 中等部一年組(州柿先輩含む)の言葉で、

 一時的に青系統のコスチュームに身を包む必要があると確信した。

 でも、私に似合う服ってなんだろう?と疑問符ぷかぷか。

 するといちごちゃんが「はい休憩終わり!」と叫んだ。


「とにかく、状況が変わったわ。

 謎世界から大学生を連れ戻すんじゃなく、

 月読生徒会に捕まった大学生を、謎世界に逃がして助けてあげなくちゃ!」

「せやな。指揮長とかいうアホに一泡吹かせたろ」

「ですわね!」

「はい!」


 その場の全員で円陣を組み、えいえいおーと掛け声を上げる。

 指揮長「賀田陸」率いる月読生徒会の横暴から、

 月読学園生の自由と平和を守るために戦おう。

 今はそれが正義だと、私も決心した。


 ともあれ、家から出た私たちは、

 目前に見える月読ランドマークタワーから大学生を助け出すべく、

 アーケード筐体を設置したままのガレージに集まり、策を練る。

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