第258話 それはそれとして解決に向けた話し合い。
――で、特進コースの方から話を聞いたところ。
今年の卒業論文の提出期限が近く、
行き詰まった大学部特進コースの四回生たちが謎世界に逃げ込んだので、
なんとか説得して連れ戻して欲しい、とのこと。
「月読学園の大学生も大変ですのねえ……」
「「「ねー」」」
サンデーちゃんの言葉に、中等部一年組みんなで同調する。
私も人生二度目の大学生活が待っていることだし、
今から卒論のテーマでも考えておくべきかも。
それより先にどの大学を目指すか決めるべきかな?
就職に有利な有名大学とか? 私は静かに腕を組む。
「やけど、ソレイユの企業に就職するには、
ソレイユ系列の学校を卒業していないとあかんから、
将来困らへんよう、はよ説得してあげんとな」
「そうですわね。ソレイユの大学とそれ以外には、
マリアナ海溝よりも深い待遇の格差がありますものね。
世間で言われる著名な大学を出たところで、
ようやく年収が一千万円ライン。
ソレイユの学生なら授業を受けるだけで同額稼げますのに。
何より万能資源のエモ力も得られますし、
学生時代の無賃勉学はコスパが悪いですの」
私はびっくりして目を見開いた。
そ、ソレイユって勉学中にも賃金が発生する世界なのか。
じゃあこれから私が送るべき人生ってやっぱり、
一般的な成功ルート――コツコツ勉学に励んでいい大学を出るより、
ソレイユの私立学校に入ってのんびりしつつ、
学びで得られた報酬で投資をした方が人生勝ち組なのか。
するといちごちゃんが「それはそれ。今は困りごとの解決よ」と話題を戻す。
「一番の問題は、
その中でもさらに楽に勉学に集中できるクラスにいるのに、
卒業論文が書けなくて逃げ出してしまう彼らのメンタル不調よね?」
「ですね……あ。たしか、
香川は魔法に関する条例整備が遅れてますし、
中毒性のあるゲームやアプリにハマって散財とか、
研究成果でうまく稼げていないとか?」
「「「うーん……」」」
ミロちゃんがそう言うと、悩むみんな。
するとおさげちゃんが「憶測はやめよか」とバッサリ切る。
「単純に今日まで書けへんかっただけでええやろ。
テーマに悩んで決まらへんから筆が動かへんとか」
「その辺りが妥当ですわね。
連れ戻すには書きやすい研究テーマを与えてあげるべきですわ」
「書きやすいということは、身近にあるけど、
先行研究が少なそうな題材ということですね?」
「せやミロはん。なんかいいアイデアある?」
「ではやはり、香川に最近現れた裏世界群に関する調査でしょうか?
今回は彼らが逃げ込んだという謎世界をテーマに調べて、
一体それがなんなのか、何のために存在するのか、
自分なりの提言としてまとめて貰う形で」
「決まりやな。謎世界に関する提言がその大学生らのテーマや」
『おお……』
「おお……」
特進コース生のドローンと、私から関心の声が漏れる。
こ、これが中等部一年でもトップレベルの魔法少女なのか。
私ならあくせく突っ走りながら解決を目指していたであろう依頼を、
冷静に分析し、最小限の努力でスマートに解決に導く。
り、理想的なというか、私が夢に見ていた魔法少女像がそこにあった。
私はもっと冷静になって、考えながら話し合うべきだったのか。反省。
「ううう……」
「どうしたの夜見?」
「みんなが優秀すぎて私の立つ瀬がないです……」
「大丈夫よ夜見!
私たちは夜見みたく最前線で戦えないから、
役割分担できているわ! まだ!」
「そうです! 夜見さんの戦闘IQはピカイチです!
夜見さんの課題は魔法「紺」の練度が低いので、
謎を紐解くための推理IQが一向に成長しないことです!」
「はいぃ……えっ、セブンスカラーの魔法ってIQにも関係があるんですか?」
私の疑問に対して、
「そうですけど?」みたいなドヤ顔を浮かべるミロちゃん。
「実は、そうなんです。強化系の魔法「赤」は反射神経、
操作系の魔法「紺」は知育に影響します。
初期コスチュームの系統分類で自分の才能は決まりますが、
他のセブンスカラーを伸ばすことで、
より効率的な成長方法に気づけたり苦手が克服できたりします。
特化よりも器用貧乏を目指すほうが、魔法少女は強くなれるんですよ?
三位一体のトライフォースに近づきますから!」
「そ、そうなんだ……!」
私はドキドキと嬉しくなる。
限界があるから意味はない成長だと思いこんでいたけど、
育てないことには繋がらないんだ。
鍛えることで得られる学びこそ大事なんだ!
「じゃ、じゃあ、私も西園寺ライナになったことですし、
魔法「紺」を鍛えて賢くなりたいですし、
コスチュームもイメチェンして紺色にする必要性があるかもですね!?」
「「「おお~!」」」
そう言うと「賢い」「えらいね」と頭を撫でて褒めてくれる。
今までピンク魔法少女という主役らしさにこだわっていたけれど、
一度、あえて型を破ることで成長を得るのも大事なのか。
プリティコスモスという重責に負けない魔法少女になるためにも!
すると、今まで黙っていた州柿先輩が一言だけ漏らす。
「だから紺陣営が人気なんだよね~」
「成長に至る道筋の答えは最初から出ていたんだ……!」
ただ屋形光子が気に食わないという理由で選ばなかった紺陣営が、
はじめて人生の選択肢に出てきた。
「はい、それはそれとして話を戻すわよ。大学生脱走の話」
そしていちごちゃんの一言で、パトロール配信に引き戻される。
ともかく、謎世界の調査がそのまま、
卒論が嫌で逃げ出した限界大学生を救う手立てになるのだから、
利用しない手はないと全員で結論づけると、
監視ドローンの向こうにいる特進コース生も「同意します」と同意する。
『まさか、逃げ出した先こそ彼らの研究テーマだったとは。
こちらはこちらで接触し、その話を伝えて説得してみます。
皆さんの方からも説得の協力をお願いします。では――』
シュゥゥン、と光学迷彩の音を立てて監視ドローンは姿を消した。
残された私たちも、目的が決まったので行動するだけだ。
で、待ってましたとばかりにいちごちゃんが目を光らせる。
「じゃあ次は、謎世界を安全に調査するための拠点が……必要よね?」
「「「夜見の家に突撃訪問~!」」」
中等部一年組(私除く)と、州柿先輩まで同調して声を上げた。
家主である私は、やれやれとため息をつく。
「ま、そうなりますよね。近所ですし。
まだ買ったばかりでなにもない家なんですけど、
一緒にインテリアデザインを考えてくれますか?」
「「「する~!」」」
「じゃあ行きましょう!」
「「「れっつごー!」」」
急に年相応の女児になった中等部と、悪ノリする州柿先輩と共に、
私たちは来た道を戻って、
モニュメント公園と道路を挟んで反対側にある私の家に向かった。




