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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.4『限界卒論生大脱走! 締め切り間近の極限おしゃれコーデバトル!』
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第257話 おしゃれコーディネーター・K氏

 ……で、私の家の向かいの公園にある月読モニュメント前にて。

 私たちを出迎えたのは、トークハットを被った車椅子の熟女だった。


「――長々と引っ張ってごめんあそあせ。

 ようやく顔見せでござあましょ」


 ヘアサロンにでも行ったのか、

 髪は毛先だけゆるく巻いてされており、

 表の色はレッド、インナーカラーがピンクという派手派手な人。

 服装も見栄えを意識してかネイビー色の毛皮コートと、

 おしゃれの化身のような人物だ。あと舌足らずな声。


 隣には……どこだっけ、ああそうそう。

 騎士爵を授与された日のパレードで、

 私を差し置いて演説を始めた高松市議が緊張した顔で立っている。

 首には黒いチョーカーが巻かれているのも見覚えがあるな。

 とりあえず、中等部一年組を代表して尋ねる。


「あ、あなたは……?」

「あーしは魔法少女の衣服を専門で手掛けるデザイナー、

 おしゃれコーディネーター・K(ケー)でござあますわ。

 滑舌の悪さは気にしないでもらってござあましょ」

「あ、はい……それで特進コース生からの悩み事とは……」

「あーしとはまったく関係ないでござあますわ。

 ただ、あーしはあーたたちの衣服をデザインしていいと聞いたから、

 パリから遠路はるばるやってきたついでに、

 顔合わせに来ただけでござあましょ」

「はあ……」


 そうなんだ。私たちがキョトンとしていると、

 おしゃれコーディネーターKを名乗った熟女は虚空をぐいと引っ張る。

 すると、隣の市議の首もぐいっと下がった。


「月読学園の問題はこの無能議員に聞くといいでござーしょ。

 あーしたちデザイナー魔女からの献金で、

 治安維持に本腰を入れるどころか、

 保身のために塔のてっぺんに引きこもり、

 そのちっぽけな自己顕示欲を満たすために、

 後ろにあるバカみたいな銅像を作るこの無能に」

「ぐうう……っ!」


 無能呼びされた議員さんはピキピキとこめかみに青筋を立てるも、

 チョーカーの影響で反抗できないっぽい。

 まあ、うん、市議さんよりも強いパワーを持った魔女さんだと認識しよう。


「ああ、この無能どもが反逆してくるとか、

 あーたたちを狙って犯罪者が襲ってくるとか、

 そういうのはないから安心してござーしょ。

 なぜなら、高松市議会は業務不履行のため解散。

 今月中に全員クビでござーすから」

「そ、そうなんですね!」

「……もしも、の質問でござあますけど」


 すると、私の表情を見て悟った相手が、パチンと指を鳴らした。


「あーた私が誰か知らないでござーしょ?」

「コーディネーターのKさんですよね!」

「は? そんなもの偽名に決まってるでござーしょ。本名はケラー」

「け、ケラーさん……なんですね!」

「それも嘘でござあます。

 はあ、あーたなんにも分からないダメダメなのね……。

 西園寺の跡継ぎなのにね……」

「ううう……っ!」


 し、信じたと思ったら裏切られた。二回も。


「で、でも! 普通は本当のことを言ってくれるって思うじゃないですか!」

「は? あーたが所属している組織の本丸はなにか、

 いま一度おもいだしてくださあましょ」

「ソレイ……あ、日本政府で、警視庁公安部の、特殊機動部隊、です」

「そこは表に出せない機密情報、

 個人への発言の制限がある組織でござーしょ?

 民間人の目の前でバカスカ本当のことを言っていたら、

 どうなるでござあます?」

「……き、機密情報が、漏れます」

「そう、話したくても話せない。

 これまでもたぶん、そういう場面ばかりだったでござーしょ?

 今は言えない、守秘義務がある、今のは聞かなかったことにして欲しい、とか」

「あ……も、ものすごく、あり……ます……ね」

「そう、で、あーたのような金目当てで思考力のない子は辞めていく。

 あーたのような浅はかな人間が、

 好んでいそうなインフルエンサーの言葉を借りれば……

 嘘を嘘と見抜けない人間でないと、この仕事を続けるのはむずかしい、

 でござあますね?」

「うううっ……はい……」


 急に心まで覗かれた気分になり、キュッと恐怖してしまう。

 わ、私って、お、お金目当てで思考力がないの、かな。

 すると、目の前の熟女ははあと呆れたようにため息をついた。


「いい? よく聞くでござーしょ?

 だからこそ、真実を見抜く努力を怠らないように。

 本当にずる賢い人間とは、

 自分に不利な情報はあーたが気づかないように隠して、

 有利になる情報はあーたが誤解するように出すんでござーすの。

 今、あーたの目の前にいるあーしのように、口先八丁で」


 て、敵なのか……?

 警戒すると、コツンとチョップが降りてくる。ライブリさんだ。


「言葉に惑わされ、思考を止めすぎだプリティコスモス。

 目の前の女性をよく観察し、反応や発言を思い出せ。

 あんなおしゃれな格好をする人間は、

 ほぼ間違いなくファッション関係の職業。

 つまり彼女のデザイナーという発言は真実だ」

「い、言われてみれば……」


 私は目の前で車椅子に乗っている熟女を改めて観察した。

 まあ、何度見返しても派手な格好だし、

 途中からは、からかわれている感じだったから、おそらく――


「そ、そっか。つまりコーディネーターKではないという発言自体がブラフ!

 あなたはおしゃれコーディネーターKさんだ!」


「正解でござーしょ。

 あーしは間違いなくおしゃれコーディネーターK。お見事でござーすの」


 相手はパチパチと乾いた拍手を送ってくれる。嬉しい。

 しかしすぐに相手は不機嫌な顔をした。


「……で、あえて試すような発言をしたのは、

 お金目当てで魔法少女をやっている子の衣装デザインなんて、

 死んでもごめんだからでござーすからでござーしょ。お分かり?」


「え……で、デザイナーの意地とか、プライドみたいな?」


「そう。あーしは、正義や、平和や、誰かの幸せためでもいい。

 そういうあやふやなキラキラしたなにかのために、

 命もプライドもかなぐり捨てて掴み取りに行くような子しか、

 魔法少女として認めていないでござーすの。

 金のために動く、下賤(げせん)売女(ばいじょ)どもは特に」


「ええっ……」


「なぜ、最終フォームに続く道である「アルティメイク」を、

 一世一代の晴れ舞台で着るための一張羅を、

 この世で何の価値もない金や地位のために、

 あーしが真心込めて造らなきゃならないんでござーすの?

 その一着を、ただの一度でもいい、

 一瞬でも着たいがために全身全霊で命かけれないなら、

 そのまま道半ばで死ねでござーす。

 あーたに言ってるんでござーすよプリティコスモス」


 急に名前を呼ばれてドキッとする。


「も……もしかして、叱られてますか?」


「もっと上。喧嘩を売っているんでござーすのよ。

 私はデザイナーとして、芸術の街パリから遠路はるばるやって来ている。

 最愛の魔法少女、赤城恵ことラズライトムーンの依頼で。

 彼女のためなら喜んで衣装を造るけれど、

 どーしてこう、あーたは自分をさらけ出すことや、全力を出し渋るのか。

 芸術を志し、衣服のデザインで自己表現するものとしてそこが嫌い。

 魔法少女という仕事に本気になれないなら、さっさと死ぬか引退して、

 ラズライトムーンをフリーにしてくだあさる?

 もっとたくさんのコスチュームを着させてあげたいんでござーすの」


 ぐっと涙ぐむ私。なぜか私に共感したように涙を流す議員さん。

 キッと暴言を吐いた相手を睨み返すと、

 おしゃれコーディネーターK氏はやっと満足げに微笑んだ。


「そう。あーたはそれでいい。

 両親を病で失い、叔父を奪われ、親戚からは絶縁されて天涯孤独となった。

 それでも必死になって走って、不格好ながらも実績を積み上げて、

 ようやく得たのが「西園寺」という名家の名でござーすのよ。

 なのに何の怒りも復讐心も持つことを許されず、

 ただ幸せを謳歌しろだなんて、それはあまりにも残酷な、

 TVショー特有の虚言でござーしょ。

 次のあーしの言葉はお分かりになる?」


「私には社会に復讐する権利があるとでも……?」


「おバカ。発想力不足。

 負の感情は芸術に昇華するもの。

 今日まで私の本気を弄んだことを後悔させてやる。

 私をコンテンツ化して喜ぶやつらは、

 画面の前で勝手に指を加えて右往左往していろ、でござーしょ?

 正義の志は忘れず、今よりもっともっともーっと人気者になることで、

 あーたはようやく怒りから開放され、

 純心な自分を取り戻せるんでござあますの。お分かりになった?」


「わ、分かりました……けど、

 どうしてそこまで私のことを知っていて、

 進むべき道を教えてくれるんですか?

 どうして、そんなに私に親身に?」


「くだらない質問はやめてくだーしょ。

 私は衣装デザイナー。おしゃれコーディネーターK。

 最終フォームに至れるであろう、

 魔法少女のコスチュームを制作しにきた。

 そして、魔法少女の最終フォームとは、そのコスチュームとは、

 あーたが送る青春の旅路の中で、

 喜びや悲しみの感情のるつぼの中で、

 きっとこれからも何度も壊れるだろうマジカルステッキの中で、

 自然と出来上がっていくものでござーすの。

 でも、自分の負の側面への自覚と、理解を拒むあーたのままでは、

 到達が見えない高みだったから、

 先んじて下地(ベース)となる感情の根底を整理させてもらった。

 その結果が、あーたは喜怒哀楽の中で「怒り」だった。

 ただそれだけでござーしょ」


「そう、なんだ……」


 なんだかよく分からない人だ。

 私を叱ったと思えば、感情の整理を手伝ってくれたり。

 ともかく、コーディネーターN氏は「仕事は終わったので帰るざます」といい、

 自ら車椅子を回して去っていった。

 彼女にペコペコとごまをする黒チョーカーを付けられた議員さんと共に。

 ようやく、中等部一年組も口を開いた。


「夜見はん、今のなんやったん?」


「たぶんですけど、赤城先輩の仕込みです。

 おしゃれコーデバトルを開催するつもりなので」


「「「おしゃれコーデバトル?」」」


 「そう言えば赤城先輩本人も言ってたわよね」「せやな」と話題が移ってしまう。


「イベントの仕掛け人なのはいいけど、

 そもそも、夜見を叱るのはお門違いよね?

 中等部一年生の私たちと、高等部の先輩魔法少女だったら、

 高等部の先輩魔法少女のほうが優秀に決まってるじゃない」


「たしかに。

 あれは指導じゃなくて、文句を言っているだけに感じました」


「あれやろ、自分が追ってきた子の人生を美化しすぎて、

 それ以外を肯定できひんようになってるんやろ。

 せやから魔女やのに聖ソレイユ女学院から追放されてるんや」


「何にせよ、私たち中等部生にとっての悪ですわね。

 次また出てきたらぶっ飛ばしますわよ夜見さん!」


「は、はい!」


 ……こ、心強い。折られかけた心がぎゅんぎゅん回復していく。

 ともあれ、いい感じのところで話を戻してくれないかな、

 次の出会いは来ないかなと周囲をうかがうと、

 光学迷彩で姿を消してい監視ドローンが、ブィィン――と姿を現した。


『……こ、こんにちは。

 先ほどメッセージを交換して待ち合わせをした特進コースの者です。

 事態が込み入っていたようで思わず黙ってしまいました』


「あ、ああ~良かった!

 みんな、いたみたいです特進コースの人が!」

「ほんま?」

「ホントですわ」

「困りごとがあるなら私たちに聞かせてくれますか!?」


『実は――』


 赤城先輩による謎の割り込みを喰らいつつも、

 私たちは特進コースからの相談を受ける。

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