第250話 だが金で努力は買えない
いくつかのショート動画が再生されたのち、
屋上さんは三津裏くんと万羽ちゃんが二人でドヤ顔を決める画像を映した。
「――騒動発覚後、現地に派遣された魔法少女フォスフォフィライト、
三津裏霧斗指揮者の二名により、
原因究明のための調査が行われたのですが……」
屋上さんがタップすると、
最初の動画に映ったアスファルトの道路と同じ背景の写真に変わり、
続いてアスファルト道路が大きく拡大された。
路面のデコボコした部分が、
奇跡的に丸を作っていたり、四角い枠になっていたりしている。
「まず、主成分による発生要因ですが、
現在の道路舗装に使用されている一般的な石油アスファルトに、
微弱ながら古代のエモ力が封入されており」
封入されており?
「混在物の砂利などが奇跡的な確率で円形、ひし形、正方形など、
その他土地の条件に合わせた最密構造を取っている場合、
白い修正ペンで一定以上の範囲を塗ると結界術の判定がなされ、
結界が生成されてしまうみたいです」
「結界術の判定がガバガバすぎませんか……?」
「はい。その全ての元凶たる厄災は、
平安時代に作られ、怪獣特撮や魔法少女ブルーセントーリアで活用された、
天津魔ヶ原及び、
その上部構造物である天津神星。
これらが、本来は困難であるはずの結界術の成立を簡略化させています」
「つまり……結界術テロだったり、悪の組織の拠点が見つからない理由と、
その元凶たる厄災は、天津神星という大護符結界があるせいだった。
魔法事件の原因はすべて、平安時代辺りに成立していたってことですか?」
「はい、プリティコスモスさんの言葉通りです。
我々は、この全世界に存在していると思しき裏世界群を完全破壊しないことには、
日本全国どころか、世界中で発生するTS事変を解決できません。
ですが、そんな大出力攻撃を持った魔法少女はこの世に存在しえないので、
裏世界はもはや自然現象、触れてはならないタブーとして扱い、
非常事態との共存を目指すしかなくて……」
「え? 破壊できますけど」
「ええっ!?」
そう言うと屋上さんは呆気にとられた表情をする。
「プリティコスモスさん……できちゃうんですか?」
「あ、はい。
龍神の……ええと、イザナミの竜骨っていう聖遺物のせいで巻き戻しを食らうんですけど、
物理的な破壊は可能です」
「あ……じゃあ……解決策のキーは……あるのね、手元に」
彼女はそう言って、静かに話を聞いていた願叶パパを見る。
パパは不敵に笑った。
「まあつまりは、そういうことだ。
解決には僕や屋上くん、ライナちゃんの気分次第でいつでも乗り出せるから、
次は国政に決めてもらうターンだ。大人の領分だよ」
「根回し……などは?」
「旅行前にうちの執事、佐飛に任せたさ。
返事が来るまでは優雅にティータイムと行こうじゃないか」
パパはそう言って、給仕服姿の瞳ちゃんが「どどどじょます」と用意したホットのレモンティー入りのティーカップを、自らの口へと静かに傾けた。
屋上さんは気が抜けたのか、はあとため息をつき、同時にムッと怒った。
「そういうのは事前に伝えてください……!」
「立場的に守秘義務が多くてね。そうもいかない。
政治の世界なんか特にそうなんだ。
僕につくと決めた以上は腹をくくってくれ」
「もうっ……!」
屋上さんはそっぽを向き、父は申し訳なさそうに笑う。
するとティーカップを下ろした父の目線がこちらを向いた。
スーツを着ているだけの若い経営者男性なのに、
なぜだかとても頼もしい。
「まあともかく、ライナちゃん」
「はい、なんです?」
「ソレイユを守る魔法少女という立場から、
ソレイユという巨大組織に守られる最重要人物になった気分はどうだい?」
「まあ、うん、悪くない……です。
今になってなんとなく、
戸籍や消息を消さないとまともに生活できないっていう、
お父さんの言葉の実感が湧いてきました。
世界を救える力があるっていうのは、こんなにも影響力があるんだなって」
「ちゃんと自覚できてきたようで何よりだよ。
さ、解決策と作戦はできたことだし、各自仕事に戻ってくれ。
技術支援チームは三津裏くんと万羽くんへの技術指導と補助を」
「「頑張りますっ!」」
主任さんたちはビシッと敬礼して、
三津裏&万羽ペアとともにミーティングルームを出ていく。
私がトレーニングに使っていた白い空間の隣にある、
技術部門専用のパソコンエリアに向かった。
「屋上くんはライナちゃんに合ったバトルスタイルの考案を続けて欲しい」
「はあ、わかりましたー!」
そして父の指示を受けた屋上さんも、
板ガラス壁の映像を消し、指で文字を書けるホワイトボードに変更。
感情を落ち着かせるためか、ポケットから取り出したエモエナをカシュッと開けてゴクゴク飲み干してから、仕事モードに入った。
残された私は首をかしげる。
「私は何をすればいいんですかね?」
「夜見さんは僕含む中等部一年組とパトロール配信モル。
さっそくフィールドワークに出るモルよ」
「はーい」
「ああ、そうそうモル。
州柿先輩からやっと合流できるっていう連絡が来たモルよ」
「ホントですか!? やったー!」
中等部一年組と一緒に遊ぶだけでも嬉しいのに、
州柿先輩も混ざってくれるなら三倍でド、ド、ド級嬉しいだ。
私はもう嬉しさを隠さず、ときおり挨拶をしてくれるTS女性たちに返答しつつ、
スキップしながらオフィスを後にした。




