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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
ワーケーション『普通の学生生活でコツコツレベルアップ』
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第243話 フラグ回収:西園寺家の真の復興に必要な要素1

 考え抜いた結論。休みを貰ってから考える。

 それまでに揉め事や騒動に巻き込まれるのはゴメンなので、

 できるだけ隠れて、隠密に移動することにした。

 階段の出口からそっと外をうかがう。


『おっ、やけに古いビルだなぁ! 改装しがいがありそうだ!

 いっそのこと建て直しちゃおうかな!?』


「やっぱり……」


 我が父、遠井上願叶氏はそれはもう唸るほど金を持っている。

 オフィスの改装だけで止まらず、

 ビルの改装や再建築に手を出すのは予想できていた。

 私に頼られて浮かれているなら特に。


『よーしライナちゃんにお父さんの力を見せちゃうぞ~!』


「が、がんばれパパー……」


 と小声で応援し、

 父一行がエレベーターで上がっていく様子を見たあと、

 そろそろ、と外に出て、大通りを緊張しながら歩き、西園寺家まで移動。

 緊張で震える指をチャイムに伸ばした。


 リンゴーン――ガチャ。

「はいはい、どちらさまですか。まあ。ライナさんではないですか」


「あっ、ええと」


 もじもじおどおどな私。奈々さんは察したように笑った。


「まあまあ、何か込み入ったお話のようですね? 

 そういうのは聞き耳が立っていない家の中でしましょう。さあさ、どうぞ」


「ありがとうございます……失礼します」


 西園寺奈々さんはそう言って門の中に招き入れてくれた。

 邸宅に入り、案内されたのは暖炉のある談話室。

 暖炉の前には歓談用のソファーがあり、お茶会セット一式が乗った白テーブルの横には、お高そうなアナログ黒電話が乗ったミニテーブルが備え付けられていた。

 丁寧な暮らし感があってとてもいい。


「わあ。かわいい~」


「ではライナさん、こちらへお座りくださいな」


「あ、はい」


 進められるがままソファーに座り、

 彼女が用意してくれたハーブティーを飲み、

 その緊張が和らぐ優しい香りで、ようやく安堵してため息をつく。


「はあー……」


「どんなご用事がおありですか?」


「ええと……その」


 隣に座った奈々さんが聞いてくる。

 どうしようか迷ったすえ、

 直接的だと恥ずかしいので屋上さんの技をパクることにした。


「実は……その、これで」


 私はそう言って自分のお腹にポンと手を当てた。

 すると奈々さんは「あ~年頃ですものねぇ」と納得したように頷き、

 黒電話の数字文字盤――ダイヤルを「#000」と回して受話器を取った。

 すると受話器越しに声が聞こえる。


『お電話ありがとうございます。

 こちらは光の国ソレイユ長期休暇申請用ダイヤルです。

 臨時休暇の場合は1を、毎月自動申請したい場合は2を押してください』


 電話が古いからか、めちゃくちゃ音漏れしている。

 奈々さんは迷わず2のダイヤルを回した。


『2番を確認しました。定休日の申請に移ります。

 1から7の中で好きな日数を選んで、

 数字を押してください』


 そこで奈々さんは受話器から耳を離す。


「ライナさん?」


「は、はい!」


「いま私は、あなたの定休日を決めているところです。

 あちらが正直に生理休暇と言えないのは今の時代だからかしらねえ……

 お休みは最長の7日で良いですよね?」


「え……」


 私は呆気にとられた。


「そ、そんなに休んじゃっていいんですか?」


「ええ、そうですよ?

 あれはたしか、まだ光の国ソレイユに多くの領土が存在していた頃……

 ほんの十年ほど昔の話になりますけれど、

 魔法少女は月に一週間は必ず休む公休制度があったのですよ?

 以前は西園寺財閥が、秘密の公休組合として取り仕切っていたのですが、

 その存在をよく思わなかった権力者や、海外の悪い独裁者の思惑で、

 歴史の闇に葬られてしまいました。

 辛い思い出でございます。ええ」


「西園寺家と魔法少女にそんな関係が……」


「あらあら……ライナさんの可愛らしいお顔を見ていると、

 奈々もついおしゃべりになってしまいました。

 ですが、いまはまだ、私たちだけの秘密にしておいてください。

 西園寺家が復興するには、もう少し時間がかかるのです。

 まだ盤石とは言えない状況で大資本に叩き潰されてはたまりません。

 なので、ここだけの内緒話、ですよ?」


 指を立ててウィンクする奈々さんに、ちょっとだけ乙女を感じた。

 若い頃はめちゃくちゃ男子にモテただろうなこの人……

 と思いつつ、軽く深呼吸して思考を入れ替える。


「あー、分っかりました……とりあえず忘れます」


「お気遣い、ありがとうございます。

 では最長の7日で、毎月の定休日を設定させていただきますね。

 なんせ私は西園寺奈々ですからね。うふふ」


「わあ。あはは」


 お、お茶目な人だなぁ……かわいい。

 私は何十年にも渡って鍛え上げた社畜スルースキルで笑って流す。

 ともかく、奈々さんは7のダイヤルを回した。受話器からの音漏れ声。


『7番を確認しました。

 休日日数を7日に設定します。

 公休を与えるヒーローのコードネームを教えて下さい』


「魔法少女プリティコスモス」


『魔法少女プリティコスモス。コードネームを検索。特定。

 ――定休日を設定し、魔法少女ランキングアプリに反映しました。

 専用の時報回線「#33」を構築しました。

 定休日は毎月下旬から月末までの一週間です。

 現在は1月下旬、1月24日から31日までが定休日です。

 再確認はアプリ上か、時報「#33」で確認してください。

 もう一度お伝えします。定休日を――』


 受話器を置いた奈々さんは、ミニテーブルをトントンと指で叩く。

 するとその一部分が開き、

 機械的な音を立ててメモ帳とペンがせり上がってきた。

 彼女は受話器から聞こえる大事な情報をそのペンで書き取り、

 一枚、ペリッと剥がして「どうぞライナさん」と渡してくれる。


「わあ、ありがとうございます」


「いいえ、どういたしまして。

 ここいらでは、この仕事をできる者が居ないものですから、

 魔女でもないのにこの仕事を覚えてしまって。

 おかげで大変なお役目まで押し付けられてしまいましたよ。うふふ」


 天津魔ヶ原の管理のことだろうなぁ……

 メモを受け取った私は奈々さんの手を握って、優しく撫でる。


「そ、そうですね……お疲れ様でした」


 マズい、定休日を取れたと分かったとたんに、性欲が暴れ出した。

 奈々さんが魅力的に見えて仕方がない。

 匂い、香りか? フェロモン? まさかさっきのハーブティ?

 奈々さんを見てるとなんだか頭がクラクラする。


 「こ、これからも頼りにすると、思うので、よろしくお願いします」


「ええ、ええ。今後も私、西園寺奈々にお任せ下さい。

 それより、こんな老婆とおしゃべりするのも損でしょう?

 せっかくの長期休暇ですから、街へ繰り出して、

 お好きなことをされた方がよいと思いますよ。

 ご友人と遊ばれたり、街に出て買い物をされたり……」


 好きなように……か。

 だったらたまには、自分の本能に身を任せて動くのも、いいよね。

 すでに我慢ならなくなってきた私は、

 もう我慢をせず、彼女にも思いの丈を吐き出すことにする。


「……あの。話を蒸し返すことになっちゃうんですけど」


「はあ、なんでしょうか?」


「天津魔ヶ原の公式裏設定の話です。

 ええと……管理のお役目を任されるのは必ず美人の女性で、

 その間は龍神イザナミの祟りにより、

 途方もない生気を吸われて老いが加速し、さらに不妊になりますが」


「ええ、はい」


「もし仮に役目から開放された場合、

 裏世界に取られたすべての生気が戻ってきて、

 とんでもなく若返って不老長寿になってしまうっていう設定があるんですよ。

 な、なぜかと言うと、龍神イザナミは祟り神であると同時に、

 安産祈願の神様でもあるので……」


 呆気にとられ、ポカンとした顔で驚く奈々さん。

 私は奈々さんの手を握り、ポウとピンクのエモ力をまとわせた。


「……で。その祟りを解くきっかけとなるのは、他者から気を分けて貰うこと。

 二十年前――

 魔法少女ブルーセントーリアという作品では、陰と陽の気と呼ばれていましたが、

 それは現代で言うエモ力とダークエモ力に該当します。

 いま、私にはあなたにかけられた陰の呪いを解く陽の力がある。

 ――やってみちゃってもいいですか?」


「あ、ああ……ははあ、それは、それは」


 私がぎゅっと相手の手を握ると、

 エモ力の浄化の力で、彼女のしわがれた老婆の腕が、

 わずかにハリツヤを取り戻し、三十代くらいにみずみずしくなった。

 奈々さんも聡い人なので、次第に状況を理解してきて、

 困ったように自分の頬を撫でた。


「もしや、ライナさんはいま、奈々を口説かれておいでなのですか?」


「ええと……すみません、急に感づいたんです。

 まず、西園寺家を真に復興させるには、

 どう考えても子孫を増やさないといけないのに、

 ハインリヒさんの分身体の一人である奈々子は自分が末代だと言う。

 おそらく、彼女たちには何かしらの事情で子を作れない」


「ええ、はい。そのようでございますね」


「で。西園寺家も魔法に関する何かで財や権威を得てきた可能性があって、

 本当に選ばれた人間を……それも、

 特に強い魔法を持った人間を伴侶にしなければ、

 真の復興は望めない」


「ええ、ええ。そのとおり。大正解です。

 西園寺家とは、現代の七光華族の源流となった家系。

 普通の才能を持った者では、伴侶になる資格がありませんでしたので、

 奈々は西園寺杏里、今はハインリヒを名乗っておりますが、

 あの子とともにここに移されて、

 幽閉に近い扱いを受けておりましたねえ……」


 やっぱり。


 「そして。わ、私はどういうわけか……

 西園寺復興のために日本政府から送り込まれた魔法少女です。

 実は、遠井上家には養子として引き取られたので、

 華族とはなんの血の繋がりもない、ぽっと出。

 しかも固有魔法のギフテッドアクセルは、その……

 ソレイユの軍事部門の何らかに関わっている、

 ナターシャさんや、ソレイユ創始者のリズールさんのお墨付き。

 魔法の当たり度で言うならウルトラレア。

 こ、ここまでお膳立てされて、分からないフリをするのは難しいです。

 私の本当の役目とは、魔法少女になった理由は、たぶん……」


 ぐっと息を飲み、キッと顔を引き締めて、奈々さんを見つめた。


「西園寺家の誰かとまぐわって子を成すことなのでは……と、

 それがおそらく、祟りの影響が消え、

 今にも若返ろうと奈々さんなのではと、

 浅知恵ながら考察したのですが……あ、合っていますか」


 私がしどろもどろで尋ねると、奈々さんはクスクスと笑う。


「ふふ、ずいぶんと遠回しなプロポーズでございますね。

 恋愛映画だったなら大ヒットしそうです。

 ただ、ライナさん。ひとつだけ勘違いをされていますよ?」


「か、勘違い?」


 そう言って奈々さんは私の頬を取り、親指で私の唇を拭った。


「菜々子と杏里は、あなたの伴侶となる用意を整えている途中です。

 なので子を産めないのではなく、まだその時が来ていないだけ。

 私こと奈々は、ふふ、最後の隠し味でございます。

 なので、その時が来たなら……親子で娶って下さいまし、ね?」


「わあ、はい」


 またウィンクした奈々さんは、「おバカ。そんなわけないですよ」と言って、

 色ボケした目と脳を覚まさせるように、私の額を軽く叩いてきた。

 私は可愛くうめく。


「あうう」


「もう、ライナさんはまだ未成年なのですから、

 そのような古き因習に付き合う理由などないのです。

 まあつまりは、考えすぎで、悩みすぎ。

 あなたが思っているよりも浅かったりするのが世間の現実です。

 いまはただ、奈々や他の有志の者たちに任せ、思考を放棄してお休み下さい」


「そ、そうですね……冷静になります。ふう」


 ちょっと性急すぎたのは事実だ。

 思い出してみれば、奈々子もリズールさんの解呪で忙しいだろうし、

 ハインリヒさんも研究に没頭している。

 奈々さんはそれが終わってようやく、役目から開放されるのだろう。

 案の定というか、彼女の手からはエモ力の効果が消え、 

 元の老婆の手に戻っていた。


「ライナさん。このお話は、休暇から戻ってきたときに改めてしましょう。

 西園寺家の復興に必要なのは、子孫以外にもう一つあるのです。

 それが完成するまでは、ライナさんがお求めだとしても、

 お相手をする余裕がないのですよ」


「え、それは、まだ天津魔ヶ原を利用しなきゃいけないほどに?」


「そういうことになります。

 とにかく、いまはまだその時ではないので、お忘れ下さい。

 休暇明けをお楽しみに」


「は、はい。全部忘れて休みます」


「いいお返事です。ご褒美ですよ」


 私はその場で奈々さんに手を持ち上げられ、敬愛のキスをされてから、

 西園寺家を後にした。


「ではごゆるりと」


 彼女の一声と、キィ、と小さな音を立てて西園寺家の鉄門が閉まる。

 ……ちょっとやりたいことをしただけなのに、

 なぜだか思い返すたびに頬が赤くなり、

 奈々さんには一生勝てないし、

 尻に敷かれるイメージだけが脳裏にこびりついてしまった。


「え、えへへ……」


 でも、代わりにひとつ、ストレスの元が消えた。

 西園寺家の復興を任された理由が分からず、ずっと悩みのタネだったのだ。

 この調子でタスクを終えれば来週にはストレスフリーだ。

 そう思った私は、悩みのタネ無くしの旅を楽しむべく、街に繰り出す。

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