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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
ワーケーション『普通の学生生活でコツコツレベルアップ』
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第242話 木津裏霧斗?/夜見ライナ、おじさんに戻る

 チェキカメラを手に走る木津裏霧斗は、周囲を警戒しながら近くの路地へ滑り込み、壁にもたれて深いため息をついた。


「取材は失敗したけど、最低限の目標である『魔法少女プリティコスモスの拠点特定』は達成だ。まだ一回目だし、焦らず進めばいい」


 そう自分に言い聞かせるようにつぶやくと、

 顎に手を当てて特殊メイクの皮膚を剥がし取る。

 その下から現れたのは、黒髪のポニーテールを結んだ私服姿の大学生だった。


 彼はマジマートの二階で夜見たちの容姿を確認し、

 尾行してここまでたどり着いたのだ。


 木津裏霧斗への変装で接触を試みたものの、その計画は失敗。

 しかし彼は次こそ成功させると決意を新たに、

 夜見ライナがいる高層ビルを見上げる。


 突然、ビルの中層あたり――夜見ライナのオフィスが、まるでスポットライトを浴びたように輝き出し、キラキラという効果音まで響いてきた。


 「え、は?」


 思わず声を漏らし、二度見する彼。


 「なんだあれは……特大スクープの予兆か!?」

 

 胸の高鳴りを抑えきれず、ジャーナリスト魂に火がついた彼は、

 慌ててビルの前へ駆け戻った。

 その瞬間、彼の全身にゾクッとした謎めいた快感が駆け抜け、思わず足が止まる。


「んぐっ!? な、なんだ……あぐっ、か、身体が……!」


 まるでサナギが蝶へと羽化するように、彼の背丈は徐々に縮み、骨格が男性的なものから女性的なものへと変わり始める。

彼の胸や臀部がゆっくりと膨らみ始め、次第に黒髪のポニーテールを持つ女性の姿へと変わっていった。

 変化が完全に収まると、ようやく冷静に状況を確認できるようになる。


「くっ、今のは……え、えっ!? この身体、まさか!」


 彼女になった彼は、自分の手を見つめ、膨らんだ胸にそっと触れると、

 慌ててポケットからスマホを取り出し、自分の姿を映し出した。


「も、もしかして……戻った!? うおぉぉ~~! 

 全世界TS事件の時の、あの最かわ美少女の俺だぁぁ! やったぁぁ~~!」


 興奮を抑えきれない彼女は、取材のことなどすっかり忘れてしまい、目の前にそびえる光り輝くビルを背景に、夢中で自撮りを始めた。

 まるで子どものように無邪気な表情で、心の底から楽しそうだった。


 その一部始終を、ビルの縁に佇む一羽の(はと)だけがじっと見守っていた。



 その頃の夜見ライナと屋上雪は、

 ゴウンゴウンと音を立てながら登る旧式エレベーター内にいた。

 どうやらこのビル、築年数がかさんでいたようで設備が古い。

 目的の階に着くまで時間がかかりそうだ。

 私はなんとなく腕を組んだ。


「……損しましたかね?」

「予算の10%までは損失許容範囲。まだ大丈夫」

「あ、あー、はい」


 やらかし案件1つめ。私が急かしたばっかりに安物買いの銭失い。

 ダント氏ならいつも怒って諌めてくれるが、彼女はそうじゃないタイプらしい。

 少しだけしょんぼりと反省する。


『……その反省するフリやめたら?』


 む、記憶の中の愚母が吠えてきた。悪霊退散。


『反省っていうのはね、行動で示さないといけないわ。

 私のように適当な■■■■をお手本にしちゃだめなのよ。

 あなたは■■一族の末裔なんだから』


「む」


 と思ったら急に覚えのない記憶が混じってきた。

 ああ、ハインリヒさんの魂を体内で匿っているからかなこれ。

 彼女と私の本来の記憶がごっちゃになって出力されてる。きっとそうだ。


『資料によると――■■一族の血を残すには――

 ダメだ、オリジンは魔法少女としか子を残せない――――

 ――存続――ソレイユには――――入り婿が――必要――――――

 あと半年――――血を薄めなければ――――


 ――――成人男性を魔法少女にした?』


「んん?」


 なんだか記憶の雲行きが怪しくなってきた。

 ハインリヒさんは一体私の何を知っているんだ?

 同時にエレベーターのランプもチカチカと明暗し、

 次第にゴウンゴウンという音も薄れてくる。

 屋上さんはそれにビクッと驚いた。


 チーン。ガララ――

 同時に30階のランプが付きエレベーターの扉が開いた。止まり方が怖い。

 扉の先は温かい色のライトで照らされた雰囲気のいい廊下だ。

 いや、ううむ、それよりも記憶の続きが気になる……


「到着したみたいだけど……?」

「あ。はい。い、行きます」


 言われるがままに扉から廊下に出て、ふうと深呼吸する。

 改めて言うが私のメンタルはおじさんのままだ。

 なので成人女性との色恋沙汰妄想にはめっぽう弱い。


 スタイルがいいと特に。


 出会いは最悪な上、未だに得体のしれない人物であるハインリヒさんだが、

 その身体つきはめちゃくちゃエッチなので、

 敵味方判定とは別軸にある、色恋判定が反応してしまうのだ。

 分かりやすく言うと好みの女性タイプ。面食いの親父に似たらしい。


 今更ながら、アスモデウスに取り憑かれた理由が分かった気がする。

 私は男性としての一般的な性欲から未だに逃れられない。

 しかし晴らす余裕も時間も方法もないのでため息をつくしかなかった。


「はあぁ~~……」

「ひゃっ!? どうしたの?」

「いえ、ええと、こう、貯まるときってあるじゃないですか。ストレス」

「あ―……もしかして」


 屋上さんは黙って自分のぽんぽんをポンとする。

 私はけわしい表情をしながらこくこくと頷いた。

 すると彼女は目線をそらしながらこう言う。


「あー、そう言えば、私の現役時代も、ストレスが貯まる時期があったなぁ。

 そういうときは応援してくれる魔女さんの家に相談しに寄ったなぁ。

 そしたらどういうわけか長期休暇が取れるんだよねー」


「へ、へえー不思議ですねー」


「だよねー」


 ……全部分かったけど、

 あくまでも深い部分までは分からなかったこととする。

 しかし、相談しに行くだけで休めるとあれば話が変わってくるな。

 真面目に労働をしている場合じゃない。


「あ、そうだ屋上さん。借りたオフィスの内見を終えたあとは、

 何か仕事があったりしますか?

 実は私、報酬が高いので時間を無駄にしないようにと聖獣に言われてまして」


「そ、そうなんだ。

 私はオフィスの内装をデザインする予定。

 あと、できればあなたの知り合いから採用する人材を選びたい。

 紹介してくれたらこっちは私一人で何とかなるかも」


「分かりました、ちょっとお父さんに連絡しますねー」


「お願いっ!」


 マジタブを取り出して電話しつつ、

 近くの壁に貼られた部屋割り表を目印にオフィスのある03室に向かう。

 まあ、エレベーターホールから間もないところにあった。

 素のままでも悪くはないが、やはりエレベーターと同じく設備の古さが目立つ。

 と内見はそこそこで終えて父の願叶氏に協力要請。


『――ふむ、つまりどういうことだい?』


「端的に言うとここに移転してオフィスのリフォームを引き継いでください。

 私は私用ができたので西園寺家に遊びに行きたいです」


『ふふっ、そういうのを待っていた。

 もちろんいいよ。すぐにここを引き払ってそちらに向かうね。

 可愛い娘のワガママは全力で叶えなきゃだ』


「わあ、ということでよろしくお願いします。じゃ」


 向こうは忙しくなりそうだったのでこちらから電話を切った。

 私は楽を知り、少しだけ心が軽くなる。


「そっか、お父さんには仕事を押し付けていいんだ」


 なぜなら父は立派な社会人であり、

 私と一緒に仕事がしたい人であり――なにより家族だ。

 お父さんは私が抱えきれないタスクを共有して欲しかったんだ。

 そっか、そうなんだ。

 人が人助けをする理由が、知識や直感ではなく理屈で理解できた。

 まあ、言語化できたし。そろそろ。


「屋上さーん!

 いまからお父さんが来てくれるみたいでーす!」


「本当!? ありがとうプリティ……いえ、ライナさん!」


「えへんっ、夜見ライナをよろしくお願いします!

 じゃあちょっとお先に失礼!

 あとはお父さんと屋上さんにお任せしますね~!」


「ありがと~! あとは私に任せてー!」


 屋上さんやオフィスとは手を振ってお別れし、

 理性の象徴である夜見ライナを心の中の「休業中」フォルダに入れた。

 途端にメンタルが夜見治へと戻る。


「はあ……よ、よし。西園寺家に、まず西園寺家に向かう……」


 今の私の本性は、労働のストレスで性欲が高ぶっているスケベおじさんである。

 アスモデウスに怒りはしたが、彼女は常に私の本質を突いていた。

 もっと頻繁に発散しないと魔法少女業に支障がでるのだ。


「急いでエレベーター、ああいや、今は、階段かなあ……」


 エレベーターだと父とかち合う気がしたので階段を使うことにした。

 そして少し降り、考える時間が欲しくなって座り、悩み、恥ずかしがり、どうするべきか考え倒しながら高層ビルを少しづつ降りていった。

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― 新着の感想 ―
久しぶりだねっ。 体調、崩したりしてない? 他の作家さんの入院とか聞いていたから心配だったんだよ。
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